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【スポーツ】

ライバルの飲料に禁止薬物を混入! カヌー鈴木、東京五輪出場へ焦りか

2018年1月10日 紙面から

愛媛国体カヌー競技の表彰式に出席する鈴木康大(手前)と小松正治=2017年10月4日、愛媛県大洲市の鹿野川湖特設カヌー競技場で(榎戸直紀撮影)

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 スポーツマンシップを根底から裏切る前代未聞の事件だ。日本カヌー連盟は9日、昨年9月のスプリント日本選手権(石川県小松市)に出場した鈴木康大(やすひろ、32)=福島県協会=が小松正治(25)=愛媛県協会=の飲み物に禁止薬物を意図的に混入させたことを明らかにした。当時陽性反応が出た小松は暫定的な資格停止処分が解除され、故意にライバルを陥れようとした鈴木には日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が8年間の資格停止処分を決定、カヌー連盟も最も重い除名処分を科す見通し。鈴木はさらにライバルの用具の盗難、破損なども認めており、石川県警小松署が捜査していることも明らかになった。

 正々堂々-。スポーツの大原則の中の大原則から最もかけ離れた悪質な行為が起きた。日本カヌー連盟の成田昌憲会長は「世界でも類を見ないと思う。謝っても謝りきれない問題をしでかした。スポーツの関係者、全ての方に深くおわび申し上げる」と、前代未聞の不祥事に声を絞り出した。

 加害者の鈴木、被害者の小松両選手は、昨夏の世界選手権(チェコ)男子カヤックシングルの日本代表。鈴木は昨年9月11日の日本選手権でレース会場に置いてあった小松の給水ボトルに禁止薬物の筋肉増強剤「メタンジエノン」の錠剤を破砕して混入した。それを小松が飲んでしまったことで、その後のドーピング検査で陽性反応が出た。

 鈴木は「本当に出るとは思っていなかった。やってしまった後に怖くなった」「若手が台頭し実力が伸びてきて勝つことができなくなった」などと動機を告白。「地元の五輪にぜひ出たいと焦りがあったと思う」(古谷利彦専務理事)。その思いがゆがみとなり、愚行に走らせたのだろう。

 それ以外の悪質な所業も判明した。2010年ごろからカヌーをこぐパドルの破損、紛失などの被害が頻発したが、それらも鈴木自身の手によるものと自白。小松に対しても、パドルや衛星利用測位システム(GPS)装置を盗むなどの行為を働いていたという。

 さらに、カヌー連盟の春園長公事務局長は「2人は非常に仲が良かった。A検体が陽性になったときも小松はまず鈴木に連絡、相談している」と証言した。最も身近なライバルに対する卑劣極まりない行為だった。

 鈴木は昨年11月の合宿で、連盟が小松の事例を用いながら訴えたドーピング撲滅の啓発に、良心の呵責(かしゃく)に耐えかねて合宿を離脱。後日、古谷専務理事に「私の愚かな至らない点。弱いところ」「無実の小松選手に償いをしたい」と告白し、小松の無実が明らかになった。だが、リオ五輪でスラロームの羽根田卓也が初の銅メダルを獲得したカヌー界の上昇機運に水を差すだけではなく、日本のスポーツ界に決して消すことができない大きな汚点は残ってしまった。

 

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