https://anond.hatelabo.jp/20180113204136
『時計じかけのオレンジ』は凄いけど、聖書を読まない日本人にとってはピンとこないテーマを扱ってるので、「何が凄いの?」という疑問が生じるのももっともだ。という話を書く。
『時計じかけのオレンジ』のテーマは、キューブリック監督曰く、以下の通り。
この映画の中心にあるのは自由意志についての問いに他ならない。善悪を自分で選ぶことができなければ人間性は失われてしまうのでは? タイトルが示すように時計じかけのオレンジになってしまうのでは?
この説明を読んだとき、多くの人はもっともらしい顔をして「ふんふんなるほどね」と思うのだけど、その実ぜんぜん分かっていない。何故かと言えば、説明中の「自由意志」という言葉の意味が分かっていないからだ。
「自由意志」というのは実はキリスト教の専門用語だ。それなのに「自由」と「意志」は何となく分かるから、キリスト教が分からない日本人も分かったような気分になってしまう、困った術語だ。
じゃあキリスト教における自由意志って何よ?という話になるが、これはその定義自体がもうメチャクチャ議論になる。
だがここでそんなところに深入りはできないので、ここでは簡単に”①神が、②人間に、③その運命を左右する選択をする機会を、④与えたこと”と定義する。
この定義をふつうの日本人が見たとき、「①神が」というところを置いておけば「はあ?そんなの当たり前じゃん」と思うだろう。だがキリスト教徒にとってこの定義はひじょーに座りが悪い。
原因は大きく2つある。
1. 1つは、上の意味で人間に自由意志が認められるとしたら、神さまは人間に悪を行う機会をも与えたということになってしまうからだ。
これはもう一見してヤバい。この世に悪(犯罪行為、ブラック企業、利権の独占等々)がはびこっている根本原因は神さまにあることになる。
すると、全知全能の神さまが何でそんなことをしたの?という疑問が生まれ、最終的にはホントは神さまなんて居ないんじゃないの?/そんな神さまなら要らないよ、という疑問に行き着いてしまう。これはヤバい。
神はあらかじめ定めた人々をさらに召し、召した人々をさらに義と認め、義と認めた人々にはさらに栄光をお与えになりました。(ローマ書第8章30節)
これはどういうことかというと、神さまは、人間のうち誰が救われるかを、前もって決められているということだ(いわゆる予定説)。
これは上述した意味での自由意志と相性が悪い。なぜかというと、人間がその自由意志に基づいて信仰を持ち、(悪事を働かず)善行を積み続けたとしても、神さまの救済リストに入っていなければ救済されないということになるからだ。
そうなると、だったらどうして神さまは自由意志なんてものを与えたんだよ、という疑問が生まれ、最終的にはホントは神さまなんて(略)
以上の点を踏まえて、最初に引用したキューブリック監督の言葉を再読すると、以前より意味が分かるようになっているのではなかろうか。
この映画の中心にあるのは自由意志についての問いに他ならない。善悪を自分で選ぶことができなければ人間性は失われてしまうのでは? タイトルが示すように時計じかけのオレンジになってしまうのでは?
要するに監督は、「(上述したような)キリスト教的な議論から視点を変えて、もし仮に人間に自由意志がなかったらどうなるの?」と問題提起しているのだ。
本作において主人公アレックスは、ルドヴィコ療法(目を強制的に開かさせれて残虐映像を見せ続けられる)を受けて、あらゆる「悪」が行えない身体となる。つまり、自由意志が奪われる。
ルドヴィコ療法を受けたのち、アレックスは出所する。悪事が行えなくなった以上、彼は「善良」そのものだ。
善良な彼を見て、映画の観客は安堵しても良さそうなものだが、実際にそうはならない。生気を失い、最終的には自殺にまで追い込まれる彼の姿を見て、観客は不安を感じるのだ。
そしてラストシーンで、アレックスはルドヴィコ療法を解除する治療を受け、再び悪を行える身体に「回復」する(=自由意志を取り戻す)。
他方、邪悪な男に戻ったアレックスを見て観客は、「ああよかったよかった」と安堵する。
しかし映画館を出てみると、更生した犯罪者が再び犯罪者に戻るさまを見て安堵するというのは一体どういうことなのだろう?という疑問が湧いてくる。これでは何が何だか分からない。
ここで観客は、(悪を選択することも含む)自由意志がなければ、人間は人間性を失ってしまう、ということに気付かされるのだ。
・キリスト教徒が1千年以上も議論してきた自由意志の問題について、これまでに無かった視点から議論を展開したのが凄い。
・それなのに衒学的な映画に堕することなく、上質なエンターテインメントに仕上げ、興行収入2600万ドル以上も稼いだのが凄い。
・タイトルがかっこいいのが凄い。
・この映画がよく分かんなかった人も凄いと言ってるのが凄い。
・キューブリックの顔が凄い。
・ここまで書いてきて実は俺はそんなに『時計じかけのオレンジ』が好きじゃないのが凄い。
アマゾンプライムでもうすぐ見れなくなるらしいから見たんだがつまらなすぎて1時間見たところでやめた。 こっから面白くなるんか? 今のところ一番面白かったのはチンコのオブジェ
機械じかけのオレンジって何が凄いの? https://anond.hatelabo.jp/20180113204136 ここで書くこと 『時計じかけのオレンジ』は凄いけど、聖書を読まない日本人にとってはピンとこないテーマを...
音楽もほめてあげてほしい。 あのBGMがあればこそのヒットだった。
こういうこと書いた人が、5年後か10年後ぐらいに 「俺って幼稚で若かったな・・・まるでアレックスだな・・・」と思わせるとこ
スタンリー・キューブリック監督の 他の作品は観てもいいけれど 観なくてもまったく支障はない anond:20180113204136
構図 1枚絵が2時間続くと思え 中身はない