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ヒットを狙え

AIが作るキャッチコピー効果大 近くCM無人制作も

日経デジタルマーケティング

2018/1/17

データアーティスト代表取締役社長山本覚氏(写真:Mahoro SHIMIZU、以下同)
日経デジタルマーケティング

 設立3年目で電通と業務・資本提携するなどAI(人工知能)ベンチャーの中でも注目株のデータアーティスト。同社を率いる山本覚代表取締役社長に今後のAI進化について聞いた。同社が現在開発しているのは、AIに商品の仕様書やリリースを読み込ませて、自動的に広告のキャッチコピーなどをつくるシステム。近い将来には、プロットさえあれば自動的にCM動画が作れるようになるという。そんな時代に人間が果たす役割とは?(聞き手は日経デジタルマーケティング編集長 安倍俊廣)

◇  ◇  ◇

 AIとのかかわりは、いつからですか。

 「大学(慶應義塾大学)の応用化学科で物理化学を専攻し、その後東京大学大学院物理学専攻に進みました。根っこから人工知能の人ではないんです。

 AIとかかわったのは大学院時代の2006年。デザイナー的な仕事がしたいとアイオイクスというベンチャーにバイト的な立場で入社したことがきっかけです。その会社が、今は当社が提供する『DLPO』というLPO(ランディングページ最適化)ツールを扱っていたのです。

 このツールで統計処理に携わっているうちに、本格的にこの分野を学びたいと思い、2008年に(人工知能で有名な東京大学大学院の)松尾豊先生の下で研究を始めました。そうした中、LPOツールの評価が高まり、スピンオフしてこのツールの事業譲渡を受ける形で、2013年に会社を設立しました」

 2017年9月に電通が発表したマーケティングプラットフォーム「People Driven Marketing」のエンジンなども担当していますね。

 「アイオイクスが電通の案件を請けたことがきっかけです。あるクライアントの経営戦略に近い案件でAIを使えないかと(電通から)相談を受けました。持ち合わせていた技術を適用しただけでしたが、新規性が評価され、『AIを活用した、電通の武器となるものをぜひ開発してほしい』となったのです」

 テレビ視聴率の予測システムも開発しています。

 「ディープラーニング(深層学習)を応用したもので、ターゲット別の視聴率を予測。ターゲットの異なる商材の広告を最適なポジションに割り付けることができます。このレコメンデーションエンジンの開発はほぼ終了しています。今、開発をしているのはアスクル向けにコンテンツを自動生成する技術で、ジェネラティブ(生成型)モデルなどと呼ばれます。商品の仕様書やリリースなどを読み込ませて、自動的に短いキャッチコピーなどをつくります。20万回ほど繰り返し学習させて、ようやく使えるシステムになりました。

 例えば、あるメーカーの蛍光灯のキャッチコピーをつくった時には、ワット数の違いごとにAIが説明文を書き分けたことに、アスクルさんがビックリしていました。

 リリースと言っても、商品のスペックしか書いてないものもある。そうした時には、類似商品の説明文を参考にしたり、文中に『◯×規格に準拠』などと書いてあれば、その規格をネットで調べたりしてAIがコピーを自動作成します」

 その技術は既に実用化されていると。

 「ええ、実用化した結果、2つの効果があることが分かりました。1つはキャッチコピーが適切だと検索エンジンに判断されやすくなるため、サイト流入数が増えること。2つ目は訪問者に商品の良さが理解されやすいので、購入されやすくなることです」

 無人で運用しているのですか。

 「コピーの中にNG表現が含まれていないかといった最終チェックは人がしています。しかし、そのチェックもコピー全部ではなく、NG率が高いとAIが提示したものだけを確認する仕組みになりつつあります」

 キャッチコピーの生成以外にも応用できそうですね。

 「テキストと画像の両方をAIに学習させて、文章を入れるとそれに対応した絵を自動生成したり、逆に絵を見せて説明文を生成する仕組みを開発しています。

 この仕組みの面白いところは、既に世の中にある画像を検索して出すのではなく、いろんな画像を学習した後に、特徴を表すテキストを入力すると、それにマッチした画像を自動生成するところです。

 例えば、『短いくちばしの青い鳥』というテキストを与えれば、その特徴を持つ鳥の絵を描いてくれる。その逆に商品画像しかなくてもコピーを書くことができます。これは電通のバナーの自動生成プロジェクトの一環として取り組んでいます」

 それはすごい。商品特徴などのテキストを与えるだけで、CM動画もできてしまうのでは。

 「プロットだけもらえば、CM動画はつくれるでしょう。良い視聴率を取れるCMになるかは分かりませんが、かなり近い未来に実現できると思います。コア技術はあと1年ぐらいで出そろいます。そこからビジネス応用が始まり、2~3年後には完成するでしょう」

 CMを完全無人で作成できる時代が来ると。

 「そうなると思います。ある程度ストーリーに整合性が取れれば、あとはどう感性に訴えかければよいかを学べばよいわけですから。PV(ページビュー)やCVR(コンバージョン率)を調べてフィードバックしていけば、どんどん改善できます。

 リアルタイムCM配信もできるでしょう。より購買に結びつくCMに差し替えていく。技術的には数年後には可能になります。放送法の問題などが残るかもしれませんが、それがクリアできれば実現すると思います。先ほどのバナーの自動生成も2018年中には実用化できるでしょう」

 マーケターはいらなくなるのでしょうか。

 「本来の仕事である、広い意味での戦略に、よりかかわるようになると思います。単純なキャッチコピーならAIが生成する方が優れている可能性が高い。一方で人間の共感力が必要になるようなコピーは人間にしか書けません。優れたコピーライターが担う仕事は今後もある。これと同様に、マーケターは全社的な戦略を企画立案することに集中する。AIは作業に特化する。そうした方向に行くのではないでしょうか」

[日経デジタルマーケティング2017年12月号の記事を再構成]

 
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