さつきのブログ「科学と認識」

吉岡斉さん、いろいろお世話になりました。ご意志を皆で引き継ぎます。

全体表示

[ リスト ]

 HPVワクチンを巡る議論について、問題の難しさ・重大さに比べてこの方面の私の知識の乏しさから積極的な発言は控えてきた。しかし、身内の問題として判断を迫られることになり、昨年末から時間をとって情報を収集してきた。問題は、副反応被害者の救済と「積極的接種勧奨」再開の是非の二点に整理されるのであろうが、核心は、このワクチンの接種によるリスクとベネフィットの比はどの程度であるのかという点にある。副反応リスクと薬効の問題については専門家の議論を注視しつつ、ここでは、そうした議論から漏れがちなリスクについて述べる。

社会的制裁を受けるリスク
 先ず、この間の議論から感じるのは、「積極的接種勧奨」の再開を主張する医師やライターなどから、副反応被害を訴える当の被害者やその家族・支援者へ向けて、敵意に満ちた悪罵が投げられるという異様さである。例えば、WEDGEに掲載された村中璃子氏による一連の記事を読んでみよう。

2)「放射能とワクチン不安に寄り添う怪しげな「支援者」対談 開沼博×村中璃子(前編) 2016年4月20日)
3)「放射能と子宮頸がんワクチン カルト化からママを救う」(対談 開沼博×村中璃子(後篇) 2016年4月21日)

 その異様さは、医師を自称する村中氏自身患者を診ることなくして、一方の立場の医師達ばかりによる伝聞に基づいて下された診断を元に容赦のない悪罵が投げられている点にある。1)の冒頭部分は、患者会がパンフレットにまとめた症状を読んだだけの医師による「診断」である。また、「ある医大の小児科教授」による、いわゆる「いい子」に多く見られる『アルプスの少女ハイジ』のクララ病だとの診断も紹介されている。実際は、各地の医療機関の担当医から因果関係について「関連あり」と報告された多数の副反応例が厚労省に集約されているにも関わらずである(注1)。私は、重篤な体調不良で苦しんでいる人に向けてこのような診断を簡単に下し、安易に公言する医師が存在することに心底呆れる。これは明らかな人権侵害である。

 さらに、HPVワクチンの「積極的接種勧奨」の再開を熱心に主張している久住英二医師からの、被害者の 保護者へ向けた、「ワクチンに対する実体のない恐怖を植え付けた当事者、貴殿が接種率を低下させたのです。」とのtweet(18:52 - 2017年12月14日)もあったりりする。

 他にも多々あるが、こうしてみると、もし子どもがHPVワクチンを接種して具合が悪くなり、副反応が疑われる事態になった時にそれを口にしたりすると、クララ病扱いされ、カルトママだとかモンスターマザーだとか、社会の害悪になっているとか、「反ワクチン脳」だとかの悪罵が多方面から投げつけられる<リスク>があることに気づく。

専門家にだまされるリスク
 このような非難は、表向き、HPVワクチンによるベネフィットと副反応のリスクを比べると、圧倒的に前者が大きいことが科学的に証明されているとの判断に基づいているようであるが、肝心の科学の現状はどうであろうか。ここにもまた、専門家が見落としがちなリスクがある。緒としてサイエンスライターの片瀬久美子 @kumikokatase さんのtweet(15:35 - 2018年1月7日)から考えてみよう。

「HPVワクチンのリスクと有効性を考える上で、(村中璃子さんなど)個人の人間性は無関係です。「科学的な評価」には、人の好き嫌いは入り込む余地はありません。。。」

 「科学的な評価」に人の好き嫌いの問題が影響してならないというのはわかる。しかし、(研究者の)「人間性」は科学の営みやその成果に影響を与えるものであるから、研究(者)倫理という観点からは「人間性の問題」と「人の好き嫌いの問題」は区別して語られるべきであり、前者は決して「無関係」ではない。倫理は人間性に由来するだろう。

 科学の営みが人の文化的行為である以上、そこには不可避的に価値論が入り込む。何を研究テーマとして<選択>するかというスタート時点で、既に価値論が入り込んでいるからである。権力を手にいれるためであったり、一儲けするためであったりするかもしれない。人類は、科学の成果や科学の営みが人にとって大きな災厄になり得ることを学んできた。そのようなリスクは避けなければならないが、その際に見落とされがちなのが、「専門家にだまされるリスク」である。

 このことは既に、このブログの「樹々の緑さんへのお返事:私の努力目標」と題する記事(2012年5月15日)に書いている。そこでは、市村正也さんの「リスク論批判:なぜリスク論はリスク対策に対し過度に否定的な結論を導くか」と題する論考(注2)と、同じ市村さんのウェブサイトに掲載された「遅ればせながら、2011年3月11日の震災をうけてのつけたし」と題する論考を引いている。後者からの引用部分を再掲しよう。

専門家にだまされるリスクがある、ということが論文の主張の一つだったが、あの原発事故を経験した今では、多くの人にとってそのことはすっかり自明のことになってしまった。事故の解説でマスメディアに登場した○○大学教授たち(特に、東京大学教授たち)は、明らかに嘘を言って私たちをだまそうとしていた。情報がなくてわからなかった部分もあったのかもしれないが、そういうときはわからないといえばいいものを、彼らはわかっているふりをして解説をしていた。私はそう考えているし、同じように考えている人は多い。

 このようなリスクを社会的に回避するためにも、最近では「研究(者)倫理」が重要視されるようになり、大学教員や公的機関の研究者は、「研究(者)倫理」のプログラムを受講し、試験にパスすることが義務付けられ、学生への教育もそれなりの時間を割いてなされるようになった。ほとんどの大学が、独自に研究者倫理規定を設けるようになり、学術会議や日本学術振興会でも研究倫理規定を公表した(注3)

 村中璃子氏は医師の肩書きをコネに医療問題での発言への信用を得る立場にあるので、そうしたことに関わる活動には研究倫理が求められると考えて良いだろう。と言っても、各種倫理規定の大半は、真っ当な社会人としてなすべき当然のことでしかないものである。それでも、最近10年ほどの間に急速に整備・明文化されてきた研究(者)倫理規程に照らして、村中氏のHPVワクチンに関係する活動・言説には大変問題が多いと感じる。

 例えば、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会のHPにリンクされた「村中璃子氏の不適切取材の全容(内容証明)」と題されたサイトに掲載されていることが事実であるとすると、村中氏の取材手法は明らかに人権への配慮規定(注4)に抵触している。彼女のプロフィールからかつて外資系ワクチンメーカーに勤務していた経歴が削除されたりしていることが、利益相反の疑いを生じる要因にもなっている。

 利益相反と言えば、子宮頸がんワクチンの副反応を「心身の反応であり、ワクチンの成分が原因ではない」とする見解をまとめた厚労省の審議会のメンバーの15人中11人が、グラクソ・スミスクライン社ないしMSD社から奨学寄付金、あるいは講演料等を受け取っており、このうち3名は議決に参加できないレベルの利益相反であることも問題となった(注5)。グラクソ・スミスクライン社員の暗躍も暴かれている(注6)

 「積極的接種勧奨」がどうしても必要だと言うのなら、こうした嫌疑を生じるようなことは厳に慎むべきであることはわかっている筈だ。にもかかわらずこうも問題が多いと、敢えて信頼性を損なうようなことをやらざるを得ない裏事情でもあるのかと勘ぐりたくもなる。むしろこうした事態を深刻に捉え疑ってかかる人の方が、「専門家にだまされるリスク」というものを考慮に入れ、研究倫理の重要性をきちんと理解している科学リテラシーのある人ということになろう。

 現状では、提出されているデータだって真面目に検討するに値するものかどうかもわからない。ワクチンメーカーによる副反応の調査にしても、対照群にワクチンと同じアジュバントが接種されているのも解せない。厚労省に寄せられている副反応の報告数が実態を反映しいるのかどうかと疑いだすと、もう素人にはお手上げである。そこで現場の医師達はどう考えているのかと探っているうちに無視できない指摘に行き当たった。小児科医の吉岡誠一郎氏の「小児科医の9割を占める子宮頸がんワクチン推進派の先生方へ」(2016年5月17日)である。

子宮頸がんワクチン接種再開すべきと挙手した先生たちに言いたいんだけど、ちゃんと接種を勧めてますか?接種すべきという信念があるなら国が積極的な勧奨をしようがしまいが、あなたが勧めて接種すれば良いんじゃないですか?9割の小児科医がみんなで接種を勧めたら、接種率がほぼ0%なんてことはないと思うんですけどね。

 最近のアンケート調査でも小児科医の7割近くが「勧奨を再開すべき」と回答しているのに、それぞれの小児科医が現場で積極的には勧めていない実態が垣間見える。今も希望すればHPVワクチンの接種は無料でできるのだ。勧奨再開に賛成の医師達の大半が、実は色々な疑念を抱え、このワクチンの安全性に自信がないのではないかと思う。

 以上のようなことから、現段階で個人的には、HPVワクチンの接種を控えつつ定期的なガン検診を心掛けるようにするのが良いと考えている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
注1) 第31回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、参考資料2(pdf 3.1 MB)
(平成 21 年 12 月販売開始から平成 29 年 4 月 30 日までの報告分)

注2)名古屋工業大学技術倫理研究会編「技術倫理研究」第5号(2008)pp.15-32

注3)最近5年間に国内で公表された倫理規程だけでも次のものがある。
学術会議
2013年1月:「声明 科学者の行動規範 -改訂版-」 (pdf 273 KB)
日本学術振興会

注4)上記にはヘルシンキ宣言を引いて、「研究の目的がどれほど社会にとって重要なものであろうとも,その研究が 被験者の尊厳や人権を侵害するものであってはならない」と記されている。


 当会議は、本日、厚生労働大臣に対し、「厚生労働省の審議会の利益相反管理ルールの見直しを求める要望書-HPVワクチンに関する審議会委員の利益相反を踏まえて-」を提出致しました。 

 本年4月25日、厚生労働省は、子宮頸がんワクチンの副反応を「心身の反応であり、ワクチンの成分が原因ではない」とする見解を今年1月にまとめた審議会のメンバーについて、利益相反の申告内容等に誤りがあったことを公表しました。 この公表結果とこれまでに公表された議事録を総合すると、委員15人中11(73%)が、当該ワクチンメーカーであるグラクソスミスクライン社ないしMSD社から奨学寄付金、あるいは講演料等を受け取っており、このうち、3名(20%)は議決に参加できないレベルの利益相反です。 また、全体の40%に当たる6名の委員が本来申告すべきだった利益相反を適切に申告してなかったことが明らかになっています。 さらに、交代で座長をつとめる2名の委員は、とも利益相反があり、うち1名は座長でありながら議決に参加できず、両名とも適切な申告をしていませんでした。 
(以下、略)


子宮頸(けい)がんワクチンを販売する製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)の社員が同社の所属を示さず、講師を務めていた東京女子医大の肩書のみを記して、ワクチン接種の有用性を紹介する論文を発表していたことが11日、分かった。

この記事に

閉じる コメント(2)[NEW]

顔アイコン

推進派が利権に絡んだ輩達だと被害者家族も子宮けいがんワクチンの被害にあった子供達も分かっています。

大人を信用出来ません!

これが少女達の訴えです。

適格で分かりやすい文、ありがとうございます。子供達は日本人を侮辱する輩達を許さないでしょう。 削除

2018/1/15(月) 午前 9:32 [ 塩澤 美恵 ] 返信する

顔アイコン

まともな専門家の見解としてはこの辺りが充実しています。
https://marugametorao.wordpress.com/
http://www.kahyo.com/item/S201611-855

2018/1/15(月) 午前 10:02 [ dog**ninet*i*s ] 返信する

コメント投稿

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

名前パスワードブログ
絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
投稿

.
さつき
さつき
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

過去の記事一覧

 今日全体
訪問者581197748
ブログリンク013
コメント2843
トラックバック043

開​設日​: ​20​07​/1​0/​6(​土)​


みんなの更新記事