結成当初から「歌って踊る」ことを意識し続けてきた「ももいろクローバーZ」
はじめに
2017年 12月 31日、大晦。
ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)が、本家N◯K「紅白歌合戦」の裏で、彼女たちのカウントダウンコンサートである「ゆく桃くる桃」のテーマとして「第1回 ももいろ歌合戦」を開催し、その「やりかた」に賛否が分かれているという記事をちらほらと目にした。
私は、そのあたりの、演者以外の関係者やファンやアンチの、うやむやというのか、あてつけというのか、何事にも言い難い出来事に関しては何一つ言及するつもりもなければ、興味もない。
しかしながら、一つ気になって仕方のないことがあった。
それは、他の演者たちと比較して、明らかに主役である「ももクロ」の歌が「下手」に聴こえるという点だ。
もちろん、歌っているジャンルも違えば、ベテラン、大御所、様々なアーティストが集まったのだから、嫌が応にも歌唱力の比較をしてしまっているのかもしれない。
にしてもだ。
「あれ? いつも聴いているライブ音源と全然違って聴こえるぞ」
と思うことは、昨年のRockin Japan Fes などの映像でも感じたこと。
あまりにも安定しない歌声に、ファンである私ですら思わず嘲笑の笑みがこぼれてしまったほど、「下手」に聴こえたのは、残念ながら事実だ。
それでも私はももクロのファンである。
そう、
「このような弱点があるからこそ、考察のしがいがあるではないか」
と思っていた矢先、とても興味深い番組と出会った。
それは、
「ももクロのMTV Unpluggedを科学する」
という「BSスカパー」で放送されたドキュメント番組だ。
2018年1月27(土) 20:00〜21:00
に、スカパー「MTV」チャンネルにて放送される、ももクロが挑戦した「MTV Unplugged」のための前哨戦的特別番組が、今回ご紹介する
「ももクロのMTV Unpluggedを科学する」
というもので、大変興味深く、1度ならずと2度、3度と視聴させて頂いた。
そして同時に、私が抱いた
「なぜももクロは歌が下手に聴こえるのか」
という疑問の解決とともに、ももクロの「歌」の真髄が見えかかってきている。
(その真髄を最大限に味わうことができるのは、「MTV Unplugged」本放送視聴直後にあると期待している)
今回、前編・後編にわたり
ももクロの「歌」について
「ももクロのMTV Unpluggedを科学する」
を参考に、私なりのももいろクローバーZの「聴き方」を科学していく。
ももクロの「歌」第一印象
第一印象から「上手ではない」という直感が働いたのが本音だ。
歌唱力が突飛しているのが有安杏果であるのはすぐに察知できたが、彼女を前面に押し出すことなく、むしろ隅に追いやるようなパート編成に違和感を覚えたものだ。
百田夏菜子は何やらフニャフニャと自身なさそうに聴こえ、
玉井詩織は高音が伸びず平らな歌声、
佐々木彩夏は声量こそあるが、尖ったようなアイドル声、
高城れには透明感のある歌声が魅力的だが、リズムのずれが度々気になる。
唯一、歌唱力の高さを感じた有安杏果も、うまいがゆえのテクニックがあだになり、クセが強く感じることもある(しかし、アイドルとしては抜群の歌唱力の持ち主であることは間違いない)。
しかしながら、5人でユニゾンで歌い始めると、ピタッとした「不思議な調和」が生まれ、心地よい「音楽」となる。
この謎めいた彼女たち歌声、「不思議な調和」を体験したリスナーは多いことだろう。
こういった「謎」を見事に裏付けてくれたのが、
「ももクロのMTV Unpluggedを科学する」
だったのだ。
あなたは歌って踊れますか?
まず、ももクロがプライドを持っている点として、「歌って踊る」ということが1つあるらしい。
例えば、私も大好きなPerfumeなどは、ダンスは精密機械のように美しく正確なパフォーマンスが魅力的。しかし、ライブなどでもほとんどが口パクで、歌うことに関しては注視していないことがファン目線でも容易にわかる。振りは小さめだが、ヒールを履いてコンパクトに踊るすがたは神秘的ですらある。
逆にaikoやmiwaなどのシンガーソングライタータイプのアーティストは、歌うことに力を入れているといえる。他のことをしているとしても、ピアノやギターをかき鳴らすくらいで、大きく心拍数が上がるような動きをすることはないだろう。歌うことのプロと認められた人間が、声帯に全神経を注いでいるからこそ、歌がうまく聴こえるのは当然の結果である。
しかし、ももクロはそのどちらも全力でやろうとする。
つまり「歌」も「ダンス」も、一緒に、同じくらいの割合で力を入れる。
だからこそ、その日の会場や雰囲気などの環境因子によって、歌声にムラができやすいことも想像できる。
しかし、そのよくばり娘たちは、「歌って踊る」プライドを貫き通してきた結果、我々からすれば、今や歌もダンスも簡単にやってのけているようにみえてしまうのだ。
ももクロの身体能力
とはいうものの、彼女たちの昔の映像を見ると、肩を大きく揺らしたり、呼吸が乱れたりするシーンがよく見られる。
こういったまさに「全力少女」感が好きなファンも多いことだろうが(私は割とこの「全力少女」感を好き好んでいる)、近年の彼女たちは本当にさらりと歌い、踊っているようにみえる。
ももクロの基礎的な身体能力に関して「〜を科学する」の番組内でも、興味深い実験がいくつかあったので紹介する。
まずは「肺活量」の実験。
息を大きく吸って吐く「努力肺活量」と、ゆっくりと吸って吐く、通常の呼吸を測定する「肺活量」を5人のメンバーがそれぞれ測定した結果、なんと、全員が予測値以下。
ましてや、同世代の一般女性よりも低いという結果が出た。
そして、心拍数レベルの測定。
ライブリハーサル時に、心拍数を測るベルトを装着して、その動きをチェックするという実験。
この点で重要なのは、「リハーサル時で」というところで、多くの読者諸賢が想像できるように、動きや立ち位置の確認など、彼女たちはかなり脱力し、リラックスしたような様子が垣間見える。
安静時の心拍数が約60〜70として、有酸素運動に有効な数値が約110〜120。
ダンスはもちろん有酸素運動であるから、110〜120レベルで留まっていると思いきや、彼女たちは平均して140〜150の心拍数、「ランナーズハイ」の状態にまで至っているという。(目視ではあるが、高城れにや玉井詩織の数値は最高で170近くまで上昇、有安杏果や百田夏菜子は110くらいで保っている時間も長かった)
さらにすごいのは、回復力の早さであり、曲が終わり、MCなどに入ると驚異的な早さで心拍数が110程度まで落ちる。
個々の身体能力自体は高くないようだが、心拍数を急激にあげることによって「ランナーズハイ」状態となり、「さらにできる」「もっと歌える」「もっと踊れる」というポジティブな多幸感が生まれ、高レベルなパフォーマンスを披露できるのがももクロであると、番組内では結論づけていたように思える。
余談ではあるが、
彼女たちが1回のライブで消費するカロリーは「フルマラソン」に近いそうだ。
さらに、上述したような高心拍でのパフォーマンスは「ランナーズハイ」に近い効果を生んでいるという事実。
彼女たちをよく見ている人々が口をそろえるように言うことは、ももクロはいつだって「ポジティブ」であり、アイドルでありながら「よく食べる」ことである。
全力パフォーマンスから出るセロトニンなどの幸福感を生む脳内伝達物質が彼女たちの「ポジティブ」の根底、
そして1日の消費カロリーが非常に高いことは、「よく食べる」ことにもつながる。
さらにまた、非常に「おいしく食べること」(彼女たちは「食べる」ことだけでもお金が取れるレベルだと私は思っている)が「ポジティブ」 な要素をさらに生成し、それはもう螺旋状に、永遠に続いているようにさえ思える。
ポジティブな要素は、必ずしも歌うことに影響するとは言えない。
しかし、彼女たちの魅力である「笑顔」で幸せになる人々が多いことも事実。
もしかすると、彼女たちの魅力は、路上ライブ時代から今の今まで、全力でパフォーマンスしてきた結果、「気のつかない」レベル、小さな「見えない」ところで培われていたのかもしれない。
さらに、この「ポジティブ」さは歌にさえ乗り、5人で作り出すハーモニーは、私たちの耳に心地よく届いているのかもしれない。
限界ギリギリの振り付け
デビュー前、ももクロが路上ライブをしていた頃からの振り付け師、石川ゆみ氏の発言も大変興味深かった。
「ダンスのブレス(息継ぎ)と歌のブレスが合わないことに気がついたんですよね」
「自分も全力で踊りながら振りをつけるようになりました」
「歌(のブレス)が苦しいところは振りを小さくしたり、歌がいけそうならアグレッシブな振りにしたり……」
そして、石川ゆみ氏はこうも言った。
「だから、全力でやらないとパフォーマンスにならないですよね」
振り付けの細部までもがギリギリのレベル。
歌がうたえそうなら振り付けは大きく。
だから、彼女たちは曲の最中に、歌に踊りに、気をぬく瞬間がひとときもないのである。
「踊りながら歌っている」のではなく「踊らないと歌えない」のではないか?
ももクロは、特別なトレーニングこそしていないのに、アスリートレベルのパフォーマンスができるのは、
「毎日のパフォーマンスがトレーニングになっている」
と某大学のスポーチング学の教授が番組内でも話していた。
それにしても、簡単にやっているように見えるダンス。
しかし、毎日、毎回が限界突破、楽なステージなどきっとないのであろう。
今回はリハーサルでの心拍数の計測だったが、本来のライブステージでは、さらなる驚異的な数値が叩きだされそうでもある。
それは膨大なライブステージであったり、生バンドの演奏であったり、緊張感や雰囲気に飲み込まれてしまうことも有りうるだろう。
しかし、彼女たちの限界を超えてやろうとする「まだやれる」魂は、眼前に広がるペンライトやモノノフと呼ばれるファンたちの声援の力が非常に大きいだろう。
このような極限状態にいる彼女たちに笑顔が尽きないのは、「ランナーズハイ」からくる「セロトニン」や「βエンドルフィン」のせいなのか、はたまた天性の「楽天家」、「アイドルの性」、ともすれば単なる「呆阿」か「馬鹿」なのかはさっぱりわからないが、とにかく彼女たちは「歌って」「踊って」「笑顔が止まらない」のである。
しかしここまで読ませておいて、勘の鋭い読者諸賢はもうお気付きのことでありましょう。
「おい、てめえ、たまいびび! ダンスだとか踊りの話ばっかりじゃねーかよ! 歌の話をしろよ、歌の」
という罵声が、嗚呼、耳に心地よく聞こえてくるのであります。
そうですね、
これだけ読めば、
「歌が下手に聴こえるのは、『ダンスを全力で踊っているから』という言い訳にしかならない」
と結論づけてもおかしくはありません。
しかしですね、わたくしめ、美味しいものは後に食すタイプでございましてね。
「歌」に関するデータもきちんと番組内で放送されていましたので
(これが非常におもしろい)
次回
『ももクロの歌が「下手」に聴こえる人だけ読んでください 【後編】〜MTV Unpluggedを科学するにのせて〜』
にご期待ください。
もしかすると、ももクロは「踊れないと歌えない」グループなのかもしれません。
しかし、海外では「ボブ・ディラン」「ポール・マッカートニー」「ニルヴァーナ」「キッス」「ビョーク」「ケイティ・ペリー」、国内では「宇多田ヒカル」「平井堅」「布袋寅泰」「中島美嘉」などの「歌手」として大成功をおさめたレジェンド達のみが立つことが許される「MTV Unplugged」。
彼女たちのアドレナリンの出どころである、5色のペンライトも持ち込み禁止、コールと呼ばれる声援も控え、さらに彼女たちの楽曲の特徴でもあるアッパーなシンセや打ち込みなどもなく、「歌」を最大限に引き立たせるための、あくまでもシンプルなバンド構成……という「歌に実力がない」のなら圧倒的に不利な環境でのコンサートステージ。
歌に実力がなければ、立つことの許されないステージに、「ももいろクローバーZ」はなぜ立つことができたのか。
次回は彼女たちの「歌」を科学しながら、私も楽しみにしている本放送のステージの模様を待つことにしましょう。
今回は「ダンス編」でしたが、ここまで読んじゃった方は、「歌編」で決着がつきますので、是非とも最後までよろしくお願い致します。
それでは次回、後編でお会いしましょう。
そして、「MTV Unplugged」本放送の記事も予定していますので、「スカパー!」が視聴できる方はもちろん、できない方にもわかるように、仔細に準備してまいりますので、是非お楽しみに。