政治政策 金融・投資・マーケット 企業・経営 世界経済 AI ビックデータ 中国

「デジタル・レーニン主義」で中国経済が世界最先端におどり出た

一方、日本は「石器時代」のまま…
津上 俊哉 プロフィール

中国以外にも拡がるIT国民監視

こういう話を聞くと、「一党独裁の中国だから、そんなことができるのだ」と思う人がいるだろうが、実はインドも似た方向を走っているらしい。

顔写真、指紋などの「生体認証情報」を背番号で個人に紐付けする「アドハー」システムと、その上に住所や銀行の取引明細、職務経歴や、病院での診察、納税状況などあらゆる個人データを紐付け・一元管理して他人にも参照させられる「インディア・スタック」システムが出来ているという。

それに、国民監視は中国だけで行われている訳ではない。

21世紀はセキュリティ・リスクが伝統的な戦争よりも非国家の組織・個人をアクターとするテロ活動へと重心移動した時代で、こんにち街頭監視カメラは、西側諸国でも治安維持のために欠かせないツールになっている(顔識別による人物の特定もどこの国でも行われている)。

それだけでなく、エドワード・スノーデンが暴露したように、米国でも表にはとても出せないような国民への盗聴・監視活動が行われている。

 

プライバシーの権利はどれくらい大切なものか

政府が国民生活を隅々まで監視する社会、過去にした悪事がすべて検索によって暴かれる社会・・・そんなプライバシーのない社会はゴメンだというのが我々の気持ちだろう。

しかし、我々だって、わずかばかりのポイントをもらうために、自分が何にカネを使ったかの情報をポイントサービス業者に渡している。

もっとひどいのは、ネットアプリでお遊びをするために、我々が考えもせずにフェースブックやツイッターなどSNSにそのアプリを「連携」させる同意を与えていることだ。つまり、いっときのお戯れのために交友関係などSNS上のプライバシーを全て閲覧する権限をアプリ提供者に与えてしまっている。

ほんとうにプライバシーを守りたいなら、ネットにも携帯にも近付いてはいけない。しかし、「指名手配者」でもないのに、そんな不便に耐えられるだろうか。21世紀のプライバシーは大きな変容を迫られている……それが現実なのではないか。

「プライバシーのない監視社会はゴメンだ」と思っても、一方で「こんなに便利で、効率的で、安全で、正直者がバカを見ない公正な経済・社会」というのを中国から見せつけられたとき、我々はその魅力に抗しきれるのか、筆者は最近自信がなくなってきた。

ひょっとして、中国がいま進めている取り組みは21世紀における人類の未来を先取りする実験なのではないかという気持ちにも囚われる。遠くない将来、中国やインドの後を先進国が追いかける羽目になるのかも知れない。

以上、中国ニューエコノミーを観察しながら、この一年感じてきたことを紹介してきた。ある面で中国が米国をすら追い抜いて世界の最先端におどり出たのではないか……それは言い過ぎだとしても、ただ事でない感じは共有していただけたのではないか。

そのうえで、中国と日本のそれぞれについてグッドニュースとバッドニュースを披露して結びとしたい。