第1話より。焚き火の火種には松ぼっくりが最適です(解説:大塚明夫)
ゆるいけれども、ゆるふわではない。そこが小気味よく、心地よい30分。『ゆるキャン△』というアニメにはそんな感想を抱いた。
今季2つ存在する「きらら枠」の片割れであり、きらら本誌の『スロウスタート』に対し、本作はきららフォワードよりの刺客である。奇しくも一昨年の春に放映していた『あんハピ♪』にて主演を務めた花守ゆみりがこちらでも主演であり、そのことがきららフォワードのCMでもネタにされるという始末である。
題材はキャンプ。『ヤマノススメ』で登山をしたかと思えば、今度はキャンプである。もはや美少女が行けぬ領域など存在しないのではないかと思わされる。それでいて、『ヤマノススメ』が割としっかりと登山を描いたように、『ゆるキャン△』のキャンプも(僕自身アウトドアにはまるで疎いので正確にはわからないが)かなりしっかりとした描かれ方をしている。
乾いた薪を集め、松ぼっくりを火種とし、ゆっくりと空気を送り込んで焚き火を用意する。薪は専門店で買うのがおすすめだが、使用料を払えば森の木々を使いたい放題という気前のいいキャンプ場もある。そんな手際の良い解説を、どこからか現れた大塚明夫のナレーションによって行う。ガチのキャンプではないが、押さえるべき要素はきっちり押さえる。「ゆるいけど、ゆるふわではない」というのはそこで、肩の力を抜きっつうも甘ったるくない絶妙な塩梅が、非常に心地よい。
第1話より。近年まれに見る「カレーヌードルを心底おいしそうに食べるシーン」である。
その他にも小気味よいポイントがたくさんある。細かな小気味よさだけでどんどん加点されるのが実に良い。
キャラクターの動きが生き生きしていながら、あざとすぎないのは個人的にすごく好印象で、「寒空の下で凍えていた中ですするカップヌードルの味」をこれでもかと動きだけで伝えてくる第1話は、それだけで腹の虫が鳴る。きらら枠における「かわいさ」は、おおむね「隠さずにおおっぴらに見せつけるかわいさ」と「ささやかな動きの中に仕込むかわいさ」の2つに大別できると思うが、本作は間違いなく後者。『スロウスタート』はどちらかと言えば前者に位置すると思うので、良い棲み分けだと思う。
声優陣もかなり良質。メインキャラ担当には、花守ゆみりに東山奈央、さらに豊崎愛生、原紗友里、高橋李依が連なる。どいつもこいつもキャリアが濃い。ゆえに演技に関してはド安定である。*1
第2話より。「980円のテントを組み立ててみた」(解説:大塚明夫)
また、上述したとおり、「ナレーションが大塚明夫」というのが、異質ながら絶妙である。大塚明夫の解説とともにキャラたちがテントを組み立てていく、というシーンが第2話に登場するが、このあたりはアニメというより「NHKの趣味ハウツー番組」*2のノリが近いんじゃないかとすら感じる。奇妙ではあるが歪ではない、という不思議な感触である。これもアウトドアという題材の賜物だろうか。
次回予告の後にこういう注意喚起カットが入るのもハウツー番組感があって良い。
BGMもかなり秀逸で、アイリッシュ感あふれるアップテンポなものから、口笛で脱力感を誘うものまで、アウトドアという題材に映えるものがそろっている。鼓膜に優しい音楽は、この手のゆるーい雰囲気の作品にとてもよく噛み合う。
OPは映像・音楽ともにオシャレで、それでいてきらら枠の明るさが損なわれない絶妙なものになっていてテンションが上がる。変わってEDはアコギの主旋律が美しい一曲で、こちらもいつでも聞いていたい。どちらも声優ユニット楽曲ではないのは少しめずらしいかもしれない。
総じてスキがなく、細かな加点がどんどん積み重なって最終的に100点満点中の500点は軽く弾き出してくる。今季もかなり良好なアニメがひしめいているものの、『ゆるキャン△』はその中でも圧倒的に安定感が高い。今のところ、今季でもかなり満足感が高く、比較的多くの人におすすめできそうである。
なによりインドアボーイなのにアウトドア活動したくなる引力がある。それだけで本作の意義は達成されているだろう。まぁこの時期に一人でキャンプしたら普通に凍え死にそうだけども。
*1:とりわけ2話では東山奈央が「くぁwせdrftgyふじこlp」の音声化をやってのけており、必聴モノ。ちなみにこの音声化自体は初出ではないらしい。qあwせdrftgyふじこlpとは (ウワナニヲスルとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
*2:より具体的には『ラン×スマ』『実践!にっぽん百名山』、あるいはそれこそ『趣味どきっ!』あたり。