Webメディアやブログでの収益化を考えると最もハードルが低く、効率的なのが広告による収益となります。ユーザビリティに影響する広告が問題視されることも多くなってきました。
このような状況の中でSteemitではブロックチェーンネットワークを基盤としたトークンモデルを構築することで、広告収益に依らない記事の収益化を目指すひとつのプロジェクトとなります。
Steemitでは「良い記事を書けば、多くの良い評価が集まり、収益につながる」というのが基本的なモデルとなります。
そこで、当記事ではSteemitはどのようにして機能しているのか、ということに焦点を当てて解説していきます。
Steemitとは
SteemitとはSteemが運営する記事投稿サービスです。イメージ的にはMediumやQiitaのようにユーザーがSteemit内で記事を投稿したり、その記事に対して「いいね」やコメントをつけたりしてフィードバックを行うことができます。
Steemitが特徴的なのは、ブロックチェーン技術を活用することにより記事を投稿したり、記事を評価すると報酬としてトークンがもらえることです。トークンは外部の取引所でも売買することが可能なのでBTCやETHなどさまざまな仮想通貨と交換することができます。
現状、Webメディアやブログの収益化は「広告」がメインの収益源となります。Steemitはブロックチェーンネットワークを活用することで広告に依存しない新しい「記事の収益化」の方法を示すひとつのモデルとなります。
(source: steemit.com)
steemitの基本的な仕組みとしては、記事を投稿し他のユーザーから良い評価をもらえた場合はより多くの報酬(トークン)を得ることができるということです。さらに、投稿された記事に対して「いいね」をつけたり、コメントをつけるなどのフィードバックをすることでも報酬を得ることができるのです。
つまり、ユーザーが記事を投稿するだけでなく、その記事を評価することにもインセンティブを与えることで記事投稿サービスとして多くのユーザーを取り込んでいきやすくなります。
しかし、当然クオリティの低いコンテンツは評価されず報酬は得ることができません。また、この仕組みでは記事のフィードバックに対しても報酬を与えることは多くのスパム行為を呼び込んでしまうことにつながります。
なぜなら、フィードバックを与えれば与えるほど、投稿者も評価者も報酬を得ることができるからです。このような状況であれば、ユーザーはどんな記事に対してもフィードバックをたくさん与えるだけでお金を得ることができてしまいます。
そこで、Steemitでは以下の2つのルールを与えることによりこのスパム行為を防いでいます。
- ユーザーは保有しているトークン量を割り当てるように評価する(トークン保有量に対して投票の重みづけがされている)
- 将来的に良い評価が集まる記事に対して、より早く評価を与えると多くの報酬がもらえる
これらのルールにより、ユーザーは本当に品質の良い記事に対してのみ良い評価が集まるように工夫されています。
①のルールにより、下手に多くの記事に評価を与えてしまうと良い記事に対する評価が値上がりしても、多くの報酬を得ることができません。なぜなら、複数の記事を評価してしまうとユーザーが持っている「評価パワー」が分割されて、ひとつひとつの投票に対する「重み」が小さくなってしまうからです。
それなら、しっかりと記事を吟味して良い記事に対してのみ評価を与えていった方が有益であるはずです。
また、②のルールにより、トップページに表示されている品質の高い記事はすでに良い評価がたくさん集まっている記事になるので、そのような記事に評価を与えても多くの報酬を得ることはできません。(投稿日時からの経過時間で評価に対する報酬額の分配は変わっていきます)
なので、Steemitでは「良い記事を投稿し、良い記事を評価する」という良い活動のみに経済的インセンティブを与えていくような仕組みになっているのです。
以上が基本的なSteemitの仕組みなります。しかし、ここまでの説明ではトークンは一種類しかないように表現してきました。実はSteemit内には3種類のトークンが存在し、それらに特徴的な役割を与えることでより強固な仕組みにしセキュリティを高めているのです。
それではSteemitのトークンモデルについて見ていきましょう。
Steemitのトークンモデル
SteemitにはSP(Steem Power)、SBD(Steem Blockchain Dollars)、STEEMという3種類のトークンが存在します。実際に、記事の投稿などで得られるトークンはデフォルトの設定では50%がSPで、残りの50%がSBDで支払われます。
Steemitでの報酬は直接外部取引所と交換できるSTEEMで手に入れられるのではなく、デフォルトの設定では50%ずつのSPとSBDでもらえるのです。
それぞれのトークンの主な特徴は以下の通りです。
- SP:保有していると利子を得ることができる。すぐに交換できない。
- SBD:1SBDが1ドルに連動する。すぐに交換できる。
- STEEM:SPとSBDに価値を与える。外部取引所で取引をすることができる。
SP(Steem Power)
SPは保有していると利子をもらうことができ、SPの保有量が多いほど「記事への評価」で得られる報酬が多くなります。つまり、Steemitを利用するユーザーにとってはSPの形で保持していることが経済的インセンティブにつながります。
また、SP→STEEMの交換は制限されています。ユーザーは一週間ごとに1/13のSPまでしかSTEEMに交換することができないのです。つまり、持っているSPを全てSTEEMに交換するためには約3ヶ月間必要になります。(以前は2年間もかかる仕様でした)
さらに、SPを他人に送金することなどもできません。
一方、STEEM→SPへの交換はすぐに行うことができます。それではなぜ、SP→STEEMの交換を制限しているのでしょうか。
さまざまな理由があげられますが、一番の理由は後述するようにSTEEMトークンがインフレ通貨であることに起因しています。(ブルーペーパーでは、攻撃者がユーザーの全資金にアクセスできないようにするため、と記載されています)
利子がつかないSTEEMで保有するよりも利子がつき、Steemit内の活動でも有利になるSPで保有していた方がユーザーにとっては経済的なインセンティブになります。
このSPをすぐに売買可能なSTEEMに交換できないようにすることで、STEEM価格の急な暴落を防いでいると考えられます。
SBD(Steem Blockchain Dollars)
SBDは1ドルの価値と連動しているのが特徴で、現在ではSBDを保持していても利子はもらえない仕様になっています。
SBDが存在する理由は、仮想通貨やトークンに慣れ親しんでいないユーザーにもSteemitを利用してもらうためです。SBDはドル表記なので、実際にそのトークンの価値が一般ユーザーに理解してもらいやすくなっています。(SPやSTEEMはSTEEM表記なので一見その価値が分かりにくいです)
また、SteemブロックチェーンネットワークではBitsharesに似た分散型取引所を提供していてSTEEMをSBDをトラストレスに交換することが可能となっています。
SPとは違い、1ドルの価値とほぼ連動しているSBDはユーザーは好きなときにSteem内の分散型取引所でSBD→STEEMの交換を行うことができます。(厳密には、SBDも外部取引所で取引することが可能です)
以上のように3種類のトークンそれぞれに役割を与えてユーザーを増やしSteemitのネットワークを拡大していこうとしていることが分かります。それでは、このようなトークンは誰によって支払われ、ユーザーが報酬として得ているのでしょうか。
トークンの供給
Steemit内で記事を投稿したり評価を行なったりすることでSPやSBDという形でトークンを報酬として得ることができると上述しました。これらの報酬はトークンの新規発行分から供給されます。誰もトークンの支払いをすることなく、新しく発行したトークンを報酬として割り当てているのです。
つまり、これらのトークンはインフレ通貨となります。STEEMの価格が上がっていかない限り、ただ持っているだけではインフレによって1トークン当たりの価値は減少していくことになります。(特に利子を得られないSTEEMなどで持っているとインフレの影響は強くなります)
しかし、Steemit内で積極的に記事を投稿していたり良い評価を行なったりしていれば、トークンを得ることができ資金増加につながります。
要するに、Steemit内で活動が活発に行われ、ユーザーとネットワークが拡大している限りインフレ通貨であっても問題ないのです。詳しくは後述しますが、逆にネットワークの拡大が止まるとインフレ通貨の価値は減少していくリスクがあります。
それでは、新規に発行されたトークンは誰に、どのような割合で分配されるのでしょうか。
新しく生成されたトークンのうち75%はコンテンツの生成者や評価者への報酬として、15%はSPトークンやSBDトークンの利子として、そして残りの10%はブロックチェーンのブロック生成者に供給されます。
新しいトークンが生成される年率は2016年12月時点で9.5%とし、1年ごと(250,000ブロックごと)に0.5%減少させていきます。そして、このインフレ率の減少は年率0.95%に達するまで続く計画です。(だいたい2037年頃)
ちなみに、以前は年率100%というハイパーインフレ通貨でしたが変更されました。
以上のようなトークン供給を自動的に行い、トラストレスなP2Pでのやり取りを実現しているのはSteemitがブロックチェーンネットワークを基盤としているからです。
そこで、Steemitで基盤となっているブロックチェーンネットワークではどのようにして合意形成がとられているのか(不正が起こらないようにしているのか)見てきましょう。
コンセンサスアルゴリズム
コンセンサスアルゴリズムといえばビットコインブロックチェーンでのプルーフ・オブ・ワーク(PoW)が一番メジャーです。
SteemitのサービスでベースとなっているコンセンサスアルゴリズムはDPoS(委任型PoS、Delegated-Proof-of-Stake)と言います。
通常のPoSであれば、ユーザーが資金をデポジットすることでその資金量に応じてブロック生成のチャンスが得られます。一方、DPoSの場合は、ユーザーは投票によって特定の人数の委任者を選び、その委任者が代表してブロックの生成を行なっていきます。
例えば、A、B、Cという3人がブロック生成委任者に選ばれた場合は下図のように交互にブロックを生成していきます。
もし、選ばれた委任者のうちの1人が悪意を持っていて不正なブロックチェーンをフォークさせたとしても、「最も長いブロックチェーン」がメインチェーンと定義しているので攻撃は成功しません。
なぜなら、以下のように攻撃者のブロックチェーンが伸びていく速度が遅いからです。
実際のSteemのDPoSでは1回のラウンドごとに委任者は21人で行われます。
このように少数の委任者に任せることでブロック生成を効率的に行うことができるのです。ブロックの生成時間は3秒で1秒当たり10,000トランザクションの処理が可能とされています。
SteemitのDPoSとほぼ同じコンセンサスアルゴリズムが分散型アプリケーションプラットフォームのEOSでも活用されており、以下の記事でDPoSのセキュリティ面なども詳しく解説しているので参考にしてください。
(Steem開発者であったDaniel Larimer氏は現在EOSの開発を行なっています)
参考:チェックしておくべき分散型アプリケーションプラットフォーム「EOS」
Steemitの懸念点
以上のように、Steemitはブロックチェーンネットワークを基盤として、インターネット上の記事に対してトークンで報酬を与えるという新しい記事の収益化モデルを実現しています。
しかし、当然新しいスタイルであるためいくつかの課題点や懸念点もあげられます。
DPoSのセキュリティ維持
ブロックチェーンネットワークの基盤となるコンセンサスアルゴリズムであるDPoSがセキュリティ的に安全であるのか、そしてそのセキュリティを長期的に維持することができるのか、という懸念点がまずあげられます。
DPoSは少数の委任者がブロックを生成していくので効率的にブロックを生成していくことができます。それにより、非常に優れたトランザクションの処理能力を得ることができるのです。しかし、このDPoSは分散化されていないコンセンサスアルゴリズムであると見ることもできます。
なぜなら、SteemのDPoSでは委任者が不正を行わないかを監査するためには(全てのブロックチェーンを保持している)フルノードを運営する必要があり、ネットワークのセキュリティはそのフルノードに頼っていることになるからです。(Steemのブロックチェーンは性質上、容量が大きくフルノード運営コストはかなり高いです)
さらに、マークル木証明などのクライアントサイド側での検証メカニズムも存在しないので、分散化ネットワークにおいて複数のノードが協力して問題を解決することができないのです。(協調問題解決策の欠如)
そもそも、十分な数のユーザーが委任者を決める投票に行わなければDPoSのセキュリティは維持されません。投票するユーザーが減れば少数のユーザーが結託して、攻撃者を委任しネットワークを攻撃することができてしまうからです。
さらに、トークンを多く持っているほど委任者を決める投票パワーが強くなるので多くのユーザーが「投票」に対して関心を持ち、参加していく必要があります。
なので、DPoSのセキュリティを維持していくためには長い目で見ていかに分散化された合意形成を取れるかが重要になってくると考えられます。
ユーザーに対する十分な報酬額
DPoS以外にも、Steemit内で記事を投稿したり記事に対する評価を行うことで得られる報酬額を十分に与えられるか、ということも大きな懸念点です。
十分な資金を持っているユーザーがSteemitを利用しないと仕組みが回らないので、ユーザーは十分な報酬額を得ることができません。(英語ユーザーに比べ日本語ユーザーはかなり限られているので、日本人の収益化がより難しい原因でもあります。)
また、今後競合のサービスが登場してきたとき、Steemitで活動することで十分な報酬額が得られないとSteemitの利用者は減っていく可能性があります。ユーザーが減っていき、STEEMの需要が低下するとインフレリスクが顕在化し、ユーザーの離脱が加速することになります。
実は、以前はさらにインフレ率が高く、SPの利子率を高く、SP→STEEMの交換率が低く、言わばユーザーを強制的にSteemitネットワークにつなぎとめる仕組みが顕著でした。
これはSteemitネットワークが十分な規模になっていなかったことによる施策であることと考えられ、現在はネットワークがある程度成長しているので、この点が改善されています。その分、ユーザーはSteemitネットワークから離脱しやすくなっているので、Steemitサービス自体の良さがさらに求められてくるとも言えます。
仕組みが複雑
ここまで解説してきた通り、Steemitはトークンモデルを中心にかなり複雑な仕組みとなっています。通常、Steemitを使用する場合はここまで深く理解する必要はありませんが、それぞれのトークンはどのような役割を持っており、自分が報酬を得るためにはどのような行為を行えばいいのか、というある程度の理解は必要になってきます。
当然、これはユーザーが利用するときの大きな障壁となってきます。
また、評価に対する報酬額の決定期間が必要なので、一度投稿した記事の編集や削除は7日間行うことができないなどの大きなデメリットも存在します。使い勝手については、Steemitをベースとした第三者によるさまざまなアプリケーションが開発されておりとても便利になってきています。
以上のようにいくつかの懸念点や課題点はあげられるものの、ブロックチェーンネットワークを活用した「記事の収益化」という新しいモデルを提唱しており、トークンとレピュテーションを絡めた仕組みとしてもさまざまなプロジェクトの基盤となってくるはずです。
実際に、このSteemitのモデルをベースとしたプロジェクトもいくつか開発されており、さらにSteemit自体の仕組みも頻繁に改善されています。