インタビュー

「けものフレンズ」アニメプロデューサーが語る、デジタルハリウッド大学院とコンテンツ産業

シンガーソングライター川嶋あいさんのマネージャーから始まり、アニメ「けものフレンズ」や「ラブ米」のプロデューサー等、多方面で活躍している福原慶匡さん。本学に入学した動機やこれから取り組みたいことを中心に、数多くを語っていただきました。

実務に応用できる学びが、
デジタルハリウッド大学院の魅力

 

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-はじめに、デジタルハリウッド大学院に入学した経緯を教えてください。

 

BtoG(国)に対してエンターテイメントのポジションを上げるためにがんばろうと思っているんです。だけどどれだけヒット作品を持っていてもおじさん達には通じないんですよ。単純に学位があるとか、どこそこで教授やってますの方が多分伝わるんじゃないかと。アニメのプロデューサーは現場で育てられる事が多いのでアカデミックな感じでやってる方はあまりいないと思いますが、僕自身アニメ業界に4年前に入って非常に歴が浅いので、差別化できる強みを持たなくてはと思って入学しました。

 

-大学院での学びは、お仕事においてどのように活きていますか。

 

現場からの叩き上げの方はコンテンツ系の作り方は分かるんですがビジネス面に弱いです。
自分自身がそんなに弱いとは思ってなかったんですけどちゃんと1から説明を受けるときちんと理屈が入ってきました。例えば法律周りのところで、四宮先生(科目「コンテンツIP基礎」ご担当)には作品顧問として入ってもらっています。政策委員会の仕組みも色々な仕組みがあって知らないと分からない部分があるので普通に仕事に応用しています。

 

これからはソフトが強くなってくる時代。

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-これからコンテンツ業界はどうなると思いますか。

 

最近ソーシャルで物を発信するクリエイターが多いですね。クリエイターの発言力が強くなってきているんです。この後必ず、ソフトとハードに分けるとソフトの人たちが強くなってくる時代だと思っています。なぜかと言うと、ハードの進化ってソフトの進化に比べて楽なんですよね。たとえば、ボタンが5個あったものが10個になったら誰が見ても進化って分かると思うんです。でも、たとえば、オセロがPS4で出たとしてもオセロの楽しさは変わらない。

 

オセロのソフトとしての楽しさというのは、オセロが生まれた時から変わっていないはずなんです。ただ、例えば4Kで、HMDで、ホログラフィックでオセロが出てもソフトは多分変わらないけど、ハードの金額は上げられる。この進化はビジネスマンにとっては、定量的で非常に分かりやすいんです。だけど、プレイヤーからしたら「べつにバーチャルでオセロやる必要ないよね。普通にやるので良くない?」となるので、ソフトとしての限界値を迎えているんです。

 

SWITCHとかWiiみたいな、ちょっと面白さを体感できるような方に最近はなってるんですけれど、その方向ってスケールするのが結構難しくて。さっき言ったようなボタン5個が10個になったよというような進化だと「ああなるほどね。2倍お金払えばいいのね」みたいにパッと分かるけれど、ソフトの場合「この面白さはやってみないとわからないですよ」って言ってもなかなかやってくれないじゃないですか。みんな。

 

やっぱり、そうなると面白さが広がるのはすごくゆっくりになるんです。

 

ハードが限界を迎えた段階でそれに対応するソフトがないとダメで、じゃあソフト作れる奴はクリエイターだよねとなって、じゃあクリエイターとしゃべれる奴誰?ってなった時に、今あまりいない気がしています。そこでプロデューサーがいる、共通のバイリンガルがプロデューサーでなきゃダメだって時代が必ず来ると思っています。

 

ハードの進化はこれ以上意味無いって位にしちゃったんだと思うんですよ。
僕は今アニメ作ってますけれど8Kでアニメ作れって言われたらメチャクチャデカイ紙に描かなきゃいけないんです。でもさっき言ったとおり、面白さって変わらないじゃないですか。これまでのアニメをこれまでよりデカい画面で見る意味って無いってことになると思うので、結局ソフトの面白さが、もうハードに追いつけなくなっているということだと思います。オーバースペックになっているというか。となると、ソフトに帰ってこなくてはならなくなると思っています。

 

プロデューサーとして大事なのは「真ん中」を知ること。

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-ではこれからのコンテンツ業界に必要なものは何でしょうか。

 

クリエイティブをきちんと理解しているプロデューサーですよね。プロデューサーっていう単語の定義もメチャメチャ広義じゃないですか。ひとことで言うとビジネスとクリエイティブ両方を分かっていないとダメってところだと思うんですよね。海外のプロデューサーはすごく自立してていいなって思います。言語や文化というのは何か原因があって形成されていると思うんです。芯が何なのか、重心がどこにあるかがすごく重要です。

 

本当に良いことはこれって分かっているけれど怖かったり、やりづらかったり、言いづらかったりするから避けるじゃないですか。それでうまくいかなくなってたりすることが多いんです。

 

サラリーマンは上司の言うことをちゃんときくということ=クビにならないということが明日の食い扶持を確保することになると思うんです。でもクリエイターは自分の結果で明日の食い扶持を保証するしか無い。すごいプロデューサーに接待めちゃくちゃやってヨイショしてても結局、自分が作りたいものはできないと思うし、明日の食い扶持をどうやって確保するのかが、やっぱり人間だし、大事な原理なんです。

 

クリエイターからすると、クソみたいな仕事をしないってことが自分の名前を下げないために重要だから、滅茶苦茶な依頼が来た時にきちんと蹴ったり、断ったりしてモメたりするじゃないですか。それって、ビジネス側がクリエイター側のことを理解せずに、表面上だけ搾取しようとした結果なんです。クリエイターの明日の食い扶持を減らす仕事のさせ方です。でもそれが分からない人が多くって。
だから、真ん中でこの人は何を大事にしているのかな、と分かることが大事なんです。

 

別に「あなたは金が儲かればいいんでしょう、僕は名前下げたくない。だからその中間地点の仕事しよう」という風にやればよいだけなんですけど、お互いがお互いの仕事の本質が分かっていなくて、お互いが欲張っていたらやっぱり折り合いがつかないと思うんです。「金はもうけたいし、この色は使って欲しいし、俺もちょっと有名にしろ」とか言われたら「そんなんできねーよ!」ってなるじゃないですか。「もっと金もってこいよ」ってなるし。じゃあその中で、「あなたは何を一番大事にしたいの」っていう「本当に譲れないものは何」って言った時にその譲れないというものをちゃんと守りますということをちゃんとやったりする、その整理とかもプロデューサーとして大事な仕事ですね。

 

人の心にカウンセラーのごとくガンガン入っていかない限り、めちゃくちゃ上辺で付き合われるようになるんです。こっちも上辺であっちも上辺だと絶対良いものは生まれなくて絶対ファンがつかないです。だから見えている状態にするためにかなりつっこんで話します。真ん中が何かっていうこと、つまりこのプロジェクトの真ん中が何か、あなたの真ん中が何か、僕の真ん中が何か、それが全部リンクしないといけない。欲張りが何人かいるとそれが難しくなる。

 

「その人にしか見えていないゴール」は見たことない人には伝わらない。
「でも本当はどうだっけ?」

-クリエイターと聞くと「職人気質」というようなイメージが付きがちだと思いますが、プロデューサーとしてクリエイターの方々と仕事をする上で心がけていることはありますか。

 

「職人気質」とか「こだわりが強い人」って別にいないと思っていて。それは単にこちらが理解不足なだけなんです。あの人はこだわりが強い云々というのは結局こっち側の表現であって、「俺はこだわりが強くてね」って言ってる人ってそんないないと思うんです。

 

じゃあ「こだわり」って何かというと、「その人にしか見えていないゴール」なんです。

 

例えば僕しか北海道の場所を知らないとします。で、その状態でみんなで北海道行くぞってなったとすると、みんなバラバラの方向に歩き出す。西に向かったり南に向かったりすると思います。みんな北海道知らないから当然です。なので、「北海道ってどこにあって、こんなところなんだよ」っていう事を共有できるかが大事なんです。そうすれば、南国に行った後に飛行機で北海道に向かったり、結局は北海道に皆到着できるじゃないですか。

 

「その人にしか見えていないゴール」は見たことない人には伝わらないので、 みんな思考放棄して「こだわり」って表現するんです。

 

プロジェクトにおいてクリエイターは何かしらの使命を与えられて集められているはずです。プロデューサーは、さっきの例え話で言うと北海道に行くのが得意な人だけを集めたいじゃないですか。でも、そこで「なんで俺に仕事を頼んだんだ?」って話になることも少なくないです。なんか、八百屋来て「魚買いたい」みたいなこと言われてる感じですね。「お金出してるんだからさ」ってのでゴリ押ししてくるのが難しいところだったりもしますが。寿司屋の客でも、嫌な客いるじゃないですか。「俺にも握らせてみろよ」とか言う。一流の店になればなるほど、そんな客いませんよね。

 

みんなそれぞれの事情があります。その事情もわかるんですが、「でも本当はどうだっけ?」と。10人いて9人負けて、一人だけが勝ちたいということを隠しながら喋ろうとしている。あるいはみんなで2割くらいは負けているけれど、中心は勝っているという状態にしたいのか。つまり嘘をつくなということです。どう考えても、お前は別の目的を持って会議で発言してないか?というのを見逃さないことがプロデューサーとして大事です。チームで勝とうとしているのか自分が目立とうとしているのか、どっち?という。

 

会社内での立場のことを考えても、プロジェクト全体が大きく勝つことと、そいつだけがチョットだけ勝つことを比べたら大きく勝つことの方が評価されるんじゃないかと思うんですけどね。

 

自分と価値観の「違う」人と出会いたい。

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-どんな方と仕事がしたいと思いますか。

 

できる限り、自分と価値観の「違う」人と一緒にいたいですね。

 

ポケモンを集めているようなもので珍しいポケモンって、何にせよ集まったら嬉しいじゃないですか。コイツ、こんな態度とるの!?っていうやつとか嫌な人もたくさんいますけれど嫌な人ですら、何だコイツ!?とか思うじゃないですか。

メチャクチャ人として嫌なやつでも、金稼いでる人とかなんでこんな嫌なやつが結果出せるの?とか含め、面白いですよね。

 

僕としてはデータベースがたくさん欲しいんですよね。人とのコミュニケーションにおいて。新種のポケモンを見つけるほうが、「へぇ、こんなんいるんだ!?」って感動することの方が多いんですよ。自分のキャパシティを広げなきゃいけない。自分と考え方が違う人をいかに取り込めるかということが器が大きいということだと思うんです。

 

プロデューサーは器が大きい方が良い職業だと思います。100人ぐらいのチームをまとめるぞってなった時に「俺、あいつ嫌いなんだよ」って奴がたくさんいたらやりづらいじゃないですか。だから出来る限り、なるべく、色んな奴を取り込めるようになれる方が良いと思います。変な人に会うたびにキャパシティがどんどん広がっていくという所がありますね。

 

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-コンテンツ業界を目指す上で必要な事は何でしょうか。

 

知識以外の部分。情熱ですかね。
情熱だけは教えることはできない。OJTだろうが学校だろうが教えられない。
飲み会を一生懸命やってましたとか、友達いっぱい作りましたとかでも何でも良いんですが、何か好奇心を持って、一生懸命にやっていてくれたら良いなと。情熱さえ持っていれば、知識は後でなんとかなると思います。
好奇心と根気強さがメチャメチャ重要なんです。

 

 

プロフィール

福原慶匡(ふくはら・よしただ)氏

株式会社つばさエンタテインメント取締役

株式会社つばさプラス代表取締役

株式会社アイエヌジー取締役

ヤオヨロズ株式会社取締役

株式会社ジャストプロ社外取締役

株式会DMM.futureworks執行役員

 



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