【ソウル=鈴木壮太郎】韓国政府が打ち出したビットコインなど仮想通貨取引所の閉鎖方針に20~30歳代の投資家が猛反発している。若年層にとって仮想通貨は一獲千金を狙える「夢」だ。韓国政府は過熱する仮想通貨投機を抑えるために規制を強化する構えだが、予想以上の反発に頭を抱えている。
発端は11日、朴相基(パク・サンギ)法相が「仮想通貨取引所を通じた取引を禁止する法案を準備中で、取引所の閉鎖を目的にしている」と発言したことだ。
韓国政府は昨年12月、仮想通貨の取引を実名の口座でしか認めないといった規制を発表した。そこにも取引所閉鎖の「検討」は盛りこまれていた。11日は国税当局による仮想取引所大手ビットサムへの税務調査も重なり、投資家は政府が取引所の閉鎖へ本腰を入れたと受け止めた。
「庶民の夢をぶちこわすのか!」。大統領府ホームページの掲示板には政府の規制に反対する書き込みが殺到し、その数は11万人に達した。多くが20~30歳代の若い世代。市場も動揺し、取引所大手アップビットによると、11日のビットコイン価格は前日比で1割近く下落した。12日はいくぶん持ち直した。
「まだ省庁間で協議をしている段階だ」。金東兗(キム・ドンヨン)経済副首相兼企画財政相は12日、取引所閉鎖の政府方針を正式に決めたわけではないと釈明せざるを得なくなった。
若者が取引所の閉鎖に猛反発する背景には、社会の格差拡大がある。都心の不動産は急騰し、ソウルでは10億ウォン(約1億円)を超えるマンションはざらだ。高騰前に購入した中高年世代の資産価値が増える一方、若者層に持ち家は高根の花。「金のさじ」をくわえて生まれてきた富裕層と比べて卑下する「土のさじ」という流行語がすっかり定着した。
ソウル大の郭錦珠(クァク・グムジュ)教授は「土のさじから抜け出す突破口として注目が集まったのが仮想通貨取引だ」と分析する。韓国のビットコイン相場は米国などと比べて2割も高い。熱狂を支えるのが20~30歳代の投資家で、文在寅(ムン・ジェイン)政権の支持層とも重なる。
仮想通貨バブルがはじければ、韓国社会は不安定になる。韓国の取引所はセキュリティーが脆弱で、北朝鮮によるハッキングも続いた。規制強化は待ったなしだが、若年層に不人気な政策を強行すれば、支持率は低下しかねない。文政権は新たなジレンマを抱えた。