ふつうだったあちこちの工事現場で見た光景と雰囲気。当たり前だけど、彼らにとってはこれが日常なのだ。
たとえば、現場には従業員用の食堂がありまして。これがすごく食堂。当たり前なんだけど、いわゆる食堂。ちょう食堂。
なんとこの食堂でお昼を食べる! という貴重な体験をしたんですが、貴重なわりに、ふつう。配膳してくれるおばちゃんもほがらかに、ふつう。
なんせここは30年間ずっと現場なのだ。そしておそらく今後もずっと続く。そりゃ日常にならざるを得ない。
食堂のおばちゃんと言葉は通じないながらにこやかなやりとりをしたときに「ああ、この人にとってはこれが生活なんだよな。毎朝ここへ出勤して、夕方に帰って」と思って、よくわからない感情がわき起こった。へんな言い方だけど、うれしくてちょっと泣きそうになった。 この「ふつう」の体験をするためにわざわざウクライナまで来たんだな、としみじみ思った。これこそ来てみないとわからないことだ。まさか、ふつう、て。 未曾有の大事故の落とし前をつけるには、多くの人の日常が必要とされるということなのだな。 なので「チェルノブイリどうだった?」と聞かれたら「ふつうだった」というのが一番正直な答えというわけ。 原発より大地の平らぐあいにびっくりなんかちょっとかっこいいこと書いてしまった(そうか?)。
というか、これはぼくが「工事現場ズレ」しちゃってるからこその感想かもしれない。ほんらい工事現場は「ふつうじゃない」よね。 さて、そもそもチェルノブイリがどこにあるのか、という基本的な説明もしておこう。 チャルノブイリの場所を説明して、と言われてすんなり答えられる人はそう多くないのではないか。ぼくも今回行くまでよくわかっていなかった。おおざっぱに言って、ウクライナの、キエフの北100kmあまり。ベラルーシとの国境に近い。 ウクライナはキエフの北100kmあまりの場所にある。南のピンはキエフ、北のピンがチェルノブイリ。
といっても、もちろん原発がつくられたときはここはソ連の一部だったわけだ。
本項をお読みのみなさんの中には、そもそも事故を起こした原発の観光が可能であるということ自体にびっくりしたむきもいらっしゃると思う。ぼくもそうだった。 理由は色々あるが、これは、ソ連が崩壊したからというのも大きいのではないか。皮肉にも責任を問われる当事者がいなくなってしまったために、オープンにできたのだろう。 キエフからチェルノブイリへの移動の様子。GPSログによる記録。注目いただきたいのは道中のこの平原っぷり。
で、上の画像を見てほしい。この旅では基本的にキエフ市内に宿泊し、現地まではチャーターしたバスで行く。
この道中で印象的だったのは、この国の「真っ平ら具合」だ。 キエフからチェルノブイリまでの道中のGPSログ。この周辺の平らさといったらどうだ!(Google earthに表示したものをキャプチャ)
上はバスでの移動中のログをGoogle earthで表示したもの。
すごい平ら。 前ページで紹介した動画ニュースの冒頭のキャプチャ。気が遠くなる平らぐあい(Radio Free Europe/Radio Liberty ? 2016 RFE/RL, Inc.)
上の画像を見てもその平らっぷりが分かると思う。
チェルノブイリ市中心部にある事故の記念館「ニガヨモギの星博物館」(後述)にあった写真。この平原っぷり! 画面奥地平線ぎりぎりのところに原発がある。
なぜくどくど地形の話などするのかというと、この平らっぷりこそ唯一ぼくがこの旅で「ふつうじゃない! 見たことない!」と度肝を抜かれた光景だったから。
その平原の中に鉄塔と送電線が走る光景がほんとうにすてきですてきで。
もうひとつは、この途方もなく平らな中に原発が建ち現れたときは、みんなさぞかし誇らしい気持ちになっただろうな、と思ったから。
原発がここに造られた理由は、当時のソ連体制下における政治的なあれやこれやがあってのこととは承知している。が、そもそもこういう風景を日々相手にしている人たちにとって、でかいものをつくることは人間の存在証明そのものなのではないかと思った次第だ。 たとえばキエフ市内の「大祖国戦争博物館」には1981年にブレジネフによって建てられた「祖国の母像」というのがあるのだが、この高さが実に108mという巨大さ。でかすぎて気持ち悪かった。怖い。 「祖国の母像」108m。ぼくにとっては、構造物のインパクトとしては原発よりこの像のほうが強かった。怖い。こんな母やだ。
こういう共産趣味的巨大建造物と、チェルノブイリ原発は、真っ平らな中で人間が何をせずにはいられないか、という点でつながっているように思えたのだ。
ともあれ、キエフからチェルノブイリまで100kmのバス車窓はずっと圧倒的な平ら大地で、移動感がなかった。時間だけが過ぎていく変な感じ。バスは停まってて、大地がスライドしているような。 道中、ポケモンGOをやっておられるツアー参加者の方がいて、画面見せてもらったときに「あっ!」って声が出た。この平らな風景、まさに! ポケGO特有のあのランドスケープは、チェルノブイリの風景だったのだ!
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