みなさん、なろう小説読んでますか?僕は『魔法科高校の劣等生』にドハマりしてからというもの、なろう小説独特の魅力にやられて時々読んでは楽しんでいます
当時どれくらい劣等生にドハマりしたかと言うと、主人公の司波達也に感情移入しすぎて、身分証が必要ない場面では常に「司波達也です」と名乗っていました。たまに全然元ネタを知らない人から「え~!漫画キャラみたいな名前でかっこいいですね!」と言われることがあり、そのたびに「やれやれ…」と言っていました。今思い返すと完全に狂人です
ところで、なろう小説と言えば「異世界」や「チート」、「ハーレム」などがその特色として挙げられますが、何よりも一番自分が重要だと思っているのは「読んでいて不安にならないこと」です
というのも、仕事や学校で疲れて帰ってきた後に主人公が敗北したり惨めな思いをしたりするような内容のものを読むと「なんでフィクションの中でもこんな思いをしなきゃいけないんだ!」とさらにドッと疲れが襲ってきてしまうからで、こういった思いを抱く人は僕以外にも多いと思います。
その点なろう小説であれば一切その心配はありません。毎日上司に叱責されて無力感で打ちひしがれるおっさんも、異世界に行けば女の子には理由もなくモテモテになり、悪役に対しては無双。『魔法科高校の劣等生』でもそうだったのですが、何をやっても褒められるので、とてつもない全能感が体中に満ち溢れてきます
どのくらい褒められるかというと、登場人物たちが何気ない行動を全て褒めてくれるので、拾い食いをしても「まぁ!地面に落ちた不衛生な食べ物を消化する強靭な胃袋!素晴らしいですわ!」とか言われそうですし、強盗をしても「まさか、暴力を使って無理矢理金品を奪うなんて考えもしなかった…!とてつもない発想力だ!」とか言われそうです
とにかく読み進めるたびに自分が感情移入している主人公が褒められるのでグングン自己肯定感がアップし、就寝の時間が近づく頃には精神的充足感がバッチリ得られ、また明日の辛くて厳しい生活に立ち向かうためのエナジーを蓄えることが可能なのです。つまりなろう小説とは「読む抗うつ薬」と言っても過言ではないでしょう
という訳で本題に戻りここ数年のなろう小説の名文を紹介していきたいと思います。基本的には過去に話題になった作品からピックアップしているので、メジャーなものが多いです
座って食事をするだけで褒められる
ではまず1発目はこれ
「な、なんだコイツら木箱に座って食べているのか」
「それだけじゃないぞ……! 食事も木箱の上に乗っけている!」
「本当ね、余裕があって何だかかっこいいわ。こんな方法を思い付くなんて、凄い発想力だわ!」「…………どうしてだろう。何故か視線を感じるよ」
「気にしすぎだ。今は食事に集中だけしていればいいさ」
「そうだね……ううっ」
もぎゅもぎゅと口を動かして食べる少女。元から量もそんなに多くなくて、あっという間に食事は終わった。
「そろそろ店を出るか」
「そうだね……」
そう思って私たちは席を立ったその時だった。先程の女店員がこちらにやって来て。
「あ、あの……! それはどうされたのですかっ!」
「それ……とは。この木箱の事かな?」
「そうです。私、それに座って食べる人を始めて見ました。だけど、これなら服も汚れなさそうで……」
「なら、君も座って見るといい」
その言葉に店員は嬉しそうな顔を浮かべて。
「い、いいんですかっ!? 座っても!」
「…………ああ、構わないが」
「ありがとうございます! 貴方は優しい人なんですねっ!」
その喜びように私もケーレスも顔を見合せて同時にため息を吐いた。
「良かったらそのまま置いてもいいが。後で捨てようと思っていた所だったからね」
元々は先程の部具店のいらないものを私が譲り受けただけの事、この店が引き取ってくれるのならば、それはそれで手間が省ける。
「そんな……本当に何と礼を言っていいのやら…………」
「それなら礼の代わりにこの技術を広めて欲しい。さすがに立ったまま食事をするのはキツイからね」
「元よりそのつもりでした。これで誰も食事の時に筋肉痛にならなくて済みます」
「そうか、では私たちはこれで……」さっきの会話を聞くに、きっとすぐに椅子とテーブルの技術は量産されるだろう。ならば後はそれを気長に待つだけだ。
「金はちゃんとテーブルの上に置いてあるから安心してくれ」
「な、なるほど……この大きいのがテーブル。分かりました、ありがとうございました」
そう言ってお辞儀をする女店員。それに私たちは何と返していいのか分からないまま店を出た。
ちょっと読んだだけでこの名文の素晴らしさが分かって頂けると思います。イスとテーブルを使って食事をする文化が存在しない異世界を訪れた主人公が、座って食事するだけで褒められるという場面です
初めて読んだ時はあまりの衝撃に「クソッ!なんで僕は食事しているだけで褒められないんだッ!」と叫んでしまいました。普通の日常を送っている人間だとまずこのシチュエーションで賞賛されることはありませんし、僕に至ってはごはんを食べている時に「この穀潰しが!」、「仕事は半人前なのにメシだけは一人前に食うんだな」という罵倒を受けたことがあります
それはさておき、イスという文化を伝えた後の『これで誰も食事の時に筋肉痛にならなくて済みます』のキレが良すぎて、読者の腹筋の方が先に筋肉痛になる可能性が高いです
最後の締めの文章も素晴らしく、「これがテーブル…ありがとうございます」とお辞儀をする店員に対し『それに私たちは何と返していいのか分からないまま店を出た。』という主人公たちの反応が書いてありますが、なんと返していいのか分からなくなるのはこれを読まされた読者の方だと思います
肉を両面焼いただけで褒められる
2発目はこちらです。
・・・言っては何だが、技術も減ったくれも無いな。
焼き方は合ってるのだが、ただ火を通しただけで全体に熱が行き渡る様に回転をさせてないから半分の面が焦げかかってて、半分が生煮えだ。
ご飯は流石に普通だが、肉は酷いもんだ。
それを皆何も言わずに美味しそうに食べている
「あのー、少し聞くけど、いい?」
俺はなるべく失礼のない話し方で言った。
「何かな?」と奥さん
「この肉の焼き方なんだけど、これは何処でもこのやり方?それともこの家だけ?」
「この焼き方も何も、他に如何焼けと言うの?」とリンナ
どうやら、本当に分からないらしい。
「先ず、恐らくこの針の棒を指して竃に入れ込んだだけだと思うんだけど
竃の上に網か何かを置いてそこに人数分の肉を一旦置いて、程よく焼けたら裏にしてまた焼く。
こうすれば両方に均等に熱が加わるんだけど?」「・・・なるほど、考えた事も無かったわ。なら君が一度やって見せてくれない?奥さんはそれに付いて見て貰って方法とやり方を盗ませて貰ったらどう?」
植民地をゲットしにきた白人がアフリカの原住民に出会った時のような感じですが、これがなろう小説です。今までの小説に対する常識は全て捨て去って下さい。
片側しか肉を焼かない異世界人に対して両面を焼くことで賞賛されてしまうシーンですが、両面でこの反応ならばおそらく異世界人たちはサイコロステーキの6面を全て焼いたりしたら嬉ションしたまま絶頂&失神してしまうのではないでしょうか
余談ですが、僕を含めたなろう小説の名文愛好家たちと焼肉に行った時は毎回、いつの間にか1人が裏返さずにじっと火を通し、それに気付いた人が「こうすれば両方に均等に熱が加わるんだけど?」と言いながら肉を裏返す小芝居が始まります
代名詞が消え失せた世界
それでは3発目です
大型肉食恐竜型ハンターは、小型獣型ハンターに振り向いて大きく口を開けて吠える。
まるで獲物の邪魔するなと言われているようで、攻撃を止めて戸惑う小型獣型ハンター。
小型獣型ハンターは大型肉食恐竜型のハンターに牙を向けて威嚇したり、吠えて威嚇している。
大型肉食恐竜型ハンターはぶるぶると頭を振って小型獣型ハンターを片足で踏み潰す。
大型肉食恐竜型ハンターに踏み潰された小型獣型ハンターは頭を上げて吠え、頭が地面に突く。
小型獣型ハンターの紅い眼が点滅して消え、小型獣型ハンターからばちばちと火花が散っている。
大型肉食恐竜型ハンターがオレに襲い掛かろうとしている小型獣型ハンターを銜えて放り投げ、口の中の砲口が伸びてキャノン砲で小型獣型ハンターを撃つ。
小型獣型ハンターが空中で身体を起こすのも虚しく空中爆発する。
大型肉食恐竜型ハンターは尻尾で小型獣型ハンターを薙ぎ払い、口の中の砲口からキャノン砲で小型獣型ハンターを撃っている。
小型獣型ハンターが大型肉食恐竜型ハンターと戦っている。
今ここを読んでいる人がどういう行動を取ったか当てますが、あなたは上の文章を途中で読み飛ばしましたね?でもそれは当然のことだと思います
まるで「今から文章を書いて下さい!…ちょっと待った!ただ1つだけルールがあります。それは代名詞を使わないことです。まぁ使いたければ使ってもいいですが、その場合…お前の両親の指を1本ずつ切り落とす…!」と宣告された人が書いたような感じに仕上がっており、文章の書き方なんかを教える本だと「これが悪い例ですよ!」と全力で紹介されそうな、華麗なる悪文に仕上がっています
ちなみにこの作者は一部の界隈である種の絶大な人気を誇りつつ、「神がおふざけで作った男」などと称されネットのおもちゃにされているsyamu gameさんと同一人物です
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
4発目です。
『それじゃ、行くぞ』
フェルのかけ声とともにみんなが部屋の中へ飛び込んでいった。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
ドガンッ、ドガンッ、ドガンッ―――。
「「「グォォォッ」」」
「「「ブモォォォッ」」」
トロールとミノタウロスにフェルの風魔法と雷魔法が炸裂する。
ズドッ、ズドッ、ズドッ、ズドッ、ズドッ―――。
「「「「「グルォォォォッ」」」」」
火魔法を体にまとったドラちゃんが高速で移動しながらトロールの胸を次々と貫いていく。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
「「「「「ブモォォォォッ」」」」」
スイの酸弾がミノタウロスの腹を溶かしていく。
ちょっと待って下さい!これはれっきとした異世界モノのバトルシーンで、決して小学生が悪ふざけで書いた文章ではありません。ほぼ擬音語とモンスターの叫び声で展開される新感覚のバトルに、初見の人は圧倒されて泣きながらブラウザを閉じてしまうかもしれませんが落ち着いて下さい
みなさんも経験があると思いますが、人は興奮したり、感動したりと精神が不安定になった時にすごい勢いで語彙力が無くなっていきます
僕もごちうさなどの可愛い女の子が出てくる深夜アニメなんかを見ていると、気分が高まってきて知らず知らずのうちに頭をかきむしりながら「「「「「ブモォォォォッ」」」」」 と言葉にならない言葉を叫んでしまうことがよくあります
まぁでもここで挟んだ話は、いくらでも落ち着いて推敲することができる小説という今回のケースには全くあてはまらないので、単に作者のボキャブラリーが貧困なだけというのが悲しいところです
ただ1点だけ補足しておきたいのですが、文章はアレですけれども着想はかなり面白いです
異世界に召喚された主人公の固有スキルが「ネットスーパー」で、ネットで購入した現実世界の調味料を使ってファンタジー世界のモンスターを料理していくという話の流れなのですが、「次はどんなモンスターがどんな調理をされるんだろう?」とわくわくしてしまいます。異世界でありながらも生活感がにじみ出る独特のテイストは他では得られないでしょう
そして実はこの作品、文章がアレという唯一の欠点を帳消しにしたコミック版も出ているので読むならそちらの方がオススメです
- 作者: 赤岸K,江口連,雅
- 出版社/メーカー: オーバーラップ
- 発売日: 2017/12/25
- メディア: Kindle版
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劣等生を超える逸材、マサツグ様
5発目、これで最後になります
ここでは僕がなろうで最も好きな小説を紹介します
「んぎいいいいいいいいいいいいいいいいい」とミヤモトがまたしても金切り声を上げた。
一方で、俺のその剣技を見ていた少女たちから感嘆の声が上がる。
「ご主人様、すごい・・・。太刀筋が全然見えません」
「聖剣をいきなり使いこなすなんて・・・。もしかしてマサツグ様は勇者様でもあったんですか!」
「勇者どころじゃないよー、神様にだってなれるんだからー」
「ち、ちくしょう! 返せ! 返せよ! 俺の聖剣を返せ!!」
そう言ってミヤモトが泣きじゃくりながら俺に迫ってくる。「いや、もちろん返すさ。ふう、まるで俺が弱い者イジメをしたみたいに思わるじゃないか。そうだ、ちゃんと説明しておこうじゃない。皆さん! 俺はいじめをしてるわけじゃありませんよ!!」
俺はそう言って周りにイジメではないと大声で説明をする。
「や、やめろよ! 俺はイジメなんて受けてる訳じゃねえ!い、いいから返せよ!」
「だからそう言ってるんだ。いじめなんて最低の行為を俺はしてる訳じゃないから。周りの人たちにも言っておかないと。皆さん! 断じて俺はミヤモト君をイジメて泣かせた訳ではありませんからね!」
「うわあ! やめろよおお!!」と俺を制止しようとしてくるミヤモト。
妙にリアリティのあるいじめ描写が「これ、本物の陰キャがなろう小説を書くことでいじめられた鬱憤を晴らしてるんじゃないか…?」と話題を呼んだ作品です
マサツグやミヤモトという日本っぽい名前ばかり並んでいますが、これはなろうでも主流の「学校のクラスまるごと異世界召喚」という設定だからです。ミヤモトは元の世界でのいじめっ子で、カーストの最底辺だった主人公のマサツグはそいつにいじめられていたんですが、異世界に召喚されてチートスキルを得ることで2人の立場が逆転します
この作品は本当に好きなので他の文章も紹介しようと思います
「なんだよ、可愛い子連れてるじゃねーか。しかも3人とか、マサツグには似合わねーんだよ! おら、3人とも俺に寄越せ。文句ねーだろうな? ねえ、君たちもこんな奴より俺のほうが良いだろう?」
そう言って猫撫で声で少女たちに手を伸ばしたのである。
こうやってかつて学校でも彼氏がいるいないに関わらず、そのルックスで可愛い女性たちを食い散らかして来たのだ。
俺はすぐにそれを止めようとする。
・・・だが、そんな必要は全くなかった。
「ご、ご主人様ぁ・・・気持ち悪い人が近寄ってきます・・・」
「え?」
ミヤモトが何を言われたのかわからず、笑顔の表情のままで固まる。それはかなり間抜けな光景だった。「マサツグ様、何なんですか? このゴミは? ゴミが私たちに話しかけてくるなんて、今日はおかしな日ですねえ」
「なあっ!?」
エリンの辛辣な言葉に、ミヤモトが口をパクパクとした。シーも口を開いた。
「蛆虫みたいだからーあんまり私たちの視界に入らないようにして欲しいのー。視界に入るだけで不快なのー。マサツグさんさえ見えていればそれでシーは十分なのー」
全編こんな感じで展開します。いじめっ子にはチートスキルで復讐を果たし、どんな強敵が出てきても「やれやれ…」と手を抜きながら勝ち、作品中でも絶世の美女とされる女の子に惚れられまくり称賛されまくり
まるで僕が小学校の頃に寝る前にしていた妄想と全く一緒です
誰も正確なタイトルを覚えておらず「きのう更新されたマサツグ様がヤバくてさ~」という感じで『マサツグ様』と畏敬を込めて呼ばれるこの作品、実は更新がぱったりと途絶えた時がありました
そんな時ファン達は口々に「きっと現実世界のミヤモトに小説がバレたに違いない…」とささやき合ったという微笑ましいエピソードがあります
そんなマサツグ様もちゃんとその後なろうにカムバックし、人気もあったので書籍化されています
もちろん僕も購入しましたが、この書籍版には重大な欠点があります
それはミヤモトの存在がまるごと無かったことになっていることです
他にも全体的に描写がマイルドにされています。おそらく書籍化の際に偉い人が「さすがにこれを商業出版物として世の中にリリースするのはマズすぎるだろ…」という判断をしたんだと思います
確かに読者に致死性のショックを与える劇物のような小説ですが、我々マサツグ様ファンからすると戦時中の軍の検閲なみに非道な行為です。しょうがなく枕を濡らしてweb版を読み返すしかありません
未読で『魔法科高校の劣等生』が好きだった人にはぜひ読んで欲しいですね。5行おきぐらいにヒロインやモブから肯定され、無双しまくる快感の波状攻撃のような内容に脳がノックアウトされるはずです
おわりに
という訳で5つのなろう小説の名文を紹介してみました。「こんな有名どころ全部知ってるんだが?」となる人もいると思いますが、まだまだなろうには手付かずの自然のような素晴らしい文章がたくさん眠っています
他の名文を紹介したり、最近のなろうの傾向についても触れたいと思うのでまたこのテーマについては記事を書くつもりです。
なので今回「また読みたいな~」と思った人は次回の更新もぜひチェックしてみてください
ではまた次の記事でお会いしましょう