「人を罰する行為はまわりの信頼につながる」

ネットの不毛な批判や炎上を撲滅するには? インフルエンサーや心理学者と考えた

  • 社会・政治
  • 2018.01.10
  • by 新R25編集部

SNSの浸透と比例するように増えつづけるネット炎上。しかし、その大半は「健全な意見のぶつかり合い」とは言えない(と筆者は考えている)。

今後さらに“個の時代”が加速していくなかで、個人が発信のしづらさを感じ、閉塞感漂うネット社会になってしまっていいのか?

本記事は、そんな負の側面を抱えるネット炎上の解決策を模索した特集記事です。どうぞ最後までお付き合いください。

炎上といえばこの人たち!? まずはイケハヤ&はあちゅうコンビに話を聞いてみたが…

まずは炎上経験者の知見を…ということで、日ごろネットの批判と“戦っている”印象のあるイケダハヤトさんはあちゅうさんに話を聞いてみた。

渡辺(新R25)

渡辺(新R25)

ふたりともこれまで何度も炎上を経験していると思いますが、ネット上の中傷や不毛な批判を収束させるのに効果的な方法はあるんでしょうか?

はあちゅう

はあちゅう

それでいうと、何をやってもあんまり効果ないんですよね…。ブロックするしか方法はないのかなと思います。

イケダハヤト

イケダハヤト

ブロックするしかないというのは同意ですね。高い目標を掲げれば自然と(批判は)見えなくなるので、自分を変えるしかない感じがしてます。

渡辺(新R25)

渡辺(新R25)

なるほど、やはり簡単な対策はなさそうですね…。

でもはあちゅうさんって、ブログやSNSで「傷ついた」と素直に吐露するじゃないですか。「インフルエンサーだって鉄のハートの持ち主じゃないんだぞ」って発信するのは効果がありそうだなと思ったんですよね。向こう側にも罪悪感が芽生えてくるのではないかなと。

はあちゅう

はあちゅう

私は自分の感情を包み隠さずSNSに投稿するタイプなだけで、あれはアンチ対策としてやっていることではないんですが、本人はあんまり罪悪感感じてないみたいですよ。むしろそれが面白いみたいです。

渡辺(新R25)

渡辺(新R25)

そうなんですか? いい方法だなぁって思ってたんですが…。

イケダさんはアンチの発言を“晒す”ことがありますが、あれをやられたらさすがに相手は怯むんじゃないですか?

イケダハヤト

イケダハヤト

いや、晒すのも効果なしですね! むしろ喜ばれてる気がします(笑)。

はあちゅう

はあちゅう

ブロックしても喜ばれますしね。

あと、アンチの人って弱いから、誰かが声を上げたらそれに乗っかるんです。大物のひと言があると、それで許しを得たみたいに一気に爆発するというか。

渡辺(新R25)

渡辺(新R25)

そういうきっかけがなければ何も言えない人は多そうですよね。

う〜ん…しつこくて申し訳ないのですが、「これは多少なりとも効果があった」みたいな中傷対策はないものでしょうか?

はあちゅう

はあちゅう

昔は嫌いだったけど、本を読んでみたらファンになった」と言われることはありますね。

イケダハヤト

イケダハヤト

アンチの人たちは拠り所を探しているので、彼らにズバッと刺さるメッセージを出せればコロッと支持者に転向する気もします。

ライトなアンチは表面的な言葉狩りをしているだけなので、たしかに本を読んでもらったりすると変わるイメージはありますね。

渡辺(新R25)

渡辺(新R25)

なるほど。誤解がないようにちゃんと意見を受け取ってもらうのは重要そうですね。

ちなみに、個人的にはイケダさんの「矛盾したっていいじゃない。人間の考え方は変わるよ」っていう主張は最強だと思いました(笑)。

イケダハヤト

イケダハヤト

ネット上の「イケハヤ」は一種のキャラクターなんで、むしろいじってもらう方向で価値を高めています

そういう割り切り方をすると、ネットの中傷に対してはほぼ無敵になりますね。実害がある場合は警察マターだと思いますが。

幾度となく炎上を体験しているふたりが「効果的な対策はない」と口を揃えて言うほど、ネット炎上の根本解決は難しいということがわかった。

ここからは、大阪大学で人間の攻撃心理を研究している寺口司とともに、心理学的な観点から解決へのアプローチを探っていきたい。

大阪大学人間科学研究科の人間行動学講座で助教を務める寺口先生

人間には誰しも「悪いと思った人を罰して、まわりから信頼を得たい」という心理がある

――まずは「ネット上で他人を叩く」という行動のウラにある心理を教えていただきたいです。

寺口:そもそも、人間には誰しも「悪いと思う人を罰したい」という心理があります。自分は一切被害を受けていないし何も関係ないのに、コストをかけてでも罰したいと思うんです。

これに関しては興味深い実験結果があって(※1)、たとえばバイト代としてAさんに3000円を渡すとします。もうひとり一緒に働いたBさんもいるのですが、Bさんには1円も分配せず、あえてAさんに報酬を独り占めさせます

次に、まったく利害関係のない第三者に対し、「あなたが30円払えば、(独り占めした)Aさんのお金を90円減らすことができます」と伝えます。

――減らしたお金がBさんに分配されるわけではなくて、ただAさんから減らすだけですか?

寺口:そうです。するとどうなるかというと、約60%の人がお金を出すんです。平均で400円ぐらい払います。

――それは興味深いですね…! 自分は全然関係ないのに。

寺口:これはすなわち、お金を払ってでも相手を罰したいということです。ほかの類似の実験でもこれと同じような傾向が見られています。

そして、このときお金を払っている人に働いているのは、「相手を罰することでまわりの人から信頼してもらいたい」という心理です(※2)。要は、自分が“悪いヤツ”認定した人を叩くことでいい人アピールをしたい。

こう言うとイヤな人のように思えますが、これは誰でも持っている一般的な心理なんです。

――なるほど。理性で抑えているだけで、本当は自分にもある心理なのかもしれません…。

自己顕示欲が高い人は「反社会的」だとみなされ、嫌われてしまう傾向がある!?

――そもそも論ですが、「自己顕示欲が高い人は嫌われやすい」という傾向があったりもするのでしょうか?

寺口:実証されてはいないのですが、やはりそれはあると思います。熊本地震のときに、芸能人の方が「寄付しました」アピールをして炎上したことがありましたよね?

――はい、覚えてます。

寺口:これは私の研究室の学生と一緒に実施した調査なのですが、ああいったアピールをする人はまわりから「反社会的で、不誠実で、友人にはしたくない」と評価されるという傾向があります(※3)。

――き、厳しいですね…。

寺口:そもそも、反社会的な人ほど自己アピールをしたがるんです。

――反社会的…? 先生の言うところの「反社会的」というのはどういうイメージでしょうか?

寺口:「マキャベリアニズム」といって、相手をコントロールしたいとか、支配したいといった性格ですね。自分の印象操作をしたいから、自己アピールをするわけです。

――なるほど、そう言われるとわかる気がします。

寺口:ちなみに、これはあくまで「反社会的な人がアピールしたがる」のであって、「アピールする人がすべて反社会的」ということではありません

ただ、そういう相関があることもあって、「アピールする人=反社会的」だとみなされている可能性はあります。

炎上させる人は「社会正義のため」と考えているが、データ上は関連性が薄い

――公然と批判をする人の心理については理解できましたが、本人には相手を傷つけているという認識はないのでしょうか?

寺口:炎上を研究している社会学者の吉野ヒロ子先生がTwitterを対象に実施した調査では、「炎上させたり、炎上に参加する人は義憤(ぎふん)に駆られていたり、そこに社会正義があると考えている傾向がある」という結果が出ていました(※4)。

――あくまでも自分は良いことをしているんだ、と。

寺口:はい。ただ、私の研究室でも同じような研究をやっているんですが、炎上させる人と「道徳性」などの性格はデータ上あまり関連が見られないので、大半は正義の心のもとでやっているとは言いがたいと思います。

――やはり根っこは「信頼を得たい」という気持ちでやっているということですか?

寺口:そうですね。もちろん、正義の心で批判する人もまったくいないとは言い切れませんが、大きな傾向として見れば自己利益のためにやっている人が多いと思います。

――Twitterなどは実名で発信していない人も多いですが、その状態でも信頼を得たいと思うものなのでしょうか?

寺口:はい。Twitterなどのニックネームは完全匿名とは違って、発信者とアカウントが結びついていますよね。だから結局、ネット上のキャラクターやアカウントの信頼にはつながるわけです。

批判する行為は実際に周囲の信頼を獲得できるが、印象としては必ずしもプラスではない

――でも、実際にそういった行動でまわりから信頼を得ることができるのでしょうか?

寺口:はい、実際に“信頼される”という実験結果が出ています(※2)。ここでいう「信頼できる人」というのは、「自分を騙したり、裏切ったり、傷つけたりしてこない人」という意味です。

そして、この信頼感があるとまわりの人と関係が築けます。誰でも関係を持つなら「自分を裏切らない人」がいいですよね。だから、わざわざコストをかけて批判をすることにはメリットがあるんです。

――「そんな批判したって意味ないよ!」と着地させたいところでしたが、プラスになってしまうんですね…。生産性のない批判がなくらない根深い問題がここにある気がします。

寺口:ただ、印象としては大きくプラスになるわけではありません。実際に私の研究室でおこなった調査でも、罰を与える人より罰を与えない人の方が親しみやすい人に感じられることは証明されています。

主語や目的語を大きくすると敵対する集団ができやすい。発信の際は言及する対象をタイトに

――難しい質問かもしれませんが、先生は不毛な炎上をなくすにはどうしたらいいと思いますか? 発信する側の注意点なども伺いたいです。

寺口:まずインフルエンサーの方々に対していえば、変に“味方をつくろうとするような言い回し”はしないほうがいいとは思いますね。

――どういうことですか?

寺口:政治、宗教、性別、喫煙、アイドルなどのテーマは炎上しやすいと言われていますが(※5)、それらのネタは総じて「派閥に分かれやすい」という特徴があります。

同様に、たとえば「われわれ◯◯派は」「◯◯が好きな人たちは」といったように、主語や目的語を大きくして発信してしまうと、敵対する集団ができやすい。仲間を守るという名目のもとにいろいろな人が参加して、大炎上につながってしまう可能性が出てくるからです。

――なるほど。発信内容を自分ごと化してしまうというか、「自分も否定されている」と感じる人が増えてしまうんでしょうね。

寺口:あくまで個人同士の話にとどめていれば燃え広がりも小さい範囲で済みますが、集団をつくると意見の殴り合いが始まってしまいます。

ですので、ネガティブなことを言う場合でも、「私はこう思う」「相手のここはおかしいと思う」といったように、主語や言及する対象をタイトに定義することを意識したほうがいいと思います。

言葉を省略しがちな日本語は勘違いを生みやすい。ブログ型の丁寧な情報発信もセットで

――ほかにも発信の際にケアすべきことはありますか?

寺口:あとは日本語ならではの特性といいますか、日本人は主語などの言葉を省略しがちなので、その(省略した)部分を敵対的に読まれてしまう傾向があるような気がします。

――短い文章で発信するTwitterなどは特にそういった状況に陥りやすそうですね。

寺口:はい。ですので、より詳細に意見を伝えられるブログ型の発信ツールもあわせて活用するほうが不本意な炎上は防げるのではないかなと思います。

――ちなみに、やはり“真正面から戦う”のは得策ではないのでしょうか?

寺口:そうですね…批判してくる人を打ち負かそうとするより、相手のまわりにいる人を自分の味方につけるようなメッセージを届けるほうが効果的かもしれません。簡単なことではないと思うのですが。

「信頼を得られない」とわかれば批判をやめるはず。まわりが「NO」を突きつける勇気も必要

――最後に、炎上の当事者ではない人たちにもなにかできることはあるのでしょうか?

寺口:くり返しになりますが、過激な批判をしたり、さらし上げたりする人たちはあくまでも「信頼を勝ち取るためにやっている傾向がある」と言いましたよね?

――はい。

寺口:であれば、「この行動では信頼を勝ち取れない」とわかったら基本的には批判することをやめていくはずなんです。

――たしかに、そうなりますね。

寺口:そういう意味では、まわりの人たちが批判している人にハッキリと「NO」を突きつけることも重要ではないかなと。炎上は当事者同士というよりも、その周囲の人たちが積極的に関与することで解決に近づいていく問題なのかなと思います。

――なるほど。ただ、それはなかなかハードルが高い印象があります…。

寺口:そうですね。ただ、これはテロリストに関する研究なんですが、まわりが反論しないと、本人は「自分の行為を認めてくれている」と思い込んでしまうという傾向があるんです(※6)。自分の研究でも同様の結果が出ました。

――炎上には関わりたくないから傍観するスタンスの人も多いと思いますが、それだけでは気持ちの良いネット社会はできないということなのかもしれませんね。

本日はいろいろな質問にお答えいただき、ありがとうございました。

おわりに

非常に参考になった取材だったが、そのなかで大きなジレンマを感じた点があった。

それは、人間には「批判している人を見ると信頼してしまう」という心理があるにも関わらず、ネットの批判を抑制するためには、まわりがその行為に「NO」を突きつける必要があるということ。

今回明らかになった“信頼を得よう”と批判する側の心理、そしてそれが周囲の信頼につながってしまうという事実を認識することが第三者の適切な理性をつくりだし、自らの行動を考えるきっかけになれば幸いです。

〈取材・文=渡辺将基(新R25編集長)〉

(※1)アーンスト・フェール、ユアーズ・フィッシュバッハ著『Third-party punishment and social norms(Evolution and Human Behavior, 2004)』より

(※2)ジリアン・ジョーダン、モッシュ・ホフマン、ポール・ブルーム、デビッド・ランド著『Third-party punishment as a costly signal of trustworthiness(Nature, 2016)』より

(※3)阪本怜亮・釘原直樹著『なぜ利他行動の自己アピールは悪印象を与えるか(日本グループ・ダイナミックス学会 第64回大会)』より

(※4)吉野ヒロ子著『国内における「炎上」現象の展開と現状:意識調査結果を中心に(広報研究, 2016)』より

(※5)田中辰雄・山口真一著『ネット炎上の研究』(勁草書房)より

(※6)アービン・ストウブ著『Understanding and responding to group violence: Genocide, mass killing, and terrorism(American Psychological Association)』より