2018年1月10日の朝日新聞社説です。
まあ、朴裕河路線に絡めとられている朝日では、この程度の社説しか出せないだろうという感じ。
韓国政府として今後どうするのか明確な考え方が見えない。理解に苦しむ表明である。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
のっけからこれですが、今回の韓国政府の対応って結構わかりやすいと思うんですけどね。なぜ「理解に苦しむ」のか、そっちの方こそ理解に苦しみます。まあ、これは別途記事を挙げたいと思いますので、ここでは保留。
「合意の根幹である元慰安婦らへの支援事業は変更する方針」
ところが一方で、合意の根幹である元慰安婦らへの支援事業は変更する方針を示した。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
日本政府から拠出された10億円は、韓国政府が同額を支出し、日本の拠出金の扱いは「日本側と今後協議する」という。
支援事業のために設立された財団の運営については、元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決めるとしている。
これでは合意が意味を失ってしまう恐れが強い。合意の核心は、元慰安婦たちの心の傷を両政府の協力でいかに癒やしていくか、にあったはずだ。
もう何度目だと思うんですが、合意の内容はこれです。
(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html
日本政府の予算で資金を拠出し、韓国政府が財団を設立し、そして「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」が合意の内容です。
でも、法的責任を認めない日本政府からの金を受け取りたくないという元慰安婦がいるわけですよね。その意向を無視して金を押し付けることは「名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」に値しないでしょう。普通の市民感覚でもそんなことはわかるでしょうに。
では、どうすればいいか、“日本政府からの金を受け取りたくない”のなら、韓国政府から出すのでそれを受け取ってほしい、というのが「韓国政府が同額を支出」する意図でしょうよ。もちろん、その資金の利用方法については単純に配布するというのではなく、「元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決める」ということです。
まさに“日本政府からの金を受け取りたくない”という元慰安婦も含めた「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」そのものじゃないですか。
朝日社説のいう「合意が意味を失ってしまう恐れ」なんてのは、全く理解できません。「合意の核心は、元慰安婦たちの心の傷を両政府の協力でいかに癒やしていくか、にあったはずだ」というのならば、「元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決める」のは当たり前の話です。誰のための合意だと思ってるんですかね?
で、宙に浮く「日本政府から拠出された10億円」ですが、それについては「日本側と今後協議する」というのが韓国政府の方針です。
これも「日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」の一環ですよね。“日本政府からの金を受け取りたくない”という元慰安婦の意向を考慮したうえで、どのように「名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」を行うのか、どのように資金を利用するか、「日韓両政府が協力し」と合意に書いてある以上、拠出した日本政府と協議して決めたいというのは、これまた当たり前の話です。
韓国政府が求める「日本の拠出金の扱い」関する協議に日本政府は応じる義務があり、それは日韓政府間合意上、明らかですよね。
“慰安婦には多様性がある”というのは、朴裕河氏の書籍を擁護する際に用いられたフレーズですが
これまでの経緯に照らしても一貫性を欠く。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
日本では90年代以降、官民合同の「アジア女性基金」が償い金を出した。だが、民間の寄付が主体なのは政府の責任回避だとして韓国から批判が出た。
今回の合意はそれを踏まえ、政府予算だけで拠出されたものだ。その資金を使って財団が支援事業をすることを否定するならば、話は大きく変わる。
日本政府予算からの資金であれば受け取れるという元慰安婦もいれば、日本政府予算からの資金であっても日本政府が法的責任を認めないのならば受け取れないという元慰安婦もいる。多様性があるのですから、別に不思議な話ではありません。多様な元慰安婦に対して、画一的な基準でもって「一貫性を欠く」とか指摘するのは配慮に欠けていますし、朴裕河氏の書籍を擁護する際に用いた自らの主張とも矛盾するんじゃないですかね。
この合意では「問題解決はできぬ」という発言と新方針で問題が解決するかというのは別問題
この合意が結ばれた手続きについても韓国外相の調査チームは先月、問題があったとする報告をまとめていた。その後、文大統領はこの合意では「問題解決はできぬ」と発言した。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
では、きのう表明した方針で問題が解決するかといえば、甚だ疑問であり、むしろ事態はいっそう混迷しかねない。
文政権の今回の対応について、個人的には限られた選択肢の中で最良の選択をしたと評価しています。それは韓国の外交・内政両面にとってのみならず、人権問題という面でも及第点であろうという評価です。まあ、戦時性暴力被害者である元慰安婦らに徹底的に寄り添い、日本と外交的に対立するという選択肢も無いではないですが、その選択肢は人権問題という面で見てもあまり有効ではないだろうと見ています*1。
で、朝日は「文大統領はこの合意では「問題解決はできぬ」と発言した」ことを批判していますが、現実に日韓政府間合意を受け入れず批判している元慰安婦がいる以上、「問題解決はできぬ」のは事実でしかありません。日韓両政府間だけの問題であるならば日韓政府間合意で解決できますが、慰安婦問題の当事者というのはまず第一に元慰安婦らです。
どうも、日本政府も日本社会も韓国前政府も元慰安婦らは慰安婦問題の当事者ではないと考えているフシがありますが、言うまでもなく、慰安婦問題の第一の当事者は元慰安婦らであって、日本政府はその相手方当事者であり、韓国政府は元慰安婦らの代理人でしかありません。代理人と相手方当事者がいくら合意案を練り上げたところで、当事者である元慰安婦らの同意を得ていなければ問題が解決したことにはなりませんよ。
また、そもそも日韓政府間合意の文言上も、解決確認には前提条件が規定されています。
(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html
「上記(2)の措置」すなわち「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこと」です。
日韓政府間合意を受け入れず批判している元慰安婦がいる以上、「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業」は完遂されておらず、したがって「上記(2)の措置を着実に実施するとの前提」は成立せず、当然「解決されること」にもならないのですよ。
もちろん「きのう表明した方針で問題が解決するか」という点については未確定で予断を許せるものではありませんが、それは2015年合意で問題解決できるかどうかとは別の問題です。朝日社説ともあろうものが、別の問題を混同して批判するなど朴裕河路線に毒されるにもほどがあるでしょう。
「元慰安婦のための支援事業のていねいな継続」のために
何よりめざすべきは、元慰安婦のための支援事業のていねいな継続であり、そのための日韓両政府の協力の拡大である。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
その意味では日本側も「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」(菅官房長官)と硬直姿勢をとるのは建設的ではない。
「元慰安婦のための支援事業のていねいな継続」が重要なのは確かです。そのために日本政府の資金を受け入れない元慰安婦らが受け入れられるよう韓国政府も資金を出すんですよ。何でそれが理解できないかな?
ところで菅官房長官は「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」とか言ってますけど、2015年合意にも裏合意にも存在しないソウル大使館前の少女像の撤去を求めたり、合意中に全く存在しないソウル以外の慰安婦記念碑などについて抗議するなど、日本側はさんざんゴールポストを動かしてますよ。日本のメディアは、自分たちもゴールポストと一緒に動いているから気付かないだけです。少女像の撤去など合意されていないのに、合意事項であると散々報じてきた責任は取ってほしいものですね。
「韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然」
アジア女性基金では歴代の首相が元慰安婦におわびの手紙を送ってきた。韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然だ。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html
これはまあ当然ですが、韓国側から言われるまで日本のメディアはろくにそんな提言してこなかったわけでね*2。それどころか、2016年10月に安倍首相が謝罪の手紙を「手紙は合意に含まれていない」と言下に拒絶した時に、それをまともに批判した日本メディアがありましたかね?
そのくせ「合意に含まれていない」少女像の撤去を韓国政府の義務であるかのように報じ、韓国は合意を守っていないと非難しているわけですから、日本はどれだけ恥知らずなのか、と。
「自発的」の意味
既に韓国政府は、日本側の自発的な謝罪を期待する、という姿勢に切り替わっています。
「自発的な」ですから、今後、日本がどうしても戦時性暴力被害者に対して謝罪したくないならしょうがない、という姿勢です。
自発的に謝罪などしたくないなら、日本は無視すればよろしい。それで日韓外交上は「混迷」したりしないでしょうよ。でも、日本政府や日本社会はその無視ができないでしょうね。今後、韓国政府が元慰安婦らを記念する施設や行事を推進する度に、顔を真っ赤にして抗議しまくって、日韓外交に「混迷」をもらたすでしょう。
ただ、その「混迷」の原因は、自発的に謝罪することも韓国のやることを無視することも出来ない日本政府・日本社会の幼児的なわがままに帰するものですから、そのくらいは自覚して少しは大人になってほしいものです。
https://www.asahi.com/articles/DA3S13305833.html(社説)慰安婦問題 合意の意義を見失うな
2018年1月10日05時00分
韓国政府として今後どうするのか明確な考え方が見えない。理解に苦しむ表明である。
2年前に日韓両政府が交わした慰安婦問題の合意について、文在寅(ムンジェイン)政権が正式な見解をきのう、発表した。
日本側に再交渉を求めない。康京和(カンギョンファ)外相が、そう明言したのは賢明である。この合意は、両政府が未来志向の関係を築くうえで基盤となる約束だ。
ところが一方で、合意の根幹である元慰安婦らへの支援事業は変更する方針を示した。
日本政府から拠出された10億円は、韓国政府が同額を支出し、日本の拠出金の扱いは「日本側と今後協議する」という。
支援事業のために設立された財団の運営については、元慰安婦や支援団体などの意見を聞いて決めるとしている。
これでは合意が意味を失ってしまう恐れが強い。合意の核心は、元慰安婦たちの心の傷を両政府の協力でいかに癒やしていくか、にあったはずだ。
これまでの経緯に照らしても一貫性を欠く。
日本では90年代以降、官民合同の「アジア女性基金」が償い金を出した。だが、民間の寄付が主体なのは政府の責任回避だとして韓国から批判が出た。
今回の合意はそれを踏まえ、政府予算だけで拠出されたものだ。その資金を使って財団が支援事業をすることを否定するならば、話は大きく変わる。
この合意が結ばれた手続きについても韓国外相の調査チームは先月、問題があったとする報告をまとめていた。その後、文大統領はこの合意では「問題解決はできぬ」と発言した。
では、きのう表明した方針で問題が解決するかといえば、甚だ疑問であり、むしろ事態はいっそう混迷しかねない。
何よりめざすべきは、元慰安婦のための支援事業のていねいな継続であり、そのための日韓両政府の協力の拡大である。
その意味では日本側も「1ミリたりとも合意を動かす考えはない」(菅官房長官)と硬直姿勢をとるのは建設的ではない。
アジア女性基金では歴代の首相が元慰安婦におわびの手紙を送ってきた。韓国側から言われるまでもなく、合意を守るためにその範囲内でできる前向きな選択肢を考えるのは当然だ。
平昌五輪の開幕まで1カ月を切り、きのうは南北会談が板門店で実現した。朝鮮半島情勢は予断を許さない状況が続く。
歴史に由来する人権問題に心を砕きつつ、喫緊の懸案に共に取り組む。そんな日韓関係への努力を滞らせる余裕はない。