『ゲド戦記』の最大の弱点は、「好奇心」だと思う。
どんな木が生え、どんな草が伸び、どんな材質の壁で、どんな素材の物を着て、どんな物を食べているか、それに対する執着心がない。
パパ宮﨑は、そこからファンタジーを創作してきたのだ。

僕だって『フラクタル』というファンタジーを描いた時は、想像だけで描いちゃいけないと肝に銘じ、美術監督を連れてアイルランドを取材し、世界観のベースにした。
それだけでも随分違うものなのだ。

「未来の車なんだからタイヤで走る訳ないじゃないか!」と某原案者に言われたが、僕は地に足着いた描写に徹した。
ていうか空飛ぶ車の方がもはややりつくされていてダサい。


逆に『ゲド戦記』の最大の功績は、パパ宮﨑ではどうしても描けなかった人間の「闇」を描いたところだ。
本当に画調からして暗い。

吾朗さんはジブリに「闇」や「狂気」を持ち込んだ、唯一の人だ。
それだけでも賞賛に値するのではないだろうか。

一度だけ吾朗さんとお会いして、食事に連れてってもらったことがある。
緊張しすぎて何を話したかほとんど覚えてないが、
「どんな映画がお好きですか?」
「そうねぇ・・・ヴェンダースかな?」
という会話だけは覚えている。

吾朗さんにはあのようなロードムービーを是非また作ってほしい。
絶対ハマるからだ。
ヒットするかは知らないが。