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本稿では、フランス(仏蘭西: 仏)のこどもの定期予防接種について触れます。まず、フランスのこどもの定期予防接種と日本のこどもの定期予防接種との違いを見てみましょう。
日仏の両国ともこどもの定期予防接種として実施している予防接種もありますが、一方の国でしかこどもの定期予防接種として実施していない予防接種もあります。表にまとめると、下の表1のとおりです。
表1. こどもの定期予防接種のフランスと日本との違い | |||
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フランスのこどもの定期予防接種 | |||
実施 | 実施せず | ||
日本のこどもの定期予防接種 | 実施 | ジフテリア・破傷風・百日咳、 ポリオ、 麻疹・風疹、 ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症、 肺炎球菌感染症、 B型肝炎、 ヒトパピローマウイルス16型・18型による子宮頸部癌、外陰癌、膣癌、肛門癌および 6型・11型による尖圭コンジローマ(*) |
結核(BCG)、 日本脳炎、 水痘 |
実施せず | 髄膜炎菌感染症(MenC)、 流行性耳下腺炎(ムンプス) |
A型肝炎、 インフルエンザ、 ロタウイルスによる感染性胃腸炎 |
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*: HPVワクチンについては、フランス・日本とも女子のみ対象。但し、フランスの男性で、男性と性交渉のある男性(HSH[仏語]: MSM[英語])も26歳まで対象とされています(参考文献10)。 |
こどもの定期予防接種として、フランスで実施されず日本で実施されているものとしては、結核(BCG)、日本脳炎(JapEnc)、水痘があります。反対に、こどもの定期予防接種として、日本で実施されずフランスで実施されているものとしては、髄膜炎菌感染症(MenC)、流行性耳下腺炎(ムンプス)があります。
多数のワクチンを混合したワクチン製剤がフランスでは見られます。たとえば、ジフテリア・破傷風・百日咳のワクチン(DTaP)、ポリオの不活化ワクチン(IPV)、ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)のワクチン(Hib)、B型肝炎のワクチン(HepB)を混合したワクチン(DTaP-HepB-IPV-Hib:[仏語]DTCaPHibHepB: 商品名 Infanrix Hexa)があります。四つのワクチンが混合されたワクチンがあれば、個々のワクチンではそれぞれ1回ずつだと4回の接種が必要なところ、四つのワクチンが混合されたワクチンでは1回の接種で済むことになります。接種回数が少なくなれば、こどもが注射で痛い思いをする回数も少なくなります。また、接種スケジュールの設定も容易になります。
日本でも混合ワクチンが見られます。ジフテリア・破傷風・百日咳の三種混合ワクチン(DTaP)、麻疹・風疹のMRワクチンなどです。ポリオの不活化ワクチン(IPV)についても、ジフテリア・破傷風・百日咳・ポリオの、四種混合ワクチン(DTaP/IPV)が2012年11月から新たに使われるようになりました。
フランスのこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2017年)は、下の表2のとおりです。
2018年の標準的なスケジュールは、2017年の標準的なスケジュールからの変化はありません。但し、2018年1月1日以後に出生の児について、接種が必須とされるワクチンの範囲が拡大されます。必須とされるワクチン接種が受けられているかのチェックは、2018年6月1日から始まります。2017年までの接種が必須とされるワクチンは、標準的なスケジュール中で、生後11か月までのジフテリア・破傷風、及び、11-13歳までのポリオでした。2018年からは、標準的なスケジュール中で、生まれてから2歳までの二年間に接種する百日咳・ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症・B型肝炎・肺炎球菌感染症・C群髄膜炎菌感染症・麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹が接種が必須とされるワクチンに追加されます。接種が推奨されるワクチンから接種が必須とされるワクチンに変更されることで、ワクチン接種率の向上が期待されます。
2015年の24か月児におけるワクチン接種率は、接種が必須とされていたジフテリア・破傷風、及び、ポリオで3回の接種率が96.7%と最高でした(参考文献14)。これらの接種が必須とされていたワクチンと混合ワクチンとされている百日咳が96.3%、ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症が95.7%と、必須とされていたワクチンと同等レベルに3回の接種率が高かったです。接種が必須とされていたワクチンとの混合ワクチンには、B型肝炎を含む6種混合ワクチンと含まない5種混合ワクチンとがあり、B型肝炎の3回接種率は、やや低い88.1%でした。混合ワクチンにはなっていませんが、必須とされていたワクチンと同日に接種できるPCV(肺炎球菌結合型ワクチン)の3回接種率も、やや低い91.4%でした。生後12-23か月で接種するワクチンとして、麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹混合ワクチン(MMR)2回と、MenC(C群髄膜炎菌結合型ワクチン)1回とがありましたが、MMR2回の接種率は78.8%、MenCの接種率は70.9%と、いずれも低かったです。
フランスにおける麻疹については、2008-2014年において、23000人以上の患者が発生し、30人以上が脳炎となり、10人が死亡しています。麻疹のワクチン接種率の向上が望まれています。
11-14歳(女子のみ)のHPVワクチンの接種スケジュールは、2013年には、3回接種(0, 1-2, 6か月)でしたが、2014年には2回接種(0, 6か月)に変更されました。ただし、この2回接種の対象は、HPV4(4価ワクチン: 商品名Gardasil)は11-13歳、HPV2(2価ワクチン: 商品名Cervarix)は11-14歳です。なお、HPV9(9価ワクチン: 商品名Gardasil 9)の場合、2回接種の間隔は6-13か月で、2回接種の対象は11-14歳です。
表2. フランスのこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2017年) | ||
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接種時期 | 予防する感染症 | 接種するワクチン(英字略語表記等) |
(出生時) | (B型肝炎) | HepB(1回目: B型肝炎ウイルス[HBV]に感染しているHBs抗原陽性の母親から生まれた児に接種。1回目は抗HBV免疫グロブリンも生後24時間以内に投与。2回目は生後1ヶ月、3回目は生後6ヶ月の3回接種[0-1-6ヶ月]。32週未満で出生の未熟児や2kg未満の低体重出生児は、0-1-2-6ヶ月の4回接種。) |
(出生時~15歳) | (結核) | BCG(1回接種:フランス領ギアナの住民など結核に罹患する恐れがある児に接種。フランス領ギアナ及びMayotte[マヨット]県[:インド洋上]では出生時に産科施設から退院前に接種。フランス本土では、生後1ヶ月から接種。生後3か月頃からは、ツベルクリン皮内反応検査後に15歳まで接種可能。) |
生後2ヶ月(8週間) | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTaP(1回目)* |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症 | Hib(1回目)* | |
ポリオ | IPV(1回目)* | |
B型肝炎 | HepB(1回目)* | |
肺炎球菌感染症 | PCV13(肺炎球菌結合型ワクチン、1回目) | |
生後4ヶ月 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTaP(2回目)* |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症 | Hib(2回目)* | |
ポリオ | IPV(2回目)* | |
B型肝炎 | HepB(2回目)* | |
肺炎球菌感染症 | PCV13(肺炎球菌結合型ワクチン、2回目) | |
生後5ヶ月 | C群髄膜炎菌感染症 | MenC(C群髄膜炎菌結合型ワクチン、1回目) |
生後11ヶ月 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTaP(3回目)* |
ヘモフィルスインフルエンザb型菌(Hib)感染症 | Hib(3回目)* | |
ポリオ | IPV(3回目)* | |
B型肝炎 | HepB(3回目)* | |
肺炎球菌感染症 | PCV13(肺炎球菌結合型ワクチン、3回目) | |
生後12ヶ月 | C群髄膜炎菌感染症 | MenC(C群髄膜炎菌結合型ワクチン、2回目) |
麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹 | MMR(1回目) | |
生後16-18ヶ月 | 麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹 | MMR(2回目) |
6歳 | ジフテリア・破傷風・百日咳 | DTaP(4回目) |
ポリオ | IPV (4回目) | |
11-13歳 | 破傷風・ジフテリア・百日咳 | Tdap(1回接種) |
ポリオ | IPV (5回目) | |
11-14歳(女子のみ)*** | ヒトパピローマウイルス 16型・18型・31型・33型・45型・52型・58型による子宮頸部癌、外陰癌、膣癌、肛門癌および 6型・11型による尖圭コンジローマ |
HPV(1回目:女子のみ) |
HPV(2回目:1回目の6ヶ月後) | ||
25歳 | 破傷風・ジフテリア・百日咳 | Tdap(1回接種)** |
ポリオ | IPV (1回接種)** | |
45歳 | 破傷風・ジフテリア | Td(1回接種) |
ポリオ | IPV (1回接種) | |
65歳 | 破傷風・ジフテリア | Td(1回接種) |
ポリオ | IPV (1回接種) | |
65-74歳 | 帯状疱疹 | ZOS(1回接種) |
65歳以上 | インフルエンザ | IIV(毎年一回) |
破傷風・ジフテリア | Td(10年ごとに、65,75,85,95,105歳で1回ずつ接種) | |
ポリオ | IPV (10年ごとに、65,75,85,95,105歳で1回ずつ接種) | |
妊婦 | インフルエンザ | IIV(一回接種) |
*:フランスでは、DTaP-HepB-IPV-Hib([仏語]DTCaPHibHepB)という6種混合ワクチン(商品名: Infanrix Hexa または Hexyon)で接種されることがあります。または、DTaP-IPV-Hib([仏語]DTCaPHib)という5種混合ワクチン(商品名: InfanrixQuinta または Pentavac)で接種されることがあります。 **:25歳で、過去5年間に百日咳を含むワクチンを接種していなければ、Tdap-IPV([仏語]dTcaPolio)という四種混合ワクチン(商品名: Boostrixtetraまたは Repevax)を接種。接種していれば、Td-IPV([仏語]dTPolio)という三種混合ワクチン(商品名: Revaxis)を接種。 ***:HPV4(4価ワクチン: 商品名Gardasil)は11-13歳が二回接種。HPV2(2価ワクチン: 商品名Cervarix)は11-14歳が二回接種。 |
上の表2にはありませんが、フランス領ギアナ(French Guyana)の居住者・滞在者には黄熱ワクチンが接種されます。生後12ヶ月で1回目が接種されます。接種できなかった人は生後16-18ヶ月で1回目が接種されます。さらに接種できなかった人は生後24ヶ月で1回目が接種されます。生後24ヶ月で1回目を接種した人は2回目は不要ですが、生後24ヶ月より前に1回目を接種した人は6-10歳で2回目の接種が必要です。なお、フランス領ギアナ(French Guyana)のこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2017年)では、B型肝炎が、出生時、生後2、11ヶ月、C群髄膜炎菌結合型ワクチンが、生後5、16-18ヶ月とフランス本土との違いが見られます。
また、Mayotte[マヨット]県[:インド洋上]のこどもの定期予防接種の標準的なスケジュール(2017年)でも、B型肝炎が、出生時、生後2、11ヶ月とフランス本土との違いが見られます。
複数のワクチン製剤を同じ日に接種する場合には、複数のワクチン製剤を同じ注射器に吸い上げて混合して用いるようなことをしては、いけません。それぞれのワクチン製剤を別々の注射器に吸い上げて、できるだけ離れた部位に接種します。たとえば、一方のワクチンを右腕に接種したら、もう一方のワクチンを左腕に接種するというように接種します。限られた部位に接種しなければならない場合でも、接種部位は2.5cm以上離します。複数のワクチン製剤を同じ日に接種する場合には、接種部位が区別できるように、それぞれの接種部位について、接種の記録に、より詳細な記述が必要です。
フランス語のワクチンの略語表記については、下の表3のとおりです。英語のワクチンの略語表記と一致するものもあれば一致しないものもあり、フランス語圏の接種の記録を見るときなどには注意が必要です。例えば、DTPは英語ではジフテリア・破傷風・百日咳のワクチンですが、フランス語ではジフテリア・破傷風・ポリオ(不活化)のワクチンです。
表3. フランス語のワクチンの略語表記 | |||
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仏語略称 | 仏語表記(vaccin contre ---) | 日本語表記 | 英語略称 |
D | Diphterie | ジフテリア(乳幼児用) | D |
d | diphterie(dose reduite d’anatoxine diphterique) | ジフテリア(思春期・成人用) | d |
T | Tetanos | 破傷風 | T |
Ca | Coqueluche acellulaire | 百日咳(無菌体、乳幼児用) | aP |
ca | coqueluche acellulaire(doses reduites d’antigenes coquelucheux) | 百日咳(無菌体、思春期・成人用) | ap |
P | Poliomyelite | ポリオ(不活化) | IPV |
DTCaP | vaccin contre diphterie, tetanos, coqueluche acellulaire et poliomyelite | ジフテリア(乳幼児用)、破傷風、百日咳(無菌体、乳幼児用)、ポリオ(不活化) | DTaP-IPV |
Hib | vaccin contre Haemophilus influenzae de type b | ヘモフィルス-インフルエンザb型菌 | Hib |
VHB, HepB | vaccin contre l’hepatite B | B型肝炎 | Hep B |
VHA, HepA | vaccin contre l’hepatite A | A型肝炎 | Hep A |
PnC | vaccin contre le pneumocoque conjugue | 肺炎球菌(結合型) | PCV |
VPC13 | vaccin pneumococcique conjugue 13-valent | 13価肺炎球菌結合型ワクチン | PCV13 |
VPP23 | vaccin pneumococcique non conjugue 23-valent | 23価肺炎球菌非結合型(ポリサッカライド)ワクチン | PPV23またはPPSV23 |
MnC | Meningocoque C | C群髄膜炎菌 | Men C |
HPV | Papillomavirus humains | ヒト-パピローマウイルス | HPV |
ROR | vaccin contre la rougeole, les oreillons et la rubeole | 麻疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)・風疹 | MMR |
FJ | vaccin contre la fievre jaune | 黄熱 | YFV |
Zona | Zona | 帯状疱疹 | Zos |
Grippe | Grippe | インフルエンザ | IV |
2013年8月8日初掲載
2014年11月20日増補改訂
2016年2月24日増補改訂
2016年11月22日増補改訂
2017年6月2日増補改訂
2017年12月22日増補改訂