不妊で苦しい思いや悩みを抱えていませんか?
ストレスとの関係についても少し勉強してみませんか?
【不妊症】とは
数年前まで正常な性機能を有するご夫婦が避妊していない場合には、統計学上1年間で約80%、2年間で約90%が妊娠することが示されていて、現在、妊娠までの期間が1年を超えるご夫婦では、何らかの不妊因子を有している可能性が高いと考えられ臨床的には【不妊症】と診断されます。明らかな因子が存在する場合には、期間の長短にはかかわらず診断されます。
【妊娠(着床)の条件】
≪男性の場合≫
性機能障害
精子が有効であること(運動率や生存率)など
≪女性の場合≫
頸管粘液の月経周期による変化が正常であること
成熟した卵子が作られること
卵胞が成熟すること
排卵されること
排卵された卵子が卵管采にとりこまれること(ピックアップ)
卵管膨大部で受精すること
排卵後、卵胞に血液が充満し黄体が形成されること
胚盤胞で内膜に着床すること など
【不妊因子】
≪内分泌・排卵因子≫
1.内分泌(視床下部ー下垂体ー卵巣系)によるもの
視床下部ー下垂体ー卵巣(子宮)が協調して働くこととで正常な月経周期が成立します。この調節は上位中枢から卵巣系に向かう一方向のみではなく、卵巣で分泌されたエストロゲン(E2)が上位中枢(視床下部及び下垂体)に上行性に作用し、GnRHおよびLH、FSHの分泌を調整しています。この視床下部ー下垂体ー卵巣(子宮)系がそれぞれ影響しながら、微妙な調節系をつくっています。この調節系のどこかが崩れてしまうと月経周期や排卵などに影響を及ぼすことがあります。
[エストロゲンについて]
エストロゲン(E2)は、上位中枢から卵巣系に向かう調節系で最終的に分泌されるホルモンの1つです。様々な働きがありますが、その中で妊娠に関係するホルモンの働きをいくつか挙げると卵胞の成長促進、子宮内膜の増殖などがあります。また、排卵間近の卵胞が大量のエストロゲンを放出させ、脳に働き掛けることで「排卵が引き起こされる」ということも知られてきています。エストロゲン(E2)の分泌が低下すると卵胞が育たない、排卵しないなどが起こることがあります。
[プロゲステロンについて]
プロゲステロン(P)もこの調節系で分泌されるホルモンの1つになります。排卵後の卵胞が変形して形成された黄体から分泌されます。プロゲステロンの働きには子宮内膜の血流をよくし、受精卵を着床させ、着床した受精卵に栄養が供給できるよう子宮環境を整えたり、子宮の収縮を抑え流産にならないよう妊娠を維持させるのに必要とされるホルモンです。プロゲステロン(P)分泌低下は、妊娠する環境づくり、妊娠の維持に影響を与え、不妊だけでなく不育症の原因となることもあります。
[月経周期について(参考)]
上位中枢から卵巣(子宮)系の調整系がきちんと働いているかどうかは、基礎体温表で知ることができる場合もあります。正常とされる月経周期は25日~38日間であり、基礎体温が二相性(低温期と高温期の体温差が0.3℃以上、高温期が 7日以上持続)にあてはまらない場合は排卵障害の(卵胞が成長していない)可能性も考えられ、調節系がきちんと働いていないことも考えらえます。
2.内分泌(高プロラクチン血症)によるもの
プロラクチンは下垂体前葉から合成分泌されるホルモンで、乳腺の発達、乳汁分泌、黄体機能の調節、免疫機能の調節などの多彩な生理作用をもっています。女性の場合、プロラクチンの分泌欠乏による症状は乳汁分泌不全のみですが、高プロラクチン血症による症状は乳汁漏出、月経異常、不妊など複数があります。
プロラクチンは、出産後に分泌が急激に増加し、出産後2~3日で乳汁の排出が始まりますが、授乳によってプロラクチン分泌が持続します。プロラクチンは、LH、FSHの分泌を抑制するもので無月経や排卵が抑制されることがあり、高プロラクチン血症は、授乳中と同じ状態となり卵胞が成長しないことなどが考えられます。
プロラクチンは運動、食事、ストレスなどによって分泌が亢進されることもあり、その他に下垂体腫瘍、薬剤性(向精神薬、三環系抗うつ剤、降圧剤、胃腸薬、ピルなどのホルモン剤)、特発性、その他(甲状腺機能低下、胸壁疾患など)でも高くなる場合があります。
3.多嚢胞性卵巣症候群
卵巣に10mm程度の卵胞が卵巣外側にネックレス状に並ぶような恰好で複数存在し、この大きさからなかなか成長せず、排卵障害を引き起すことがあります。多嚢胞性卵巣症候群の原因としは、男性ホルモンの分泌亢進を特徴としており、これは、LHと血糖値を下げるインスリンが通常より強く卵巣に働きかけるためだといわれいます。
4.チョコレート嚢腫
本来、存在するはずのない子宮内膜組織が卵巣に存在し剥離と増殖を繰り返すものです。卵巣内に古い血液が溜まり、黒っぽく粘性をもった状態がチョコレートのように見えることから名前がつきました。卵巣内の血流減少や卵巣自体が硬くなることもあるため排卵障害を引き起こすことがあります。
5.黄体機能不全
黄体機能とは、排卵した後の卵胞が黄体に変化して作られた器官からプロゲステロン(P)分泌が行われる機能のことになります。このプロゲステロン(P)の働きにより子宮内膜の環境が整えられ、妊娠を維持することが可能になります。プロゲステロン(P)が不足し黄体の機能をはたしていない状態を黄体機能不全といいます。
黄体機能が正常に働くためには以下の全てが整う必要があります。①正常な成熟卵胞育成と排卵があること
②FSH・LHの分泌が正常であること
③卵胞が黄体へ順調に変化すること
④子宮内膜の感受性が悪くないこと
⑤高プロラクチン血症などの疾患がないことこのうちのどれか1つでも欠けると黄体機能不全になる可能性があります。
上記5項目以外に少数ではありますが、早発卵巣機能不全(POF)や全身疾患(甲状腺疾患、糖尿病、副腎疾患)などの場合にも排卵障害を起こす可能性があります。
≪卵管因子≫
卵管は妊娠の成立に重要な役割を果たしています。
臨床検査で把握できること → 卵子・精子・胚が通過できるだけのスペースがあるかどうか?
(卵管内空の閉塞・癒着、卵管周囲との癒着)
臨床検査で把握できないこと → 卵子のピックアップ障害、受精する場所、胚が成長する場所があるか
どうか?
これらの臨床検査で把握できること、把握できないことのうち1つでも障害されると妊娠を成立させることができない場合があります。卵管内部の閉塞や卵管周囲との癒着は、開腹手術における癒着や骨盤内感染、子宮内膜症による癒着などさまざまあります。卵管閉塞および卵管周囲の癒着は、クラミジア感染によるものも多く感染しても無症状のことが大多数で感染に気がつかないこともあり、知らないうちに癒着が進行してしまう場合があります。
≪子宮因子≫
1.子宮筋腫
粘膜下筋腫 → 子宮内空に突出し、子宮内空を変形させるため妊娠の障害になることが多い。
漿膜下筋腫 → 子宮から外に突出し子宮内空が変形しないため妊娠の障害になりにくい。
筋層内筋腫 → 子宮筋腫の大部分を占める。妊娠を障害するかどうか?は、子宮内空が変形して
るかどうか?が問題となります。
子宮筋腫は、着床障害との関連性が高いですが、精子が卵子へ到達することを妨げたりすることも原因になることもあります。また、子宮筋腫による症状(過多月経や月経困難症など)が強い場合は妊娠の障害となっている可能性が高い場合もありますので病院での検査をおすすめいたします。
2.子宮内膜症
要因のひとつとして挙げられていますが、子宮内膜症では必ず妊娠できないということではありません。また、詳しいこともほとんど解明されていません。ただ、子宮内膜症で考えられるのは着床障害ですが、それ以外にも子宮の血流障害や卵管圧迫などを起こすことが考えられています。
子宮内膜症を長期間放置すると、骨盤内での癒着が強くなり骨盤内臓器の可動域がなくなる『凍結骨盤』になることがあります。『凍結骨盤』は不妊の要因になることがあるため、月経時の下腹部痛や腰痛などが徐々に痛みが強くなり、痛み止めなどの薬を使っても効果がない!または、使用頻度が増している場合などは放置されないことをお薦めいたします。
3.子宮奇形
要因になる場合とならない場合があります。
4.その他
子宮空内ポリープ → 着床障害を引き起こすことがあります。
アッシャーマン症候群 → 子宮空内の癒着により無月経や月経量の減少する状態で着床に影響を与えることがあります。
≪頸管因子≫
排卵期の頸管粘液量低下などにより精子が子宮へ到達しにくくなり、卵子と精子の受精を妨げることがあります。
≪免疫因子≫
女性の身体にとって、精子は存在しないものであり基本的には遺物となります。しかし、妊娠できる身体の状態の時、精子が子宮や卵管内に入ってこれるように免疫的寛容(遺物を見逃す)が働くと言われていますが、何等かの原因によりこの免疫機構が崩れてしまった場合に精子に障害を与える抗体や精子の運動を停止させてしまう抗体などを産生してしまうことがあります。これにより精子の卵管到達や受精に影響を与えてしまう場合があります。
≪機能性不妊(原因不明)≫
さまざまな検査を行い、明らかな原因が見つからない場合に診断さます。しかし、原因がないのではなく、検査で原因を見つけられなかったいうのが正しいのかもしれません。
原因のひとつとして考えられるのは、精子や卵子の妊孕性(妊娠する力)の低下があります。この妊孕性については調べる方法がなく、年齢を重ねることにより妊孕性の低下があると考えられています。その証拠として夫婦の年齢が高くなると機能性(原因不明)と診断される割合が一般的に高くなるとの報告もあります。
〈補足〉 |
【ストレスと不妊】
妊娠は、たくさんの困難を乗り越え、やっとこの世に生を受ける神秘的な出来事です。そして、人の身体はとても繊細でちょっとしたストレスの影響が身体に悪影響を与え、妊娠の障害となってしまうこともあります。
では、ストレスが加わったとき人の身体はどのような反応を示すのでしょうか。
≪ストレスを感じたときの身体の反応(一部)≫
何等かの刺激を受ける
↓
本能と理性の戦い
↓
理性が戦いに勝つとストレスとなる
↓
ストレスを感じると脳(視床下部)から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、
指令が出る
↓
視床下部の指令により下垂体から副腎皮質刺激ホルモンの分泌
↓
副腎皮質よりコルチゾール分泌
↓
コルチゾール分泌により身体を臨戦状態にする
≪ストレスが与える影響≫
1.視床下部が女性ホルモン分泌の指令を出しにくい状態となり女性ホルモンが低下
[(参照)生理周期指令系統]
※視床下部は、心の状態に敏感でストレスや悩みに弱いことが知られています。そして、視床下部には、様々な働きがあり、その中にストレス解消のための司令塔の役割と女性の生理周期をコントロールする司令塔の役割も含まれています。視床下部は、ストレスが加わった場合、ストレスホルモン分泌を優先させます。それによりエストロゲン(E2)の分泌低下となる場合があります。
2.女性ホルモンが低下し、男性ホルモンが活性化
3.免疫力が低下。カンジダ膣炎に罹患しやすくなり、カンジダ菌の増殖も 加 速する可能性がある。
4.副腎コルチゾールにより脳の神経伝達物質(ドーパミンなどの)抑制
5.副腎コルチゾール分泌時、副腎コルチゾール分解時に発生する活性酸素が卵子の老化促進
6.活性酸素により身体機能の低下(卵巣や子宮の機能低下にもつながる)
7.ストレスにより身体の緊張状態となり、筋肉や血管が収縮する。このことにより、血流低下による体温低
下、また、各臓器への血流低下により体熱、酸素、栄養素、ホルモン(血液によって各臓器へ運ばれる物
質)が本来必要とされる臓器へ届かなくなり卵巣や子宮の収縮や硬くなることなどによる機能低下やホルモ
ン不足による卵巣や子宮への影響
≪神経伝達物質(ドーパミン)と高プロラクチン血症≫
『ドーパミンについて』
何等かの行動に対して快感を感じさせたり、経験した快感を記憶し再度その快感を得るためのモチベーションを生じさせたりもします。さらに効率よく快感を得るための学習、精度の向上をはかります。その他に物事への執着を生んだり、集中力向上や疲労軽減などに対しての働きなども持っています。また、ドーパミンにはストレスを打ち消す作用があります。私達の体内では、このドーパミンが分泌できないこと、これ自体がストレスとなることもあります。
ドーパミンはプロラクチンの拮抗物質でもあり、ドーパミンが減少するとプロラクチンが活性化し高プロラクチン血症になる場合があります。
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