ITエンジニア採用に欠かせない原則とは
事業目線の「成長機会」は通じない
経営者など、事業を推進していくタイプの人々は、事業の推進を通じて人間が成長できるということと、ITエンジニアがエンジニアとしてのスキルアップをすることを混同しがちだ。混同していないとしても、つい軽視してしまうことがある。「技術スキルよりも、結局は、事業スキル・人間力のほうが重要だ」といった自分自身の価値観をベースに、「自分たちの話を聞けば、相手も、ビジョンに夢中になるはず」「自分たちのビジョンをわかって盛り上がってくれる相手だけを採用すればよい」といった、自分に都合の良い楽観的な考えに走りがちになる場合がある。
しかし、ITエンジニアが人生の戦略として求めている成長とは、あくまでも技術的なスキルアップが主眼である。事業スキルや人間力が成長することはたしかに良いことだが、そのために技術的なスキルアップの機会を失うくらいならノー・サンキュー。これが多くのITエンジニアの基本的な判断の仕方であることは、肝に銘じておきたい。
ちなみに、これはITエンジニアが「会社や事業のことを考えず、自分のことだけを考えている」という意味ではない。ITエンジニアも、基本的に会社の一員として、会社が事業を進める上での戦力になりたいと考えている点は、ほかの職種と同じである。
では、どうして技術的な成長機会を何より重視するのか? 例えるなら、技術的な成長機会は、ITエンジニアがITエンジニアとしてそこに留まるための「空気」のようなものだと思ってほしい。特別な事情[2]がなければ、「空気」がないところに誰も長くとどまろうはしまい。それと同じように、「空気」のない場所でITエンジニアが長くエンジニアとして働くことは、基本的には難しい。ITエンジニアは「空気」を外に求めて転職するかもしれないし、相対的に能力が下がったり、他に魅力的な仕事を見つけたりして、別の職種に転身するかもしれない。いずれにせよ、ITエンジニアがいなくなってしまう点では同じだ。
つまり、あくまでも技術的な成長機会の提供が、ITエンジニア採用のための最重要のカギだということである。これが示せる会社だけが、多くのITエンジニアの就職先の第一候補に入ることができる[3]。
「事業スキルや人間力の成長機会がある自社が、思ったほど評価されない」ということを、素直に受け入れられない人もいると思う。しかし、仮に御社がITエンジニアの就職先として高く評価されていないとしても、御社のビジョンや事業内容が評価されていないわけではない。ここでの問題は、採用したいITエンジニアたちが、就職後に技術的な成長機会を得られるという見通しを抱けないということに絞られる。だから、冷静にその点だけにフォーカスしよう。「ITエンジニアに技術的な成長機会を提供する」という基本原則に沿って体制を整え、採用を行うことで、着実にITエンジニアの就職先としての評価を上げていくことができるはずだ。
技術的な成長機会がどれほど重要で、一般的な成長機会では補えない価値があるかということを、次図で示したい。1〜4の数字は、私見であるがITエンジニアが会社を選ぶにあたっての優先度を表している(1が最優先)。
ITエンジニアを採用するためには、この図の1あるいは2の会社になることが重要になる。2と3の間には非常に大きな隔たりがあって、3や4の会社は何かを補填しなければ、おそらくITエンジニアにとって積極的な選択肢にはならないだろう(この「補填」については後述する)。ちなみに、前線のITエンジニアからマネージャ・経営層へ転身したい層にとっては、表の2と3は逆転するかもしれない。ただ、このような層が、前線のITエンジニアを集める段階ではまたこの表が当てはまる状況となるだろう。
特に注目してほしいのは、3の領域である。前述のとおり、事業スキル・人間力の成長機会が多い会社は、そのことに甘んじて、ITエンジニアの採用も自社に都合の良い考え方で進めてしまい、うまくいかないことがある。自社のことを「将来性のある事業をバリバリと回している面白い会社」だと思っていても、ITエンジニアからは入社を避けるべき地雷企業に見える場合があるのだ。これは非常にもったいない。このような会社には特に、本記事で紹介する原則を踏まえた採用活動や社内体制づくりをお薦めしたい。
注
[2]: どうしても仕事が欲しい、職種転換も辞さずにビジョンの実現に協力したい、誰々を助けたい、生活条件上得られるものとの引き換え、期間限定でスキルをお金に換えたい、スキルアップが不要な境遇など。
[3]: ただし、技術的な成長機会にこだわらないITエンジニアももちろん世の中にはいるし、そのようなITエンジニアの採用には、このカギは役に立たないかもしれない。誰もに合う万能のカギではなく、若手から中堅のITエンジニアを効率的に採用するための強力なカギという理解で読み進めてほしい。