そもそも解決すべきは
本当にその問題なのか

リフレーミングで問いを再定義せよ

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多くの企業が自社の問題解決能力にはそれなりに自信を持っている。それに対して、解くべき問題を見極めること、すなわち問題診断は苦手としている。だが、創造的な答えを導くには、そもそも何が解決すべき問題なのかを理解することが不可欠である。本稿では、そのために「リフレーミング」という手法が提示される。問いの設定を誤ったまま漫然と行動することを避け、自社にとっての問題を正しく定義するうえで有効な、7つのコツが示される。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2018年2月号より、1週間の期間限定で全文をお届けする。

問題の再定義が
創造的な解決策を生む

 あなたの会社は問題解決にどれほど長けているのか。おそらくその答えは、「かなり長けている」だろう。

 筆者が研究した企業のマネジャーたちの回答も同様である。この研究では、17カ国の上場・非上場企業91社で働く106人の経営幹部を対象に調査を行った。すると、企業が苦労しているのは問題の解決ではなく、問題の洗い出しであることがわかった。「あなたの組織は問題の診断が苦手か」という問いに対し、優に85%の回答者が「そう思う」または「非常にそう思う」と回答した。また「その弱みのせいでかなりの損害が出たか」という問いには、87%が「そう思う」あるいは「非常にそう思う」と答えた。悪影響がないと答えたのは、10社当たり1社にも満たなかった。

 ここから見えてくるパターンは明らかである。マネジャーたちは行動を重視するあまり、問題を本当に理解しているかを確かめることなく、解決策を即座に探そうとしがちなのだ。

 ミハイ・チクセントミハイとジェイコブ・ゲッツェルズが、創造性を発揮するうえで問題のフレーミングがいかに重要な役割を果たすかを実証してから、40年が経つ。アルバート・アインシュタインからピーター・ドラッカーに至るまで、大勢の思想家も問題を的確に診断する重要性を強調している。それでもなお、組織が問題を正しく診断することに、いまだに苦労しているのはなぜだろうか。

 その理由の1つは、問題診断のプロセスを必要以上に大がかりにする傾向があることだ。TRIZ(発明的問題解決理論)、シックスシグマ、スクラム(ソフトウェア開発における反復的で漸進的なアジャイル開発手法の1つ)といった既存の手法の多くは、極めて網羅的である。適切な使い方をすれば、劇的な効果が見込める。しかし、完成度の高さゆえに日常業務に組み込むには複雑すぎ、多大な時間を要する。

 問題診断に秀でるために最も必要なことは、年に1度の戦略セミナーではなく、日々のミーティングだ。それゆえに、組織を挙げて数週間に及ぶ研修プログラムを受けずに済むようなツールが求められている。

 より単純な問題診断法もある。根本原因の分析や、それに関連する「なぜなぜ5回」(5 Whys)のテクニックなどだ。ただし、それらを使った場合でも、新たな診断が導き出されるのではなく、定義済みの問題を深掘りしているだけだと気づくことが多い。たしかに、それをするとうまくいく場合もある。ところが創造的な解決策は、ほぼ必ずといってよいほど、問題を新たに定義することが出発点になっているのだ。

 筆者は、およそ10年にわたる企業のイノベーションに関する研究で、まずは組織変革という限られた分野で、次により広い分野で「問題のリフレーミング」の実践と学習を行った(それらの多くは同僚のパディ・ミラーとの共同研究である)。

 これ以降の本稿では、問題の診断に関する新手法を紹介する。この手法は素早く適用できるうえに、なかなか解消されない身近な問題の枠組みを大幅に見直し、創造的な解決策を導き出すことが多いと判明している。

 リフレーミングを行った背景に触れて、このアプローチでいったい何を実現しようとしているのか、もっと正確に説明しよう。

なかなか来ない
エレベーターの問題

 次のような状況を想像してみよう。あなたはオフィスビルの所有者で、テナントらがエレベーターについて苦情を訴えている。古くてのろく、待ち時間が長いというのだ。問題が解決されなければ中途解約して出て行くと、脅かすテナントも何軒か現れた。

 どうすべきかと尋ねられると、ほとんどの人は即座にいくつかの解決策を出す。エレベーターを取り替える。強力なモーターに交換する、あるいは、エレベーターを動かすアルゴリズムをアップグレードしたらよいかもしれない、といった具合だ。

 これらの提案は、筆者がソリューションスペースと名付けたものに大別される。すなわち、問題は何かに関する共通の前提に基づいた、解決策の集合体である。この場合の問題は、エレベーターがなかなか来ない、ということだ。このフレーミングを下図に示した。

 ところが、ビルの管理会社に問題を説明したところ、もっと鮮やかな解決策が示された。「エレベーターの横に鏡を取り付けなさい」と。この簡単な方法は、苦情を減らすのに極めて有効であることがわかった。なぜなら人間は、思わず見入るようなものが与えられると、時が経つのを忘れがちだからだ。この場合は、自分たち自身に見入るのである。

 鏡というソリューションは、実に興味深い。これは、テナントから苦情として訴えられた問題の解決策ではないからだ。鏡を置いてもエレベーターは速くならない。その代わりに指し示しているのは、問題の理解を変えなさいということである(下図を参照)。

 当初の問題の枠組みが、必ずしも間違っていたわけではない点には留意してほしい。新しいエレベーターを設置すれば、おそらく物事はうまくいくだろう。リフレーミングの重要なポイントは、「真の問題」を見出すことではない。解決すべきよりよい問題がないかを探ることなのだ。

 実際のところ、根本原因はただ1つという考え方自体、誤解を招くおそれがある。通常、問題とは多層の原因から生じたものであり、さまざまなやり方で対処可能である。このエレベーターの事例では、需要がピークに達した時の問題──エレベーターを同時に必要とする人が多すぎる場合の問題──としてリフレーミングすれば、需要を分散させることを軸にした解決策が導き出されるかもしれない。たとえば、昼食の休憩時間をずらすといった方法である。

 問題を別の側面からとらえると、抜本的な改善がもたらされることがある。数十年にわたって解消困難とされてきた問題に対して、解決策を導くきっかけができるかもしれない。筆者は最近、その実例を目にした。それはペット業界でしばしば見落とされがちな問題である、シェルターに保護された犬の数を研究した時の出来事である。

米国における
犬の里親探しの問題

 犬は米国で大変な人気者だ。業界データによると、米国の全世帯の40%以上が犬を飼っているという。しかし、このような犬の人気ぶりにはマイナスも伴う。米国最大級の動物福祉団体である米国動物虐待防止協会(ASPCA)の推計では、毎年300万頭余りの犬が保護されて、次の飼い主を待っているのだ。

 シェルター(動物保護施設)などの福祉団体は、この問題を周知すべく奮闘している。一般的な広告やポスターには、同情を誘うために、ネグレクトされて悲しげな犬の写真を注意深く選んで使い、「命を救うために、犬の里親になってください」という呼びかけや寄付を募るコピーを添えている。福祉団体が資金不足なのはよく知られていることだが、彼らはこうした活動を通じて、毎年およそ140万頭の犬の里親を、苦労して見つけ出している。

 それでも引き取り手が見つからない犬は、100万頭を超える。同じ状況に置かれた多くの猫やその他のペットは、この数には含まれていない。周囲から示される哀れみの気持ちには限界があるのだ。それゆえに、シェルターや救助グループの懸命な努力にもかかわらず、ペットの里親不足は数十年にわたって解消されていない。

 ローリー・ワイズは、ロサンゼルスにあるダウンタウン・ドッグ・レスキューの設立者である。彼女は、里親を見つけることだけが、この問題をフレームする方法とは限らないと実証してみせた。

 ワイズは、現在この分野で広がりつつあるシェルター・インターベンション(保護施設の介入)という手法の先駆者の一人だ。ワイズが取り組んでいるのは、より多くの犬が新しい家庭に引き取られるように里親を探すことではない。もともとの家族の元に犬を留まらせ、シェルターに連れてこられる事態がないようにすることである。

 シェルターに保護される犬の約30%はオーナー・サレンダー、すなわち、飼い主が考えた抜いた末に飼育を断念したものだとわかった。動物への深い愛情で結ばれたボランティアが率いるコミュニティでは、こうした飼い主は、単なる消費財であるかのようにペットを残酷に捨てたとして、こっぴどく非難されることが多い。このような「悪質な」飼い主の元に犬が渡ってしまうのを防ぐために、多くのシェルターは、常に満杯の状態にもかかわらず、里親候補の綿密な身元調査を義務付けている。

 だが、ワイズの解釈は違った。「オーナー・サレンダーは人間性の問題ではありません」と彼女は語る。「大まかに言って、貧困の問題なのです。私たちと同じように、こうした家族も飼い犬を可愛がっていますが、同時に格段に貧しいのです。場合によっては、月末を迎えると、自分の子どもを食べさせることすら覚束ないような人々なのです。そんな状況では、新しい大家から、犬を飼うなら保証金を払えと急に要求されても、お金を工面できません。10ドルかかる狂犬病の予防接種を行う必要があるのに、獣医のところに行く手段がない、あるいは、飼い主がいかなる種類の権威者をも怖がり、近づきたがらないケースもあります。そうした人々は、ペットをシェルターに引き渡すのは、自分たちに残された最後の手段だと考えてしまう場合が多いのです」

 ワイズはサウスロサンゼルスのシェルターと協業し、このプログラムを2013年4月に立ち上げた。その構想はシンプルなものだった。家族がシェルターに来てペットを引き渡そうとしたら、スタッフは何の判断も加えずに、できることならそのペットを飼い続けたいですかと尋ねる。答えがイエスならば、スタッフは、自分たちのネットワークや知識を活用することで問題の解決を支援する。

 立ち上げ初年に、このプログラムは目覚ましい成功を収めたことがわかった。それ以前のワイズの組織は、救助したペット1匹当たりに年平均で85ドルを費やしていた。それに対して新プログラムでは、コストが約60ドルに下がっただけでなく、保護が必要な他の動物のための空きスペースをシェルターに確保しておくことができた。

 ワイズによれば、これは即座に表れた効果にすぎないという。「肝心な点は、効果がコミュニティに広がるかどうかです。このプログラムは、家族に問題解決の方法を学ばせ、みずからの権利と責任を自覚させます。コミュニティには、援助の手が差し伸べられることを教えます。また、飼い主に対する業界の認識を変えました。支援の手が差し伸べられれば、75%もの人々が、実際にはペットを手放したくないことがわかったのです」

 本稿執筆時点で、ワイズのプログラムはおよそ5000組のペットと家族を助け、ASPCAから正式な支援が得られるようになった。ワイズは他のレスキューグループに介入プログラムを運用する方法を指南すべく、First Home, Forever Home(ペットにとって最初の家族は、永遠の家族)[注1]という書籍も出版した。彼女が問題をリフレーミングしたおかげで、捨てられたペットであふれんばかりのシェルターは、いつの日か過去の遺物と化すかもしれない。

 あなたが抱える問題に対して、どうすれば、これと同じように洞察に満ちたリフレーミングを行うことができるだろうか。

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