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第482話 かーちゃん
―――暗黒牢
「で、お前らは一体何をしに来やがったんだ。ダハクがやけに粋がってやがるが、別に俺を倒して闇竜王になろうって話じゃないんだろ? この前に地竜の爺から土竜王を継承したばかりだからな」
闇竜王ダゴクは息子のダハクとガンを飛ばし合いながら、セラ達が暗黒牢を訪れた理由を問い掛けた。大昔に家を飛び出し、知らぬ間に他の家の家業を継いだ息子が帰って来たかと思えば、唐突に知り合いの親子と共に帰って来たようなものだ。その疑問も当然の事だろう。
「……まさかお前、グスタフの娘と結婚でもする気か? いや、確かにどっちもすげぇ美人だってのは認めるが、今日はその報告に―――」
ダゴクがそう思ってしまうのも、当然の流れである。彼女どころか、一緒にその親父まで連れて来やがったの!? ダゴクの視線が少しだけ尊敬の色に変わった瞬間であった。
「―――な訳ねぇだろうがっ! セラ姐さんはケルヴィンの兄貴っていう、心と運命に決められたお人が相手にいるんだぞっ! このチビッ子はもっとねぇよ! アウトオブ眼中! オーケー!?」
「オーケーじゃないわよ。パパ、私とっても傷付いたわ。傷付いて死んじゃうかも」
「ハッハッハ、ダゴクの息子よ。ちょっと表に出ようか?」
「え、、あ、ちょっ、違っ!?」
ダハクはグスタフに首根っこを掴まれて、来た道を戻って行ってしまった。強制連行、天罰覿面。ベルはその姿を見送りながら、舌を出しながら微笑む。
「うーん、今のはダハクが悪いわね! こればかりは仕方ないわ!」
「姉様、とっとと目的を果たしましょう。パパがいたら、きっと戦わせてもらえないわよ」
重度の親馬鹿で過保護なグスタフがこの場にいては、闇竜王と戦う事なんて認めようとしないだろう。むしろ、自分が代わりに戦うと言い出す可能性もある。ダハクはその為の案内人、詰まりは囮だったようだ。
「何だ、違うのかよ。少しだけ認めようとした俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。クソ興ざめだ……」
「溜息をついているところ悪いのだけれど、ちょっといいかしら?」
「あん、何だよ? あー、そういやまだ用件を聞いてなかったか。グスタフの顔を立てて聞いてやるぜ?」
「話が早くて助かるわ。私ね、闇竜王の加護が欲しいのよ。という訳で、頂戴!」
「グスターフ! てめぇ一体、娘にどういう教育してんだよっ!?」
ダゴクの声が神殿中に轟く。竜王の加護とは生涯に一度のみ付与する事ができ、真の意味で認めた者にしか渡さないものだ。セラのこの行為は、強請るように満面の笑みで手を出され、お前の命の次に大事なものを寄越せと言っているようなものだった。
「どういう教育とは聞き捨てならないわね。私もセラ姉様も、それはもう大事に大事に育てられたわよ。ほら、育ちの良さが目で見えるでしょ?」
「俺の目には我が侭に育てられた風にしか見えねぇよ…… フン、どっちにしたってテメェに加護をやるのは無理な話だ。俺はもう、馬鹿息子のダハクに加護をやっちまってる。いくら美人に強請られても、こればっかりはできねぇんだよ」
「そこを何とかお願い!」
「なあ、俺の話聞いてた?」
手を合わせてダゴクを拝むセラであるが、悪魔がその動作をするのは如何なものか。ベルはベルで、それを真似するべきか逡巡しているようだった。
「ったく、美男美女ってだけじゃなく、グスタフの強欲なところも似てんだもんなぁ…… あいつがいない今だから言うが、本当なら俺はダハクに闇竜王を継がせるつもりだったんだ。その後でダハクがてめぇに加護をやるっつう話だったら、俺からは何の文句もなかっただろうよ。だがさっきも言った通り、あいつは土竜王になっちまった。現状他に候補もいねぇんだ。諦めな」
ダゴクの話は尤もな事だった。しかし、どうやらセラはその話に納得していない。
「……? 候補ならいるじゃない?」
「あ?」
「ダハクの母上、詰まり貴方の奥様に闇竜王を継いでもらうの! ダハクが誰も逆らえないって言っていたし、これ以上の適任はいないと思うわ! それなら、加護もまた付与してもらえるでしょ?」
「………」
ダゴクは唖然とした。まさかの斜め上からのこの意見、全く予期していなかったのだ。そして、この意見は断じて承諾してはならなかった。何せ、自らが闇竜王である今でさえ、夫婦喧嘩をした時などたまに負けそうになる事があるからだ。闇竜王という有利性を自ら捨ててしまえば、これからの竜生に待ち受けるは今以上に尻に敷かれる未来のみである。断じて、決してそれは認めてはならなかった。
しかし、今回の相手は豪運を携えるセラだ。彼の妻がたまたま近くの通路を通り、たまたまこの話を耳にしてしまうのは、何も珍しい事ではない。
「ば、馬っ鹿野郎! そんな事、できる訳―――」
「―――へえ、面白いじゃないか。私は賛成するよ、その話にね」
その声が部屋に響き割った時、ダゴクは石になってしまった。部屋に漂う闇がダゴクの心境を表すように、ゆらゆらとめっちゃ揺らめき、壁際に並ぶ漆黒竜達も、無意識にゴクリと生唾を飲んでしまう。
横の扉から深淵の闇が飛び出し、その中から妙齢の女性が現れる。白髪で褐色肌、目つきが鋭く強面な印象を受けるが、かなりの美人さんだった。どことなくセラは、人型のダハクと似た顔立ちだなと感じた。
「か、かーちゃん…… いつから、そこに……?」
「その子が加護の話をし始めた頃からだよ。なかなか面白い話じゃないか、お前さん。ここは男らしく、私に竜王の座を渡しても良いんじゃないかい?」
「え、あ、い、いや、しかしだな…… 竜王ってのはそんな簡単に渡して良いもんじゃねぇんだ。かーちゃんだって知っているだろ? 俺らが付き合う前にかーちゃんが俺に挑んだ事もあったが、そん時は俺が勝った」
「かなりギリギリのところだったじゃないか。闇竜王って肩書きがなけりゃ、もっと殴れたと思うんだけれどねぇ」
「け、結果が全てだろ! どっちにしたって、俺は俺に勝てる奴が現れない限り、この座を譲る気はないぜ? ああ、いくらかーちゃんが何と言おうと、全くその気はない!」
「へえ」
かーちゃんさんの口元が歪んだその時、ダゴクは酷く嫌な予感を覚えた。それは夫婦喧嘩をする前兆、お互いの意見が食い違った際によく感じるものと、恐らくは同様のものだ。
「なら、そこのお嬢ちゃんと戦って負けたら、竜王の座を降りな。そうすりゃ、より相応しい者が自然と竜王になるだろうよ。どうだい? まさか天下の闇竜王、ダゴク様が逃げるなんて事はないよねぇ?」
「なっ……」
「それは名案ね! 手っ取り早いし分かりやすいわ!」
セラはすっかりその気になって、周りの漆黒竜達もざわつき始めていた。ベルは口元を押さえて笑うのを堪えている。
「なあ、そこのお嬢ちゃん。アンタが勝って無事に次の竜王が私になったら、その時は快く加護を与えてやるよ! これから更に円満な家庭を築く門出になるんだ、私からのお礼と思っておくれ!」
「交渉成立ね! その時はよろしくお願いするわっ!」
「交渉もクソもねぇじゃねぇか! ああ、クッソ! わーたよ、やってやるよ! 族のヘッドたるもの、売られた喧嘩は買ってやる! 後で泣くんじゃねぇぞ、グスタフの娘ぇ!」
この日、新たな竜の王が、いや、竜の女王が誕生した。
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