コラム
» 2018年01月14日 12時00分 公開

高校化学でわかる「コーラで歯が溶ける」がウソである理由 

ダマされないための勉強。

[QuizKnockねとらぼ]

 みんな大好き炭酸飲料。暑い夏でも寒い冬でも、いつでも飲みたいものですよね。

 ところでこの間友人と会ったときに「歯がコーラで溶けるわけないよな」という話になりました。

 彼は25歳になった今でも「炭酸を飲みすぎると歯が溶けるよ」と周りの人に言われるそうです。もしかして、読者のみなさんもそんな経験がおありですか?(筆者は言われたことがないのです)

 筆者の直感でも、「歯が炭酸で溶けるわけない」です。なぜなら歯が溶けたことがないので。でも本当かな? ちょっとずつ溶けてたりするのかな?

 というわけで、ちょっと歯と炭酸について考えて、堂々と反論してやりましょう。

炭酸は酸性

 おそらく、炭酸で歯が溶ける派の主張は、「炭酸は酸なんだから酸蝕歯(さんしょくし)になるはずだ」というものでしょう。

 酸というのはもちろん、酸性・アルカリ性の酸性。この世のすっぱいものが大体持ってる性質のことです。リトマス紙を赤色に変えたりBTB溶液を黄色に変えたりします。炭酸もこの仲間です。

 「酸蝕歯」というのは初耳の人も多いでしょうが、読んで字のごとく、酸によって蝕(むしば)まれた歯。酸の影響で歯が溶かされてしまったという症状です。虫歯とは違います。虫歯菌とは関係なく、外から来る酸によって歯が溶かされている状態を言います。

 炭酸が酸なら、酸蝕歯になるやんけ! とお思いの方はちょっとお待ちを。筆者はそこに疑問を覚えました。

歯の材質

 炭酸ってかなり弱い酸のはずなのに、歯みたいな固いものを本当に溶かせるのか?

 歯がどれくらい固いかは、何でできているのかを調べるところから。グリコ健康科学研究所によると、歯の固い部分のほとんど(ハイドロキシアパタイトと呼ばれます)はリン酸カルシウム(の1種)だそうです。

 高校化学をやった皆さんはそろそろ分かった頃ですか? キーワードは「弱酸の遊離」です!

弱酸の遊離

 弱酸の遊離とは、「弱酸の塩に強酸を加えると弱酸の方が酸に戻り、強酸が塩になる反応」です。

 例えば、酢酸ナトリウムの水溶液に塩酸を加えると、酢酸が遊離して塩化ナトリウムができる、という反応。もちろん逆は起こりません。

 塩(えん)は酸とアルカリの中和でできる生成物の総称で、塩化ナトリウム(食塩)は塩酸と水酸化ナトリウムの塩(えん)の一種です。

 すごーく単純化してしまうならば、「弱いものは強いものから奪われる」ということになります。奪われる=溶かされる、と考えて大丈夫です。

 弱酸や強酸という表現をしていますが、もちろん酸同士の相対的な強さで決まります。今問題にしているリン酸カルシウムと炭酸ですが、リン酸は強酸というほど強くはありませんが、明らかに炭酸よりは強いです。炭酸は酢酸よりも弱い酸です。

 受験生の皆さんのお役にも立てるよう、フェノールも入れておきました。硝酸は酸化力を持ち、銅を溶かせるので星5です!

 というわけで、より強い酸であるところのリン酸が炭酸程度で遊離するはずもなく、炭酸が歯を溶かすことは不可能なのです。

まとめ

 というわけで、弱酸である炭酸はそれより強いリン酸の塩である歯を溶かすことができないという話でした。

 参考までに歯医者さんのサイトを見てみました。酸蝕歯というのはお仕事で硫酸(強い酸の代表!)などを扱う人に見られる症状だそうです。

 また、炭酸飲料で歯が溶けるという話は、単に虫歯にならないよう子どもに言い含めるときにこの表現が用いられたのだろうとのこと。なら最初から虫歯になるって言わんかい!!

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