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科学

人工知能よ、お前の“目”には何が見えているんだ?|「XAI」研究の最先端へ

From The New York Times Magazine (US) ニューヨーク・タイムズ・マガジン(米国)
Text by Cliff Kuang

Illustration: 3quarks / Getty Images

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将棋やチェスで人間を負かし、がんなどの病気を検知し、異性愛者と同性愛者を見分ける──。猛スピードで“進化”をつづける「人工知能(AI)」を、ヒトは本当に手なずけられるのだろうか? 

最前線の研究者たちの「奮闘」を追った特別レポートが幕を開ける!


もしかすると、この研究は自分のキャリアを終わらせることになるかもしれない──。2017年9月、ミハウ・コジンスキはそう恐れながらも、自分の研究結果を発表した。

それを英誌「エコノミスト」が最初に報じたが、記事のタイトルは「AIの進歩により、性的指向を示すヒントが発見可能に」という堅苦しくて味気ないものだった。

だがすぐに、数々のメディアに危機感を煽る見出しが躍った。

翌日には、人権保護団体の「ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団」と「GLAAD(中傷と闘うゲイ&レズビアン同盟)」が、コジンスキの研究は「危険」で「ニセ科学」だと断じた。

翌週、IT系ニュースサイト「バージ」も記事を掲載した。取材の行き届いた内容だったが、タイトルは痛烈だった──「AIによる『ゲイ探知機』の発明は、最悪な未来の前兆かもしれない」。

「いいね!」で性格がばれる


コジンスキは、“人々のデータが悪用されかねない現実”に警鐘を鳴らすことで、キャリアを築いてきた人物だ。

彼は2013年には心理学の博士号の取得を目指し、ある性格診断テストを作成しようとしていた。だがその後、彼とその研究グループは、フェイスブックによって性格診断テストは不要になるだろうと思いいたった。

つまり、わざわざ好きなものなどを尋ねる必要はない。その人が何に「いいね!」しているかを確認すれば、それでいい──。

そして彼らは2014年、あるユーザーが押した200件の「いいね!」を調べることで、本人の性格診断テストの回答を恋人よりも正確に予測できる、という研究結果を発表した。

その後、博士号を取得したコジンスキは、米スタンフォード大学経営大学院で教えるようになり、新たな調査対象となるデータを探しはじめた。

そこで目に止まったのが、「顔」だった。

もう何十年ものあいだ、心理学者たちは人間の性格と身体的な特徴を関連づけることに慎重だった。骨相学と優生学という“忌まわしき記憶”を拭えず、タブー視されていたためだ。

だが、そのタブーを疑うことで、何かが明らかになるかもしれない。そのためには「人間の判断」に頼ることはできない。コジンスキはそう考えた。

“コノ顔ハレズビアンデス”


まずコジンスキは、マッチングサイトに公開されているプロフィール20万件を集めた。性格から政治観まで、さまざまな情報がつまった顔写真つきのプロフィールだ。

それからそのデータを、英オックスフォード大学の研究者が作った「ディープニューラルネットワーク(DNN)」による顔認識アルゴリズムに流し込んだ。

そして、顔写真とプロフィール情報のあいだに相関関係があるかどうかを調べた。

当初、たいした発見はなかったが、性的指向に着目してみたところ、目を疑うような結果が出た。

顔写真をもとに人間が性的指向を言い当てられる確率は、過去の研究でも最高60%程度だった。しかし、なんとDNNは、5枚の顔写真から、男性については91%、女性についても83%という高確率で、性的指向を予測することができたのだ。

コジンスキの発見は、過去に手がけた研究と同様に、デジタル時代におけるプライバシーと差別の問題について、一石を投じるものだった。

このままアルゴリズムやデータを改良していけば、政治的に左派か右派か、犯罪性があるかどうかといったことまで、推測できるようになるかもしれない……。

だが、コジンスキの研究の核心には別の疑問があった。それは、次のような謎だった。

コンピュータは、どうやってこの結果を出したのか? ヒトの目には見えない何を見ていたのか──?

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