1995年、クリスチャン・ムーレック氏は、ガンの一種であるカリガネが、ドイツからスウェーデンへと苦労して渡る姿を目の当たりにした。そして、鳥たちを助けるため、空に飛び立った。ムーレック氏は現在、天候が許すかぎり、ほぼ毎日鳥とともに大空を飛んでいる。(参考記事:「鳥もビックリ、ドローンで撮った地球の絶景12点」)
ムーレック氏は58歳のフランス人。最初からパイロットだったわけではなく、本職は気象学者だ。しかしある時、「ガンと歩く男」として知られるオーストリア人動物学者に感銘を受け、超軽量の飛行機を改造して、鳥とともに空を飛ぶようになった。国際自然保護連合(IUCN)によって「危急種(vulnerable)」に指定されているカリガネを、安全な飛行ルートに導くためだ。現在は、3月から10月までの間、観光客を乗せて鳥と一緒に空を飛んでいる。(参考記事:「1万3000種って何の数字?」)
観光客の中には、飛行機で15時間以上かけてやってくる人もいる。ムーレック氏との35分間のフライトでよく見かけるのは、ツル、コクガン、カオジロガン、アオガン、ハイイロガンといったガンたち。さらに、城や砂漠、橋、町、山などを空から眺めることもできる。時には、スコットランドのエディンバラや、イタリアのベネチアまで飛ぶこともある。(参考記事:「オシドリ、世界一美しいカモ」)
ムーレック氏が観光客を乗せるようになったのはわずか数年前だが、自然保護活動はずっと続けている。
──お客さんはどのような人々で、何を得たいと思っているのでしょうか?
世界中からさまざまな人がやってきますが、特に多いのはヨーロッパの人々です。障がいを持った人や、この世界を去る前に鳥たちとともに大空で時間を過ごしたいという人もいます。空を飛ぶと、自然への敬意が湧き上がってきますが、それを乗っている人たちに伝えることができます。これは非常にスピリチュアルな体験です。最もすばらしい点は、この天空を「天使たち」と一緒に飛べることです。天使とは、つまり鳥たちのことです。(参考記事:「2018年を「鳥の年」宣言、鳥はなぜ大切なのか?」)
──鳥と飛ぶようになったきっかけは何ですか?
1995年に、カリガネをラップランド(スウェーデンの北部)の野生に返したいと思ったことです。最初、それはとても難しいことでした。鳥たちは、私についてこようとはしませんでした。
──お気に入りのエピソードを聞かせてください。
思い出深いのは、33羽のカリガネと一緒に、スウェーデン北部からドイツ南西部まで飛んだ大旅行です。そのときは妻が一緒に乗っていましたが、最初の子供(妊娠5カ月)がお腹にいました。この旅行は5週間続きました。カリガネを野生に返す取り組みは、妻や生物学者の友人たちと一緒に行っています。これを成功させるために、ほかの鳥たちの手伝いも続けていきたいと思っています。(参考記事:「北極温暖化でシギが小型化、南半球でも生存不利に」)
──鳥と一緒に飛んでいるとき、何をしているのですか?
私たちが飛ぶのは、フランス中南部にある太古の火山、プロン・デュ・カンタルに近い美しい谷の上です。雲があるときは、その上を飛びます。飛行中の写真を撮るのも好きです。農薬の利用によって、ヨーロッパの渡り鳥が消えつつあることを証言する機会になります。
過去30年間で、ヨーロッパの野生の鳥の3分の1が消えています。その原因は人間です。これは災難です。鳥と一緒に空を飛ぶ美しい映像は、この話を伝えるために使うべきです。フランスの有名な作家ヴィクトル・ユーゴーは、美しいものは有用なものと同じように役に立つものだ、と言いました。空飛ぶ鳥の美しい映像が、渡り鳥や人間のために役立つことを期待しています。(参考記事:「【動画】67歳のアホウドリが産卵、記録を更新」)