早くも悪質事件…仮想通貨の落とし穴
昨年、仮想通貨ビットコインが20倍以上に高騰し、「億り人」と呼ばれる1億円以上を稼ぎ出す投資家が続出した。空前の仮想通貨バブルに沸き立つ中、懸念されていた犯罪の舞台で、仮想通貨がリアルマネーに使用される時代に突入した。
仮想通貨を利用した犯罪が新たなステージに突入した。昨年末、振り込め詐欺の被害に遭った函館市内の40代女性が相手の口座に振り込んだのは現金ではなくビットコインだったというから驚きだ。
事件の概要はこうだ。昨年11月、女性の携帯電話に「仮想通貨の自動売買システムの購入権利当選」との1通のメールが届いた。女性はこの時は反応せずに放っておいたが、約1か月後にこの自動売買システムの販売会社を名乗る男から電話があり、購入契約を結んで代金を支払うよう催促されたという。
当時はビットコインバブルが絶頂期に向かう途上だった。昨年1月に1ビットコイン=約10万円前後だったのが12月に200万円を突破し、「億り人」が続出した。女性はビットコインでの取引経験があったといい、絶好の儲け話に釣られてしまい、金をだまし取られたという。
ただ違ったのは支払い方法だ。従来の株式や社債などの優先購入権、リゾート会員権などウソの金融商品詐欺は現金を振り込んだり郵送させる手口だった。電話口の男は女性がビットコインの口座を開設していたのを知っていたのか、ビットコインでの支払いを指示。女性は当時のレートで約250万円分のビットコインを購入し、6回にわたって、男が指定したアカウントに振り込んだという。
IT関係者は「ビットコインはネット上の仮想通貨で、非常に足がつきにくい。日本では口座を開設する際に身分証明書など本人確認の手続きが必要で、身元が分かるが、海外の口座ではメールアドレスの登録だけで済むところが大半。送金した記録は残るが、相手先が現金化や他の口座に移したり、他の仮想通貨に交換した後にアカウントを捨ててしまえば、もうたどりつけなくなる」と指摘する。
振り込め詐欺等では警察が対策を進め、各金融機関のATMでは1日の振り込み可能の上限額が設定されている。ところが仮想通貨の場合はほとんど上限がない。
「ビットコインで送金する場合、1回につき手数料は1000~2000円かかりますが事実上、送金の上限額はありません」(同)
海外では巨額の誘拐事件の身代金でビットコインが使われる事案も発生した。昨年12月26日、英国に登録されている仮想通貨取引所の幹部を務める男性がウクライナで何者かの集団に誘拐された。
身代金で要求された額は100万ドル(約1億1000万円)。言われた通りにビットコインで身代金を支払い、誘拐から3日後に無事解放されたという。
仮想通貨を悪用したマネーロンダリングや闇社会で薬物や銃器などの取引に利用されるのは、仮想通貨が誕生した際から問題視されてきたが、身代金の支払いになるまでは想定されなかっただろう。
「パソコンにウイルスが侵入し、『解除するにはビットコインを振り込め』と表示され、ビットコインをだまし取るランサムウエアが既に流行しました。仮想通貨は急速に広がっていて、電子マネーのように一般利用されるようになってくれば、犯罪で使われるケースはますます増えていくでしょう」(前出のIT関係者)
対策には取引所の厳格な運用が叫ばれるが、ビットコインに限らず仮想通貨は1000種類以上と乱立している中、先進国はおろか開発途上国ではお手上げ状態なのが実情だ。
「母さん、仮想通貨で支払わないでください」との被害防止のコピーが躍る日もそう遠くはないようだ。
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