任天堂がコロプラを訴えた根拠となった特許の番号を推理する

出典:特許3734820号公報

任天堂がコロプラを特許侵害で訴えた事件は周知かと思います(参考記事)。コロプラの提供するスマホゲーム「白猫プロジェクト」が任天堂の特許権を侵害していると任天堂が主張して訴訟に至ったのは確かなのですが、リリースや報道記事には特許番号が書いてありません。書いておけば類似機能を実装しようとしていた他社がその実装を控えることで無駄な争いを減らせて良いのではないかと思いますが、書くことが義務ではないのでしょうがありません。

ツイッターで山本一郎氏に召喚されているようですが、肝心の特許番号がわからないと厳しいものがあります。どこかの記者さんが、裁判所で訴状を閲覧してきてくれないものかと思います。

とは言え、現時点でできるだけの推理をしてみました(もし間違ってたらすみません)。上記記事によると関連する特許は5件あり、少なくともそのうちの1件は「タッチパネル上でのジョイスティック操作」関連の特許であるようです。

そうすると、どうやら「白猫プロジェクト」における「ぷにコン」という機能が問題になった可能性が高そうです。わざわざダウンロードしてプレイしてみました。画面上の任意の場所をタッチするとそこが原点になり、そこからドラッグすることで仮想的なジョイスティック操作ができるというシンプルな仕組みです。そうなると関連する任天堂の特許も範囲が広いものであることが推測できます。

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の「特許・実用新案テキスト検索」で、出願人が任天堂であり、かつ、「タッチパネル」と「ジョイスティック」を含む特許を検索すると199件ヒットします。範囲が広いということは最近のものではなく、まだタッチパネル操作のゲームが珍しかった時代の特許の可能性が高いと推理し、昔のものから見ていくと怪しいのは特許3734820号です。2004年9月3日の出願です。NINTENDO DSの発売直前に出願された特許ということになります。

クレーム1の内容は以下のとおりです(なお、訂正審判が請求されていますので訂正後のクレームを示しました)。

【請求項1】

所定の座標系に基づいて,プレイヤの操作に応じて指定される座標情報を出力するタッチパネルによって操作されるゲーム装置のコンピュータに実行されるゲームプログラムであって,

 前記タッチパネルがプレイヤにより座標入力されていない状態から座標入力されている状態へ変化し,その後,座標入力されている状態が継続するときに,前記コンピュータに,

  前記変化したときに前記タッチパネルから出力される座標情報に基づいて,前記座標系におけるゲーム制御を行うための基準座標を設定する基準座標設定ステップと,

  前記座標入力されている状態が継続する間に前記タッチパネルから出力される座標情報に基づいて,前記座標系における指示座標を設定する指示座標設定ステップと,

  前記基準座標から前記指示座標への方向である入力方向および前記基準座標から前記指示座標までの距離である入力距離に基づいて,ゲーム制御を行うステップであって,前記指示座標が前記基準位置を中心とした所定半径を有する円領域からなる制限範囲を逸脱したときには,指示座標が前記制限範囲の外縁部にあるときの入力距離に基づいてゲーム制御を行う,ゲーム制御ステップとを実行させる,ゲームプログラム。

ややこしいですが、言っていることは基本的には先の説明のぷにコンの挙動どおりで、画面上の任意の場所を押して原点(基準座標)を設定して、その後にドラッグすることで、ジョイスティック様の動作をさせるということでかなり範囲が広いです。いわゆる「キラー特許」と言えるかと思います。今にしてみれば自明に思えますが、2004年9月時点で自明であったことを立証するのは大変そうです。

興味深いのは2016年6月に訂正審判が行なわれて、上記の「前記指示座標が前記基準位置を中心とした所定半径を有する円領域からなる制限範囲を逸脱したときには,指示座標が前記制限範囲の外縁部にあるときの入力距離に基づいてゲーム制御を行う」という限定が加わっている点です。この段階でコロプラ、または、それ以外の他社と水面下でやり取りがあって無効にされないよう対策を打ったのかもしれません。

あと4件も推理したいところですが、ほとんど仕事と同じになってしまうので勘弁いただきたく。なお、ツイッターで特開2006-068387(特許4658544号)、特開2006-034517(特許4471761号)を挙げている人がいましたが、ぷにコンを使ってみた限りでは当該特許権に示された挙動は見られなかったのでたぶん違うと思います。

なお、ツイッター等でコロプラもぷにコンの特許を持っている云々の議論が出ているようですが、自分で特許を持っていても、それによって他人の特許権を侵害しないということはありませんので念のため(これは一般によく見られる誤解です)。