2018年01月14日
嗚呼懐かしの東大後期(文三)試験
・東大後期入試ってのがあったんですよ(不倒城)
私の友人にも何人か後期合格者がいる。昔の科類に分かれていた頃の後期入試は確かにおもしろかった。特に文科三類の小論文は出題が意味不明で,私には解ける気が全くしなかった。上掲記事で出ている「パニックについて論ぜよ」も大概だと思うが,他に有名どころを2つほど挙げておく(過去問へのリンクを張ろうと思ったが意外にも落ちていなかったので面倒ながら問題文の概要を書く)。
・2001年:「大写しな人間の眼球」「薄暗い中で目が光っている牛」「不気味に微笑む目の大きな和風人形」の3枚の写真を見て「共通する主題を任意に設定し,自由に論ぜよ(2400字)。大写しの目は生理的恐怖を感じるし,牛の目は明らかにドナドナ的状況を予兆させるし,何も写さぬ人形の目もまた空虚だ。主題はどうしても「視線の恐怖」としか設定しようがなく事実上テーマは固定されているが,そこから2400字どうやって広げるのかが腕の見せ所。
・2003年:「笑い」「おかしさ」「滑稽」について論じた3つの文章を読んだ上で,アメリカン・ジョーク1つと,いしいひさいちの4コマ1本を読み,これらの論文&ジョーク&4コマが問題にしているポイントについて論ぜよ(2400字)。論文3つはしょっぱながベルクソンでびびるにせよ,要するに「滑稽な笑いとは逆転や緊張の崩壊に寄って生じる“ズレ”の知覚に本質がある(から哲学的な現象である)」ということを論じていて,アメリカン・ジョークも4コマ漫画もシュール系であることから,論じるべき内容はなんとなく理解できる。それを上手く言語化できるかということと,2400字にも引き伸ばせるかというところが鍵。
身近に90年代後半から2000年代前半の文三後期合格者がいたらこんなんが書けた人たちです。おののいてあげよう。実際,後期合格者は「いや,俺ら前期落ちた組だし」と謙遜するが,前期合格者組からするとこんな小論文書ける方が畏怖の対象ですよ。なお,理系だと数学が異常難易度で有名で,これはこれで一芸入試だったと言われている。有名どころは1998年の数学で,難易度調整の得意な東大としてはやらかしてしまった問題だとは思う。
一応当時の当人たちに聞いた話によると,「前期試験が終わったところでモチベーションが切れてしまい,実受験人数は倍率より低い」&「あまりにもお題がめちゃくちゃすぎるのに累計2000字以上の論述を要求され,答えが“とりあえず埋まった”人自体が少なすぎて,概ねそこで合否が決まる」という状態だったそうで,お題の解答の質というところでの選抜性は低かったようである。確かに,当時の合格最低点も低かった。そうであれば尚更,不倒城のしんざきさんもそうだが,「ありとあらゆるジャンルの文章」を書ける自信がある人にとっては,確かにセンター試験の足切りだけが怖い入試ではあろう。
ちなみに,上掲記事の制度変遷はやや誤解がある。後期試験が科類別に分かれていて,文三小論文のお題がおもしろかった時期は2007年度まで。2008年度以降は全科類進学枠となり,科類別ではなくなったどころか文理の壁さえなくなった。入学後は理三以外から選択できるが,多くは文一を選んだようだ。全科類進学枠になってからの後期試験の小論文は,科類別ではなくなったから冒険できなくなったということなのか,突如としてつまらなくなり,普通に「前期で紙一重で落ちた人」を拾っているような雰囲気になってしまった。
そしてこの後期入試が2015年度を最後に廃止となり,2016年度からは推薦入試に変わった。ただし,この推薦入試はかなり「とがった能力」の持ち主を明らかに求めており概要を調べてくれればわかるが,あれは決して「人間力的なものを見る」入試ではない。被推薦要件や口頭試問の内容を聞くに,性質としては以前の後期試験の小論文に近く,かえって先祖返りしたのではないかと思う。センター試験で課される得点の最低ラインも80%で,東大前期や以前の後期入試の足切りラインより明らかに低い。後期試験が廃止されて残念がっている30代以上の方々は,むしろ逆で,2008年の時点で残念がって,今は喜ぶべきと思う。まあ,求めている「とがり方」がめちゃくちゃすぎて実質倍率が非常に低いところまで先祖返りしなくても,とは思うけど。定員が100人で出願が例年170人とかですよ(合格が70人ほど)。あの推薦入試,とがっている自信があってセンター試験が安定して80%以上取れるなら,お勧め(このブログの読者にそんな高校生いないと思うし,今年度の締切終わってるけど)。
私の友人にも何人か後期合格者がいる。昔の科類に分かれていた頃の後期入試は確かにおもしろかった。特に文科三類の小論文は出題が意味不明で,私には解ける気が全くしなかった。上掲記事で出ている「パニックについて論ぜよ」も大概だと思うが,他に有名どころを2つほど挙げておく(過去問へのリンクを張ろうと思ったが意外にも落ちていなかったので面倒ながら問題文の概要を書く)。
・2001年:「大写しな人間の眼球」「薄暗い中で目が光っている牛」「不気味に微笑む目の大きな和風人形」の3枚の写真を見て「共通する主題を任意に設定し,自由に論ぜよ(2400字)。大写しの目は生理的恐怖を感じるし,牛の目は明らかにドナドナ的状況を予兆させるし,何も写さぬ人形の目もまた空虚だ。主題はどうしても「視線の恐怖」としか設定しようがなく事実上テーマは固定されているが,そこから2400字どうやって広げるのかが腕の見せ所。
・2003年:「笑い」「おかしさ」「滑稽」について論じた3つの文章を読んだ上で,アメリカン・ジョーク1つと,いしいひさいちの4コマ1本を読み,これらの論文&ジョーク&4コマが問題にしているポイントについて論ぜよ(2400字)。論文3つはしょっぱながベルクソンでびびるにせよ,要するに「滑稽な笑いとは逆転や緊張の崩壊に寄って生じる“ズレ”の知覚に本質がある(から哲学的な現象である)」ということを論じていて,アメリカン・ジョークも4コマ漫画もシュール系であることから,論じるべき内容はなんとなく理解できる。それを上手く言語化できるかということと,2400字にも引き伸ばせるかというところが鍵。
身近に90年代後半から2000年代前半の文三後期合格者がいたらこんなんが書けた人たちです。おののいてあげよう。実際,後期合格者は「いや,俺ら前期落ちた組だし」と謙遜するが,前期合格者組からするとこんな小論文書ける方が畏怖の対象ですよ。なお,理系だと数学が異常難易度で有名で,これはこれで一芸入試だったと言われている。有名どころは1998年の数学で,難易度調整の得意な東大としてはやらかしてしまった問題だとは思う。
一応当時の当人たちに聞いた話によると,「前期試験が終わったところでモチベーションが切れてしまい,実受験人数は倍率より低い」&「あまりにもお題がめちゃくちゃすぎるのに累計2000字以上の論述を要求され,答えが“とりあえず埋まった”人自体が少なすぎて,概ねそこで合否が決まる」という状態だったそうで,お題の解答の質というところでの選抜性は低かったようである。確かに,当時の合格最低点も低かった。そうであれば尚更,不倒城のしんざきさんもそうだが,「ありとあらゆるジャンルの文章」を書ける自信がある人にとっては,確かにセンター試験の足切りだけが怖い入試ではあろう。
ちなみに,上掲記事の制度変遷はやや誤解がある。後期試験が科類別に分かれていて,文三小論文のお題がおもしろかった時期は2007年度まで。2008年度以降は全科類進学枠となり,科類別ではなくなったどころか文理の壁さえなくなった。入学後は理三以外から選択できるが,多くは文一を選んだようだ。全科類進学枠になってからの後期試験の小論文は,科類別ではなくなったから冒険できなくなったということなのか,突如としてつまらなくなり,普通に「前期で紙一重で落ちた人」を拾っているような雰囲気になってしまった。
そしてこの後期入試が2015年度を最後に廃止となり,2016年度からは推薦入試に変わった。ただし,この推薦入試はかなり「とがった能力」の持ち主を明らかに求めており概要を調べてくれればわかるが,あれは決して「人間力的なものを見る」入試ではない。被推薦要件や口頭試問の内容を聞くに,性質としては以前の後期試験の小論文に近く,かえって先祖返りしたのではないかと思う。センター試験で課される得点の最低ラインも80%で,東大前期や以前の後期入試の足切りラインより明らかに低い。後期試験が廃止されて残念がっている30代以上の方々は,むしろ逆で,2008年の時点で残念がって,今は喜ぶべきと思う。まあ,求めている「とがり方」がめちゃくちゃすぎて実質倍率が非常に低いところまで先祖返りしなくても,とは思うけど。定員が100人で出願が例年170人とかですよ(合格が70人ほど)。あの推薦入試,とがっている自信があってセンター試験が安定して80%以上取れるなら,お勧め(このブログの読者にそんな高校生いないと思うし,今年度の締切終わってるけど)。
Posted by dg_law at 07:30│Comments(0)