[ヨッピーレポート]賞金総額34億円!人類史上初の月面探査レースに挑む日本チーム「HAKUTO」に色々聞いてきた。

LINEで送る

01_1※こちらの記事は2017年12月に取材され、作成されたものです。2018年1月12日現在「期限内の打ち上げは難しい」という報道がなされていますが、チームHAKUTOは諦めずにチャレンジを続ける事を表明しております。HAKUTOプレスリリースはこちら


こんにちは。ヨッピーです。

突然ですが皆さんは「Google Lunar XPRIZE」という月面探査レースが開催されていること、そしてそのレースに日本チーム「HAKUTO」が出場している事をご存知でしょうか。
Google
がスポンサードし、XPRIZEによって運営されるこの世界初の月面探査レース。賞金総額が日本円にしてなんと34億円というとんでもない金額なのです。

要求されるミッションは、

2

※画像は au×HAKUTO MOON CHALLENGE より

以上の3つ!
これらを20183月の期限までに、最も早く達成したチームに賞金が贈られる!

3

そしてこの月面探査レースに、チーム日本として出場するのが「HAKUTO」なわけです!
ちなみに「HAKUTO」という名前は「白兎」つまり、ウサギが月に行くことをイメージして命名されているそうだ。ロマンチックやわぁ~!

レースの期限が20183月まで、つまりはあと3か月で決着が着くことが予想されており、チーム「HAKUTO」が開発した月面探査ローバー「SORATO」はこの記事が公開された現在、インドにあって宇宙空間への打ち上げを待機しているような状態であります。 

そこで本日はこの月面探査レースについて色々お伺いするべく、チーム「HAKUTO」さんの開発拠点にお邪魔しました!

4

じゃん!これが「HAKUTO」の開発拠点!
このフロア以外にもなんフロアか借りてゴリゴリ開発しているらしい。

5

拠点内にはクリーンルームがあって技術者の方が作業中であります。

yoppy_2_1あっ!

6

yoppy_2_1理系男子が大好きなキムワイプだ!

akimoto_ispace_1_1まあ、定番ですよね。みんなで愛用してます。(チーム「HAKUTO」を運営する ispace社 広報の秋元さん)

7

yoppy_2_1では早速なんですけど、今回の月面探査レースの意義なんかについて教えて頂ければ……

akimoto_ispace_1_1まず最初に、こういう賞レースがイノベーションを起こした歴史ってけっこうあるんですよ。例えば、リンドバーグが初めて、単独飛行による大西洋横断を果たしたのも賞レースがきっかけなんですね。それによって一気に航空産業が飛躍的に発展するようになります。

yoppy_2_1じゃあ今回のレースによって今度は月面探査が花開くんじゃないか、っていう。

akimoto_ispace_1_1そうなんです。このレースをきっかけに、月面探査や月の資源開発が今後どんどん進んでいくんじゃないでしょうか。Googleがスポンサードしているのもそういった今後の事を見据えての事だと思います。XPIRZE財団はこの月面探査レース以外にも深海の探査レースとか、医療やAIなんかもやってますから。

yoppy_2_1でもアポロ11号以来、月面に人が着陸したりしてないですよね。あれから50年も経ってるのに月面開発とかあんまり進んでるように見えないけどな……

akimoto_ispace_1_1うーん、これは私の予想ですけど、2030年には月面に人類が定住するようになってると思いますよ。

yoppy_2_1えーっ!ウソでしょ!?

akimoto_ispace_1_1いえ、さすがに一般の人が普通に月面に暮らす、なんてのはまだまだ先のことだとは思いますが、月を探査したり開発したりするとなると、人間がそこに住んでいる方が効率が良いので、南極の基地みたいに月面にベースを作ってそこに人類が定住して作業するような時代が来ると思います。

yoppy_2_1マジか……!でも、アポロから随分時間が経ってるのに、ここ最近になって『宇宙ビジネス』なんて言葉が流行りはじめてますよね。なんで急にそういう動きが出てきたんですかね?

akimoto_ispace_1_1そもそも、何故月なのか、と言いますと、地球から宇宙に飛び立つロケットを打ち出そうとするとめちゃくちゃお金がかかるんですよ。だいぶ安くなったとは言え、それでも1回打ち上げるのに60億円ぐらいするんですよね。それが月から打ち上げるとなるとコストが安くなって、例えば地球の静止軌道に荷物を持っていくとした場合、地球から打ち上げるよりも月から打ち上げたほうが100分の1くらい安くなります。

yoppy_2_1おお、重力が小さいから?

akimoto_ispace_1_1そうです。重力が小さいとそれだけ打ち上げコストが安く済むので、今後、月より遠い天体を目指して宇宙開発とか宇宙探査をやろうと思ったら、月に中継基地を作ってしまうのが地球から積んでいく燃料が少なくて済むので一番安上がりなんですよね。それに『どうも月に水があるらしい』という事もわかったんです。水さえあれば電気分解して液体酸素、液体水素というロケットの燃料になるものも月面で調達できるようになるので更にコストが安くなる、と。

akimoto_ispace_1_1結局、宇宙開発ってコストとの戦いなんです。アポロ計画って、何兆円っていうお金が動いたんですよ。そうなるともはや国とかそういうレベルじゃないとどうにもならない金額じゃないですか。でも、技術的なイノベーションが進んで、宇宙開発にかかるコストが劇的に減って、それで民間企業でも宇宙開発に乗り出せるようになりつつあるんです。だから『宇宙ビジネス』が盛り上がりつつある、と。この『民間主導』っていうのが大きいんですよ。

8

akimoto_ispace_1_1国が主体だと役割が限定されたり、予算が年度縛りで長期的なプランを立てられなかったりっていう課題があったりするのですが、今回の月面探査レースの条件に『民間の手による』というものがあって我々チームHAKUTOispaceという民間企業が母体になっているのでそういう問題が起こりづらいんですよ。 

yoppy_2_1でも、月面探査とかお金かかるでしょうし、国の支援なしに予算とかはどうしてるんですか? 

akimoto_ispace_1_1投資やスポンサーを集めたり、個人の寄付とかグッズ販売とかクラウドファンディングなどで集めてます。

yoppy_2_1ちなみに、チームHAKUTOが開発その他で必要な費用っておいくらくらい……?

akimoto_ispace_1_111億円くらいですね。

yoppy_2_1やっぱり宇宙はとんでもねーな…… 

※ちなみに、その後チーム「HAKUTO」擁するispace社が101.5億円の資金調達をしたそうです。やっぱり金額の桁がデカい。
→「月面探査スタートアップ、100億円超調達:日本経済新聞

9

そしてクリーンルーム内で作業する技術者の方。
チーム「HAKUTO」の技術者には20代後半から30代中盤の比較的若い人達が多いらしい。元々は東北大学の宇宙ロボティクス研究室の研究がベースになっているそうです。

yoppy_2_1なんていうか、皆さんたぶんめちゃめちゃかしこいんでしょうね……

akimoto_ispace_1_1我々の特徴として、『それは無理だよ』って言う人が全然居ないことが挙げられますね。ブレーキを踏まない人が多いと言いますか。『とりあえずやってみよう』という精神で色んな事にチャレンジしています。 

yoppy_2_1月面探査において技術的に難しいのってどういうポイントなんですか?

akimoto_ispace_1_1まず、月の表面って寒暖差がすごいんですね。大気が無いので、太陽光があたらない所はマイナス150度くらいなのに、太陽光があたる所は100度くらいまで上昇します。それによって起こり得る影響を抑えるとか、あとは放射線の問題やレゴリスっていう月の表面にある細かい粉塵による影響なんかも。ただし、50年前にアポロがやっていることなので技術的には可能なはずなんです。それより、お金と人をどう集めるのか、の方が難しいですね。

3

akimoto_ispace_1_1例えば、今回の月面探査ローバーの『SORATO』って重さが4kgしかないんですよ。重量が重くなると打ち上げコストもどんどん高くなるので、なるべく軽量化して、民生品を多用することでコストを減らすっていうミッションにチャレンジしてます。我々も、今後の事を見据えてちゃんとビジネスとして軌道に乗せる事を考えていますので、成功したけどお金がめちゃくちゃかかって全然採算取れてないよね、っていう結果だと意味がないんです。ちなみに34チームが当初参加を予定していたのですが、予算確保の問題が発生したり参加条件を満たさなかったりで最終的に残ったのは我々HAKUTOを含む5チームだけです。

10

akimoto_ispace_1_1スポンサーの所に名前がある通り、オフィシャルパートナーであるKDDIさんには月面との通信技術の部分でご協力頂いて、セメダインさんには寒暖差に強い接着剤を提供して頂いて、というように、日本企業各社にご協力頂いて月面探査ローバーを作っているんですね。細かい部品も、設計は我々がして日本の企業に発注をかけて作るんですが、皆さんすごく好意的にご協力頂いてまして。他の仕事があっても我々のお願いを優先して対応して頂いたりとか。

yoppy_2_1なるほど。協力している人達も気合いが入るんでしょうね。自分が作ったものが月に行く、ってなると技術者としては嬉しいだろうなぁ。

akimoto_ispace_1_1そうなんですよ。パートナー企業もそうですし、ご協力頂いてる会社もそうです。最近は何かと暗い話題が多いですし、なんとか優勝して日本企業の技術力の底力を見せつけたいですね。

yoppy_2_1なるほど!頑張ってください!

 

【パートナー企業がHAKUTOに託す夢とは】11

そんなわけで今度はチーム「HAKUTO」のオフィシャルパートナーであるKDDI宣伝部の馬場さんと、セメダインの秋本さんに色々とお話を聞いてみました!

yoppy_3_1ちなみに、それぞれパートナーシップっていくらなんですか?

baba_kddi_1_1それは……、言えません! 

akimoto_ceme_1_1ウチも言えないです(笑) 

yoppy_3_1チッ……!ではお金以外、どういった部分で『HAKUTO』に技術的な協力をしてらっしゃるんですか?

12

※画像は au×HAKUTO MOON CHALLENGE より

baba_kddi_1_1我々がご協力させて頂いたのは、『ランダー』と呼ばれる月面探査の母船になる機体と、実際に月面を走るローバー間の通信技術でして。

yoppy_3_1やっぱ難しいんですかね?

baba_kddi_1_1『コスト削減の為にも民生品(実験用・工業用の製品として開発された実績を有した機器)を使う』という前提なので電波自体は携帯電話等で皆さん日常的に使われているWi-Fiと同じ2.4GHzの周波数を使っています。ですが、いかんせん月面なのでレゴリスという細かい粉塵が舞っている事が予想されるので、それによって電波が乱反射するんじゃないか、とか。他にも月面がクレーターなどで予想以上にでこぼこしていたりしてSORATOが影に隠れちゃうんじゃ無いか、そのとき電波がどう飛ぶのかっていうのはデータが無いんですよね。通信が切れてしまうと何もできなくなるので、SORATOに搭載するアンテナを改良させてもらって、できる限り通信が届く様に改良しました。このあたりもシミュレーションしたり鳥取砂丘で模擬実験を共同で行ったりで。

yoppy_3_1なるほど。ローバーの操作で電波を飛ばす以外にも月面の画像をHDサイズで地球に送らなきゃいけないんですよね?

baba_kddi_1_1そうなんです。通信モジュールや仕様は相乗り相手であるTeamIndusと話して決めているのですが、やはり月面と地球の間では様々な制約から通信速度が非常に遅くなるんですよ。数kbps~百kbpsとかそれくらい。

yoppy_3_120年前のインターネットみたい。

baba_kddi_1_1その超低速度で効率的に画像を圧縮・伝送するためのノウハウを提供しています。また、いかんせん月面と地球の間の通信は距離が遠いので、恐らくデータがボロボロ欠落するんですね。その画像を復元するような技術のノウハウなんかも提供しております。

yoppy_3_1遅延とかもあるんですか?

baba_kddi_1_1そうですね。ローバーにも地球から月に向かって電波を飛ばして操縦するので、10秒以上の遅延が予想されております。

yoppy_3_1なるほど。電波くらいピューっと飛ばしてガーンとやればいいじゃん、とか思ってたんですが大変ですね……!

13

yoppy_3_1ちなみにセメダインさんは?

akimoto_ceme_1_1我々は接着剤の会社なのでやはり接着剤ですね。ソーラーパネルや基盤を接着する接着剤や、あとはレゴリス対策で基盤を樹脂でくるむコート剤なんかも。 

yoppy_3_1月ならではの難しさ、ってやっぱりあるんですか?

akimoto_ceme_1_1やっぱり寒暖差ですね。マイナス150度から100度まで変化するような場所は地球上にはないので。気温が100度ともなると、接着剤の成分が揮発して他の部品に付着して不具合を起こさないとも限らないので、弊社の市販品の接着剤の成分を調整してなるべく揮発する成分が少ないようなものにしたり。

yoppy_3_1なるほど……!

akimoto_ceme_1_1あとは紫外線ですね。地球上はオゾン層に包まれているので強い紫外線はそれほど地表に降ってきませんが、月面だと地球には来ないような非常に強い紫外線が降り注いでいるので、分子と分子の結合を切っちゃうんですよ。野外にプラスチック製品を長時間放置してると、バリバリに割れちゃったりするじゃないですか。あれをもっとひどくした状態になり得るんですね。その対策を施したりとか。

14

yoppy_3_1ちなみに、両者共にパートナーになることについてすごく社内調整が大変だったりしませんでした?

baba_kddi_1_1それが、意外とすんなり通ったと言いますか。

akimoto_ceme_1_1我々もそうですね。やっぱり、宇宙っていうのは技術者にとって永遠の憧れ、みたいな所はあるじゃないですか。私の部下がね、以前に『会社をやめたい』と言ってきたことがあるんですよ。色々説得したんですけど、なかなか意志が強くて辞めるって言って聞かない。その時に『じゃあ、面白いところに連れていってやるよ!』って言って、JAXAにお願いして施設を見学させて頂いたんですよ。やっぱり宇宙が身近にあるってすごいじゃないですか。僕も部下もそれですごく感動して。宇宙って、やっぱり良いよなぁ~って。結局辞めちゃいましたけど。

yoppy_3_1辞めたのかよ!

baba_kddi_1_1でも、宇宙に対するあこがれっていうのはやはりあると思います。弊社の技術者も、今回のプロジェクトについてはすごく楽しそうと言いますか、嬉しそうにやってますし。社内アンケートでも今回のプロジェクトの認知度や期待度がものすごく高いことがうかがえます。

yoppy_3_1まあ確かに、月に行く仕事に関われるっていうのは楽しいのかもしれない。あっ!わかった!あれじゃないですか。その、パートナーシップどうする、みたいな決済をするであろう、会社のえらいおじさん達がみんなアポロ世代だったりするんじゃないですか。だから素直に応援したくなったとか。

baba_kddi_1_1あー、確かにそれはあるかも知れませんね!小学生の頃に、白黒のテレビにかじりついて見ていた世代の人達なのかもしれません。

akimoto_ceme_1_1そうですね。やっぱり子供の頃に夢見てたものっていつまでも覚えてますしね。そういう『宇宙』とか『月面探査』っていうわかりやすさみたいなのは要因としてもあるでしょう。月に行く、ってすごくわかりやすいチャレンジですし。

yoppy_3_1ちなみに今後ビジネス的な展開ってどういうの考えてます?

akimoto_ceme_1_1うーん、正直に言うと我々はそれほど考えてるわけではないんですよね。『月でも使える接着剤!』みたいな売り出し方はあるかもしれませんが……

yoppy_3_1あ、じゃあKDDIさんのテレビCM、そのうち『三太郎が月に行く』みたいなバージョンが出るんじゃないですか。今回のチームHAKUTOに絡めて。

baba_kddi_1_1いや、それはちょっと……、どうでしょう……

yoppy_3_1じゃあいいですよ。僕が勝手に言うんで。かぐや姫が月に帰って、そこから地球に電話してくるみたいなパターン、あるなーきっと!

baba_kddi_1_1ノーコメントでお願いします!

 

【日本の科学技術はどうなる】15

yoppy_3_1今回、面白いのが賞レース方式なんですよね。国別対抗戦みたいになってる。

16

※画像は au×HAKUTO MOON CHALLENGE より

左から、

・日本チーム「HAKUTO」
・イスラエルチーム「SpaceIL」
・アメリカチーム「Moon Express」
・多国籍チーム「Synergy Moon」
・インドチーム「TeamIndus」

の順番。当初参加を予定していた34チームから生き残った5チームなのでいずれも精鋭と言える。その中でも「HAKUTO」は優勝候補の呼び声も高いんだそうだ。

akimoto_ceme_1_1まあ、パートナーだから言うわけでもないんですけど、頑張って欲しいですよね。純粋に。技術大国で売ってきた日本も、今はピンチじゃないですか。だんだん時代の流れに追いつけなくなってるんじゃないかっていう不安はやっぱり技術者としてもありますから。みんな『どうしよう。この先の時代を、どうやって戦おう』って不安の中でもがいてるんですよね。昔はメーカーさんが弊社に発注する時は『これこれこういうスペックの接着剤を持ってきてください』っていう感じだったのが、今は『こういう事したいので一緒にやりましょう』っていうのが増えてるんです。

yoppy_3_1なるほど。みんな模索してるんですかね。

akimoto_ceme_1_1そうそう。みんな霧の中に居るんですよ。そういうのをサーーッと晴らしてくれるのがブレイクスルーだったりするんですけど、そういうブレイクスルーって『とにかくやってみよう』の精神から生まれるものなんですよね。でも、その『とにかくやってみよう』みたいな精神も中国やインドの人達の方が強いんじゃないかって。だからこそ、このHAKUTOみたいなチャレンジをどんどんしていかなくちゃいけないんです。

yoppy_3_1『はやぶさ』の帰還なんかにも多くの技術者が勇気づけられたでしょうしね。

akimoto_ceme_1_1そう!やっぱり大切なのはそれぞれの『想い』ですよ!日本全体を勇気づけるためにも、HAKUTOには頑張って欲しいですね!

17

そんなわけで2007年にスタートした今回の月面探査レースもいよいよ大詰め。

実際の打ち上げ日はいまだ調整中だが、インド宇宙研究機関のロケットによって宇宙に飛び立つ「SORATO」はその月の軌道に乗って約一か月をかけて月に接近。月面にある「雨の海」への着陸を目指す。

世界中の少年少女に「夢」を見せるためにも、チームHAKUTOには頑張って欲しいぞ~~~! 


【取材協力】
HAKUTO
https://team-hakuto.jp/index.html

au×HAKUTO MOON CHALLENGE

https://au-hakuto.jp/


 

LINEで送る