2017年にフルモデルチェンジした、新型スズキ スイフトに森 慶太が試乗した。国産小型車のなかではとくだんにいいクルマ、と激辛批評家が太鼓判を押す。
運転しやすく乗って快適なクルマをどう作るか。設計的にも仕上げ的にも、最近のスズキはそのへんの勘どころをよくわかっている。クルマに乗ったり、あるいはそれを作った技術者と話したりするにつけ、どうもそう思えてならない。
そのワカッテル感がいちばんわかりやすいのは、クルマでいうとSX4 S-CROSSとエスクード。つまりMade in Hungaryの輸入車で、いってしまえば欧州市場向けの製品のオスソワケ物件である。日本市場における販売台数は、メジャーな国産スズキ車と較べたら現状、スズメのナミダ程度でしかない(数売る気がハナからないのかと思ったら、必ずしもそうではないらしい)。
国産スズキ車のなかではスイフトがヨイ。特定のある部分に注目すれば、他の国産スズキ車にも「おお」となる見どころはある。あるけれど、1台のクルマとしてフツーにオススメ度が高いのは……となると、スイフト。
個人的に殿堂入り認定している国産スズキ車としてジムニーというのがあったりもするけれど、残念ながらジムニーは今回のGQ JAPANのカー・オブ・ザ・イヤーの対象範囲から大きく外れている(遠からず新型が出ます)。
スイフト、国産小型車としてはミョーに運転しやすく、かつ乗って快適でもある。要するに、クルマとしてマトモ。このクラスの日本車だからということで勝手に期待値を設定して乗ると、ちょっとビックリする。「ミョーに」と書いたのは、そのビックリゆえである。いまのこのクラスの日本車は「こんなもんだろう」のレベルを平均値とすると、それと較べて明らかに有意な差がある。もちろん、いいほうに。
スイフトは数売れるクルマだから、順調にいけば、日本全体のモータリングの幸福度がアップすると考えられる。少なくとも、スイフトぶんは確実に。スイフトがイイという認知が拡がれば、他メーカーだって意識する。自分のところの製品をもっと運転しやすく乗って快適なものにしようと努力する……はずである。ロクでもないものが平気な顔で数売れている状況は、いいかげん、変わってほしい(もう飽きた)。
フツーの日本車が、どれに乗ってもフツーに運転しやすく乗って快適という理想へ向かっての、スイフトはひとつの希望の星ともいえる。そういうことでいうなら、“RJC”と“日本”の両COTYをダブル受賞するぐらいのことがあってもよかったとイチ部外者としては思う。そうなったら、カー・オブ・ザ・イヤーというものに対する世間の注目度もグッと上がったろうし。
スイフトはクルマとしてマトモ、と書いた。クルマとしてマトモであるとは、素性が良いということである。その素の部分で、たとえばエンジン。内燃機関のレスポンスがいい。レスポンスを専門用語でいうと過渡応答特性。それがいい。もっと噛み砕いていうと、運転手のいうことをよくきいてくれる。なんということのないフツーのエンジンなのに、フツーに運転していてなんか楽しい。CVTつきの仕様でも運転しやすい。
スイフト用の各種内燃機関は、制御用のコンピューターにボッシュ製のものが使われている。フツーに考えたら、国産品をつけたほうが安く上がるのに。なぜボッシュなのかときいてみた。
技術者いわく、「狙った特性を出すにあたって最も良い答えを出してくれるからです」。狙った特性とはすなわち過渡応答特性。レスポンスのよさ。扱いやすさのモト(もっというと良い実用燃費のモトでもある)。
「モリさん。エンジンは、過渡がすべてですよ」。アクセルペダルをガバッと乱暴に踏み込むとドギャッと加速するのが良いレスポンスだと思い込んでいる人が多いと思うが、それは勘違いである。
あるいは、乗り心地関係。ズブッとだらしなく沈み込んで勢いよく反転したところでキュッと止まるというのが日本車の典型的な症状で、これは疲れるし、走り的にも頼りない。バンと張った感じのアシのほうが実は快適だし安心感もあるのに、それだと「カタい」といわれるからやりたくない。車体がヤワだからそうできないという事情もある。
前出とはまた別のスイフトの技術者いわく、「イヤですよね。伸びて止まるのは」。乗った印象からしても、やはり、わかっているのである。
そういうスイフトの良さがいちばんわかりやすいのは、RSでもハイブリッドでもない素の仕様だと思う。マニュアル変速なら最高といいたいところだけれど、CVTでも悪くない(むしろかえって驚けるかも)。レンタカーでスイフトが当たると、その仕様だったりするのではないだろうか。たぶん。
レンタカーではなくてもいいけれど、とにかくフツーのスイフト。ハイブリッドやターボとかのトクベツなシカケはなにもないけれど、運転して「なんかいいな」。もしそう思ったとしたら、それ。そこです(多くの日本車に激しく欠けているのも)。
電気成分が本格的に多めなのがどうしてもほしいというならハイブリッドも悪くない。コンベンショナルな内燃機関+マニュアル変速機をベースにいわばアドオン的にシステムを構成したスズキ流は実にアタマのいいやりかたで、実際、その素性から想像されるとおりに運転しやすい。
プリウスあたりと違ってハイブリッドの都合につきあわされることなくフツーに乗れるし、クルマとしてはあくまでスイフト。私にいわせれば、“燃費の奴隷”度が低い。
クルマ好きならスイフト スポーツ。スイフトの素性のよさを生かして動的性能領域を拡大した仕様として大筋いいクルマではあるけれど、ハンドル手応えのチューニングの部分でちょっとヘンなことをやっているような感じがあったので、強くオススメはしません。少なくとも、いまのところは。