旧日本軍慰安婦問題をめぐる2015年の韓日合意に基づいて日本が拠出した10億円が、韓日間の新たな火種になっている。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と外交部(省に相当)の康京和(カン・ギョンファ)長官は8-9日に記者会見を開き「合意破棄や再交渉は求めないが、10億円を韓国政府の予算で充当する」と表明した。日本が拠出した10億円を、韓国の予算を10億円で置き換えるというわけだ。「日本からもらったカネは1円たりとも使わない」という意志を強調したのだ。しかし日本側は「慰安婦合意に反する」として強く反発している。韓日が10億円をめぐって対立し「ソウルでも東京でもなく玄界灘上空に10億円が浮いている」などという声も出ている。
■韓国政府、日本拠出の10億円を自国の予算で充当
韓国政府は、日本が拠出した10億円を基に、16年7月に「和解・癒やし財団」を設立し、慰安婦被害者に対する支援事業を進めてきた。当時、生存する元慰安婦47人のうち36人が現金の受け取りを表明した。4億円がすでに使われ、現時点で約6億円が残っている。10億円を受け取ったことについて、被害者支援団体などからは「日本に免罪符を与えた」と批判が出ていた。
文大統領は9日「慰安婦被害者への支援は韓国政府予算で行う。すでに支払った分も政府の予算から充当する」と表明した。そして「日本が拠出した金で支援が行われているという事実をおばあさんたちが受け入れられずにいる」とも述べた。財団の基金10億円は韓国政府が出したものと見なし、今後は別途10億円を造成し、これを日本の拠出金として処理するというわけだ。
このような措置は、法的解決策ではなく韓国政府の「政治的宣言」の意味合いが大きい。ある外交筋は「国民感情と韓日関係の板挟みになった韓国政府が、苦肉の策として打ち出した方法だ」と述べた。韓国政府は、外交部の慰安婦合意検証タスクフォースを通じて「合意は問題だらけ」と批判した。そのため日本が拠出した10億円をこれまで通り使うわけにはいかなくなった。しかし、だからといって日本に返還するのも困難だ。仮に返還しても日本は受け取らないだろうが、返還という話自体が「合意破棄」と見なされる可能性もある。最悪の場合、韓日関係が破綻しかねない。
■10億円問題、宙に浮いたまま長期化か
韓国政府は10億円の処理について日本と協議する方針だ。外交部の魯圭悳(ノ・ギュドク)報道官は11日「日本側が韓国政府の立場を十分に理解し、これに積極的に呼応してくれると期待している」と述べた。しかし期待に反して10億円が韓日間の火種として漂流する可能性が高い。日本が10億円返還や協議の提案に応じる可能性は極めて低いからだ。
10億円は慰安婦合意の柱の一つだった。金額の問題ではなく、日本が「政府の予算」から拠出したということに意味がある。韓国政府はこれまで、日本が10億円を民間の基金ではなく政府予算から拠出し首相が謝罪したことについて「法的責任を認めたのに等しい」としてきた。日本も、10億円の拠出によって慰安婦問題が完全に解決したとの立場を貫いている。
日本政府とメディアは「日本側は合意に基づいて義務を忠実に履行したのに、韓国が言い分を変えて合意を破ろうとしている」と批判している。韓国政府はひとまず10億円の予算を編成して「休眠基金」として凍結し、時間をかけて解決策を模索する可能性が高い。