他国を「糞壺」呼ばわりし、アメリカを裏切り続ける最低の大統領

ドナルド・トランプがアメリカ大統領に就任してから間もなく1年。選挙期間中からやりたい放題だったトランプは、その後も言動が変わらないようです。
アメリカ在住の作家・渡辺由佳里さんが、トランプ政権のホラーさながらの現状をお伝えします。

最低の大統領を更新中

選挙中から言いたい放題、やりたい放題だったトランプは、大統領になってからも言動を改める様子はなく「アメリカ史上最低の大統領」という評価を更新し続けている。

1月5日に発売されたマイケル・ウルフによるトランプ政権の暴露本「Fire and Fury(炎と怒り)」は、大統領の暴露本の中で最もゴシップ的な内容で、トランプの人間としての卑小さをあらわにしている。

しかも、これがトランプに関する現在の最大ニュースではないのだ。

暴露本発売日の前日、共和党と民主党の議員らが「超党」的な移民対策をトランプ大統領と話し合うための小規模なミーティングを行った。

その会議の最中、トランプは、ハイチ、エルサルバドル、アフリカ諸国からの移民に対して「なんでこれら糞壺(shithole)の国の者をここ(アメリカ)に来させるんだ?」と言い、かわりにノルウエーのような国からもっと移民を受け入れるべきだと提案した。その後、「なぜこれ以上ハイチ人が必要なのだ?」「排除しろ」とも加えた。

shitholeを「便所」や「肥溜め」と翻訳する人は多いようだが、それらの日本語ではこの言葉が持つ汚さや下品さが伝わらない。そこで、SF作家の藤井太洋さんのツイートを参考に、『蟹工船』(小林多喜二)に出てきた「糞壺」という単語を使用させていただいた。

アメリカを裏切り続ける行為

国の指導者にはあるまじきトランプの発言に対し、ターゲットにされた国々だけでなく、多くの国から非難が殺到した。

会議に出席していた共和党議員のうち2人は「記憶にない」という(よくある)言い訳をしているようだが、同じく同席したリンゼー・グラム上院議員を含め、アメリカ国内の保守からも批判の声は上がっている。

アメリカはそもそも理念のもとに造られた移民の国である(異論はあるだろうが、それは別として)。トランプが貶めているのは、侮蔑した国々とそこからの移民だけでなく、国家としてのアメリカが尊重してきた「インテグリティ(公正さ、誠実さを含む品格と一貫性)」を裏切る行為だというものだ。

ネオコン系の雑誌『ウィークリー・スタンダード』の創刊者で政治評論家のビル・クリストルは、トランプを批判する次のツイートをした。

「2週間前、26歳の兵士が燃えさかるブロンクスの住居ビルに何度も駆け込み、自ら生命を落とすまでに多くの人命を救った。彼の名前は、エマニュエル・メンサー一等兵。ドナルド・トランプが平均より非常に劣った移民を生み出すと考えているらしいガーナからの移民だった」

「君はどこから来たの?」

トランプのとんでもない発言のバックラッシュか、昨年の秋に大統領執務室で起こった出来事がリークされた。内容は、その会話を直接知る2人の役人が確認しているとのことだ。

パキスタンで拘束されている家族の解放について人質交渉の専門家である女性情報分析官がトランプ大統領にブリーフィングをした。この分析官がトランプ大統領と会うのは初めてのことだった。ブリーフィングの後で大統領はこう質問した。

「君はどこから来たの?」

彼女は、ニューヨークだと答えた。だが、それは期待された答えではなかった。トランプは、「your people(君の身内)」がどこから来たのか尋ね直した。

両親が韓国出身だということを分析官が伝えたところ、トランプは、同席していた顧問たちのほうを向いて、「なぜこのかわいい韓国人女性(pretty Korean lady)を北朝鮮との交渉に使わないのか?」と尋ねた。

その道の専門家に対して、女性だからといって、人種背景や外見で専門外の「北朝鮮と交渉させろ」ということがどれほど侮辱的なことかを説明する必要はないだろう。

また、この分析官がアメリカ人だということは質問するまでもなく明らかだ。アメリカ国籍がなければこの職を得ることはできないのだから。

そして、アメリカ合衆国は誕生のときから移民の国である。ドイツ人だったトランプの祖父がそうだったように、どこの国の出身であろうと、アメリカ国籍を得たら「アメリカ人」になる。この分析官が白人だったら、トランプは「どこから来たのか?」などと質問はしなかっただろう。

トランプが使った「your people」という表現も問題だ。これは、対象になっている人の人種、宗教、性的志向などの属性が、語り手(たいていはマジョリティの白人、キリスト教徒、ヘテロセクシャル)とは異なるというニュアンスを持っている。

トランプが大統領になってから、アメリカで生まれ育ったアジア系アメリカ人が、見知らぬ白人から「中国へ帰れ!」と怒鳴りつけられるような事件が多発しているが、大統領の示すお手本がこうなのだから、起こるべくして起こっている事件だと言えるだろう。

まっとうな人材が消えていく

続いて、保守系メディアのウォール・ストリート・ジャーナル紙が、2016年の選挙中に、トランプの弁護士がポルノ女優に13万ドル(約1500万円)を支払ったことを報じた。
この女優はトランプが2006年に性的関係を持ったと噂されてきた女性で、選挙投票日の1ヶ月前に口封じのために支払われたと推察されている。

そんななか、共和党と民主党両方の大統領の元で30年近く務めた駐パナマ米大使ジョン・フィーリーが辞任を発表した。その理由を彼は書面でこう説明した。

「外交官として、個人的に同意できない政策があるときも非政治的に大統領と政権に忠誠に仕えることを私は誓った」「それが不可能になったときには、(外交官は)道義上辞職するよう指示されている。そのときがきた」

こうして、まっとうな人材が消えていくのも、外には見えにくいトランプ大統領の恐ろしい影響だ。

笑ってしまうほど稚拙な世論操作

だが、これら一連の出来事の重要さを、大統領はたぶん感じていない。

ウルフの暴露本を信じるのであれば、トランプはみなが自分を愛さないのが理解できないらしい。彼が行うことのすべては、自分自身を満足させるためのものなのだ。そのために真実を「偽ニュース」と呼び、偽りを真実に変えることも躊躇しない。

その傾向を正直すぎるほど正直に明かしているのが、年末にトランプの選挙陣営から来た「Trump vs. Obama Approval Poll」という件名のEメールだ(私は取材でトランプのイベントに参加したのでいまだにメールを受け取る)。

内容は次のようなものだ。

「トランプ大統領の初年が終了しつつあり、オバマ大統領とトランプ大統領の初年度の支持率を比較する世論調査の結果があちこちの偽ニュースメディアで発表されようとしている。
 オバマがやったことすべてに対してメディアがおべっか使いの応援団になっていることは周知の事実だ。彼らが左よりで偏った世論調査の結果で公共の電波を埋め、オバマの失敗を限りなく褒める一方で、トランプ大統領の歴史的な初年度をこき下ろすだろう。
 ゆえに、真実を明るみに出すために協力していただきたい。」

その後に、オバマ大統領とトランプ大統領を比較する世論調査へのリンクがある。

質問を見てみよう。


1.トランプ大統領の任期初年(2017年)をどう評価しますか?

「素晴らしい(Great)」
「良い(Good)」
「まあまあ良い(Okay)」
「その他(Other)」

2.オバマ大統領の任期初年(2009年)をどう評価しますか?

「素晴らしい(Great)」
「良い(Good)」
「まあまあ良い(Okay)」
「悪い(Poor)」
「その他(Other)」


オバマ大統領の回答の選択肢には「悪い(Poor)」があるのに、トランプ大統領の選択肢にはないのだ。これでトランプ大統領の支持率が低くなるわけがない。

「ここまであからさまに世論調査を操作するとは!」と、つい吹き出してしまった。

「その他」に「最低」と書き込もうかと思ったが、個人情報の詳細を書きこまないと、回答を送ることができない仕組みになっているので尻込みした。つまり、トランプ陣営に都合が良い回答だけが集まるようになっているのだ。

これで集めた「世論調査」を、「これが真実。偽ニュースメディアを信じてはいけない」と言い張るのが、情けないことに、現在のアメリカを導いている大統領とその側近たちなのだ。

トランプ大統領の「糞壺」発言を公式に批判(婉曲的なものを含めて)している共和党議員は、1月13日時点でグラム上院議員を含めて19人でしかない。擁護派は4人で、残り全員の共和党上院議員と主要な下院議員は沈黙を守っている。

これらの議員とアメリカ国民のマジョリティが、アメリカの誇りであるはずの「インテグリティ」を思い出す日はいつ来るのだろうか?

この連載について

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アメリカはいつも夢見ている

渡辺由佳里

「アメリカンドリーム」という言葉、最近聞かなくなったと感じる人も多いのではないでしょうか。本連載では、アメリカ在住で幅広い分野で活動されている渡辺由佳里さんが、そんなアメリカンドリームが現在どんなかたちで実現しているのか、を始めとした...もっと読む

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t_trace 渡辺由佳里さんのレポート。 sh*tholeに「糞壺」をあてた訳について、私のツイートに言及いただいています。 https://t.co/h1pzjp3uXg 約1時間前 replyretweetfavorite

jumitaka 後半のアンケートの質問がいちばんおもしろかった 約2時間前 replyretweetfavorite

dankogai 「外交官として、個人的に同意できない政策があるときも非政治的に大統領と政権に忠誠に仕えることを私は誓った」「それが不可能になったときには、(外交官は)道義上辞職するよう指示されている。そのときがきた」 https://t.co/04jeW9kEZd 約3時間前 replyretweetfavorite

loveandpearl アメリカの凋落ぶりを改めて垣間見る記事。 日本も決して、対岸の火事ではないような気がしました。 約4時間前 replyretweetfavorite