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【社説】

空母保有検討 専守防衛が変質する

 防衛省・自衛隊が「航空母艦」保有の検討に入った。あくまで離島防衛を目的としているが、自衛のための必要最小限度の範囲を超える恐れは否定できない。「専守防衛」政策の変質は許されない。

 戦力不保持を掲げる憲法九条の下でも、自衛目的さえ掲げれば、どんな装備でも保有できるわけではあるまい。防衛省は海上自衛隊のヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」を改修し、最新鋭戦闘機F35Bが発着できるようにする検討に入ったという。いわゆる航空母艦(空母)化である。

 歴代内閣は大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機などと同様、「攻撃型空母」の保有は許されないとの政府見解を堅持してきた。「性能上専ら相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる攻撃的兵器を有することは、自衛のための必要最小限度の範囲を超える」ためである。

 防衛省は改修後のいずもを「防御型空母」と位置付け、沖縄県・尖閣諸島などを念頭に離島防衛や上陸作戦に活用するという。しかし、これは詭弁(きべん)ではないのか。

 米軍の例を引くまでもなく、空母は打撃力を有する攻撃的兵器である。攻撃的兵器と防御的兵器の区別が困難であることは、政府自身が認めている。いくら防御型と言い募っても、攻撃型の性能を有することは否定できない。

 専守防衛を掲げながらも、北朝鮮や中国の脅威を理由に、その中身を大きく変質させてきたのが安倍内閣の実態だ。

 さかのぼれば歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を一内閣の判断で変更した集団的自衛権の行使容認であり、最近では二〇一八年度予算案に関連経費を計上した、敵基地攻撃能力につながる長距離巡航ミサイルの導入計画である。

 そして空母の保有検討だ。専守防衛をどこまで骨抜きにすれば済むのか。それとも、そうした実態を先行させて、憲法九条改正につなげる思惑でもあるのだろうか。

 日本周辺の情勢変化に応じて防衛力を適切に整備することは必要だとしても、やみくもに防衛費を増やしたり、防衛装備を導入したりすればいいというわけではあるまい。

 憲法九条を持つ平和国家として専守防衛に徹し、節度ある防衛力整備に努め、他国に脅威を与える軍事大国にならないことが、戦後日本の国際社会への重要な貢献である。通常国会では、その原点を忘れることなく、安全保障をめぐる徹底的な論戦を期待したい。

 

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