HOME > レビュー > 【工場取材】復権しつつあるミュージックカセットテープの制作現場に潜入。アナログらしい昔ながらの工程で作られていた
2018年1月12日/DigiFi 編集部
音楽を配信やストリーミングで楽しむスタイルが主流になった今日、アナログ盤の存在が見直されているのはご存知の通りだ。その流行はパッケージメディアの在り方に影響をおよぼし、新譜や名盤復刻の標準仕様にさえなりつつある。アナログ盤の復権と時を同じくして、欧米では3年ほど前からミュージックカセットに注目が再び集まり、カセットにMP3のダウンロード・コードが付くことも珍しくない。
2017年7月からポニーキャニオンが復刻として発売を始めたURCレーベルの作品群はアナログ盤に加え、ミュージックカセットが同発され話題を集めている。今回、編集部はミュージックカセットの製作現場を訪れる機会に恵まれた。取材に応じてくれたのは、東京電化(株)東松山工場の江幡昭さん。東京電化は1955年に発足、1971年にミュージックカセットの生産を始めた。現在、同社は日本のカセット市場の7割を占めている。
「ミュージックカセットは現在、演歌のシングル・カセットが主流なんです。A面に歌手本人の歌、B面にカラオケを収めるという形です。カセットはお目当ての箇所にテープを巻き戻したり、早送りを即座にするのに適しています。お年寄りは長年使っているラジカセのボタン操作にとても慣れているんです。カラオケの練習にCDは適さないようです」
江幡さんはかつて日本ビクターでミュージックカセットの製作に携わってきたが、現在は東京電化のカセットテープ製造室に勤務。カセット製造一筋という、30年以上のキャリアを持つベテランだ。
「レコード会社から送られてくるデジタルマスターをプレイバックし、カセットに相応しい音調整を施しMOディスクに音源をトランスファーします。レベルが低過ぎるとテープ独特のノイズが耳につき、逆に高過ぎると音が歪んでしまうので適正なレベルを見定めるんです。そのデータを64倍速のデュプリケーター(複製器)を駆使して、アナログテープに記録します。デュプリケーターはA/B面の4トラックを同時記録するので、60分の尺なら約30秒でダビングは完了します。そして、そのアナログテープを専用機材を用いて、空のカセットに巻き付けるんです」
このように工程だけ記すと、流れ作業のように思われるかも知れないが、そこには長年培われてきた経験とノウハウが存分に活かされている。
江幡さんはこうして出来上がったサンプルの仕上がりを試聴室で確認される。下の【制作工程5】で紹介する試聴室でサンプル・カセットを聴きながら、音飛びがないか、ノイズが混入していないか、さらに音のバランスが作品に即しているのかなどを改めてチェック。同時にレコード会社のディレクターにサンプルを送付し、仕上がりを確認してもらうという。この辺りの作業は、CDマスタリングやアナログ・カッティングの工程と何ら変わらない。
「納品されるマスターはアナログテープの時代から始まり、シブサン(3/4インチ)テープ、DAT時代を経て、現在はCD-DA、DDPファイルが主流になりました」
▲制作工程1:マスターテープをプレイバックし、ミュージックカセットに相応しい音調整をここで施す。モニタースピーカーはビクターSX-500 Spirit。コンソールはビクター時代から継承して使用している
ウーレイのモニターでサンプルが出来上がったばかりのはっぴいえんどの『風街ろまん』を聴かせてもらった。カセットは長年親しんできたアナログ盤やCD、さらにハイレゾ音源とも肌合いが異なる中域重視の音で、鈴木茂のギターのカッティング音に独特のサスティーンが掛かったように聴こえる。このギターの音色は気持ちがよく、いつまでも聴いていたくなる。バッキングと歌の位置関係がCDとはやや異なり、奥行きよりも左右の広がりを強く感じさせる。
本ページ下に発売タイトルを記載したURCレーベルのミュージックカセットは通販などで購入可能。リアル店舗ではCDショップの他、関東近郊では東京・中目黒にあるテープ専門ショップ「waltz」でも販売されている。
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ポニーキャニオンURCレーベル復刻全12タイトル
ミュージックカセット各¥2,000
LP各¥3,700
公式HP:https://urclpct.ponycanyon.co.jp/
2017年7月19日発売
はっぴいえんど『はっぴいえんど』
はっぴいえんど『風街ろまん』
2017年9月20日発売
加川良『教訓』
西岡たかし・木田高介・斉藤哲夫『溶け出したガラス箱』
2017年11月15日発売
遠藤賢司『niyago』
柳田ヒロ『HIRO』
2018年1月17日発売
斉藤哲夫『君は英雄なんかじゃない』
休みの国『休みの国』
2018年3月21日発売
高田渡『汽車が田舎を通るそのとき』
ザ・ディランII『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』
2018年5月16日発売
早川義夫『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』
三上寛『BANG !』
ミュージックカセットのマスターはCD-DAを採用。同時発売となるアナログLPは7月19日発売の2タイトルを除き、すべてJVCケンウッドの名手・小鐵徹さんがカッティングを手掛ける。オリジナルアナログマスターテープからアーカイブされた96kHz/24ビット・マスターを採用。プレスは全タイトルが東洋化成で執り行なわれる
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