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これが解ければ、あなたのニュースの見え方が変わってくる
テーマ5
「人はご飯を食べるごとに被ばくしている」って本当? 福島の原発の事故で、福島から避難してきた人たちに対して「震災いじめ」というのが起こったりもしているみたいなんだけど。「放射能がうつる」とかって本当なの? そもそも「放射能」というのが実はよくわからないんだけど……
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 まず、「震災いじめ」というのは、知識のない人たちがやっている行為で、実は、これは「教育問題」でもあるんだよ。

 なぜなら、「放射能」や「放射性物質」というのを、ほとんどの人たちがあまり知らないで「誤解」していることが大きな背景にあるからなんだよね。

 例えば、福島第一原子力発電所で事故があって「放射性物質」が飛び出したことから、そういうおかしな「いじめ問題」が出ているんだけど、最初に知っておきたいのは、そもそも原子力発電の事故があろうとなかろうと、放射線を出す「放射性物質」というのは、日本中で溢れていて、それこそ、私たちが毎日、生活をするときに必ず接しているものなんだ。

 よく「放射線」の例として、病院でレントゲン写真を撮った時に「被ばく」するということが「わかりやすい具体例」として出てくるよね。確かにそれも事実なんだけれど、「放射線」による「被ばく」というのは、実は、そういう特殊なものだけでなく、人は毎日の食事の時にも「被ばく」しているんだよ。

えっ、どういうこと? 
普通にご飯を食べると「放射性物質」を食べることになるってこと? 
それって、原発事故の影響なの?

 まず、何でも福島第一原子力発電所の事故に結びつけて考えようとすると「本質」が見えなくなるから注意が必要だね。

 一般的な事実として「福島第一原子力発電所の事故が起こる前」でもそうだったように、基本的に、どんな食べ物にも「カリウム40」などの「放射性物質」が含まれているものなんだよ。

 つまり、「人はご飯を食べるごとに被ばくしている」というのは、「ひっかけ問題」のようだけど、実は、これは「事実」なんだ。

 もちろん、これは、日本だけではなくて、世界中で言える話なんだよ。

 さらに、福島第一原子力発電所の事故の前から、そもそも世界中の「大気」や「土壌」においても「放射性物質」は存在していて、普通に散歩していても、家にいても、寝ていても「被ばく」し続けているものなんだ。

 原子力発電事故とは関係のない「宇宙」においても「放射性物質」はあって、それらの影響で、例えば、東京からニューヨークに「飛行機で一回往復」するだけで、0.11~0.16(ミリシーベルト)の「被ばく」があると測定されているんだよ。

 これは、胸のX線検査の0.06(ミリシーベルト)よりも高い数字になっているんだ。(※これらの数字は国連科学委員会2008年のデータで、以下も同じ)

 つまり、「放射線」それを放つ「放射性物質」は、世の中に当たり前に存在しているもので、世界中の人たちが毎日、体に浴びたり、体内に取り込んだりしているものなんだよ。

へ~そうなんだ…。何となく「放射性物質」=「怖いもの」という感じで、できるだけ避けようとしていたから、意外だったよ。
そうか、放射性物質というのは「塩分」と同じような話で、ある程度は問題ないけれど、一定の量を超えてしまうと体に毒になる、という話なのかな?

 まさにそういう話で、「お酒」などのアルコール類も同じような仕組みで、飲み過ぎると体に悪影響が出てくるわけだね。

 同様に、例えば Lesson2「テーマ4」でも解説したように、「放射性物質」のラジウムやラドンなどは、「温泉」の成分の素にもなっていて、人体に良い効能をもたらすといったような話も、これと同じ仕組みだね。

「空気」や「食べ物」や「大地」や「宇宙」から受ける放射線のことを「自然放射線」というんだけれど、この「自然放射線」は、世界平均でも、1年間で2.4(ミリシーベルト)という水準になっているんだ。※6

 ちなみに、同じ放射線量でも1年間にわたって受けるよりも短時間に受ける方が影響の度合が大きいと言われているんだ。例えば、短時間に100(ミリシーベルト)の「全身被ばく」を受けてしまうと、がんになる確率が、通常よりも0.08倍くらい高くなる、という水準なんだよ。

 さらに言うと、1000(ミリシーベルト)の「全身被ばく」で、1割程度の人が吐き気や体に何らかの異常が出ると言われていて、7000~10000(ミリシーベルト)の「全身被ばく」まで行くと、もう生き残ることが難しい水準と言われているんだ。

 いずれにしても、普通の生活を送っている限りは、必要以上に「放射性物質」は気にしなくても大丈夫なんだよ。

なるほど、「放射性物質」というのが実際に体に被害を生むのは、ケタが違い過ぎる話なんだね。
あ、でも、原子力発電の事故で、福島は他よりも放射性物質は増えたんだよね? それでも、本当に大丈夫なのかな?

 まず、震災前の時点で日本人が「食べ物」を食べることで受ける放射線は、1年間で0.99(ミリシーベルト)となっていたんだ。

 ちなみに、「宇宙」や「食べ物」などから受ける「自然放射線」は、日本では2.1(ミリシーベルト)で、世界の平均よりも低かったんだよ。

 そして、これらが「福島第一原子力発電所の事故」でどうなったのか、というと、一番心配されている「食べ物」については、厚生労働省など(他は京都大学と朝日新聞社、日本生活協同組合連合会)が調べたところ、年間で0.003から0.02(ミリシーベルト)の上昇が確認されたんだ。※7

えっ、年間でそんなにしか増えていないの? 一番高い0.02(ミリシーベルト)の場合でも、東京からニューヨークに「飛行機で一往復」するだけの0.11~0.16(ミリシーベルト)と比べてもかなり低い値なんだね…。
あ、でも、やっぱり原子力発電の事故の影響もまだ残っているだろうし、福島で作られた食品には少し心配もあるんだけど、大丈夫なのかな?

 確かに、放射性物質というのは、目に見えないものだから、そういう心配が出てくるのは、仕方のない面はあるよね。

 ただ、実際には、それらはあくまでイメージで、実は「福島産の食品」は、世界的に見ても安心できるものになっているのが実情なんだよ。

 要は、これも簡単な「ひっかけ問題」でもあるんだ。

 なぜなら、まず、世界の食品については、数量が多すぎるので、安全かどうかなんて検査しきれないものなんだよ。

 だから、ニュースで「食品偽装問題」などが世界的に後を絶たないわけだね。

 でも、日本の場合、もともと全国で共通のルールがあって、比較的、食品の検査はしっかり行われているんだ。

 その上で福島県では、消費者の安心を得られるように、例えばお米ならすべての袋をチェックする「全袋検査」までやってから、検査を通過したものが売りに出される仕組みになっているんだよ。

ここまでのチェック体制を他の地域では真似ができるものではないから、結果として「福島産の食品」というのは、実は他の地域のものより安心できる面があるんだ。

なるほど、イメージだけで思考停止していたみたいだね…。確かに実際の仕組みを冷静に考えてみれば、徹底的に検査をしてから安全と判断されたものしか買えないんだから、むしろ安心度が高まるわけか。
だけど、福島で事故が起こった原子力発電についてのニュースでは、まだ放射線がこれまでにない大きさで観測されたりしているみたいなんだけど、本当に大丈夫なのかな?

 そうだね、事故を起こした福島第一原子力発電所についてのニュースでは、「過去最高の放射線が観測された」というのが、いまだに大きなニュースになり続けているよね。

 だから、福島の食品などが本当に大丈夫なのかな、と心配になる気持ちも、わからなくはないんだけど、実は、これも「ひっかけ問題」なんだ。

 まず、実は、「放射性物質」に関するニュースは2種類ある、ということをしっかり理解しておこうね。

 1つ目は、食品や大気中の放射線の数字のような「日常生活で接する放射線のニュース」

 そして、もう1つが「事故を起こした原子力発電所内の放射線のニュース」なんだ。

 マスコミもこの2つの区別を明確にしないで、ただ、「過去最高の放射線が観測された」という話を煽るような形でニュースとして流し続けているけれど、これは、人に誤解を与えて「風評被害」を生む原因そのものなんだよ。

 だって、ほとんどの人たちのイメージとは異なって、「事故を起こした原子力発電所内の放射線のニュース」について「過去最高の放射線が観測された」というのは、どちらかと言えば「良いニュース」なんだから。

えっ、なんでそうなるの? 放射線の数字というのは、高ければ高いほど、問題があるんじゃないの?

 基本的な「日常生活で接する放射線のニュース」においては、その通りなんだけれど、これが、「事故を起こした原子力発電所内の放射線のニュース」となると、まったく意味合いが異なるんだよ。

 なぜなら、事故を起こしてしまった福島第一原子力発電所は、これから解体して処理をするものだから、その調査をしている過程で「高い放射線」が確認されたら、それは、事故の核心部に近づいていて、問題解決に向かっている、ということを意味しているからね。

 つまり、これからも「福島第一原子力発電所の調査で過去最高の放射線が観測された」というニュースは出続けることになるけれど、これは「心配だ」として捉える話ではないんだ。あくまで「福島第一原子力発電所の内部で調査を続けて、より高い放射線を出す中心部に行くために努力をしている最中で、より高い放射線が観測された」という話だから、このニュースは「どんどん事故の処理が進んでいるんだな」と冷静に捉えておくべきものなんだよ。

 そして、その話とはまったく別に「食品などの検査」は行われ続けているわけだから、「事故を起こした原子力発電所内の放射線のニュース」と「福島の食品の安全性」とは正しく分けて考えられるようにならないと、判断を誤ってしまうんだ。

なるほど、確かに少し考えてみれば当たり前の話なんだね。でも、これまでのニュースでは、そんな解説は見たことがなかったし、それを明確にしながらニュースを伝えないと、多くの人たちは、ただ不安を感じてしまうだけだよね…

 そうなんだよ。本来は風評被害をなくさないといけないのがニュース番組の役割なのに、逆に「風評被害を生み出している」というおかしな状況になっているんだ。

 実は、これは最初に出てきた「震災いじめ」の話でも、まったく同じなんだよ。

 例えば、震災関係をよく扱う某ニュース番組では「震災いじめ」を非難しているのはいいんだけど、まとめとして、番組の司会者が「何度も言いますけど、原発事故がなければ避難する必要はなかったわけですからね」という発言をしていたりするんだ。これが象徴的だけど、要は、雰囲気だけの「現実逃避」のような解説をし続けてしまっているんだよ。

 もし、こんな理屈でニュースの解説が成立するのなら、自動車事故に関するニュースでは、「そもそも自動車事故(自動車)がなかったら」とか、飛行機事故に関するニュースでは、「そもそも飛行機事故(飛行機)がなかったら」という現実逃避した設定での解説で済んでしまうことになるわけだね。だけど、こんなニュースを聞いていても何が重要なのかがまったく見えてこないよね。

「震災いじめ」というのは、そもそも「放射能」とか「放射性物質」について、みんながわかっていないから起こるんだよね?

 まさに、そういうことが根本にあるんだ。

 学校で起こっているから「子どもの問題」として捉えられがちだけど、実際には「大人の問題」でもあるんだよ。

 なぜなら、大人が「放射性物質」の仕組みなどを理解せずに、雰囲気だけで判断したり話したりするから、いつまで経っても教育は機能しないし、教師や親が教えられないと、風評的ないじめはなくならないんだからね。

 つまり、「震災いじめ」を取り上げるなら、問題の根本をもっと深く理解しないといけないし、「放射性物質」は、そもそも避難先にも、もともとあるし、みんなが震災前から食べたり、宇宙からも浴びたりし続けているものなんだと、キチンと子どもでも理解できるように解説することこそが必要なんだよ。

 このように、キチンと仕組みが理解できると、実は、ニュース番組というのは、思っている以上に、いい加減に作られているんだな、というような話までわかるようになるんだ。

 例えば、さっき例にあげたニュース番組では「地球温暖化問題」についても積極的に取り上げているんだけど、残念なことに、表面的な話だけで終わっていて、単に問題を煽るだけで終わってしまっていたりもするからね。

 ここでは、主に「エネルギー」を題材に解説をしてきたけれど、実は世の中には、多くの「ひっかけ問題」があって、ニュース番組や、そこで解説をしたりする「専門家」といわれる人たちは、平然と出だしで間違えていたりもしているんだよ。

 このように、ニュースが自分の頭で理解できるようになるためには、総合的に判断することが大事で、そのために、正しく「全体像」を理解しておくことが必要不可欠なんだ。

そのうえで様々な課題をどう判断するのかは、最終的には、それぞれみんなのバランス感覚によるものなんだよ。

  • ※6:環境省 放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(平成26年度版)より

  • ※7:農林水産省「食べものと放射性物質のはなし」より

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