男性性にまつわる研究をされている様々な先生に教えを乞いながら、我々男子の課題や問題点について自己省察を交えて考えていく当連載。1人目の先生としてお招きしたのは、長年「男子の性教育」の問題に携わり、『男性解体新書』『男子の性教育』(いずれも大修館書店)などの著書を持つ元一橋大学非常勤講師の村瀬幸浩さんです。
一定数の男子が抱く「射精に対する嫌悪感」の原因とは?
清田代表(以下、清田) 僕は昔から、自分の男性性に嫌悪感と恐怖心を抱いていました。中1で初めてチン毛が生えたとき、なぜか猛烈に悲しくなってカッターナイフで剃っていたし、同じく中1で初めて夢精をしたときは、怖くなってパンツを近所の公園まで捨てにいきました。また、19歳で初めて恋人とセックスしたときは、お互い初めてだったというのもあり、血のついたコンドームを見てひどい罪悪感に襲われたのを覚えています。
村瀬幸浩先生(以下、村瀬) それは大変だったね……。
清田 村瀬先生の著書『男子の性教育』には、男子高校生を対象にした「射精イメージ」の調査結果が載っています。それによれば、約15%の男子が射精を「汚らわしい」と感じ、約20%が「恥ずかしい」という意識を持っている。これを読んで、僕は「同じ気持ちの男子が結構いるんだ」と驚きました。
村瀬 そうですね。もっとも、別の回答欄では約75%が「射精は自然なもの」と感じており、「射精は気持ちいいもの」も7割近くが同意している。だから射精にネガティブなイメージを持っている人が多数派というわけではないんだけど、15%や20%というのは決して少なくない数値ですよね。これは端的に言って「教わってなかったから」だと考えられます。例えば清田さんは、自分が射精するということをいつ、どのように知りましたか?
清田 小学4年か5年のとき、中学生だったいとこのお兄ちゃんに「ちんちんをシコシコやってると白いおしっこが出て気持ちいいぞ」と教えられたのをよく覚えています。それ聞いてめっちゃ怖くなりました。
村瀬 清田さんのように「身近な人に教わる」ってケースもなくはないんですが、大体は誰にも聞かないし、教わってもない。一方、女子の月経は小学校で必ず教えますよね。先の調査では女子高校生に「月経のイメージ」も聞いているんだけど、「汚らわしい」と答えた人は約5%、「恥ずかしい」は約8%でした。この男女差はおそらく教育の有無によるものです。想像するに、もしも女子に月経学習がなかったら、出血を伴う初めての生理現象を相当な恐怖と不安で迎えるはずです。
清田 月経は痛みやダルさも伴うわけで……射精とは比にならない恐怖でしょうね。
村瀬 女子の場合は「産む」ということがあるから、安心させるためにも、親も学校も月経のメカニズムからちゃんと教えるんです。でも男子には、「別に教える必要はない」という風潮がずっと続いてきてしまった。
清田 僕も学校で射精について教わった記憶はないです。
村瀬 男だって、何も知らずに性器からドロッとした白い液体が出てきたらびっくりするのにね。事実、「アソコから膿が出てきた」「自分が腐っていくような気がした」などと考える男子も少なくありません。
清田 確かに、「君たちは小学生の高学年から中学生くらいの間に、ちんちんから白い液体が出るようになる。それは射精と言って子どもを作るために必要なことで、段々と身体が大人になっている証拠です。とても自然なことなので怖がらなくていいし、ちょっと独特なニオイがするけれど、決して汚いものじゃないから心配しないでください」なんて感じであらかじめ教えてもらっていたら、あそこまで射精に嫌悪感を抱くことはなかったかも……。