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細野真宏の 世界一わかりやすいエネルギーの授業
これが解ければ、あなたのニュースの見え方が変わってくる
テーマ4
「日本の電力会社は原子力依存」って本当?
原子力発電の再稼働がよくニュースになっているけど、日本の電力会社は福島の原発の事故があっても変わったりしていなくて、やっぱり原子力に依存しているんじゃないの?
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 そう考える人も少なくないのかもしれないね。そこで、これを客観的に判断するために、これまでの Lesson1、2の基礎知識を踏まえながら一緒に考えていこうか。

 まず、Lesson2「テーマ2」でも解説したように、「安全性」というのは非常に大事なことだから、福島第一原子力発電所の事故のあとで、国は原子力発電を根本から見直すことを決めて、事故が起こった場合のリスクを最小限にするため、原子力発電を「一から総点検」することにしたわけだね。

 ただ、世界で決めた「地球温暖化問題」への対策をキチンとしなければならないから、日本は2030年度までに温室効果ガスを(2013年度の時点と比べて)26%削減するという目標を決めたんだよね。そして、それを達成するために、再生可能エネルギーの割合を増やしていくとともに、当面の2030年度までは、安全性を厳重にチェックできたものから順に原子力発電も使うことで、なんとか国際公約を達成しようとしているんだ。

 つまり、今の再稼働のニュースというのは、あくまで電力会社は発電構成の約88%を火力発電に頼っているという緊急避難的な状態Lesson1Q3を、正常な状態にもっていこうとしているだけなんだよね。

その話はわかるんだけど、何となく日本の電力会社は原子力発電を動かすことを最優先にしているように感じるんだよね。
2030年度以降も電力会社が原子力発電をどんどん増やしていくようなことにはならないのかな?

 確かに電力会社の顔が見えないから、そういう見え方もするよね。

 でも「日本の電力会社は原子力発電依存」というのは、「ひっかけ問題」で、あくまで緊急避難で止めていたものを動かそうとしているからそう見えるだけなんだよ。

 要は、0%」のものを「20%」くらいに戻そうとしているだけで、この流れをそのまま2030年度以降に、さらに引き上げていこうとしているわけではないんだ。実際に2030年度の時点でも「東日本大震災前」の原子力発電の割合(約26%)よりも下げようとしているよね。

 例えば、僕が東日本大震災後に原子力発電所の見学会に参加したときに、ある電力会社の幹部の人が、僕ら見学者に対して「我々も、もし他に代われるようなエネルギーがあるなら、今すぐにでも原子力発電をやめてもいいと思っている」ということを語っていたりするのが象徴的だね。

電力会社も「コスト」「安全性」「エコ」「安定供給」という「4つの視点」を考えていて、特に東日本大震災以降は、これまでにも増して「安全性」が重要と考えているんだよ。

 そのうえで、まず電力会社には、停電などで経済や生活に悪影響をできるだけ与えないように、会社や家庭に電気を送り続ける「安定供給」が重要な使命としてあるんだ。

 そして「地球温暖化問題」という「エコ」にも対応しなければならないから、これまでのように火力発電ばかりに頼っているわけにもいかないわけだね。

 そうなると、現在の世界の技術力では、「再生可能エネルギー」と「原子力発電」に頼る必要があるんだ。

 まずは「安全性」を考え、最大限「再生可能エネルギー」を増やしていこうとしているわけだけれど、「コスト」「安定供給」という面で再生可能エネルギーばかりに頼るわけにもいかないんだよ。

 例えば「コスト」が関係する電気料金の面では、これからどんどん再生可能エネルギーを増やしていくから基本的には電気料金は上がり続けることになるんだ。これは、余裕がある会社や家庭の場合はそんなに気にはならないかもしれないけれど、やっぱり電気は「社会生活の基盤」になるものだから、バランスをとりながら判断していくことが重要なんだよ。

電気料金がもっと上がっていくことになっても、再生可能エネルギーを増やした方がいいと考える人も少なくないとは思うんだけど、確かに生活が苦しい人には厳しい話なのかもしれないね…。
でも、もっと日本でもうまく再生可能エネルギーを増やせないのかな。あっ、日本もドイツのように風力発電を増やせばいいんじゃないのかな?
だって、日本は「島国」で、東西南北が海に囲まれているから風力発電に向いているんじゃないの?

 そうだね、確かに海に囲まれているから、理屈の上では、日本は風力発電に向いている面もあるよね。

 ただ、風力発電の意外な弱点に、「騒音問題」などもあるんだ。

巨大な羽根が回り続けることで発する音などの問題があって、置ける場所が限られるんだよ。

 例えば、ドイツとの比較で言うとドイツと日本の国土は、ほぼ同じ大きさだけど、人口は、2016年度の時点でドイツは日本より3割近くも少ないんだ。

 だから、ドイツは、日本よりも土地に余裕があって陸地に風力発電の設備を作りやすい面があるわけだね。

 また、海に設置する場合は、岸から遠くて、深くない「遠浅」の場所が理想的なんだけど、実は、この風力発電の「風車のタワー」を海底に固定するのに向いている遠浅の海が、ドイツとは違って、日本では少ないんだよ。

 つまり、日本は確かに海に囲まれているんだけど、風力発電を設置するには向かない地形が多く、無理に設置したとしても、海に固定するためのコストが高くなってしまう面があるんだ。

なるほどね。ただ、海があれば風力発電ができる、というような単純なものではないんだね…。それなら、日本が風力発電を増やすのは、これからも無理なのかな?

 確かに海で「固定する方法」だと日本には適した地形が少ないけれど、風力発電には、海に「浮かせる方法」もあるんだ。

 この方法であれば、日本でも海で風力発電を普及させることができなくはないんだよ。

 ただ、この「浮かせる方法」にも「隠れた弱点」があって、それは、日本が世界に誇る「漁業」の問題にぶつかるんだ。

 つまり、日本の海に風力発電を多く浮かべてしまうと、海の生態系に影響を与えるだけでなく、設備が漁のジャマになったりして、水産分野に悪影響を及ぼす問題が出てくるんだよ。

 このように、現実の社会では、様々な分野が密接に関係して成り立っているから、なかなか絵に描いたような理想的なイメージ通りにはいかないわけだね。

 そこで、これから日本で風力発電を増やしていくためには、人が暮らす場所から離れていて景色をジャマしない所をみつけたり、海で「遠浅」で風力発電に適した地形をみつけたり、漁業関係者と話し合いを進めたりして、地道な取組みを継続していくことが必要なんだ。

そうか。ちゃんといろんなことを考えた結果、今のような状態があるわけなんだね。それなら2030年度以降のエネルギーって、どのようになりそうなのかな?

 まず日本では2030年度に温室効果ガスを(2013年度の時点と比べて)26%削減するという目標を達成するため、再生可能エネルギーを大きく増やす計画にしているよね。

 ただ、実は、そもそもそのような温室効果ガス削減目標は、2050年度まで決まっているんだよ。具体的には、2050年度に(1990年度と比べて)「温室効果ガスを80%も減らす」と、2009年7月に日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、カナダ、ロシアの首脳が集まるG8Group of の略)において、「ラクイラ・サミット首脳宣言」として、先進国が世界的に合意しているんだ。

 つまり、ドイツだけが「温室効果ガスを80%減らす」という目標を持っているわけではなく、これは、日本も含めた世界の先進国が、2050年度に向けて「地球温暖化問題」に同じ規模で取り組まないといけないものなんだよ。

2030年度の目標だけでなく、2050年度まで目標が決まっているんだね。
でも、原子力発電をこれ以上は増やせないような状態で、本当に2050年度に(1990年度と比べて)「温室効果ガスを80%も減らす」という目標なんて実現できるの?

 まず、太陽光発電にしても風力発電にしても、再生可能エネルギーの場合は、天候次第といった「不安定なエネルギー」であるわけだよね。まさに、これが現在の技術だと「安定供給」という面から、かなり大きな問題点になってしまっているんだ。

 さらに、電力というのは、あくまで大規模に貯めておくことができないものなので、現状だと、再生可能エネルギーの場合は、「使いきれない無駄な電力」を日中に多く生み出すことにもなっているんだよ。

 ただ、本気で再生可能エネルギーの普及を進めるには、このような課題を、世界的に解決しないといけないわけだね。

 そこで今、この課題を解決し得る有力な方法の1つとして「パワー to ガス」という仕組みの開発が進められているんだ。

 これは、簡単に言うと、余った電力(パワー)を「水の電気分解」に活用することで水素などのガスを発生させて、「水素」を取り出す方法なんだよ。

 この技術が発展していくと、再生可能エネルギーによって余分に出来た電力から、「水素」を取り出して、その水素を貯める「水素ステーション」を整備したりすることで、新たな形で「電気を貯める」ということが可能になってくるんだ。

 そして、「水素」というのは、酸素と反応すると、「エネルギー」と「水」を生み出すから、「水素」で走る自動車の普及も可能になっていくんだよ。

 自動車の燃料に「水素」を入れておけば、空気中にある「酸素」と反応して、その「エネルギー」で自動車を走らすことができるからね。

イメージ

 つまり、その自動車は走っても「水」を出すだけで、「地球温暖化」の原因になる「排気ガス」を一切出さないような、「地球温暖化問題にも適した最先端の乗り物」になり得るんだ。

へ~、まだそんなに実感がないけれど、世界ではエネルギー問題にキチンと向き合って、将来のことをちゃんと考えているのか。エネルギーの話というのは、まず、設備を作るのには、それなりの時間が必要だし、ましてや、これまでにない技術というのは、さらに時間がかかるものなんだね

 そう、魔法のようにパッと瞬間的に変われるようなものではないんだよ。

 例えば、かつては電気すらなかった時代から始まって、1800年に初めて電池が発明されて、その後に「白熱灯」や「白熱電球」ができて、街や家庭に電気がつくようになったんだ。

今となっては「白熱電球」は、多くの不要な熱やCO2を出したり、環境問題に優しい「エコ」なものではないけれど、やはり戦前、戦後の世界の人たちの暮らしを支えるためには、必要不可欠なものだったわけだね。

 ただ、技術はどんどん進んでいって、「蛍光灯」や「蛍光ランプ」が登場し、課題は改善されて、さらには、「LED」(発光ダイオード)という新たな仕組みが発明されたんだ。

 この「LED照明」は、従来の白熱照明と同じ明るさを作るのに必要な電力が少なくて済むだけでなく、不要な熱となって失われる電力も少ないのでCO2の量も大幅に抑えられるようになるなど、「環境問題にも優しいエコな電気」にまで時代とともに進化し続けているんだよ。

なるほど。電気は、「あって当たり前のもの」だったから、考えたこともなかったけど、実は200年の間に、ものすごく進化し続けていたんだね

 まさにそういう話なんだ。電気のような、社会にとって必要不可欠な仕組みは、時代に合わせて変わり続けていくものなんだよ。

 例えば、戦後に壊滅的な打撃を受けた世界経済が大きく成長していく過程で、大規模な電力が必要になって、さらには、地球上の限られた資源を必要以上に使わずに、できるだけ効率の良い発電方法が求められるようになったわけだね。そこで、最先端の技術を結集して「原子力発電」が発明されたんだ。

 そして、技術がどんどん進化していけば、いずれは「白熱照明」から「LED照明」への移り変わりのように、今の「原子力発電」に代われるような資源の使用量を最小化しながら大規模な電力を生み出せ、温室効果ガスも減らせる発電方法などが生まれる可能性さえもあるんだよ。

 つまり、日本も含めた世界の先進国が「温室効果ガスを80%減らす」ためには「2050年度に向けた技術革新」がどのくらいのスピードで達成できるのか、にかかっているんだ。

 さらに言うと、このような取り組みを進めることで、ある段階から、世界で原子力発電をどんどん減らしていくことも可能になっていくんだよ。

そうか、先進国を中心に「脱原発」が進んでいけば、いくら新興国で原子力発電が増えていっても、トータルでは減っていくかもしれないわけだね

 そういうことだね。さらに、世界のエネルギーの技術が進化していけば、新興国も、火力発電や原子力発電に頼らずに、電力を安定して供給できる社会になる可能性もあるよね。

 つまり技術革新が進めば、日本も、原子力発電がない国になる可能性は決して低くはないんだよ。

それなら、技術革新が進めば、2050年度くらいには世界は「脱原発」までも実現しているのかもしれないわけだね

 いや、場合によっては、技術革新が想像以上に早く進めば、2050年度よりも前に、世界が大きく変わるかもしれないんだよ。

 例えばドイツを中心としたヨーロッパなどで「パワー to ガス」の技術開発が進んでいて、ドイツでは、2030年をめどに実際にビジネスとして成り立つレベルにする目標を立てているんだ。※5

 実は、日本でも2020年に行われる東京オリンピックでは、「水素エネルギーを駆使した環境に優しい大会運営を目指す」という方針なんだよ。

これまでもオイルショックなどの危機のたびに日本では自動車などの分野で「エコな新たな技術」を生み出して世界に貢献してきたように、日本の技術力は世界に誇れるものがあるから、日本の新技術にも期待したいよね。

 いずれにしても「パワー to ガス」などが象徴する「新しい仕組み」電気を貯める性能が飛躍的に上がる「超高性能な蓄電池」などをこれからも世界的に生み出していければ、2050年度の「地球温暖化対策」の目標も達成できる可能性は決して低くはないし、今も、未来も、すべての人たちのベースである「地球」を守り続けることができるようになるわけだね。

  • ※5:「欧州におけるPower to Gasコンセプト」 『海外電力』2016年1月号より

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