みずき~「草の根通信」の志を継いで~(資料庫)

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ヒジャーブを被ってエジプト革命デモに参加する女性

下記はエジプトのムバラク大統領弾劾デモに参加している女性たちをポートレートした写真集です。


上記の写真集にポートレートされている女性たちはNO.10の子どもを肩に乗せて抱きかかえている女性を除いて全員ヒジャーブを被っていません(この写真集だけを見ると現在のエジプトの女性たちはヒジャーブを被らないのが通常のように錯覚してしまいます)。

しかし、この点については、現代アラブ文学研究者の岡真理さんが「エジプト、タハリール広場と三代の独裁者――革命の最前線、タハリール広場を中心にエジプトの近現代史をひもとく」(TUP通信 速報888号 2011-2-13)で次のような指摘をしています。

30年前のエジプトで、ヒジャーブ(イスラーム式スカーフ)を被っている若い女性など、ほとんどいませんでした。むしろ例外。ヒジャーブを被っている女子大生がいると、「ねえ、あなたはどうしてヒジャーブ被っているの?」とわざわざ訊ねたものです。

ところが今、多くの高等教育を受けた若い女性たちがヒジャーブを被っています。かつて、マルキシズムが社会正義の実現を目指す社会変革のためのイデオロギーであったとしたら、今、それはイスラームなのです。若い女性たちがヒジャーブを被る、その理由は一つではありませんが、でも、この不正な社会に対する一種のプロテストの意味もあるのです。

今回の革命で、ヒジャーブを被った若い女性たちもまた、前面で反ムバーラク、ムバーラク退陣を訴えました。ヒジャーブをイスラームによる女性抑圧の象徴と見なし、ヒジャーブを被ったムスリム女性をイスラームの家父長制に虐げられる犠牲者であるかのように見なす者には、彼女たちがアラビア語で、あるいは英語で積極的に発言する、行動する、そのアクティヴィズムが、不思議なものに映ったかもしれません。でも、「ヒジャーブを被った女性たち<さえもが>」ではないのです。ある意味、「ヒジャーブを被った女性たち<だからこそ>」、明確な政治的主張をしているのです。

フリージャーナリストの津山恵子さんは、ウォールストリートジャーナル日本版のコラムで「実は、エジプトでデモが始まった初期、報道写真やテレビ映像に、女性がほとんど映っていないのが気になっていた。写真が多いニューヨーク・タイムズも2月3日朝刊まで、ほとんど女性が映ったデモの写真がない」とレポートしていますが、あるいはヒジャーブを被った女性は被写体としては「絵(写真)になりにくい」というメディア側の商業上の理由がその大きな原因のひとつだったかもしれません(そうだとすればなんとも馬鹿々々しいことです)。

メディア側の商業上の理由といえば、1月25日革命(エジプト革命)時のCBS女性記者襲撃事件について米国ニュージャージー州在住の作家の冷泉彰彦さんがJMM(Japan Mail Media)に次のような記事を書いています。今日のフェミニズム問題の一端を考えるひとつの参考として転載させていただこうと思います。

■CBS女性記者襲撃事件とアメリカ的フェニミズム(JMM 2011年2月19日)
 エジプト革命のニュースは相変わらずアメリカでは関心が高く、ムバラク辞任後の流動的な情勢も依然としてトップニュースになっています。その中で、一つ気になるニュースが全米を駆け巡り、消えていきました。それはCBSの女性記者ララ・ローガンへの襲撃事件についてです。襲撃といえば、反政府運動が拡大する中で、2月3日に突如「ムバラク派」と思われるグループが、反政府派への襲撃を試み、ラクダやら馬まで登場して軍隊が間に割って入るという事件がありました。この混乱の中で、CNNの「AC」ことアンダーソン・クーパーが襲われたりしています。

 このローガン記者も同じ3日のタイミングで襲われているのですが、問題になった事件はそれとは別です。事件は、ムバラク辞任のニュースに狂喜した群衆が街に押し出した11日に起きました。ローガン記者は大勢のエジプト人男性に取り囲まれ、性的な暴力を受けた上に激しく殴打されたというのです。

 この事件に至るまでの間にローガン記者には色々なことが起こっています。事実関係としてはこうです。ローガン記者は2日の時点ではムスリム同胞団の拠点のひとつと言われているアレクサンドリアで取材をしています。その時の映像を私は見ているのですが、やや混乱状態の中デモ隊への直接取材を行っていますが、取材の内容としてはこの欄でもお伝えしたように、「自分たちは経済を破壊するようなことはしない。ムバラクに出ていってもらって国を変えたいだけ」というもので、文脈としては「ムスリム同胞団の影響の強い地区でも宗教政治を志向するような声はない」という主旨、逆を言えば「同胞団を危険視する必要はない」という内容のレポートでした。

 そのローガン記者は、翌日はカイロに戻って問題の「2月3日」の混乱状態の中、殴打どころか拉致されてしまいます。直後に本人が語ったところでは銃を突きつけられて軍と思われるグループに連行されたが、やがて解放されたというのです。この時点ではCBSは事態を重く見て、他のNBCやCBSのメインキャスター同様に「一時的にカイロからアメリカへ脱出」させる措置を取っています。ローガン記者は一躍「時の人」となり、翌週(2月7日の週)の前半にはニューヨークでTVの対談番組に登場して「革命を遠くで指をくわえて見ているわけには行きません。一刻も早くカイロに戻らなくては」と述べていたそうです。

 実際に程なくしてローガン記者はカイロに戻って取材を続けました。その結果として、11日のムバラク辞任のドラマに「間に合ってしまい」事件に巻き込まれたというわけです。報道によれば暴力を受け、殴打されているローガン記者は、10人ほどのエジプト軍兵士と女性たちのグループによって救出され、そのまま翌朝の飛行機でアメリカに急送されました。病院で治療を受けたところ、回復は意外に早いということで、16日にニュースが発表になっています。

 ここまでお話した「経緯」はどこまで本当かは分かりません。受けた暴力の程度や事件後の記者の症状などは、プライバシーに属する問題ですから、今後も100%明らかにされることはないでしょうし、本稿でも関心を寄せるつもりはありません。またムスリム同胞団の本拠と言われるアレクサンドリアでの取材で、ローガン記者が何らかのトラブルがあってその後も付け狙われたという可能性、3日に一旦彼女を拉致した兵士の素性、11日に今度は彼女を救った兵士の素性、何故か事件現場にいて彼女の救出を助けた地元女性の正体なども良く分かりません。もしかしたら落ち着いたところで、ローガン記者本人が手記を出版するというようなことがあるかもしれませんが、仮にそうであっても内容が100%真実かどうかは分からないと思います。

 今日お話ししたいのは、2点です。それはモデル出身という目立つ外見のローガン記者が、最終的には暴力事件に巻き込まれるような「危険」を冒してエジプト革命の取材を続けたのはどうしてか、という疑問、もう一つは詳細はともかく「特定の女性が性的な暴力を受けた」というプライバシーに関わるニュースがどうしてアメリカ社会で報道されたのかという点です。

 まず二番目の問題ですが、まずこの異常なニュースが報道された背景にあるのは、性的暴力の被害者は徹底的に救済・保護するという文化が確立しているということが挙げられます。アメリカでも80年代前半ぐらいまでは、まだまだ被害者にも落ち度があるとか、必死の抵抗がなければ何らかの合意に近いのではというような見解が残っていました。ですが、ジョディ・フォスターとケリー・マクギリスの熱演で話題になった映画 "The Accused"(邦題は「告発の行方」)などに見られるように、この時期からは女性をほぼ無条件で保護する権利が確定しています。判例というだけでなく、社会的な価値観としても明らかです。

 更に、90年代になると女性シンガーソングライター・ブームの中で例えばトーリ・エイモスとかフィオナ・アップルといったメジャーな歌手たちが、過去の性的暴力被害を告白するという中で、被害者が名乗り出る文化が浸透して行ったように思います。勿論、実名での告白を自動的に強制するとか、実名を晒すということは今でも厳格に否定されていますが、本人の自由意志で過去の被害経験を告白することがメンタルな問題解決に役立つのであれば、周囲はそれを受容しなくてはならないし、まして嘲笑したり、疎遠な感じを持ったりすることは近親者であっても厳しく禁じられる、そんな文化が確立しているのです。

 この事件が実名で報道されたのは勿論異例なのですが、一旦このニュースが出回った後は、メジャーなTVニュースも取り上げて行ったわけで、その背景には「アメリカ社会は被害女性を公的にも私的にも守り切る文化が確立している」からという点があったと言って構わないと思います。ちなみに、この報道には妙なリアクションがありました。NYU(ニューヨーク大学)司法安保研究センターのフェロー(研究員)であったニール・ローセンという人物がツイッターでの暴言事件を起こして大学を解雇されています。

 ローセンのツイートは「聖女に祭りあげるのもいいけど、アイツは戦争屋だからな」「アイツみたいにヘンなことされた女がゴマンといるんだろう」(筆者意訳)というものです。勿論、これはこうした「被害者を守り切る」文化から見れば完全にアウトで、特に二番目のものは即レッドカードものですが、このローセンの屈折したツイートの背景にあるのは、先に申し上げた第一の点に関係してくるように思います。それは、どうしてアメリカのメディアは「戦争報道」にわざわざ目立つ女性記者を送るのかという問題です。

 勿論ローセンのツイートはとても擁護できるものではありませんが、確かにここ数年、アメリカのメディアは戦争報道に目立つ女性を使いたがる傾向があります。TVの女性記者で戦争報道のプロといえば、CNNで長年活躍したクリスチャン・アマンポーラ(現ABC)がいますが、彼女の場合はイラン系英国人として生まれた中で中東問題などに深い理解をしているユニークな存在として活躍したわけで、女性の目立つ特性を使ってということではないと思います。911の直後には、何人か女性戦争記者が登場していますが、その多くも事件への個人的な思いからアフガンやイラクで何が起きているかを伝えようという個人的情熱に駆られたものでした。

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