2012年にTV放映がはじまったアニメ『ガールズ&パンツァー』(以下ガルパンと略す)は、その後OVA、劇場映画と発表形式を変えながら発展をつづけ、ついに『最終章』に突入した。その『最終章』が全6話から成り、劇場公開されると発表されたのは、2016年11月13日に茨城県大洗町で開催された第20回あんこう祭においてだったが、そのときステージに立った監督の水島努氏は『最終章』の内容について訊かれ、つぎのように答えた。
「1巻は後日談からはじまるので、戦車戦はあまりないです。どちらかというと日常が中心になるので、1巻から戦車戦をブァーッと楽しみにしていると、アレッと思ってしまうかもしれません」
クリエイターといわれる人種の発言が当てにならないのは洋の東西を問わないが、それにしても……。『最終章 第1話』のふたを開けてみれば、のっけから激しい戦車戦。それも大洗女子学園チームが、絶体絶命のピンチに立たされている模様。河嶋桃がパニックにおちっているのはいつものことだが、秋山優花里や武部沙織まで浮き足立っているとすれば、ただごとではない。
と思っていると、一転してTVシリーズを思わせるオープニングがはじまり、つぎつぎと現れる戦車と人物に目が奪われる(黒森峰と大学選抜が共闘しているように見えるぞ!)。画面を止めてくれ、と悶絶しているちに本篇が開始され、時間をさかのぼる形で「無限軌道杯」という新たな戦車道の大会への参加、新戦力の発掘と話が進んでいく。あとはジェットコースターなみの急展開。あれよあれよという間に40分あまりが経過し、TVシリーズと同じ形式のエンディングが流れて、「ああ、面白かった」という高揚感につつまれて観客は席を立つことになる。まさにスタッフの手のひらの上で転がされた気分。この翻弄された感じが、たまらなく心地よい。
オープニングとエンディングがTVシリーズと同じ形式を踏襲していることからわかるとおり、『最終章』は『劇場版』よりもTVシリーズに近いのだろう(尺の長さも、6話分を足せばTVシリーズ1クールとほぼ同じだ)。とすれば、この段階で評価をくだすのは早すぎる。特に気に入った点と、すこし考えさせられた点を記してレヴューに代えたい。
まずいえるのは、『劇場版』にくらべて『最終章』は、むかし懐かしい「まんが映画」寄りになっていることだ。いい換えれば、荒唐無稽の度合いが強まっている。その最たる例が、新しく登場した学園艦の底部とサメさんチーム。とりわけ後者は、これまでのガルパンにはなかったキャラクターであり、異分子の感が強い。
だが、見ているうちに、このチームが新たな血として必要だったことがわかってくる。というのも、あんこうチームをはじめとして、大洗の戦車道チームは経験を積み、練度をあげて完成の域に近づいているからだ。つまり、伸びしろがすくないわけだ。そのため、成長の余地を大きく残したチームが導入されたのだろう。
同じことは、サメさんチームが乗る戦車、マークⅣについてもいえる。第一次世界大戦当時の兵器であり、その性能がほかの戦車に劣ることは明らか。この戦車をどう活躍させるかが、スタッフの腕の見せどころにちがいない。
と思っていたら、早速やってくれました。戦車の性能も、乗員の技量も低いマークⅣが大洗のピンチを救うのだ。それも菱形戦車の特徴を最大限に活かした形で。個人的には「最終章 第1話」でいちばんワクワクしたのがこの場面だった。今後もサメさんチームから目を離せそうにない。
いっぽう、すこし考えさせられた点とは、やはり初登場となったBC自由学園の設定である。この学校の名前自体はTVシリーズに出てくるし、その後の関連資料で設定が公表されていた。
それによれば、同校はBC高校と自由学園というふたつの学校が合併したものであり、旧校それぞれの名前は、第二次世界大戦当時のフランス史に由来する。つまり、征服者ドイツに協力したヴィシー政府と、国外で抵抗運動をつづけた自由フランス政府をもじっているのだ。そして合併後も旧校派閥の反目がつづいている、ということになっていた。たとえば、スピンオフ・コミック『リボンの武者』では、この設定に基づいてBC自由学園が描かれている。
ところが、『最終章』に出てくるBC自由学園は、まるっきりちがう設定になっていた。つまり、フランス革命をイメージし、貴族階級と庶民階級の対立が、中高一貫校のエスカレーター組と、高校からの受験組の対立に置き換えられていたのだ。
頭が固い人なら、不一致を糾弾したくなるだろう。
だが、ガルパンの世界において、ライバル校の設定は、それぞれが範とした国のお国柄を極端に類型化したものであったことを思いだそう。そのおかげでキャラクターが明確になると同時に、軽い揶揄をふくんだユーモアが生まれていた。今回のBC自由学園の設定も、その流れを汲んだものだ。第二次大戦中の親独派と反独派の対立とフランス革命——どちらがわかりやすいかは、いうまでもないだろう。
そして従来のBC自由学園の設定は、関連資料にまで目を通すマニアには知られていたとしても、映像作品のなかで語られたものではない。公式の設定ではあるが、金科玉条として守るべきルールではないのだ。作品を面白くするためなら、それに縛られる必要はない。創作という行為において、みずからの可能性を狭めるようなルールは無視してかまわないのである。
したがって、今回BC自由学園の設定を新たに作ったスタッフの英断を讃えたい。そのおかげで、クッションを敷いてルノーの砲塔後部にすわりながら、ケーキを食べるマリー様の姿が拝めたのだ。ガルパンの世界にまたひとり、魅力的なキャラクターが誕生した。エスカレーター組の押田と、受験組の安藤も、これから大活躍してくれるにちがいない。
ともあれ、『最終章』はまだはじまったばかり。今後もわれわれの予想をくつがえす展開が待っているだろう。第2話の公開はいつになるのか? 首を長くして待ちたい。
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