悪天候、そして大トラブル!さて、今回のこの旅は、思想家 東浩紀率いるゲンロンと、HISがタッグを組んでおおくりする『チェルノブイリ産業遺産と歴史都市キエフをめぐる7日間』というツアー。今年で4回目のこれにぼくは参加したのだ。
ゲンロンがどういうものなのかは、ちゃんと説明すると長くなるので公式サイトをご覧ください。 今回の旅をプロデュースした株式会社ゲンロンが出版している本『チェルノブイリ ダークツーリズム ガイド』。この記事でチェルノブイリに行ってみたくなった人は、この本読んで来年のツアーに参加するといいよ。
っていうと、なにやら急に宣伝広告っぽいな。念のため言っておくと、ぼくは完全自腹でこのツアーに参加している。もちろんニフティさんから旅費をもらってもいない。さらに言うと、妻にも援助してもらえなかった。
「ねえ、4号炉見られなくなっちゃうっていうし、チェルノブイリ行かなきゃいけないと思うんだけど…」って妻におそるおそる打診したら「そりゃそうだよ! 行った方がいいよ!」と即答。実にすばらしい女性と結婚したなぼく、と思ったけど財布のひももすばらしかった。 閑話休題。で、このツアー、実はけっこう波瀾万丈でして。 まずは、ずっと雨だったこと。さきほどから原発・新石棺の写真がしっとりとしているだろう。 旅の間中ずっと傘とレインコートだった。そして寒い。そりゃウォッカ飲むよな、と思った。
新石棺のてっぺんがけぶって、いかにでかいかを実感できたのはよかった。
晴れてたら4号炉の印象もまたちがうんだろうなー。
そしてもうひとつ、まさかの「原発内見学NG事件」だ。
予定では旅の4日目にいよいよ原発内部に入れる! という段取りだったのだが、なんと現場で急に「やっぱりダメ」と言われたのだ。 背後の4号炉が見守る中、現地コーディネーター、通訳、ゲンロンのみなさんの表情が険しいものに。ツアー参加者は徐々に「どうやらなにかあったらしい」とざわつきはじめる。
もちろん事前に許可申請・受理は行われていた。これまで3回のツアーではとどこおりなく見学できていた実績もある。それが当日まさに入る瞬間になって突然のNG。
お国柄である。 いや、異文化に感心している場合ではない。原発内部に入れる! というのはこのツアーの目玉だ。粘り強い交渉が行われる様子を、われわれ参加者も固唾を飲んで見守った。 結局、内部見学はまかりならんという結論に。今考えてみれば、新石棺完成間近で現場もてんやわんやだったのだろう。 失望を隠せないわれわれだが、東さんの悲痛な面持ちと繰り返えされるお詫びのアナウンスに、参加者はむしろ同情。しまいには「わたしたちに何かできることはないのか!」とまで。麗しい団結だが、できることなどあるわけがない。 失意の帰路。キエフへ。ああ…
「まあ、しょうがないよなあ…」と自らを納得させながら、バスに100km揺られキエフへ。
そして翌朝奇跡が起こる。 「入れることになった!」との知らせに、歓喜のハイタッチをする東さんと現地コーディネーターのジャチェンコさん。この旅のハイライトである。
なんと許可が下りたという。
きけば、この旅のコーディネートをしてくださっているアンドリ・ジャチェンコさんが「長官に直接掛け合って」実現させたという。 すげー! やったー! と歓声の沸き起こる車内。みんな完全に諦めてキエフでも観光するか、となっていたところへの朗報だ。その感動たるや。今思い出しても感涙である。 ただ、歓喜しつつみんな「長官に直に、って、ジャチェンコさんいったい何者…」と思った。 そしてふたたび100kmのバスの旅。
立ち入り禁止区域をへだてるチェックポイント(パスポートチェックなどがある)通過するのも慣れた。
チェルノブイリ市の入口にあるこのモニュメントも2度目。何度見てもかわいい。かわいいっていう表現どうかとおもうけどかわいい。
いよいよ原発内部へ!ながながと旅のエピソード紹介してないで、もっと原発の写真見せろよ、とお思いかと思う。もうしわけない。たしかにこの記事、ただの土産話の様相を呈し始めておる。
ただ、この珍道中紹介には理由がある。それは、これらプロセスが結果的にこの旅を旅たらしめた、ということを言いたいのだ。 悪天候とトラブルのおかげで、ぼくは現場でよく考えることができた。決して負け惜しみではなく。 旅行ってその場では夢中になっちゃって、帰ってきてからいろいろ思ったりするものだけど、これだけいろいろあるとうまいぐあいに脳みそと身体のセンサーが中和されて、その場で気づくことが増えたと思う。 なんせ相手はあのチェルノブイリだ。地名というよりはもはや記号になっているこの場所に挑むにはなにか儀式のようなものが必要で、今回の場合一連のトラブルがその役割を果たした。ありがとう、ウクライナのお役所仕事よ。 あとはやっぱり100km移動の真っ平らな時間が効いている。バスの中でみんな自然と心構えができたはずだ。もし「どこでもドア」があって世界中瞬時に行けるようになったら、旅は意味をなさなくなるのではないか。 場所はそこにあるが、心持ちと思考がたどり着くにはすごく時間がかかる。移動時間とはそのためにあるのだろう。 なんか語っちゃったけど、いよいよ原発内部です! ようやく!
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