こんにちは、東京ソバット団の本橋です!
今回は立ち食いそばではないんですが、ある貴重な麺の試食会に参加してきたので、その様子を番外編としてレポートします。
2017年12月16日、よく晴れた日に私がやってきたのは、四谷はしんみち通りにある「四谷 政吉」。
かなり攻めた限定そばを出すお店として、以前にも取材させていただいた名店ですね。
実は「四谷 政吉」で、あるラーメンの試食会が行われたのです。
そのラーメンがなんと、室町時代に食べられていたものを再現した、「日本最古のラーメン」。
日本で最初にラーメンを食べたのは、江戸時代の水戸藩主である水戸光圀、いわゆる水戸黄門だというのが定説だったんですが、なんとそれよりもかなり前に食べられていたことが判明。
今回はそれを再現したラーメンの試食会なのです。
なんでそば店でラーメン?
と不思議がる人もいると思いますが、実はその日本最古のラーメンの記述を文献から見つけたのが、この「四谷 政吉」の運営に関わっている、株式会社イナサワ商店の稲澤敏行会長なのです。
稲澤会長は、そば商品卸しのイナサワ商店を設立し、さまざまなそば店を支援したり、だったんそばを日本に初めて紹介するなど、長くそばに関わってきたそば界の巨人。
現在は一線から退いてはいますが、そばの素晴らしさを広めようと、まだ明らかになっていないそばの歴史などを日々、研究しているのです。
そんな稲澤会長が古い文献を調べていたところ見つけたのが、室町時代、京都にあった臨済宗のお寺、相国寺の僧侶が記した日記。
ここに「経帯麺」を客人にふるまったという記述があったのです。
「経帯麺」とは幅広のきしめんのような麺のこと。
そしてこの「経帯麺」のレシピが「居家必要事類」という、宋の時代の生活を記述した百科事典のような書籍に載っていて、その材料が現在の中華麺とほぼ同じものだったのです。
▲これが「居家必要事類」のコピー
黒く塗られたところに「経帯麺」の文字が確認できます。
そのレシピによると、「経帯麺」の原料は小麦粉に碱(げん/炭酸ソーダ)、そして塩と水。
碱とは、土壌から取られるアルカリ性の物質で、これがラーメンでいうかん水に当たるわけですね。
ちなみにかん水というのは、炭酸ナトリウムや炭酸カリウム、リン酸ニナトリウムを含むアルカリ性の食品添加物で、中華麺の独特なコシと香りのもとになっているのです。
つまり、アルカリ性の碱を使った「経帯麺」は、中華麺と同じようなコシや香りがあったはず。
そしてそれが室町時代に食べられていたのです!
「経帯麺」とはなにかを説明している稲澤会長。
御年79歳。若い!
稲澤会長は苦労して原料を手に入れ、「経帯麺」を再現。
2015年にブログで発表したのですが、そのときはあまり話題にならなかったんだとか。
しかし2017年の夏に新横浜ラーメン博物館が「経帯麺」をサイトで紹介すると一気に話題になり、メディアからの取材要請も舞い込むことに。
そこで「経帯麺」を食べてもらい、もっと麺文化に関心を持ってもらおうと、今回の試食会を開くことになったのです。
さてさて、稲澤会長の話は続いていますが、いよいよ参加者に再現された「日本最古の室町ラーメン」が配られました。
はいどうぞ!
日本最古のラーメンの味とは
これが室町ラーメンなわけですが、なんというか普通というか普通じゃないというか、まずは中身を説明しましょう。
麺は、小麦粉に水と塩、碱は手に入らないのでかん水を使い、一度打ってから寝かせてまた打つという、「居家必要事類」の作り方で製麺。
そしてスープのレシピは載っていなかったので、当時、よく使われていた食材で再現しております。
材料は動物性のダシは使わず、煮ぬき汁(かつおだし)、豆乳、甘酒、昆布だし、しいたけだし、生姜、にんにく、黒ごま、わけぎを使用。
当時は醤油がなかったので、大豆味噌を使用しています。
でもって、上に乗っているのは白玉粉を使ったお餅と。
で、肝心の味なんですが、
これがすごくおいしい!
塩を加えて二度打ちしているためか、麺はむっちりしていて歯応えが気持ちいい。
ラーメンというより、もちもちしたパスタのフェトチーネといった感じ。
そしてスープも動物性の食材を使わなくて物足りなく感じるかと思ったら、豆乳と甘酒がいい仕事をしているんでしょうか、しっかりしたコクがあるんですよ。
スープというよりねっとりしたタレといった感じで、麺によく絡むのもいい。
山椒をかけることをすすめられたんですが、これがまた味が引き締まっていいんですよね。
そしてお餅の中には甘辛く炊いた、しいたけとナス。
このお餅をスープにつけて食べると、またうまい。
いや、室町ラーメン、アリでしょう!
ちなみにセットで添えられたチャーハンは、ごはんと同量のそばの実で作られたチャーハン。
これがまたいい感じのパラパラ具合で、うまかったですよ。
実は麺を作るときに、「居家必要事類」にあったレシピと同量で作ったところ、しょっぱ苦い麺になってしまったらしく、この日はそれよりも半分の塩とかん水(濃度)で作ったらしいんですが、打ち方はほぼ同じ。
つまり室町時代の人たちも、ほぼこんな麺を食べていたということになります。
そう考えると、なかなか感慨深いですね。
つい夢中で食べちゃいました。
すみません。
さてさて、試食も済んだところで、あらためて稲澤会長にお話を聞いてみました。
苦心して再現した「経帯麺」
そばのルーツを調べるため、遠く中国やインドにまで取材に行っている稲澤会長。
碱が中国の内陸部で産出されることを知り、内モンゴル自治区に行った際に、マーケットなどで探したものの、さすがに今では売っていなかったそうです。
そのときに一緒に取材をしていた通訳の人に碱がどこで手に入るか聞いたところ、その人のおばあさんが碱を作っていることが判明。
そのガイドの方の手引で碱を入手でき、ようやく「経帯麺」を再現できたんだそうです。
ちなみに碱は温度差の激しいアルカリ土壌の土地で産出されるもの。
残念ながら日本国内では手に入らず、室町時代は中国から輸入した碱を使っていたため、当時の「経帯麺」はけっこうなごちそうだったようです。
しかしラーメンと聞くと中国、そばうどんと聞くと日本、なんてすぐ思っちゃいますが、なんというか、昔から日本人はいろいろなものを食べていたんですね。
室町時代は中国(明)との交易が盛んだったから、というのもあるかもしれませんが、いやはや室町時代、侮るべかからず。
そして日本最古の室町ラーメンも侮るべからず、です。
最後に、貴重なラーメンを再現していただいた「四谷 政吉」のスタッフの皆さんに、感謝を申し上げます。
ありがとうございます。そしてごちそうさまでした。
今後も「四谷 政吉」では、さまざまな試食会を開催していくらしいので、興味のある方はまめに「四谷 政吉」のサイトをチェックしてくださいね。
お店情報
四谷 政吉
住所:東京都新宿区四谷1-8 ヒロ四谷ビル 1F
電話番号:03-3357-0091
営業時間:月曜日〜金曜日 10:45〜21:00(夜メニューは16:00〜)
定休日:土曜日、日曜日、祝日
※この記事は2018年1月の情報です。
撮影:蘆田剛
メシ通編集部からお知らせ
2017年12月25日(月)、東京ソバット団さんの本が発売されました! 内容は、これまで『メシ通』で訪れた数々の名店の食レポ。あらたにコメントも加え、ステキな写真とともに構成されています。ぜひお手もとに1冊いかがでしょうか。
東京立ち食いそばジャーニー (行かないと人生損するレベルの名店20+α)
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