日々の逃避

ある大学教員のひとりごと。某大学の准教授みたいです。バイオマテリアルの研究をしている・・・かも。

「ムーミン問題」は良問です。

2018年01月14日 | いろいろ
この土日のセンター試験で大きな話題になった出題が、「地理B」のいわゆる「ムーミン問題」。

これ。


「フィンランドに関するアニメーションと言語の正しい組み合わせ」を選べ、という問題だ。「ムーミンがどこの国かなんか知らね~よ!」「センター入試にクイズを出すな!」みたいな批判をしている受験生や大人が多いらしい。テレビのニュース番組では、「センター試験でクイズのような悪問が出た」「ムーミンを知らない受験生に不利、と不満を抱く受験生が多かった」「受験生がかわいそう」という論調で伝えていた。

・・・いやいやいやいや。なんでそうなるのさ。。。


この問題に文句を言う人たちは、もう一度考え直した方がいい。これは決して悪問ではなくて、むしろ良問だ。これを悪問と決めつけてしまう人たち(大人までも)の多さに驚いてしまう。

「タとチ」「AとB」はそれぞれノルウェーとフィンランドの組み合わせ、ということは問題文にすでに示されている。その時点で、「ムーミンとビッケ」「Aの言語とBの言語」はそれぞれ二択問題だ。

まずは「タとチ」を考えると、ムーミンとフィンランドの関係を知らなくっても、「バイキングと関係する国はノルウェー」ということ(← 「地理」の指導要領の範囲)を知っていれば、(ビッケのアニメを知らなくても)見たまんな海賊の人が海賊船をバックに立っているんだから、「チ」がノルウェー。つまり、消去法で「タ」のムーミンがフィンランドになる。

次に言語の方を見てみると、スウェーデン語に語族として近いのがAで、Bは明らかに異なる。しかもわざわざ、「ヴァ コスタ・・・」(スウェーデン語)、「ヴァ コステル・・・」(A)という一致部分を多めに見せて、言語体系の一致が聞かれているんだなぁ・・・ということまで気付かせようとしてくれている。3つの国の成り立ちや地理的関係から、このへんの語族の関係に気付けば、Aがノルウェーになる。結局、フィンランド語はBだ。

つまりこれは、


ムーミンの国を聞く(クイズのような)「悪問」


ではなくて、


「バイキング=ノルウェーという知識」と「地理関係から考える言語体系」
から考える(地理の指導要領範囲内の)「良問」


というのが本質的なところだ。ムーミンのことをまったく知らなくても、

「バイキングといえばノルウェー ・・・ つまり、「小さなバイキングビッケ」のアニメはノルウェー!」
「フィンランド人はノルウェー人・スウェーデン人とは別系統の民族 ・・・ つまり、スウェーデン語に似てる方がノルウェー語!」

という地理の教養だけで解くことができる。アニメや言語そのものの知識はまったく必要とされていない。極端なことを言うと「ムーミンの絵が黒塗りだったとしても、前述の地理の教養だけで解くことができる」わけだ。

まぁ、この出題の課題が無いわけではないし、厳密に言うと「不適切問題」に該当して「全員に点を与える」ことになる可能性もゼロではない。例えば、

(1) 「ニルスのふしぎな旅」も見せつつ、アニメのクイズかと思わせて受験生の動揺を誘ってしまう(可能性がある)出題方法で良いのか(より良い誘導法を検討する必要性があるか?)
(2) ムーミンはフィンランドを舞台にしているわけではなく、あくまでも「フィンランドの作家」による「ムーミン谷が舞台の」作品なので、「フィンランドに関する・・・を選べ」という設問が適切かどうか。

この二点は気になる。特に後者の理由から、「出題ミス」として「全員に点を与える」ことになる可能性はある。でも総合的に考えれば、どう考えてもこれは「クイズのような悪問」ではなくて、受験生に考えさせる「地理の良問」だと思う。実際、ニュース番組では、多くの予備校関係者が「地理の知識で解ける」と言っていた。

この試験問題が、高校生のみなさんが実生活・実社会と勉強のつながりに気付くきっかけになればいいと思う。そのためにも、「ムーミン問題=クイズ=悪問」という「表面だけを見た間違った」報道は控えるべきだし、「勉強は実生活・実社会に結びついているんだよ」というメッセージを社会がもっと発信する良い機会にするべきなんじゃないかなぁ・・・。

今回のこの試験問題は、「勉強が何の役に立つのか」という疑問を持ちがちな高校生に対する、優しさあふれるメッセージになっているんじゃないかなぁ・・・というのが個人的な大きな感想。

自分もそういう教育者になりたいし、こんな問題を作ることができる人になりたいな。

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