2017年の年末、中国社会では「キリスト対毛沢東」のバトルがあった。2期目を迎えた習近平政権が思想、言論の統制を強める中で、やり玉にあがったのがキリスト生誕を記念するクリスマスだった。
湖南省の地方政府はクリスマスを「精神のアヘン」と呼び、共産党員、幹部がクリスマスを祝うことを禁止。各地で商店に飾られたクリスマスツリーやサンタクロースを倒すなどの動きがあった。
一方で人々たちが崇拝したのが、クリスマスの翌12月26日に生まれた毛沢東だった。毛沢東の生誕の地、湖南省韶山では、数万人の毛沢東崇拝者がお祝いに駆けつけ、革命の赤い旗を振り、『東方紅』などの革命歌を歌い、毛沢東像にひれ伏して拝む数多くの「信者」の姿もあった。
だが毛沢東が権力を振るった1960~70年代は文化大革命(文革)のまっただ中にあり、「毛主席」は神格化された一方で、人々はあらゆる思想や行動の自由が奪われ、「階級闘争」による多くの犠牲者を出した時代だった。
そうした時代を背景に描いた映画『芳華』(英語題名は『YOUTH』)がこのほど公開され、12月15日の公開から2週間で興行収入が10億元を超えるなど、大ヒットしている。
中国映画にはよくあることだが、その時代の歴史的背景を知らないと映画の持つ意味が分からないことが多い。この映画の何が多くの中国の人々を惹きつけたのかを、中国のネットに現れた数多くの評論などを読み解きながら考えてみたい。
『芳華』の原作は厳歌苓、米国在住の女性作家、脚本家であり、映画化された『シュウシュウの季節』(1998年)、『妻への家路』(2014年)がそれぞれ日本でも公開された。
監督は今中国で最も売れっ子の1人、馮小剛(フォン・シャオカン)、北海道を舞台に理想の結婚相手を求める男女を描いた『非誠勿擾』(2008年、邦題は『狙った恋の落とし方。』)などで知られる。
映画の舞台となるのは1970年代から80年代にかけての人民解放軍の文工団(正式には「文芸工作団」)。前線の兵士を慰問したり、軍関係のイベントで音楽や踊りを披露したりする軍専属の芸能部隊だ。
映画に描かれた文化大革命中は、「現代革命京劇」「現代革命舞劇」と呼ばれる、中国共産党(実際には毛沢東夫人だった江青)が指定した政治宣伝目的の作品のみの上演が許された。
映画に出てくる『草原女民兵』や『紅色娘子軍』、『白毛女』などバレエを取り入れた作品だ。そして厳、馮のいずれもこの文工団出身で、作品には2人の青春時代への追憶が描かれている。
映画の前半は文工団に所属する劉峰という男性と何小萍という配属されたばかりの少女を中心とした青春ドラマだ。
「活雷鋒」(生きている雷鋒)というあだ名のある劉峰はまさに、模範兵士として政治的プロパガンダでもてはやされた「雷鋒」のように苦労を厭わず、仲間を思いやる文工団の中心的存在。
何小萍は実は父親が「反革命」として弾圧されるなど暗い過去を引きずっている。彼女にとっては、エリート階層出身の仲間によるいじめも受けつつも、「毎日シャワーを浴び」、宿舎と食事が与えられた文工団は夢のような場所だった。
若々しい少女らが白い素肌を露わにしながら革命バレエを踊り、プールで泳ぐ姿がまぶしく、過剰サービスとも言える画面もある。