昨日、エボラブルアジアでの相場操縦で1億円という巨額の課徴金が課せられる事件が明らかとなった。記事では株価の上昇を不正に抑えたと解説されているが、証券取引等監視委員会の公表資料を読み込むと、別の事実が浮かび上がってくる。
不正が行われたのは2017年2月16日。その前後3ヶ月のチャートを添付する。黄色で囲われた部分が今回指摘された日時である。
その上で、前回の記事で私が指摘した部分を再度読んでもらいたい。ここで書いた「売却の約3ヶ月前」というのは、まさにこのチャートの始点にあたる部分である。
要は、会長と社長が市場で株式を売却した、その数量は発行済株式の9.2%であるということが書かれてある。実際にはブロックトレードで売却しているため市場への直接売却ではないが、引き受けた投資家がすぐに市場で転売したことは前後の値動きから明らかであり、実質的には市場で売却したのと変わりない。
それ自体は大したことではないのだが、問題はこの時の株価状況である。売却の約3ヶ月前、本決算においてエボラブルアジアは売上高53.7%増、営業利益61.9%増の野心的な業績予想を発表した。更に、ここから投資家の期待を煽るような事業提携などのIRを連発したことにより、株価は決算発表前の1500円前後から、株式売却が行われるまでの3ヶ月間で3900円まで急騰しているのである。
その株価過熱の最中に、発行済株式数の9.2%、金額ベースで約50億円もの利益確定が行われた。それから9ヶ月後、株価は1度もこの時の高値を上回ることなく次の決算を迎え、今回解説したように業績は大幅な未達に終わったのである。もちろんこれが意図されたものだと断定することはできない。事業には予想できない急変動が起こることもある。しかし結果的には、達成できない過大な業績予想によって作られた株価で創業者二名が大規模な株式売却を行ったことになった。
どうだろうか。ブロックトレードの前日までに株価は短期で2.5倍になり、最高値の翌日に見事に売り抜けが成功している。
ところで、証券取引等監視委員会の資料で最も目を引いたのは、その売買規模の大きさだ。現在はビジネスモデルが崩れつつある兆候を見せているが、仮にもこの時まで、エボラブルアジアはかなりの増収増益を達成しており、市場では優良成長企業の一角として認知される立場にあった。
資料によると、アセットデザインはエボラブルアジア株を9時49分頃から空売りし始め、大引け前までに約11万株の売りポジションを保有。更に問題となった大引け間際にも12500株の約定があったというから、合計12万株以上の売りポジションを1日で作ったことになる。
当日の値動きを追うと、前日終値が3800円、当日の始値が3750円で、安値が3120円、終値が3395円となっている。つまり、終値ベースで4億円以上の売りポジションをたった1日で作ったということだ。しかも、その過程で株価を最大で前日比-18%まで下落させているのである。悪材料が出たわけでもない優良株にこれだけの苛烈な売りを突如浴びせたとなれば、通常なら気でも狂ったのかとしか思われないだろう。
しかし、この後アセットデザインはブロックトレードにて終値から5%ディスカウントの価格で45万株もの株を買い付けている。要するに、いくらで売ってもこのブロックで現渡しすればリスクなしに利益確定ができることを知っていて、このような大規模な空売りを仕掛けたということだ。
注目すべきはその翌日の値動きである。ブロック実施日前後の出来高は下図のようになっている。
13日 500,800株
14日 731,800
15日 1,186,400
16日 1,769,400(当日)
17日 3,194,600(-11.7%で引け)
20日 2,146,700
21日 959,700
実施日の前日に出来高を伴って最高値からの陰線を引いているので、この日から空売りの仕込みが始まっていた可能性はあるだろう。そして当日は当然更に出来高が膨らんでいるが、翌日はその倍近くに激増した上で-11.7%も暴落している。日中に12万株までは売ったものの、買ったのが45万株なのだからどう見ても数量が合わない。それ以前にも売りポジションを作っていたとしても買いの半分近くは余ったのではないか。それを慌てて翌日にぶん投げたのが17日の動きと読み取れるのである。
今回の違反行為は、大引け間際に大量の売り注文を置いて価格を押さえ込んだことが問題となっているようだが、私の見るところ、本当はこの売り注文はすべて買ってもらえるなら買って欲しかったはずだ。そうすればリスクなくブロックの買いで相殺でき、翌日に投げるようなことをしなくて済む。
ちなみに、この時に行われたブロックトレードの数量は合計1,527,700株、発行済株式数の9.2%という大規模なもので、通常なら売出しで捌くような数量である。アセットデザインが買い付けたのはこのうちの45万株なので全体の3割に過ぎない。そして1社がこうしたトレードを行っていたのだから、当然ながら残りについても複数のファンドを通じて同様の取引が行われたと見るのが自然である。
エボラブルアジアは貸借株に選定されていないので、通常は空売りを行うことができない。そのため、もし空売りをしたいなら証券会社を通じて株主の誰かから貸株を調達してこなければならない。だが、このブロックの直前に記載された株主名簿を見ると、創業者を除く大株主はVCであるフェノックスベンチャーが40.5万株、同じく投資会社の側面を持つベクトルが22.9万株と続き、貸株に応じそうな機関投資家で1%以上の株を持っていたのはモルガンスタンレーの22.5万株のみである。仮にブロックの総額152万株に対応する貸株を手当しようとすれば、どう見てもブロックに参加した創業者の2名から調達してくるしかない状況にあった。
こうした状況証拠の積み上げから私が推測する結論は、決算発表時の強気のガイダンスからIR連発による人気化、天井圏でのヘッジファンドを使った通常とは別ルートでの大規模売り出しと、一連の動きがすべて仕組まれたもので、会社と証券会社、ヘッジファンドが相互にWinWinの結果となるように結託していたのではないかというものである。
前回の記事で私が指摘したのは、エボラブルアジアの主要ビジネスに変調が見えること、それを糊塗するかのように営業利益に計上された有価証券売却益、およびその点について十分な説明を行わない不誠実な開示姿勢であったが、その後、この有価証券売却益は監査法人との協議により取り消され、翌期に計上がスライドされている。こうした不自然さも、この会社には何かあるのではないかという疑惑を投げかけてくるのである。
私は以前から、新興市場の一部の株の値動きには違和感を持ち続けてきた。その背後にこうした連携があり、他の市場参加者を食い物にしようとする動きがあるのだとしたら、到底許されることではない。私の考えが単なる妄想の類ではなく、その可能性の一端が極めて高いリアリティを伴って垣間見えたという意味で、この一件は非常に興味深かった。
どのような値動きをしようとも、どれほどSNSで喧伝されようとも、株価は最後はファンダメンタルズによって落ち着きどころへ向かう。これからも投資家を誘引するような動きはあちこちで起こり続けるだろうが、何が本質かを問い続ければこうした事件に巻き込まれるリスクとは無縁でいられるだろう。