10分でわかるビットコインの本質

2017年12月の年末のこと。渋谷の喫茶室ルノアールで静かにPCに向かい仕事をしていたら、「あの人はビットコインで◯◯◯万円を儲かったらしい」「お前も早く買わないと出遅れるぞ」という会話が立て続けに聞こえてきました。

さらには、年始の休暇で沖縄を訪れたときのこと。隣りのテーブルから「2018年はディズニーの仮想通貨がアツい」みたいな会話が聞こえてくるではありませんか! まさか沖縄でドラゴンチェーンの話を聞けるとは…。

この数か月で「仮想通貨」をめぐる話題がブレイクし、一気にホットなテーマとなりました。知らない人がいないぐらいの大ブームです。これはKOMUGIとしても「言語化」して考察を深めないわけにはいきません。今回のテーマは「ビットコインの本質」です。

(なお、本稿を読むのには20分かかります。仮想通貨に関して知識のある方は、真ん中あたりの小見出しに「★」がついている「ビットコインの本質とは何か?」からお読みください。ここからは10分で読み終わります)

ブロックチェーンとは何か?

ビットコイン、ブロックチェーン、ICO、DAO、マイナー、PoW、ハッシュ関数、暗号、フォーク、トークン、スマートコントラクト……。「暗号通貨」から始まったムーブメントの中で、さまざまなキーワードが登場しました。(日本では「仮想通貨(Virtual currency)」が一般的ですが、本稿ではより原義に近い「暗号通貨(Cryptocurrency)」の用語を用います)

むずかしい専門用語がたくさん登場したことで、「ビットコインの本質」がわかりにくくなっているのが現状です。

ビットコインについて、最もシンプルに理解するなら、まず暗号通貨としての「ビットコイン(Bitcoin)」と、新たな技術としての「ブロックチェーン(Block chain)」を分けて考えるべきです。

そのうえで、暗号通貨が登場するきっかけとなった「ブロックチェーン」を先に理解しておきましょう。まとめると次のようになります。

「真正」は「本物であること」を意味します。「真正性(authenticity)」の定義は、少し長いですが「正当な権限においてなされた記録に対して、虚偽入力・書き換え・消去が防止されており、第三者から見て責任の所在が明確であること」です。

「スマートコントラクト(smart contract)」のみ、技術というよりコンセプトですが、「新たな概念の発明」という意味で重要なため併記します。

本稿にとって重要なのは、ブロックチェーンの「技術」や「仕組み」ではなく、その「性質」や「効果」です。暗号通貨が登場した背景には、これらの「ブロックチェーン技術」があることを最初に覚えておいてください。

技術や仕組みについて詳しく知りたい方は、解説書がたくさん出てますので本を読むのが早いです。手軽に知りたい方は、経済産業省の資料「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」をざっと見ておくとよいでしょう。

専門家の“それっぽい意見”は本当か?

さて、専門家のあいだでは「ビットコインの先行きは不透明だが、ブロックチェーンは評価すべきだ」という意見が多く聞かれます。典型は『アフター・ビットコイン』を書いた元日銀の中島真志氏の主張です。

同書では、「電子的な資産(デジタル・アセット)の所有権の登録と移転」はこれまで金融機関が行ってきたことであり、ブロックチェーン技術は金融業務と非常に親和性が高いと解説されています。

そのうえで、「ブロックチェーン1.0」をビットコインなど暗号通貨、「ブロックチェーン2.0」を決済・送金・証券決済など金融分野、「ブロックチェーン3.0」を土地登記・商流管理・医療情報・投票管理など非金融分野での活用と位置づけています。

同様に、先ほどの経済産業省の資料において市場規模の予測がなされている領域をみると、B2B分野での広い活用が見込まれていることがわかります。

こうした権威ある方々の議論の流れをふまえ、良識あるオトナなら「ビットコインは認めないけど、ブロックチェーンは革命的だ」と言っていれば、今のところはそれっぽく聞こえます。

その意味するところは、今のところブロックチェーンは「ITによる効率化/合理化」の域を出ていない、ということでしょう。つまり、既存システムの置き換えによる低コスト化です。少なくとも専門家の見方はそうしたものです。正直なところ、私は専門家の“それっぽい意見”に、まったくワクワク感を持てませんでした。金融機関の効率化/合理化に興味はありません。

一方で、ビットコインやブロックチェーンを解説した代表的な翻訳書にドン・タプスコット他著『ブロックチェーン・レボリューション』がありますが、同書では「インターネット以来の革命的な技術」と、もっと心躍るような未来が描かれています。

また、日本の有識者のなかには、ブロックチェーンだけでなく「ビットコインを高く評価すべき」という声も多く聞かれます。英語圏のニュースやSNSでの声を見るに「暗号通貨は本当に世界を変えるのでは?」と、大きな期待を寄せられているように思えます。

ビットコインやブロックチェーンをめぐる、人によって異なる認識の差は、いったいどこから生じているのでしょうか?

「ビットコイン」3つのポイント

やっかいなのは、ひとたび「ビットコインは革命的だ!」と称賛したならば、あなたも投機筋だと思われてしまい、「暗号通貨で儲けているにちがいない」とネガティブな印象を与えてしまいかねないことです。マイナーなアルトコインなら、なおさらです。

暗号通貨をめぐり、海千山千の業者による怪しげな儲け話がそこかしこにあふれています。だからこそ「ビットコインは認めないけど、ブロックチェーンは革命的だ」という、“それっぽい意見”がたくさん聞かれるのでしょう。

しかしながら、ビットコインが急速に広まった意義について、もっと多様な意見があっていいはずです。「ビットコインは革命的だ!」という理由について、もっと正面から論じてみたいと思いました。

今回は「ビットコインの本質」に迫るべく、その意義を次の3つにまとめ、考えていきたいと思います。

(1)国家通貨の終わりの始まり

(2)「分散化」こそ技術者の夢

(3)トークンエコノミーの誕生

(1)国家通貨の終わりの始まり

「ビットコイン」はなぜ世界的なムーブメントになったのでしょうか? ビットコインは、2009年5月にサトシ・ナカモトと名乗る人物が論文で暗号通貨の原理を発表したことから始まりましたが、すぐに普及したわけではありません。

世界的に注目されたのは、2013年3月の「キプロス金融危機」のときです。キプロスをタックスヘイブン(租税回避地)として利用したロシアマネーが、大量にビットコインへ換金されました。それまで10ドル前後で推移していた価格が200ドルを超え急騰したのです。

さらに人民元に不安を感じた中国人富裕層がビットコインへ一斉に換金を始め、2013年11月には過去最高の1137ドルを記録しました。そのため翌12月5日に、中国政府が金融機関によるビットコインの取り扱いの一切を禁止することを発表したほどです。

こうした事実からわかるのは、ビットコインは「国家通貨」への不安から逃避するために買われたことから始まっているということです。安全な資産として逃避的に「ゴールド(金)」が買われるのと同じ理屈です。

そもそも、現在の国家通貨には「実質価値」はありません。紙幣を金などの有価物と引き換えることを「兌換(だかん)」と言いますが、日本銀行券はなんらの有価物にも兌換されません。1971年のニクソン・ショックでゴールド(金)と米ドルの兌換が停止されたことが契機となり、金本位制はとっくに終わっているからです。

暗号通貨は「技術信用本位制」

つまり、国家通貨は「みんなが価値があると信じているから価値がある」のです。経済学者の西部忠氏は著書『貨幣という謎』で、貨幣をアンデルセンの童話「裸の王様」にたとえています。「見えない衣装」が立派な「衣装」として通用することと、「不換紙幣」が立派な「貨幣」として通用してしまうことは、基本的に同じです。

人々が「ビットコイン」や仕組みを真似て作られた「アルトコイン(altcoin)」に群がるのは、もちろん短期的な売買差益を狙った「投機」の意味合いが強いのでしょう。しかし、その背景には国家通貨に対する根強い不信感があります。

では、人々は「ビットコイン」の何を拠りどころにしているのでしょうか? それが冒頭に解説をした「ブロックチェーン」という新技術です。国家通貨が国家への信用を拠りどころとする「国家信用本位制」ならば、暗号通貨は「技術信用本位制」です

「AGFA(Apple, Google, Facebook, Amazon)」に代表されるグローバルIT企業が「国家」を上回るチカラを持つようになった昨今、人々が「国家」より「技術」を信用するようになったとしても、何ら不思議なことはありません。

(2)「分散化」こそ技術者の夢

そう考えると、もともとビットコインが、非中央集権的な「国に管理されない通貨」という仕組みに共感した技術者たちにより開発が進められてきたことに、必然性を感じます。

技術者たちは、なぜビットコインの開発と普及に情熱を持って取り組むことができたのか? カギとなるキーワードがブロックチェーン技術による「分散化(decentralization)」です。(英語の“decentralization”の語義からすると「非中央集権化」「脱中心」が正しいですが、本稿では一般的な「分散化」という訳を使います)

「インターネット(World Wide Web)」はそもそもオープンで分散的なものです。技術的な説明は省きますが、インターネット自体に中心となる機能はほとんどありません。あるのは通信の約束事を取り決めた「プロトコル(Protocol)」だけです。各地に存在するそれぞれのノード(分散)は、それぞれが独立して考え(自律)、ルールに従って動く(協調)という仕組みがインターネットに一貫する哲学です。

ところが、いつの間にかインターネットは、GoogleやFacebookなどの巨大IT企業にコントロールされる中央集権的なネットワークに成り下がってしまいました。GoogleやFacebookに表示されなければ、ウェブサイトは存在しないのも同然です。

アルトコインの1つ「イーサリアム(Ethereum)」の考案者であるヴィタリック・ブテリンもWIREDのインタビューで次のように語っています。

ぼくらはいま、いくつかのデジタルアイデンティティをもっているけれど、それぞれのデジタルアイデンティティはひとつの企業によってコントロールされている。さまざまなサーヴィスにログインするためにGoogleアカウントとTwitterアカウントとFacebookアカウントを使うけれど、それはグーグルやツイッターやフェイスブックといった企業がぼくらのデジタルアイデンティティを管理下に置いていることにほかならない。

彼と同じように、ネットワークの「分散化」を望む技術者は思った以上に多いようです。前述の『ブロックチェーン・レボリューション』で語られているのは、新たな技術により「これで中央集権的な巨大IT企業に対抗できる!」という技術者たちの夢や希望です。

同書では、空き部屋を貸し借りする「Airbnb(エアビーアンドビー)」や、スマホでクルマを手配できる「Uber(ウーバー)」でさえも巨大IT企業による支配であり、本当の意味でのシェアリングではないと書かれています。

ゆえに、成約時や海外送金時に高い手数料を支払い、中央集権的な巨大IT企業に個人情報をあずけることは非効率だとし、ブロックチェーン技術をうまく活用して分散化することで管理者を不要にする「自律分散型組織(DAO:Decentralized Autonomous Organization)」の必要性が説かれているのです。

ビットコインで起こった2つの問題

ビットコインのすごいところは、「計算の実行による通貨の発行(PoW)」という仕組みさえも「分散化」してしまったところにあります。計算作業には報酬が付与される「経済的インセンティブ」の仕組みがあります。

つまりビットコインは、報酬を求めてそれぞれの参加者(ノード)が利己的に行動することが、全体としてシステムを正しく機能させることにつながり、参加者全員の利益につながる巧妙な仕組みになっているのです。

ところが、最近になり2つ問題が起こりました。1つ目は「発行上限による価格の不安定化」です。2つ目は「発行者の偏り」です。

1つ目は、ビットコインのプログラム自体の課題です。最終的な発行上限が2100万BTCと決められており、すでに約80%が発行済みです。ドルや円などの「国家通貨」ならば、中央銀行が発行量を調節できるため、極端な価格変動を抑制できます。ところが「ビットコイン」は発行量が決まっているため、「保有しておこう」という力学が働きやすく、需要がそのまま値上がりにつながります。

問題点があらわになったのは、2017年12月です。ロイターの記事によると、ビットコインは48時間で40%超の急騰のあとに、10時間足らずの間に約20%下落しました。まさに乱高下です。経済学では、貨幣の機能を「①交換/流通手段」「②価値の尺度」「③価値の蓄積手段」の3つに分類しますが、価格があまりに不安定だと貨幣の機能を十分には果たせません。

2つ目は「発行者の偏り」です。ビットコインを発行するためのマイニング(発掘)や取り引き(PoW)は、膨大な電力を消費します。そのため、電気代の安い中国にビットコインの発行者が偏ってしまったのです。

BUSINESS INSIDERの記事によれば、「中国でのマイニング作業は全体の80%以上を占めている」といいます。中島真志著『アフター・ビットコイン』によれば、同じようにビットコイン取引所のシェアも、2017年8月までの2年間で中国の3つの取引所の取引高が「世界の全取引の93%を占めている」とされています。

一部の大手マイナーが発言力を強め、自分たちの利益になるようにビットコインをコントロールしようとしたところ、それに反発する人たちが別の仕組みを提唱し、2017年8月にビットコインとビットコインキャッシュが分岐(ハードフォーク)しました。それを「特定の層による支配を防いだ」と評価する向きもありますが、本来は議論のうえでお互いが納得のいく着地点を見つけるべきでしょう。「経済的インセンティブ」の根本的な仕組みが変わらない限りは、同じことを繰り返す可能性が高いのではないでしょうか。

このように「分散化」を実現するために導入された「経済的インセンティブ」の仕組みが、結果として「電気代が安い場所=中国」という資本主義の合理性に飲み込まれてしまいました。マイニングや取り引きが一部に集中することになり、インターネットの「分散化」の思想に反することになったのは皮肉な結果です。

価格の乱高下に嫌気が差す人が増え、マイニングや取り引きが特定の集団に集中することに反発する人が増えれば、ビットコインの根幹が揺らぎかねません。こうした問題が引き金となり、もし人々がビットコインという「技術」への信用を失くすならば、「技術信用本位制」は崩壊します。

(3)トークンエコノミーの誕生

ビットコインのほころびが見え始めるなかで、さまざまなアルトコインの登場とともに、新たに発明された概念が「トークン化(Tokenization)」です。「トークン(Token)」のもともとの意味は、地下鉄の乗車券やゲームセンターでゲームを遊ぶのに使われる代用硬貨(コイン)です。

「トークン化」には、大きく分けて「貨幣化(Monetization)」「証券化(Securitization)」の2種類がありますが、ここでは後者について説明します。「証券化」とは、物理的な「モノ」や「コト(アクティビティ)」などの「価値ある何か」に対して価値をトークンによりパッケージ化して固定し、市場をつくり流動化させることで、主に期待に対する需要を喚起して価値を上げる行為です

たとえば、個人を株式会社に見立てて「トークン化」するサービスに「VALU(バリュー)」があります。Aさんが自分を「トークン化」してVALUを発行/公開して市場をつくることで、Aさんの価値が流動的になり、取り引きすることが可能になります。もし、あなたがAさんの価値が今後も高まることに期待するなら、価値があるまで保有しておくこともできます。

Aさんにとってのメリットは、「トークン化」する(VALUを発行/公開する)ことで、「発行益」を得ることができます。「VALU」はビットコインと連動しているため、Aさんはビットコインを手にすることができるのです。

空前の大ブームとなった「ICO」

「トークン化」のメリットである「発行益」に目をつけたのが、世界のスタートアップ企業です。さまざまな企業や事業/プロジェクトが、「トークン化」により独自のトークン(コイン)を発行/販売することで、資金を調達し始めました。これが最近になり話題となることが多くなった「ICO(Initial Coin Offering)」です。

次の動画は2014年から2017年にかけてのICOの増加をビジュアル化したものです。2017年に爆発的に増加したことがよくわかります。実に全体の90%超が2017年に行われたICOです

ICOは企業にとっても非常に都合のいいものです。企業の資金調達には、今までも金融機関からの借り入れる「デット・ファイナンス」や、新株を発行して出資してもらう「エクイティ・ファイナンス」、株を証券市場に公開する「IPO(Initial Public Offering)」などの方法がありました。ICOはさらに手軽です。集めた資金に利子や配当を支払う必要がなく、グローバル市場に向けて少額から資金提供を受けることができます

逆に言えば、投資家にとってはリスクが高いものです。2017年10月に金融庁は「価格下落の可能性」「詐欺の可能性」があるとして、ICOの注意喚起をしています。しかしながら、ICO急増の背景にはビットコインをはじめアルトコインなど暗号通貨の世界的な大ブームがあり、「証券化」は値上がりを狙った取り引きを喚起するため、今のところ投資家は高いリスクにひるむことなく投資を続けています。

ICOの大波は世界を飲み込み、2018年も広がり続けるでしょう。日本も例外ではありません。ビットコインの礎となったブロックチェーンがもたらした「トークン化」という大発明が、「トークンエコノミー(Token economy)」という新しい経済圏を生み出したのです。

★「ビットコインの本質」とは何か?

さて、ここまで前半では、ビットコインの意義を(1)国家通貨の終わりの始まり、(2)「分散化」こそ技術者の夢、(3)トークンエコノミーの誕生、の3つにまとめて解説しました。

実は、ここまでの話は前段です。ちょっと詳しい人ならば知っていることがほとんどです。本を読めば書いてあることを圧縮したにすぎません。ここからが「ビットコインの本質」を知るための考察パートになります。前段から、

・ブロックチェーン技術のB2B活用に未来を見いだす専門家

・ビットコインやアルトコインを買って大儲けを狙う投資家

・ICOによる資金調達で事業拡大をもくろむスタートアップ企業

という三者三様の立場があることがわかりました。現在までのところ、ビットコインの考案者であるサトシ・ナカモトをはじめ、技術者たちが目指した中央集権的な巨大IT企業に対抗する「分散化」にはほど遠い状況のようです。

ビットコインやブロックチェーンは、このまま専門家/投資家/スタートアップ企業の資本主義的な欲望に飲み込まれ、単なる「新しいテクノロジー」として消費されていくのでしょうか? そんな結論では、技術者たちが「インターネット以来の革命的な技術」と称賛している事実に反します。どこかに手がかりがあるはずです。

次に続くパートでは、「そもそも貨幣とは何か?」を切り口に、下記の3点について考察します。

(A)暗号通貨の「証券化バブル」

(B)トークン通貨が世界を変える

(C)「関係性」の再発明

これを読み終えたとき、ブロックチェーンでもICOでもなく、国家以外の誰かが「貨幣をつくれる」という行為自体に「ビットコインの本質」が内包されていた、ということにきっと気づくはずです。

(A)暗号通貨の「証券化バブル」

「トークン化」には大きく分けて「貨幣化(Monetization)」と「証券化(Securitization)」の2種類がある、と先に述べました。

前半ではVALUやICOを例に説明しましたが、そもそも「証券化」自体は目新しいものではありません。ブロックチェーン技術に基づく「暗号通貨」と連動させることで、低コストで運用できることが革命的なのです。

「証券化」は2000年以降から続く世界的な大ブームです。たとえば、不動産を証券化した「REIT(Real Estate Investment Trust)」の登場により、市場から大量の資金が流入したことで、不動産の大規模開発が活況を呈しました。また各種ローンの債権が証券化することで、金融機関のリスクマネジメントに大きな効果を発揮しました。さらに低コストで「証券化」を導入できることで、すそのが広がることが期待されてます。

しかし「証券化」には1つ大きな問題があります。2017年からのICOブームを見ればわかるとおり、価値をパッケージ化して売買できる市場をつくり、流動化させると、期待が期待を呼び、過剰な需要を喚起してしまうのです。要するに「バブル」を生み出します。

記憶に新しいのは、2008年のリーマン・ショックです。その元凶と言われたのがサブプライム(優良顧客より下位)層に向けた主に住宅向けローン商品の「証券化」です。格付け企業が証券に高い評価を与えたため大量の資金が流入しましたが、住宅価格の下落に連動するかたちで不良債権化し、リーマン・ブラザーズが破たんするきっかけとなりました。

英語圏ではICOはバブルだと言われますが、その理由として「トークン化」がもっぱら「証券化」として利用されていることが挙げられます。

「貨幣の民主化」はこれから始まる

では、トークンによる「貨幣化」とは何でしょうか? それこそがビットコインやアルトコインに代表されるブロックチェーン技術を用いた「暗号通貨」です。

証券との大きな違いは、貨幣が「①交換/流通手段」「②価値の尺度」「③価値の蓄積手段」の3つ機能を備えている点にあります。たとえば、貨幣はモノやサービスを購入するのに使えますが(①)、証券は購入には使えません。もともと証券と貨幣では性質が大きく異なります。

ところが「暗号通貨」もICOと同じように過剰な期待を生み、価格が上がり続けています。前半では「発行上限による価格の不安定化」という理由を挙げましたが、実はもう1つ大きな理由があります。暗号通貨は「①交換/流通手段」の機能を十分には果たしてないのです。たとえば、ビットコインで買えるモノやサービスは限られていますし、トランザクション(データ処理)の手数料も割高です。

これらの理由から、ビットコインやアルトコインは、もっぱら「③価値の蓄積手段」として利用されています。しかも価格は上がり続けているため、蓄財というより投機です。暗号通貨がICOバブルと同じような状況になっているのは残念としか言いようがありません。

しかし、トークンによる「貨幣化」は、「証券化」によるICOバブルとは問題の性質が異なると私は考えています。なぜなら、暗号通貨バブルは技術が発展途上のために起こっていると考えられるからです。

歴史をふり返ってみても、地域通貨など国家以外が貨幣をつくる試みはありましたが、「暗号通貨」ほど低コストで運用できた例はありません。またトークンによる「貨幣化」は、「証券化」ほどメカニクスが明らかになっているわけでもありません。「貨幣の民主化」が始まるのはこれからです。

(B)トークン通貨が世界を変える

では、トークンによる「貨幣化」は、今後どのように進んでいくのでしょうか? わかりやすい例に置き換えてみましょう。たとえば企業の発行する「ポイント」と「暗号通貨」の違いを考えてみましょう。

「ポイント」は特定の企業の商品を購入するなどに使うことができますが、利用者同士の間では交換が行われません。一般的に流通しないため、通常「1ポイント=1円」で固定されており、為替市場はありません。

一方で「暗号通貨」は、利用者同士で貨幣を交換することで流通しており、「為替レート(他通貨との交換比率)」はマーケットの需要と供給に委ねられています。つまり「変動相場制」です。

「変動相場制」であるということは、「暗号通貨」は利用者により「国家通貨」の経済圏と比較され、そのうえで選ばれなければならない、ということを意味します。トークンで新たにつくる「貨幣」(仮に「トークン通貨」と呼びます)も同じです。競争市場がない固定相場制の「ポイント」とは異なり、「トークン通貨」は他通貨との交換を利用者に対して積極的に促すことで、自らの価値を高めていく必要があるということです。

「トークン通貨」の新たな可能性

人々に選ばれる「トークン通貨」となるためには、何が必要でしょうか? 「貨幣化」のポイントは、何を「本位(貨幣制度の基準)」にするか、です。

これまでの整理の通り、国家通貨は「国家信用本位制」、ビットコインをはじめ暗号通貨の多くは「技術信用本位制」でした。ICOは「企業信用本位制」と言えるのかもしれません。ただし、ICOの多くは「証券化」なので注意が必要です。

小川晃平さんがつくった「VALU」は「個人信用本位制」、『お金2.0』を書いた佐藤航陽さんがつくった「タイムバンク」は「時間信用本位制」と言えるのかもしれません。ただし、これらのサービスもやはり、現状は「証券化」の域を出ていません。(今後ブロックチェーン技術の発展により、サービスの性質が大きく変わる可能性はあります)

暗号通貨やICOのバブルを反面教師とするなら、投機を避けて通貨を安定させるため、「資本主義的な価値観をいかに抜け出すか」が重要な手がかりとなります。「経済的インセンティブ」ではなく、「文化的インセンティブ」という言葉に近いものだと思います。むかしから「地域」や「宗教」などのコミュニティへの所属や信用に基づく通貨がありましたが、同じように利害関係だけではない本位に基づく「トークン通貨」に可能性がありそうです。

連続起業家の家入一真さんは、NPOフローレンス代表の駒崎弘樹さんとの対談で「(NPOのような)ソーシャルセクターとICOは相性がいい」と述べてます。「社会的な価値」も、人が「トークン通貨」の本位として信用するのに値するものでしょう。

資本主義的な価値観を外側に出て、今まで金銭的価値では換算することができなかった「新たな価値」を見つけ出し、それに基づく「新たな通貨」をつくり、「新たな経済圏」をつくる。そのように考えていくと、「トークン通貨」による市場経済が世界を変える予感がしてきます。

(C)「関係性」の再発明

脱資本主義の「トークン通貨市場経済」は、従来の資本主義に基づく「自由主義市場経済」に対するオルタナティブ(もう1つの選択肢)となりえます。「トークン通貨市場経済」が重要だと私が考える理由を2つ挙げます。

1つ目に、国家通貨に替わる価値の蓄積場所が急務だからです。「自由主義市場経済」は国家通貨の金融緩和政策により、市場にお金がじゃぶじゃぶにあふれています。お金がお金を増やす「資産経済」も末期です。佐藤航陽さんが『お金2.0』で「(資本主義的な)お金の価値が相対的に低下している」と鋭い指摘してますが、まったくその通りです。国家通貨に替わる価値の蓄積場所が必要です。

貨幣ではありませんが、国家通貨ではない価値の蓄積場所として、今までもTwitterやInstagramのフォロワー数、YouTubeのチャンネル登録数などが「アテンションエコノミー」という1つの経済圏として機能しています。最近になり、さらに暗号通貨も加わりました。もっと多様化してもいいはずです。

2つ目に、ライフスタイルの選択肢を増やすためです。私たちは量販店やAmazonに山のような商品の選択肢を持っているように錯覚していますが、そこに並ぶのは基本的に「売れると見込まれた商品だけ」です。たとえば、私は本の編集者ですが「1万人には売れないけど1000人には価値があると思う本」を出版することはできません。株式会社が求める利益の水準に達しないからです。

国家通貨は「①交換/流通手段」を増やすため、商品やサービスの価値を相対化し、私たちのライフスタイルを画一化します。なぜ「週休2日」の会社で働くことが社会のルールになっているのでしょうか? 私たちの生活はあまりに標準化されすぎています。

よく「お金に色はない」と言いますが、それは貨幣を選ぶ選択肢が今まではなかったからです。「トークン通貨」の登場で、お金はもっとカラフルで、主観的で多様なものになるはずです。

貨幣は「メディア」である

「新たな貨幣をデザインする」という概念は、今までほとんど存在しませんでした。ゆえに「貨幣デザイン」の方法論は確立されていません。だからこそ、ワクワクしますし面白いと思えます。方法論について考察を深めるなかで、特に重要だと感じたポイントが3つありました。

1つ目は、通貨は発行だけではなく運用が必要だという点です。「トークン通貨」の発行には「通貨発行益(シニョリッジ)」が発生します。通貨の所有者がいなくなれば失効益も生じます。利用者同士の取り引きに対して何らかの手数料を設定する場合もあるでしょう。これらの通貨発行者が得た公共の利益を、どのように経済圏へ還元するかが問われます。

また「トークン通貨」は低コストで運用できるデジタル上の貨幣である(将来的にはそうなる)ため、少額融資の仕組みである「マイクロクレジット」、持ち続けると価値が減る「減価通貨」など、さまざまなアイデアを実現することができます。あえて国家通貨では買えない「トークン通貨」があっても面白いと思います。「トークン通貨」は発行だけではなく、どのように運用するかがとても重要です。

2つ目は、貨幣は無数の売買が成り立つ「市場」というネットワークをつくる「メディア」であるという点です。言い換えると、「市場」は貨幣というメディアを媒介として、売り手と買い手による相対取引が分散するネットワークと考えることができます。また「トークン通貨」はメディアとして、新たな価値に対する物差しです(②)。

「トークン通貨市場経済」の内部で、どのようにトークン通貨の消費をデザインするのか、通貨量をコントロールするかなど、これまでのウェブやアプリのサービス以上に考えるべき要素が増えるでしょう。

特に「スマートコントラクト」は、モノだけではなく「コト(アクティビティ)」をデザインできる画期的な手法です。以前「『メディアビジネスは今すぐやめましょう』」という記事で「行動モデル」を提唱しましたが、スマートコントラクトはその実装手段として重要になりそうです。

3つ目は、社会的な価値など「ある価値」の色のついた「トークン通貨」が流通し(①)、蓄積することにより(③)、人間の行動を変える可能性があるという点です。わかりやすく言えば、Tポイントや楽天ポイントを持っていると「貯めよう」「使おう」と人の注意が向くのと同様に、その市場(ネットワーク)や経済圏に対して「関係性」が強まります。

そもそも、現在の国家通貨では規模が大きすぎるのではないでしょうか。「手切れ金」「解決金」という言葉もありますが、「関係性」を切断するために貨幣が用いられる状況が今後も続くとは思えません。「トークン通貨」はコミュニケーションの質を高め、資本主義的な価値観で途切れてしまった「関係性」を再構築するために利用されるべきです。

モナコインを持っていれば「秋葉原」という地域のなかで「関係性」が深まるかもしれません。「トークン通貨」経済圏が想定するサイズ感は、コンパクトシティの人口ぐらい、たとえば鎌倉の20万人弱ぐらいでしょうか。雑誌の発行部数ぐらいと考えてもよいと思います。「小さすぎず、大きすぎず」がポイントになりそうです。行動経済学には、自分が所有するものに高い価値を感じる「保有効果」という言葉もあります。(詳しくはダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(下)』の第27章をご覧ください)

このように考えていくと、ブロックチェーンにより「貨幣がデザインできる」ことは、人と人、人とモノ・コトとの「関係性」そのものを変えることにつながります。SNSが「個人の関係性」という価値を再発明したのと同様に、ブロックチェーンは国家以外の「集団の関係性」という価値を再発明するのではないでしょうか。

自分のつくりたい世界をつくろう

ここまで、後半では「ビットコインの本質」を考察するため、(A)暗号通貨の「証券化バブル」、(B)トークン通貨が世界を変える、(C)「関係性」の再発明、の3つの観点から見てきました。

ニュースの話題は、ビットコインやアルトコインが儲かる、儲からないの話に偏っています。すでに相当数の「億り人」が誕生している現在、どこまでバブルが膨らむかは神のみぞ知ることです。次はきっと「証券化」によるICOバブルですが、それもまた資本主義的な欲望に飲み込まれる可能性が高いと思います。それではまったくワクワクもしないし面白くありません。

全体を通して感じたのは、ビットコインなど「暗号通貨」自体の「分散化」の見通しは不透明ですが、イーサリアムなどブロックチェーンの「プロトコル・レイヤー」での「分散化」は、成功の道すじが見えているということです。インターネットにおけるWEBサイトのように、ブロックチェーンも次は「アプリケーション・レイヤー」での競争になってきます。

一方で、集団に管理者や経営者がいない「自律分散型組織(DAO)」が主流になる、という見通しには懐疑的です。人間は「経済的インセンティブ」だけに動機づけられる合理的経済人ではありません。文化や理念に共感し、本能や感情に基づいて行動する生き物だと思うからです。

人の価値観は主観的で多様です。また価値観は時代とともに移り変わります。一度決められたルールが、5年後、10年後に通用するとは思いません。だからこそ「トークン通貨」経済圏の集団には、ブロックチェーンやAI以外の運営/運用する主体(=人間)が必要だと感じました。「証券化」も「貨幣化」も「スマートコントラクト」も、すべては人間による設計とデザイン次第です。

そして、ここまでの考察を通して確信できたのは、ブロックチェーンは正真正銘の「インターネット以来の革命的な技術だ」ということです。既存システムの効率化/低コスト化だけでは終わりません。自分のつくりたい世界をつくれることに大きな可能性を感じます。

チャンスはみなさんの目の前に広がっています。この大波に乗れるかは、あなた次第。せっかくなら、新しい世界をつくる側にまわってみませんか?

あとがき

本稿は、KOMUGI史上最長の記事となりました。参考図書は10冊以上、ニュースやブログは山ほど読みあさり、年末年始の休暇のかなりの時間を執筆に捧げました。それだけビットコインの考察は難題でした。このような長文を読んでいただき、本当にありがとうございます。「ビットコインの本質」を探す旅路はいかがでしたか?

今回「暗号通貨」や「トークン化」の見通しを書くにあたり、たくさんの方々と行ったディスカッションが活かされています。「そもそもインターネットとは何か?」という話は、フィードフォース代表の塚田耕司さんから大きな影響を受けてます。「VALUとは何か?」を教えてくれたのは、VALU代表の小川晃平さんです。ご紹介いただいた佐々木カルパッチョさんにも感謝です。そもそも佐藤航陽著『お金2.0』を読むきっかけを与えてくれたのは、YAMAP代表の春山慶彦さんです。KOMUGIに「相談する」というコーナーをつくって本当によかったと思います。

そして、実はいちばん影響を受けたのは、本業の編集者として本をつくっているMITメディアラボ所長の伊藤穰一さんかもしれません。ボストンと東京を結んだハングアウト取材を通じて、ICOバブルへの危機感を肌で感じられたことは大きかったです。役得ですね。本をつくるきっかけをつくってくれたNHKの倉又俊夫さんに感謝です。本は2018年3月10日ごろ発売予定なので楽しみにしててください。

2018年、KOMUGIでの初エントリーとなります。1本目に、避けては通れない「暗号通貨」にまつわる話を「言語化」しました。これをスタートとして、今年は「編集者」という存在の価値を突き詰めてまいります。

KOMUGIのサブタイトルも変えました。「本の編集者が書く、とりとめのない話」ではなく、「編集思考で、今をつくる」です。「編集思考(Editorial Thinking)」は造語です。2017年末から、編集的(エディトリアル)な考え方(シンキング)を体系化し、手法として確立させる(フレームワーク化)作業を続けています。ご相談いただいた方のご期待に沿うべく、2018年は「編集思考」に磨きをかけていきます。

「言語化」こそが編集者の仕事です。「本」は1つの手段に過ぎません。製品やサービスと真剣に向き合う「誰か」にとっても「言語化」は価値がある。それを証明するため、しっかりと行動していきたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。