1761/1761
47-43 嬉しい情報
「おお、3代目『魔法工学師』ジン殿、よくぞ来てくださった」
昨日の約束を果たすため宮城を訪れた仁を、エゲレア王国第3王子アーネスト17世は諸手を挙げて歓迎した。
「私も一両日中には帰国の途に着くことになっているから、正直諦めかけていたよ」
「いえ、約束しましたから」
仁はそう言って笑い、城の工房を借りて『ロッテ』のメンテナンスをすることにした。
「……3代目『魔法工学師』だってさ」
「『魔法工学師』って、凄い技術持ってんだろう?」
「一目見てみたいな」
などと、手の空いている城勤めの魔法技術者や文官武官らがこぞって覗きにやって来た。
最も近くにいるのはもちろんルビーナである。そしてシュウとロードトスも作業台の脇にいた。
ロッテは既に侍女服を脱いで工房にやって来ており、すぐに整備に取り掛かれる状態であった。
「さてロッテ、整備をするからそこに横になってくれ」
「はい、ジン様」
ロッテは仁に言われるまま、作業台の上に横たわった。
「『停止』」
まずは機能を停止させる仁。
「では、分解を開始する」
そう宣言してから、仁はロッテの外装を取り外していった。その手際のよさに、見物している者たちは目を剥く。
「ああ、状態がいいなあ」
独りごちる仁。ロッテの内部の状態が思った以上によく、ほっとすると共に、代々の主人たちから大事にされていることを知って嬉しかったのだ。
「とはいえ、可動部分……特に関節は少々ガタが来ているか」
「え? ジン様、これで?」
見ていたルビーナが驚いた声を上げた。見たところ、関節摺動部のクリアランスは1ミクロン以下だったのだ。
「ああ。当初の値の3倍くらいになっているな」
「これで3倍って……初めは幾つだったのよ……」
呆れ顔のルビーナ。
仁は礼子からアダマンタイトの小片を受け取ると、手早く摺動部にコーティングを施していった。
そのコーティングの厚みにより、クリアランスは仁の理想値に近付いた。
「これで、よし」
部品同士の『合い』が『線を引いたよう』であること。それが仁のモットーである。
「次は骨格の歪みだが……問題なし。腐食もないな」
魔法筋肉の劣化も見られなかったので、『補強』を掛けて少し強化しておく。
「魔導神経線は……少し傷んでいるな。『変形』……これで、よし」
負荷が掛かり細くなっていた部分を変形させて太さを揃えた。
「魔素変換器と魔力炉は……問題ないな」
発声、視覚、聴覚に関する魔導装置もチェックし、傷んだものは交換した。
隷属書き換え魔法対策のシールドケースも劣化していなかった。
「これで、よし」
「……ジン様、お、終わったの?」
「終わりだ」
外装をチェックしながら取り付けていく仁。
今回はルビーナやシュウに見せるため、普段の3分の1くらいの速度でメンテナンスを行ったので、15分程も掛かってしまった。
それでもギャラリーたちにとっては驚異的な速度だったようだ。
「……見たか?」
「……信じられないが……見た」
「これが、『魔法工学師』の実力……」
「称号は伊達じゃないってことか……」
ぼそぼそと陰で言葉が交わされている。仁には聞こえないものがほとんどだったが、礼子の耳には全て聞こえており、誇らしげな気分になっていたのだった。
「終わりました」
「は、早いですね」
計20分ほどで、ロッテのメンテナンスは終了した。
その一部始終を見ていたアーネスト17世は、開いた口が塞がらない思いであった。
彼自身も工学魔法は一通り嗜んでいるので、仁が見せた早業が、尋常のものではないことを理解したのである。
(……これが『魔法工学師』か……)
改めて、その非常識さに感嘆するのであった。
「ロッテを再起動します。……『起動』」
「はい、『製作主』様」
ロッテが目を覚まし、起き上がった。そしてそばに置いてあった侍女服を手早く身に着けると、
「ありがとうございました、ジン様」
と、仁に向かって深々とお辞儀をする。
「いや。……大事にされているようでよかったよ」
優しい口調で仁はそう答えた。
「はい。卑賤な身に、有り難いことでございます」
ロッテはそう言って謙遜した。そんな彼女を見て仁は、
「ロッテ、トレイとモップはどうしたんだっけ?」
と聞いてみる。
「はい、その昔、騒動が起きたときに使用して壊れてしまいました。……申し訳ございません」
「いや、謝ることはないさ。そうか、壊れたか……よし!」
仁は工房に置いてあった軽銀のインゴットを見つけ出し、それにこっそり取り寄せたアルミニウムとバナジウムをそれぞれ6パーセントと4パーセント添加し、『64軽銀』にした。
それを加工し、トレイとモップを作りあげる。モップの房は魔法筋肉用の魔法繊維の切れ端だ。
さらに『強靱化』を念入りに掛け、強度アップを図る。
「これでいいな。これなら前より壊れにくいだろう」
その完成したトレイとモップを、仁はロッテに手渡した。
「ありがとうございます。大切にします」
「あー、うん。……わかっていると思うが、使うべき時には躊躇うなよ?」
「はい、承知しております」
そして仁はアーネスト17世に向き直る。
「殿下、ロッテの整備、滞りなく完了しました」
「お、おう。……か、感謝する、ジン殿」
「殿下、これで私もさらにお役に立てるかと存じます」
ロッテもアーネスト17世に頭を下げた。
「うむ、よろしく頼むぞ」
実に嬉しそうにロッテの肩を叩くアーネスト17世の様子を見て、仁はほっこりしていた。
そして仁は、この機会に気になっていたことを聞いてみることにする。
「殿下、一つお尋ねしてよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ? 答えられることなら何でも聞いてくれ。ああ、それから敬語はやめてほしい。歳も近いようだし、何より『魔法工学師』に敬語を使われるのはむず痒くてかなわん」
「は、はあ、ありがとうござい……ありがとう。……ええと、聞きたいことというのは、『ティア』という自動人形のことです」
ティア。それは、400年前にアーネスト『1』世の妃となったクライン王国の姫君、リースヒェン王女が持っていた自動人形である。
アドリアナの遺した設計基を元に作られたため、他の自動人形とは一線を画す性能を誇る。
そのティアを、耐用年数を過ぎて動作不良を起こしていたところを仁がレストアしたのである。
「ほう、ティアのことをご存知か。さすがは3代目だな」
「ええ、礼子がいますから」
礼子はティアのことを従妹のように思っていますから、と仁は言い添えた。
「なるほど。……ティアは今も健在だ。国元で我が娘の世話をしている」
「お嬢さんの?」
「うむ。今年3つになる子で、ティアのことが大のお気に入りなのだ」
「そうでしたか」
あのティアも元気でいるようで、仁はほっとしたのであった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
お知らせ:1月15日早朝から16日昼過ぎにかけて出掛けてきますのでその間レスできなくなります。
ご了承いただきますようお願いします。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
この小説をブックマークしている人はこんな小説も読んでいます!
Knight's & Magic
メカヲタ社会人が異世界に転生。
その世界に存在する巨大な魔導兵器の乗り手となるべく、彼は情熱と怨念と執念で全力疾走を開始する……。
*お知らせ*
ヒーロー文庫よ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全135部分)
- 24234 user
-
最終掲載日:2018/01/02 01:32
蜘蛛ですが、なにか?
勇者と魔王が争い続ける世界。勇者と魔王の壮絶な魔法は、世界を超えてとある高校の教室で爆発してしまう。その爆発で死んでしまった生徒たちは、異世界で転生することにな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全532部分)
- 25243 user
-
最終掲載日:2017/12/17 23:39
Re:ゼロから始める異世界生活
突如、コンビニ帰りに異世界へ召喚されたひきこもり学生の菜月昴。知識も技術も武力もコミュ能力もない、ないない尽くしの凡人が、チートボーナスを与えられることもなく放//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全443部分)
- 21574 user
-
最終掲載日:2017/06/13 01:00
ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた
◆書籍⑧巻まで、漫画版連載中です◆ ニートの山野マサル(23)は、ハロワに行って面白そうな求人を見つける。【剣と魔法のファンタジー世界でテストプレイ。長期間、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全193部分)
- 24004 user
-
最終掲載日:2018/01/13 21:00
二度目の人生を異世界で
唐突に現れた神様を名乗る幼女に告げられた一言。
「功刀 蓮弥さん、貴方はお亡くなりになりました!。」
これは、どうも前の人生はきっちり大往生したらしい主人公が、//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全387部分)
- 26848 user
-
最終掲載日:2018/01/08 12:00
フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~
※作者多忙につき、当面は三週ごとの更新とさせていただきます。
※2016年2月27日、本編完結しました。
ゲームをしていたヘタレ男と美少女は、悪質なバグに引//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全227部分)
- 26816 user
-
最終掲載日:2018/01/13 07:00
ありふれた職業で世界最強
クラスごと異世界に召喚され、他のクラスメイトがチートなスペックと“天職”を有する中、一人平凡を地で行く主人公南雲ハジメ。彼の“天職”は“錬成師”、言い換えればた//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全300部分)
- 33391 user
-
最終掲載日:2018/01/13 18:00
異世界迷宮で奴隷ハーレムを
ゲームだと思っていたら異世界に飛び込んでしまった男の物語。迷宮のあるゲーム的な世界でチートな設定を使ってがんばります。そこは、身分差があり、奴隷もいる社会。とな//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全221部分)
- 26287 user
-
最終掲載日:2017/11/30 20:07
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント-
世界最強のエージェントと呼ばれた男は、引退を機に後進を育てる教育者となった。
弟子を育て、六十を過ぎた頃、上の陰謀により受けた作戦によって命を落とすが、記憶を持//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全178部分)
- 25831 user
-
最終掲載日:2017/12/28 04:15
盾の勇者の成り上がり
盾の勇者として異世界に召還された岩谷尚文。冒険三日目にして仲間に裏切られ、信頼と金銭を一度に失ってしまう。他者を信じられなくなった尚文が取った行動は……。サブタ//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全860部分)
- 23944 user
-
最終掲載日:2018/01/09 10:00
デスマーチからはじまる異世界狂想曲( web版 )
◆カドカワBOOKSより、書籍版12巻、コミカライズ版6巻発売中! アニメ放送は2018年1月11日より放映開始です。【【【アニメ版の感想は活動報告の方にお願い//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全561部分)
- 35083 user
-
最終掲載日:2018/01/07 18:00
進化の実~知らないうちに勝ち組人生~
柊誠一は、不細工・気持ち悪い・汚い・臭い・デブといった、罵倒する言葉が次々と浮かんでくるほどの容姿の持ち主だった。そんな誠一が何時も通りに学校で虐められ、何とか//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全116部分)
- 21363 user
-
最終掲載日:2018/01/09 00:01
境界迷宮と異界の魔術師
主人公テオドールが異母兄弟によって水路に突き落されて目を覚ました時、唐突に前世の記憶が蘇る。しかしその前世の記憶とは日本人、霧島景久の物であり、しかも「テオド//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1352部分)
- 25452 user
-
最終掲載日:2018/01/14 00:00
金色の文字使い ~勇者四人に巻き込まれたユニークチート~
『金色の文字使い』は「コンジキのワードマスター」と読んで下さい。
あらすじ ある日、主人公である丘村日色は異世界へと飛ばされた。四人の勇者に巻き込まれて召喚//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全824部分)
- 28090 user
-
最終掲載日:2017/12/24 00:00
とんでもスキルで異世界放浪メシ
※タイトルが変更になります。
「とんでもスキルが本当にとんでもない威力を発揮した件について」→「とんでもスキルで異世界放浪メシ」
異世界召喚に巻き込まれた俺、向//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全399部分)
- 30701 user
-
最終掲載日:2018/01/08 23:03
私、能力は平均値でって言ったよね!
アスカム子爵家長女、アデル・フォン・アスカムは、10歳になったある日、強烈な頭痛と共に全てを思い出した。
自分が以前、栗原海里(くりはらみさと)という名の18//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全255部分)
- 22479 user
-
最終掲載日:2018/01/12 00:00
賢者の孫
あらゆる魔法を極め、幾度も人類を災禍から救い、世界中から『賢者』と呼ばれる老人に拾われた、前世の記憶を持つ少年シン。
世俗を離れ隠居生活を送っていた賢者に孫//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全126部分)
- 27655 user
-
最終掲載日:2017/12/24 06:11
レジェンド
東北の田舎町に住んでいた佐伯玲二は夏休み中に事故によりその命を散らす。……だが、気が付くと白い世界に存在しており、目の前には得体の知れない光球が。その光球は異世//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全1610部分)
- 29595 user
-
最終掲載日:2018/01/13 18:00
Only Sense Online
センスと呼ばれる技能を成長させ、派生させ、ただ唯一のプレイをしろ。
夏休みに半強制的に始める初めてのVRMMOを体験する峻は、自分だけの冒険を始める。
【富//
- 21068 user
-
最終掲載日:2017/05/04 00:00
八男って、それはないでしょう!
平凡な若手商社員である一宮信吾二十五歳は、明日も仕事だと思いながらベッドに入る。だが、目が覚めるとそこは自宅マンションの寝室ではなくて……。僻地に領地を持つ貧乏//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全205部分)
- 32926 user
-
最終掲載日:2017/03/25 10:00
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
34歳職歴無し住所不定無職童貞のニートは、ある日家を追い出され、人生を後悔している間にトラックに轢かれて死んでしまう。目覚めた時、彼は赤ん坊になっていた。どうや//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全286部分)
- 29143 user
-
最終掲載日:2015/04/03 23:00
魔王様の街づくり!~最強のダンジョンは近代都市~
書籍化決定しました。GAノベル様から三巻まで発売中!
魔王は自らが生み出した迷宮に人を誘い込みその絶望を食らい糧とする
だが、創造の魔王プロケルは絶望では//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全212部分)
- 21161 user
-
最終掲載日:2018/01/12 21:24
転生したらスライムだった件
突然路上で通り魔に刺されて死んでしまった、37歳のナイスガイ。意識が戻って自分の身体を確かめたら、スライムになっていた!
え?…え?何でスライムなんだよ!!!な//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全303部分)
- 30120 user
-
最終掲載日:2016/01/01 00:00
異世界はスマートフォンとともに。
神様の手違いで死んでしまった主人公は、異世界で第二の人生をスタートさせる。彼にあるのは神様から底上げしてもらった身体と、異世界でも使用可能にしてもらったスマー//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全459部分)
- 23239 user
-
最終掲載日:2017/12/31 12:32
聖者無双 ~サラリーマン、異世界で生き残るために歩む道~
地球の運命神と異世界ガルダルディアの主神が、ある日、賭け事をした。
運命神は賭けに負け、十の凡庸な魂を見繕い、異世界ガルダルディアの主神へ渡した。
その凡庸な魂//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全363部分)
- 22678 user
-
最終掲載日:2018/01/07 20:00
甘く優しい世界で生きるには
勇者や聖女、魔王や魔獣、スキルや魔法が存在する王道ファンタジーな世界に、【炎槍の勇者の孫】、【雷槍の勇者の息子】、【聖女の息子】、【公爵家継嗣】、【王太子の幼//
-
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
-
完結済(全255部分)
- 20759 user
-
最終掲載日:2017/12/22 12:00
異世界食堂
しばらく不定期連載にします。活動自体は続ける予定です。
洋食のねこや。
オフィス街に程近いちんけな商店街の一角にある、雑居ビルの地下1階。
午前11時から15//
-
ローファンタジー〔ファンタジー〕
-
連載(全119部分)
- 22197 user
-
最終掲載日:2017/06/10 00:00