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CES 2018:アマゾンやUberと組んだトヨタは、新しい自律走行車で「モビリティ企業」に転身できるか
ライドシェアや自転車シェアリング、自転車専用レーンなどが普及するにつれ、配送サーヴィスやバスも交えて歩道の縁石を巡る争奪戦が激化している。こうしたなか全米の大都市は、縁石の利用をコントロールする方向に動き始めた。縁石の活用を念頭にした新しい都市計画の行方とは。
TEXT BY AARIAN MARSHALL
TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO
WIRED(US)
グレッグ・ロジャーズは、2015年にワシントンD.C.在住のロビイストとしての仕事を辞めたとき、クルマと仮想通貨のウォレットをもつ20代半ばのスマートな若者なら誰もがすることをした。2つの配車サーヴィスに運転手として登録したのだ。「新世紀の夢を生きるということは、仕事を辞め、UberやLyftのドライヴァーになって、それで何とか生活していこうとすることです」とロジャーズは言う。
しかし、彼は厄介者でもあった。「乗客の姿がいつもよく見えないし、安全に駐車できる場所も見つけられませんでした。だからわたしは、多くのUberドライヴァーと同じことをしました。ハザードランプを点滅させながらレーンを塞いだのです」
そしていま、ロジャーズはシンクタンク「Eno Center for Transportation」で政策アナリストを務める。彼と同僚だった運転手たちは、いまも違反切符を切られるリスクを冒しながら、後方に渋滞を引き起こしながら渋滞を引き起こしている。
ロジャーズとその同僚たちは、世界中のほぼすべての都市に広がる終わりなき征服戦争の歩兵にすぎなかった。戦場は至る所に存在するものの、あらためて考慮されることは滅多にない。場所によっては、ほんの数cmのスペースしかないところもある。だが、その領土はいまや、欲しがる人たちが大勢いる肥沃な土地となっているのだ。
ここで話しているのは、もちろん、歩道と路肩にある縁石のことである。
かつて歩道は、人々が歩いたりたむろったりするための場所だった。だがこの10年間で、スマートフォンを利用した新しい交通サーヴィスが利用可能になり、そうしたサーヴィスすべてが「歩道」というわずかな領土を探し求めている。
歩道とは、自転車シェアリングや自転車専用レーンにとって、それぞれの利用者が安全に移動できるための重要な場所だ。また、公共のバスや路面電車はもちろんのこと、UberやLyftの乗客、そしてオンデマンドのシャトルバスサーヴィス、チャリオット[日本語版記事]やViaなどの相乗りタクシーや小型乗り合いバスといった、さまざまな乗客が乗降に利用する場所でもある。
さらに、UPS、FedEx、Instacart、Postmatesなどによって、荷物の集配が行われる場所でもある。また、Zipcar[日本語版記事]やMavenといったカーシェアリングサーヴィスや、Scoot[日本語版記事]や台湾のGogoro(ゴゴロ)[日本語版記事]といった電動スクーターシェアリングがスペースを確保しようとする場合もある。都市によっては、駐車スペースの料金徴収について新たに独創的な方法を考えだし、オンデマンドで料金を調整する技術を試みているところもある。
米都市交通担当官協議会(NACTO)は2017年11月20日付けで、新しい縁石管理に関するホワイトペーパーを発表した。NACTOの道路設計構想部門責任者で、このホワイトペーパーを執筆したマシュー・ローは、次のように述べている。「各都市は道路の設計方法について、歩道の縁石から見直し始めています。貴重な歩道スペースを管理するには、さらなるツールが必要だということに気付き始めたのです。歩道とその縁石は、都市が所有する最も貴重なスペースであり、なおかつ最も活用されていないスペースのひとつです」
歩道の縁石をどう扱うかによって、都市全体の方向性が決まる。各地方自治体は、交通システム全体の管理の仕方を、この灰色のコンクリートの塊によって伝え始めている。自転車シェアリングのために場所を開けるといった方法で、市民にリソースの共有を求めるシステムを選ぶこともできる。あるいは、住民の私的な駐車を優先させ、戦争を宣言することもできる。
「縁石について考えるとき真っ先に頭に浮かぶのは、駐車スペースを取り上げられた市民がどう反応するかということです」と語るのは、サンフランシスコ市交通局の計画責任者を務めるサラ・ジョーンズだ。ジョーンズは17年11月にサンフランシスコ湾岸地区の調査支援団体「SPUR」が主催した、縁石に関する驚くほど活気あふれるイヴェントで講演を行った。
個人の利益が縁石を占領していると住民たちは不満を訴えるものの、それはいま始まったことではないことを理解していないようだとジョーンズは述べる。「公共スペースに車を停めておくこと以上に、公共スペースの私物化があるとは思えません」とジョーンズは述べる。
米国の各都市が、縁石の管理についてあまり堅苦しくなっていないのはいいことだ。各都市は、あらゆる人にとって街がもっと住みやすくなりそうな政策を試している。
冒頭で紹介した、UberやLyftの運転手経験をもつアナリストであるロジャーズは、縁石管理の新しいコンセプトを考え出そうと努力してきた。ちなみにこのコンセプトは現在、ワシントンD.C.をはじめとする複数の都市で、極めて真剣に受け止められ始めている。ロジャーズはこれを「共用モビリティーゾーン」と呼んでいるが、一日のうちの特定の時間帯に、市が特定の機能のために縁石を確保するフレックススペースだと考えてもらえればいいだろう。
例えばラッシュアワーには、小規模旅客輸送(マイクロトランジット)サーヴィスのための停車場所として使用する。日中はトラックがここに停車すれば、二重駐車しなくても荷物の積み込みを行える。夜は、依頼を受けて迎えに来たUberなどのクルマが、街角のバーから出てくる客を拾う指定場所となる。「一番いいところは、各都市がそれぞれの目標に基づいて調整できるところです」とロジャーズは語る。
ロジャーズはこの「ゾーニング法」をまだ地方自治体に提案していないが、各都市は同様の考え方に基づいて行動し始めている。ワシントンD.C.は17年10月、フレックススペースのコンセプトをモデルに作成した1年間のパイロットプログラムを開始した。
にぎやかなデュポンサークル周辺にあるコネチカット・アヴェニューは、月曜日から木曜日まで買い物やランチをするのに最適な場所だ。木曜日から日曜日の午後7時から午後10時までは、ここはワシントンD.C.で最も混みあう夜の娯楽スポットとなる。このためワシントンDCは、木曜から日曜の夜には4つのブロックを配車サーヴィスの乗降ゾーンとして確保している。
「(以前)人々は車道にまで流れ出ていました」とワシントンD.C.運輸部門(DC Department of Transportation)の駐車および地上交通の責任者であるエヴィアン・パターソンは話す。パイロットプログラムが始まってほんの数カ月しか経っていないが、現在は安全性が向上し、交通も改善されたという。サンフランシスコとフロリダ州フォートローダーデールでも、同様のパイロットプログラムが進行中だ。
もちろん、誰もがそれぞれ違ったものを欲しがる。これは都市の未来像の始まりにすぎない。ウーバーで交通政策責任者を務めるアンドリュー・ザルツバーグは、「自家用車での移動がすべて相乗りに変わり、個人の駐車スペースがすべて乗降用のスペースに変わった場合、クルマの保管に必要なスペースは大きく減り、人々は活発に動き回るようになるでしょう」と語る。「歩道にあるカフェや公園、自転車シェアリングのためのスペースや、広い歩道など、面白いことをたくさん楽しめるようになります」
交通全体もスムーズに流れるようになるだろう。15年にシカゴ当局は、ダウンタウンにある大通りの縁石側のレーンをバス専用とし、真っ赤にペイントした。次の年、この通りでの交通違反が大きく減少し、駐車違反はほぼゼロになった。バスの乗客は行きたいところにほぼ時間通りに着けるようになった。そしてそれはバス利用者だけに限ったことではなかった。
もちろん、何にでも欠点はある。この場合は資金だ。ワシントンD.C.のような都市は、パーキングメーターや駐車許可証、交通違反といった個人のクルマ関係の費用を請求することで莫大な収入を得ている。『Governing』誌の記事によると、米国の大都市25カ所が16年に徴収したクルマ関係の歳入は約50億ドル、住民1人当たりでは約129ドルだったという。この収入がなくなったら、市のサーヴィスはどうなってしまうだろうか。
自律走行車は駐車する必要がなくなるだろうと言う人もいる。人や物の運搬を停止するのは、燃料補給が必要なときだけになる、というのだ。そうなると、駐車料金のようなクルマをベースとした歳入はすべて消える可能性がある。ひとつの方法は、縁石の新たな使用者から追加料金を徴収するというものだろう。人や物を運ぶ企業に課税するわけだ。
各都市は何とかうまくやっている。未来が手招きしているからだ。自律走行車などの新しい技術の実現が目前に迫ったいま、縁石の重要性はさらに増していくばかりだ[日本語版記事]。
ワシントンD.C.運輸部門のパターソンは次のように語る。「自律走行車に備えて、駐車レーンをほかの目的に使用するためのインフラを整えているところです。自律走行車の実現は目前に迫っています」。その一方でワシントンD.C.は、住民が現在どのような方法で移動しているか、そしてその移動を容易にするために縁石をどのように使用しているかについて、データと情報を収集することに力を入れている。
「われわれはクルマを相手に戦っているわけではありませんが、住民にはクルマが唯一の選択肢でないことを知ってほしいと思っています」とパターソンは言う。わずかな領土を巡る激しい戦いは、平和条約に向けてじりじりと進んでいる。
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