メール打つときも縦読みで「コロス」〈鳥居みゆき 新刊インタビュー2〉
(PART1はこちらから)
【私、締切は絶対守るの!】
鳥居 いざ小説の話をしようと思っても「なんだっけ?」ってなるね。書いた当時のことなんか何にも憶えてない。本のことなんか、もうよくなーい?
── この時間は、ちゃんと本についてのお話をお願いします。
鳥居 はーい。
── 読んでいて、構成が面白いというか、時代が前後したり、話が行ったり来たりと工夫されてますよね。
鳥居 へー。そうなんだ!
── えーと……それっていうのは、全体の構成を決めてからひとつひとつのエピソードを作ったのか、エピソードを積み重ねた結果、ひとつの作品・世界観が出来あがったのか、どちらでしょうか?
鳥居 最初に世界観なんかできてないです。なんにも考えないで書いていって、後から「ここ全然帳尻合ってないですけど……」って編集の人に言われて、「えー、なんとか何ないすか?」とお願いしたりしてました。伏線を張りすぎた!
── それでも、なんとかまとめたんですよね。
鳥居 なんとかなってないの! ならなかったけど、出しちゃったの、本(笑) そういうもんですよ、お仕事なんて。
── 納期守る方が大事だったりしますもんね。
鳥居 そうなの! 私、締切は絶対守るの! 超エライですよねー。遅れそうな時は「締切遅らせてください」って言うから。
── あ、でもそれはそれで大事なことですよね。
鳥居 だから、締切遅れたことないです。
── 書き終わってみて、「伏線回収してないけど、ま、いいか」っていうのはあったりしますか?
鳥居 あえて放っておいたのはあります。編集の人にも「どうしますか?」って聞かれたけど、途中からメンドクサクなっちゃったのもあって、全部回収する必要はない、ということをすごく論理的に説得しましたよ。ひとつひとつ別な話にもなってるし、あなたが深読みしてね、と。
── 深読みしどころ満載ですよね。
鳥居 でも、私が打ち間違えをしても、編集者も深読みしてワザとこうしてるんじゃないかと、なんか変に買いかぶられてるんですよ。だから、てんで直ってない原稿が上がってきて「直してよー」っていうこともよくありました。「ブルーシート」が「ブルーミート」になってたり。
── でも、なんかありそう。
鳥居 ないよ! ブルーシートはブルーシートでしょ。なのに編集者も「深い意味があるのかと思って」とか言ってきて。だからね、あんまり間違いに気づいてもらえなかった。
── いやぁ、これ、編集するの大変そう。編集者の方にも、お話聞こうかな。
【「女の一生」を書いてもらいたいと思った】
── 鳥居さんを担当して、特に大変なところ、気を使った部分はどこになりますか?
編集担当:幻冬舎竹村氏(以下、竹村) 「↓ラブレター」の章の仕掛けってわかりました? 私、最初に読んでそれがわからなかったんです。その「わからなかったコンプレックス」があって、どうしても原稿を疑ってかかるようになったんですよ。
鳥居 そう! 全然理解してくれないの。わかりすくタイトルに「↓」入れたのに。
(※↓一節だけご紹介)
五月七日
すみません、はじめてお手紙を書きます。
きのう駅であなたに財布をひろってもらった者です。
できたらお礼がしたいです。
すごく助かったものですから。連絡ください。
── ああぁ。だからここに「↓」あるんだ! ゴメンナサイ。私も今気づきました。この「↓」何だろう?って思ってました。
鳥居 原稿を送って、レイアウトされて戻ってきた時には無茶苦茶に改行されていて、「すみません。ここはこういう意図で…」って説明するのが超恥ずかしかった!
竹村 今回、電子書籍でも出してるんですけど、この章だけは画像にしてるんですよ。文字の位置が崩れない様に。
鳥居 ふーん、そういうのがあるんだ。大変だねー。でも、こういうのって、私はすごく楽なんですよ。普段マネージャーにメール打つときも、本当はムかついてるんだけどっていう時に「コロス」って縦書きに読めるようにするのが好きなんです。「ユルサナイ」とか。でも、向こうは気づいてないんですけどね。
── でも、すごいなぁ。「コロス」とか「ユルサナイ」の3~5文字くらいならまだわかりますけど、こんなに長い文章で、ちゃんとしたストーリーにもなっていて、そんな仕掛けをやるなんて。ほかに、何か隠してる仕掛けはあるんですか?
鳥居 見た目で遊んだのはそこだけです。そういうのはひとつでお腹いっぱい。でも、一個あるだけで「他にもあるんじゃないか」って読者が勝手に探してくれたら「ざまぁ」って思いますね。へへへ(笑)
── 編集者にしてみたら、ひとつでもそういうのがあったら、全部疑っちゃいますよね。
竹村 そうでしょ! 特に説明もないんですよ。単に間違っているのか、わざとなのか、っていうのを考えるクセが身に付きましたね。
── でも、編集者って最初の読者だから、わかるかどうか作者として試す部分もありますよね。
鳥居 確かにそうですね、謀りましたね。「あなた、本、好きなんでしょ」と(笑)
── 最初、鳥居さんに原稿依頼するにあたって、「こういう話にしてほしい」というようなお願いは何かしたんですか?
竹村 「ひとつの話に繋がるようにしたい」というのと、「普通の長編じゃなく、ギミックを効かせたり、何か仕掛けは入れたい」とは思ってましたね。そこの面白さが鳥居さんなら絶対できると思ったので。それ意外の筋については特には……。
鳥居 うん。私はとにかく「長く書いて」とだけ言われましたよ。
竹村 本当は、鳥居さんならではの「女の一生」を書いてもらいたかったんです。舞台の『狂宴封鎖的世界「再生」』を見た時に、そう思ったんです。
鳥居 そうなの? そんなの、今はじめて聞いた。言われてないよー。
竹村 マネージャーさんには言ったのかな? でも、なってますよね、「女の一生」に。
鳥居 マネージャー、何にも言ってくれない。でも、通じ合えたんだね。スゴいね。
【「生きたい」という気持ちの方が強くなってきた】
── 前作も今作も、「生と死」についての描写が多いですよね。それは鳥居さんのコントやお笑いでも通じる部分だと思うのですが、「生と死」は常日頃から考えていることなんでしょうか。
鳥居 そうですね。例えば、さっきも話題に出た『狂宴封鎖的世界「再生」』のテーマは「生命力」ですね。以前は、死んだらなんでも解決すると思ってたんです。バイトでも遅刻しそうになったら、「死ねばいいんでしょ!」と。でも最近は、「生きたい」という気持ちの方が強くなってきたかもしれないですね。
── なぜ、「生きたい」に変わってきたんですか?
鳥居 私、昔から「35歳で死ぬ」って言ってきたんです。ホントに死ぬかどうかはわからないけど、最近になって、その考えがあるからやりたいことを早めにやれてる!ってことに気づいたんです。だから、「35歳まで」って決めていてよかったなぁと思って。36歳以降はもうふぬけになると思うんですけど(笑)、それでもやりきれないくらい、やりたいことがいっぱいありすぎる!
── じゃあ、前作よりも今回の方が、「生きる」という部分をより出したんですね。
鳥居 でも、どっちも「生きたい」ということを書いているんですよね。前作も「死」をテーマにしたわけじゃなくて、死を考えることで「生きる」ことを書いた。今回はそのバランスがちょっと変わってきた、ということですね。まあ、塩スイーツみたいなもんです。
── 塩スイーツ!?(笑)
鳥居 どっちを強調すると甘さが引き立つのか、ということと同じです。それにしてもこの部屋暑いねー。(マネージャーの)芦沢君がエアコン止めてんじゃないの?
── また、そんな濡れ衣を。
鳥居 そんなことないよー。聞いて、ひどいんだよ。彼って、私が「これ、どうしたらいいの?」って聞くと「どうしましょう?」って返してくるんだよ。もうゆとりがひどいんです。何かにつけて「だって〇〇なんですもん」って言い訳するし。この前も「今日の収録、テッペンくらいまでかかりますかねー、9時とか」って言ってて、それ、全然テッペンじゃないよね、真横だよね? と……あー、また私、マネージャーの話してる。本の話しよ。
── しましょう! タイトルを『余った傘はありません』にした理由は? 元々は『四月一日』というタイトルだったんですよね。
鳥居 『四月一日』っていうタイトルがそもそもウソー!
── あ、そこからもう狙っていたんですね。
鳥居 『余った傘はありません』にしたのは……アレですね、「大人になる」という意味です。大人になると、自分らしさや素直さって欠如していくじゃないですか。それによって生じるフラストレーションを表現してみました。……って言ったらカッコイイですか?
── ……うーん。カッコイイは、カッコイイですかね。
鳥居 なんとなく英語入れると、それぽっくなるんですよね。マニュファクチャーとか、バーニャカウダーとか。なんとなくそれっぽいでしょ(笑) まあ本当は、雨が降っていて傘を持ってるんだけど、恋人でも知り合いでも「一緒に入ろう」って言えない気持ちです。結果的に「貸せる傘なんてないよ!」って強く出ちゃう態度。私、後輩に対しても強く出ちゃって、「遊ぼー」が言えないんです。「遊んでやろうか」「ごはんおごってやろうか」ってつい言っちゃうんです。そうしないと、怖いじゃないですか、断られることが……
芦沢マネージャー 話の途中にごめんなさい。この部屋の使用時間が終わっちゃって、隣の部屋に移っていただけますか?
鳥居 えーー、こんなタイミングで? なんで前もって言わないのよ。ね、ダメでしょう。
(PART3へ続く)
(オグマナオト)