井上達夫(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
2018年元旦に放映された「朝まで生テレビ!元旦スペシャル」(以下「元旦朝生」と略記)の中での、憲法9条と安全保障問題に関するウーマンラッシュアワー村本大輔の発言が、その後、ネット上で物議をかもしているということで、同じ番組に出演した私がオピニオンサイトiRONNAからコメントの寄稿を求められた。
ネットの「炎上」は無視するのが私の基本方針である。しかし、村本は番組後、ツイッターで「元旦朝生」での私の発言についてデマを流布し、それが発火剤となって「東大教授の井上が偉そうに庶民をばかにしている」という類の井上バッシングも高まっていることを人づてで知らされた。これは憲法9条問題に関する私の立場に対しての完全な誤解・曲解であり、これを放置することは、私の名誉が傷つくということ以上に、憲法改正問題に対する国民の的確な理解を妨げることになるので、一言、コメントを寄せることにした。
村本のデマとは彼のツイッターでの次の発言である。
井上達夫さんには、君は愚民だ、と。小林よしのりさんにも、愚民思想だ、と。そして高須先生には国賊だ、と言われた。ぜひ3人におれの愚民国賊根性を叩き直してほしい。
――村本大輔(ウーマンラッシュアワー)@WRHMURAMOTO
私は村本に「君は愚民だ」などとは言っていない。「愚民」ではなく「愚民観」という言葉を私は使ったが、それは番組の終わり近くで私が村本に対して話した、次の発言においてである。
村本君の発言の裏に、ある種の愚民観を感じるのね。国民はよく分からないからとか。君は一見、国民の目線に立っているようだけど、実は、上から目線で見ている。(自衛隊・安保の存在が、戦力の保有・行使を禁じた憲法9条2項に反することは)ちゃんと説明すれば小学生でも分かる。これ(愚民観)は護憲派と同じ。(護憲派は)憲法改正プロセスはなんとしても発動させたくない。なんとなれば、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が出てくる、日本は軍国主義に走る、と。日本の国民を信用していない。
上の発言から明らかなように、私は「村本は愚民だ」と言ったのではなく、まさに真逆のこと、「村本は国民の目線に立つふりをしているが、実は、国民に憲法のことなどよくわかるはずがないと、上から目線で国民を愚民視している」と言ったのである。
そして、より重要なことだが、憲法改正プロセスを発動させて、自衛隊・安保の現実と9条との矛盾の抜本的解決につき、国民投票で国民の審判を仰ぐ機会を国民に提供することをかたくなに拒否し続けてきた護憲派論客こそが、まさにこのような愚民観に立って、国民の憲法改正権力の発動を封じ込めてきたことを指摘したのである。彼ら護憲派は、愚民である国民に国民投票などさせたら、ひどいことになるぞ、9条だけが愚民たる国民が軍国主義へと暴走することの歯止めになっているのだ、と主張している。