アルツハイマー、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、認知症には様々な種類があります。その種類によって、原因や症状、改善策も異なります。認知症の種類別に症状を見ていきましょう。
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この記事の目次
認知症の主な原因
認知症にはいくつかの種類があります。原因はその種類によりさまざまですが、多くはアルツハイマー型やレビー小体型などのように、異常な蛋白質の産生や蓄積により脳細胞が死滅し、障害が起こることに起因しています。
アルツハイマー型認知症
認知症の割合として最も多いアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβというたんぱく質がたまり正常な神経細胞が壊れ、脳萎縮が起こることが原因と言われています。しかしながら、アミロイドβが蓄積する原因については明確なことは分かっていません。アルツハイマー、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、認知症には様々な種類があります。その種類によって、原因や症状、改善策も異なります。認知症の種類別に症状を見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症の発症にはこれまで加齢や遺伝が関係するということは明らかになっていましたが、それに加えて近年、糖尿病や高血圧などの方はそうでない方よりもアルツハイマー型認知症になりやすいことが科学的に証明されました。そのため、予防には生活習慣の改善が重要であるとされています
アルツハイマー型認知症の症状について
初期 期間2~6年間
・記憶することが難しくなるため、「忘れていること自体を忘れる」ようになります。食べた夕食の内容を忘れているのではなく、夕食を食べたこと自体を覚えていないといった症状が見られます。
「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違いとは?【ユッキー先生の認知症コラム】正常(生理的)の物忘れ、認知症の物忘れ
中期 期間2~3年間
・段々と現在と過去の区別がつかなくなります。近い時期の記憶からなくなっていき、過去の記憶は比較的残りやすいです。結果としておこる症状として代表的なものが徘徊症状です。
例:過去の記憶通り朝に出社しようと家を出て、もともとの目的を忘れてしまい外で混乱してしまう。
・尿意や便意が分からず、失禁が目立ちます。
記憶障害はどのように進行していくのか認知症による徘徊の原因と対応はこちら
後期
・脳萎縮がさらに進行して、言葉の数も意味も失われていき、やがては話が通じなくなります。
・食事に集中できないため介助が必要になり、歩行が緩慢となり姿勢が前倒したり、左右どちらかに傾いていたりします。
・やがて寝たきりになり、上下肢の関節が拘縮、嚥下障害も出て栄養不良と誤嚥性肺炎が起こりやすくなります。
アルツハイマー型認知症についてもっと詳しく知りたい方はこちら
脳血管性認知症
アルツハイマー型についで多く、認知症の約20%程度を占める脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血など、脳の血管障害によって起こる認知症のことです。脳の血管が詰まっている梗塞巣が増えたり大きくなったりするごとに、徐々に脳の機能が低下することで認知症や運動障害が引き起こされます。
原因となる血管障害は生活習慣病が原因で引き起こされます。そのため高血圧・高脂血症・糖尿病などにならないようにする事が脳血管性認知症の予防に繋がります。生活習慣の改善が重要です。また、脳血管性認知症の原因となる脳血管障害を早期に治療してリハビリを行えば、症状の進行を抑えることも出来ます。
脳血管性認知症の症状について
初期の症状
・意欲低下や自発性低下、夜間の不眠や不穏が目立ちます。どれも症状の変動が激しいことが多いです。また影響を受ける脳の部位が限られており、できることとできないことがはっきりしていることが特徴です。
・非常に小さな脳梗塞や脳出血が起こった場合には、自覚症状がなかったり、感じてもふらつきやめまい程度であまり気がつかないことがあります。
中期以降の症状
・脳血管性認知症は脳血管疾患が原因なので、発作が起こる度に症状が段階的に重くなります。
・ダメージを受けた脳の部位によって出る認知症の症状が異なるため、判断力は保たれているという脳血管性認知症について詳細はこちら
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、レビー小体というたんぱく質が脳にたまることで起こる脳の萎縮が原因だと言われています。
このたんぱく質はパーキンソン病の原因にもなるやっかいな存在で、認知症を伴うパーキンソン病と言われる症状は、実はこのレビー小体型認知症だということも最近分かってきました。しかしながら、なぜ異常なたんぱく質がたまるのかはまだ解明されていないのが現状です。
レビー小体型認知症の症状について
・体の動きが緩慢になるパーキンソン病に似た症状で、歩行障害や体の硬さをともなうため、転倒しやすくなります。
・幻視として、色がついた鮮明な人・動物・虫などが昼夜問わず出現したり、映像に加えて幻聴も発生したりします。睡眠時に夢にあわせて踊ったり、手足を動かしたり、歩いたりといった症状もあります。
・認知機能障害も変動しやすく、良いときは話が通じるが、悪くなると話も周りのこともわからなくなります。気分や態度、行動がころころ変わります。
レビー小体型認知症について詳細はこちら【樋口直美さんインタビュー】 レビー小体型認知症は認知症というより意識の障害【ユッキー先生の認知症コラム】レビー小体型認知症を理解しよう
前頭側頭型認知症
多くは初老期に発症します。原因はわかっていませんが、今のところ、ピック球という異常構造物が神経細胞にたまる場合と、TDP-43というたんぱくがたまる場合が発見されています。そのため一つの病気というよりも、いくつかの病気に分かれていると考えられています。10年以上かけてゆっくり進行することが多いです。
前頭側頭型認知症の症状について
・人格や性格が極端に変わる、清潔保持・衛生面が管理できない、柔軟な思考ができない、反社会的な行動が増えるなど性格の変化。
・毎日同じ時間に同じコースを同じパターンで、天候に関わらず繰り返し歩くなど、決まった時間に同じ行動を繰り返さないと不機嫌になる。
・「車が通る」という言葉をその場に関係なく言い続けるなど、状況と関係ない言葉が繰り返し出てくる。
・「電話」の事を質問してもわからないが、その「電話」を見て何をするものかはわかるなど、物の名前が意味する事がわからなくなる。言葉がだんだん出なくなるなど。
前頭側頭型認知症について詳細はこちら【ユッキー先生の認知症コラム】前頭側頭型認知症の早期発見と症状
認知症に似た症状を有する病気
以下の疾患は、認知症に似た症状が出現する病気です。原疾患に基づいた治療を受ける必要があるので、専門的な病院にかかる必要があります。
正常圧水頭症
発症する年代
60~70歳代に発症しやすいです。
原因
水頭症とは、脳や脊髄を流れている髄液が溜まり、脳を圧迫してしまう病気です。水頭症が起こる原因として、クモ膜下出血や頭部外傷、髄膜炎を起こした後に起こる人や、原因不明の人もいます。
症状
特徴的な症状は、歩行障害、認知機能障害、尿失禁です。初期の症状としてゆっくりと歩く、すくみ足などが出現します。その後進行すると、物忘れや無関心といった認知機能障害がみられます。その後、起き上がれなくなり、排尿のコントロールがつかなくなります。
CTやMRI、腰椎穿刺の検査で診断されます。
治療
水頭症シャント手術を行います。これには大まかに二つの方法があり、全身麻酔で行う脳室―腹腔(V-P)シャント手術と腰椎麻酔で行う腰椎―腹腔(L-P)シャント手術です。脳に溜まった髄液を流す手術です。
シャント術を行うと、症状が改善されるため、治癒可能な病気といえます。
大事なこと
治療可能な認知症です。 思い当たる症状がある方は、まず脳外科を受診してみましょう。【張 家正先生インタビュー】認知症だからとあきらめるその前に…治療で改善できる認知症iNPH
アルコール認知症
アルコールを長期間多量に摂取していると、ビタミンB1が欠乏します。その結果、脳でのエネルギー代謝が壊れてしまい、脳障害を起こします。 急性期の症状をウェルニッケ脳症、慢性期の症状をコルサコフ症候群といいます。
ウェルニッケ脳症の症状は、意識障害、歩行障害、眼振がみられます。コルサコフ症候群では、脳の萎縮により、記名力障害、見当識障害、作話がみられます。
大脳皮質基底核変性症
発症する年代
40歳代から80歳代にわたりますが、ピークは60歳代です。
原因
前頭葉と頭頂葉の神経細胞が死んでいき、強い萎縮が認められます。神経細胞は死んでしまうと元に戻すことはできません。なぜこのような変化が起こるかは解明されていないのが現状です。
症状
主に以下のような症状がみられます。ただし、すべての症状が発症するわけではありません。
① 固縮:筋肉が固くなり、手足が動かしにくくなる。
② 振戦:手や指の震えがみられる。
③ ジストニア:持続的に手足に力が入ってしまい、異常な姿勢がみられる。
④ ミオクローヌス:不規則に衝動的に動く。
⑤ 失行:今まで行っていた行動や動作がわからなくなったり、思うように行えなくなる。
⑥ 失語:言葉が思うように出なくなる。
⑦ 半側空間無視:空間や自分の身体の半分しか認識できない。
⑧ 他人の手兆候:自分の意思とは関係なく、手が勝手に動いてしまう。
⑨ 把握反射:手に触れたものをつかむ。
⑩ 歩行障害:足が出ずらくなったり、転びやすくなる。
⑪ 認知症症状:もともと認知症症状があったものの、気づかないうちに、この病気にかかる場合もある。
⑫ 嚥下障害:飲み込みが悪くなり、誤嚥することもある。
予後
症状を緩和するための薬物療法や、運動機能を維持するためにリハビリテーションを行うことが重要です。
日常生活を送る上で、歩行障害により転倒し、骨折などを起こす場合もあります。転倒の予防に努め、手すりや段差のない環境を整えることが大切です。半側空間無視がみられる場合は、家具の配置を工夫したり、ご家族が声をかけて安全に配慮できるようにしましょう。
誤嚥により肺炎を起こしてしまうと、口から食事を取ることが難しくなります。
骨折や肺炎といった合併症を起こすと、それまでのような生活が送れなくなる場合もあります。
現在、根本的な治療はありませんが、上記のことを気をつけながら日常生活を送ることが大切です。
クロイツフェルド・ヤコブ病(プリオン病)
発症する年代
50~60歳の初老期に起こりやすいとされており、女性の方がやや多いといわれています。
原因
正常なプリオン蛋白が、何らかの原因で感染性をもつ異常プリオン蛋白になり、脳に沈着します。感染経路は明らかになっていません。 脳の萎縮が急激に進み、海綿状変化が見られます。
分類
弧発性クロイツフェルト-ヤコブ病が約80%を占め、発症の原因は不明です。その他に遺伝性が15%、感染性が5%です。BSE感染牛の摂取によるものは感染症に含まれます。
症状
初期症状として、性格の変化、健忘症、抑うつ、視覚異常(物がゆがんで見えるなど)、歩行障害が出現します。
進行すると、急速に認知機能が低下し、記憶障害、言葉が出にくくなる、四肢のミオクローヌス(不規則に衝動的に動く)、無動性無言、寝たきりの状態となります。
予後
他の疾患に比べて、進行が早いことが特徴です。有効な治療方法はないのが現状です。
ハンチントン病
発症する年代
平均は30歳代ですが幼児期から老年期まで発症します。男女差はないといわれています。
原因
遺伝性の疾患です。遺伝子に通常ではみられない変化が起こることで発症するといわれています。
症状
初期の症状として、細やかな動きがしにくくなったり、落ち着きがなくなったりします。
進行してくると、自分の意思とは無関係な動き(不随意運動)や、怒りやすくなる、幻覚、集中力の低下などが起こります。うつ状態が強くなる人もいます。記憶障害もみられますが、比較的軽く性格の変化や感情のコントロールがうまくできない場合が多いです。
末期には、無言無動状態となり、寝たきりとなります。
予後
発症後、症状が進行するのに10年前後かかるといわれています。
症状に合わせた薬を使用して緩和する対症療法を行いますが、まだ根本的な治療方法はないのが現状です。
遺伝性疾患の為、患者さんの家族も精神心的不安が生じます。将来発症する不安を抱え、人生設計への不安も抱える為病気の正しい理解と精神ケアも大切です。
進行性核上性麻痺
発症する年代
40代以降、60代に多く発症します。男女比は男性のほうが多いといわれています。
原因
脳の神経細胞が減少し、死滅します。
症状
最初に気づく症状として、「転びやすい」ことが挙げられます。転倒を繰り返すとともに、とっさに手が出ないことから顔面や頭部にけがを負ってしまう場合もあります。足がすくんでしまう「すくみ足」や歩いているうちにだんだんスピードが速くなる「加速歩行」もみられます。
また、眼球運動障害がみられます。眼球の運動がしにくくなることから、下を見ることが難しくなります。そのため、よりいっそう転倒しやすい状態となります。
その他、ろれつが回らないと感じる構音障害や、飲み込みにくくなる嚥下障害がみられます。 認知症状がみられますが、前頭葉の障害によるものであるため、情動の変化がみられます。例えば、反応が遅くなったり、無関心などが起こる場合があります。
予後
転びやすいため、骨折などの二次的障害を引き起こし、4~5年で寝たきりになる人が多いといわれています。 寝たきりを防ぐために、転倒予防が重要です。バリアフリーや手すりを工夫し、生活環境を整えましょう。
また、嚥下障害による誤嚥が起こりやすくなります。食べ物が気管に入ると、肺炎を引き起こしやすくなるため、食事の形態をとろみをつけたり、食べやすい大きさにすることも大切です。
バランスを崩しやすいので 見守りが大事です。 下が見えなくなるので、食事などは目線よりも上において視界に入るよう工夫しましょう。
まだ根本的な治療法はありませんが、日常生活に工夫を取り入れて環境を整えることが重要です。
身体疾患に伴う認知症
身体の様々な内臓疾患が直接・間接に脳に影響を及ぼし、認知症を引き起こすことがあります。例えば、肝硬変では血液中にアンモニアが増え、これが脳を破壊し認知症を生じさせます。
また、甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節する役割があり、このホルモンが不足すると、脳の代謝も低下し認知症を呈してきます。その他にも、重い貧血や心疾患、肺疾患等でも認知症を起こすことがあります。