小島慶子さんが大変いいことを書いておられました。
#MeToo は男性排斥運動でもなければ、女性だけのものでもありません。力の差を利用して口を塞ぐものへのNOであり、苦しい思いを口に出せず、理不尽な目にあっても泣き寝入りするしかない世の中へのNOです。
www.buzzfeed.com
つまりはあなたがこれまでに受けたあらゆる支配や暴力へのNOでもあるのです。
男らしさの押し付けだって、長時間労働だって、パワハラだって、みんな#MeTooと根っこはつながっています。
もしもあなたが男性で「女ばかりが被害者ヅラか」と思うなら、暴力の連鎖の果てで声をあげた女性を責めるのではなく、自分を痛めつけたのは誰かを思い出してほしい。それを生み出した構造を疑ってほしいです。
実にすばらしい。根源的な原因はマチズモ。そのとおり。あなたがもし未読なら是非読むべき。
でも、この「マチズモと戦うために男性も #MeToo とつながろう」みたいなの、やめてほしいです。
ずるいと思います。
以下、論拠。
「キモくて金のないオッサン」問題
Googleトレンドで「弱者男性」を調べると2015年5~6月にバズっているのがわかります。
"弱者男性" - Google トレンド
きっかけになったのは、コレです。
togetter.com
やはりGoogleトレンドで調べるとこの記事以降に使われるようになった言葉であることがわかります。
"キモくて金のないオッサン" - Google トレンド
個人的に、この時期に書かれたはてなダイアリーの記事でとても印象深かったものがあります。
font-daさんのこれです。
b.hatena.ne.jp
*1
font-daさんはこの記事でこう書いています。
私がざっと見たところ、かれらの主張を要約するとこうである。
かつて男女差別が苛烈であったころは、女性は圧倒的な社会的弱者であった。しかし、フェミニズムの台頭で社会は変革され、男性以上に賃金を稼ぐ女性もいる。だから、フェミニズムは女性ばかりを救済するのではなく、稼ぎの少ない「弱者男性」を救うべきだ。稼ぎの多いフェミニストは、「弱者男性」と結婚しなければならない。
font-daさんにどういう意図があったのか不明ですが、font-daさんが「かれらの主張」としてリンクして挙げたのは次の記事です。
一部引用します。
本質的にフェミニストは、弱者男性とジェンダー的な部分で共闘できると思うし、理念的にも共闘する義務があると思う。少なくとも建前上は、フェミニズムはそうして民意を獲得してきた歴史があるわけだし。(少し前に炎上したエマ・ワトソンのスピーチでもそうした趣旨のことが言われている http://logmi.jp/23710)
anond.hatelabo.jp
フェミニストが弱者男性から敵視されるのは、建前上はジェンダーフリーを唱えつつ、その実、男性のジェンダー不平等を無視し、女性側のジェンダー不平等ばかりを取り上げることにあると思う。
少なくともこの増田の本文中には「結婚」という単語さえ出てきません(「性愛」という単語はある)。
font-daさんにどういう意図があったのか不明ですが、このころ以後『フェミニストは「キモくて金のないオッサン」と結婚するべきだ』という言説が見られるようになりました。
「キモくて金のないオッサン」側からの要求としてまれにそのような言説がされることもありましたが、主観的には「フェミニスト」側からの「的」として使われることが多いように思います。まあ、ほんとにそう主張してる頭おかしい奴も実際にいるんで「的」にされるのは仕方ないと思いますが。
いずれにせよ、まあ、なんというか、これに関してはまともな議論はできない環境になりました。誰かが意図的に断絶を生もうとしてるんじゃないか、などと陰謀論を唱えたくなる気分です。「ガチで議論してたらこうなった」なんて現実よりそっちの方がまだ気が楽です。
フェミニストは女性救済を優先する
前掲のfont-daさんの記事を引用します。
フェミニズムは女性の自助的なつながりから始まった。だから、運動の筋から言っても、仮に救済に優先順位をつけるならば、「賃金を稼げない女性」が最優先ではないか。
ごもっともだと思います。
フェミニストはみなさん意見が違うのでややこしいですが、このご意見に同意するフェミニストは多数派なのではないでしょうか。
フェミニストは女性の救済を優先する。2人の困った男女がいて1人助けるリソースがあるなら女性を助けるのがフェミニズム。
当然です。よろしいんじゃないでしょうか。
しかし。
それならばですよ。
100人の困った女性と1人の困った男性がいて、100人助けるリソースがあるなら……?
一部のフェミニストの方は(そして一部のリベラルも)こういう極端な条件での思考実験を嫌う印象があります。身体性を重んじるのはフェミニズムの長所だと思うので、それはそれでいいことだと思います。
#MeToo は本当に男性を救う気があるか
もう何を言いたいのか分かったと思うんですが。
#MeToo につながったとしても、結局のところ男性を救うのは男性なんです。リソースが余ったら助けてくれることもあるかもしれないが、女性や女性を支援している人たちに期待しちゃいけない。
当たり前です、女性のセクハラ告発運動なんだから、あくまでも女性救済を目的としてコミットしましょう。
これは正しい。
疑う余地もなく正しい。
でも「だからパワハラを受けている男性も声を挙げてください。支援します」とはどこにも書いてないです。
勘違いするなよ男性諸君。
特にリベラルの君。
彼女の思わせぶりな態度にマジになっちゃ駄目だ。
「あ、もしかして僕のこと……」と本気になったら、行き着く先はセクハラやストーカーだぜ?*2
ただ、まあ。
BuzzFeed の #MeToo カテゴリには男性への性的暴力の記事もひとつあります。
www.buzzfeed.com
*3
だから、全然脈なしというわけではないでしょう。
きっと、#MeToo や小島さんは天然で思わせぶりな態度を取っているだけなんです。ナチュラルにダメ男製造機的発言をしているだけで、自分たちの活動がめぐりめぐって男性をも救うと本気で考えているのでしょう。
なので、きちんと数とリソースをそろえて本気で #MeToo に男性救済目的でコミットするのもアリかと思います。
そうすれば、嫌がらせやあてつけと見なされたり、迷惑がられるということもないでしょう。たぶん。*4
私はやらないけど。
蛇足
そういうわけで、フェミニズムに頼れない以上、リベラルがちゃんとアンチマチズモやらないと終わっちゃうからさ、みんなそろそろちゃんとしようぜ。パターナリズムを避け弱者を助けマチズモを退けるの、矛盾だらけでほんと大変だと思うけど。
*1:以前、IDコールをしない約束をしたので、ブコメにリンク失礼。
*2:ネタです。
*3:https://www.buzzfeed.com/jp/kazukiwatanabe/20170616-2 https://www.buzzfeed.com/jp/yuikashima/boys-molester もあるが、以前の記事をカテゴリに加えたもののようだ
*4:ほんとこの断絶作ったやつ誰なんだよ