こんな案件を観測しました。今方々で話題になっている、振袖業者の話です。
ひどい話ですよね。人生一度の成人式の日にこんな案件に巻き込まれてしまった新成人の皆さまは心底お気の毒だと思いますし、状況から見てもある程度計画的な倒産だった可能性は高そうです。
一方で、同じ「はれのひ」でも店舗によっては、社長に連絡がつかず、給与も遅配する中で新成人の皆さまのフォローを精一杯行ったスタッフの方もいらっしゃったようで、こういった現場を支えたスタッフに対しては、賞賛の念を禁じえません。偉いなーと思います。
何にせよ、これが詐欺案件に該当する可能性はかなり高そうであって、民事ないし刑事案件になって速やかに法的措置が取られ、被害者が適切な補償を受けられることを願って止みません。
ただ、それとは別に、「またかよ」と思った案件がありまして。
はてブで件の振袖業者の社長名について、facebookのエントリーをピックアップする記事を見かけました。
それを見て、ふと思いついて社長名をぐぐってみると、まあ出るわ出るわ。
「〇〇の顔画像や経歴は?」
「現在の居場所を特定!」
「〇〇の嫁・子どもについて」
「〇〇の住所や顔画像を特定!」
(〇〇は社長名)
みたいなタイトルの記事がずらっと。アクセス流したくないんでリンクは貼りませんが。
これ、明らかにネット私刑ですよね?
百歩譲って、当該社長が自分で公開しているfacebookの情報をピックアップするだけなら(既にネットに公開されている情報なので)まだわかるんですが、何の関係もない家族や、家族が巻き込まれかねない現住所に関して、悪意満々の論調でWebに公開することが、私刑以外のなんなんだって話なんです。
以前こんなことを書きました。
まず、「無関係だろうがそうでなかろうが、私人が事件の容疑者や身内に私刑を行うのは犯罪」ですよね?ここブレちゃいけないですよね?これ、そもそも嫌がらせの電話を受けているのは、事件の容疑者と何の関係もない企業なので、それはそれでひど過ぎる話なんですけれど、「たとえこれが本当に容疑者の関係者だったとしても、あるいは容疑者本人であったとしても、個人情報を晒したり、嫌がらせの電話をしたりするのは犯罪以外の何者でもない」というのは当然の認識としてみんなが持っておかないといけないと思うんですよ。
「件の振袖業者の社長の住所」と称されるものが、本当に誤爆でなくて本人の住所だとすら現時点では全く判断出来ないと思っていて、その点もし誤爆だったらまた新しいスマイリーキクチ事件が起きることについて誰が責任とるんだ、とも勿論思うんです。
今更いちいち言うまでもなく、webに一度拡散された情報を消去することは極めて困難というか、大抵の場合不可能です。仮にデマだった場合には、勿論なんの関係もない人の住所が大量の人に拡散されて、「この犯罪者!!」という罵倒が、何も罪を犯していない一般人に投げつけられることになるのでしょう。これを理不尽と言わないでなんていうの、という話です。
ただ、仮に誤爆でなかったとして、「私人が特定個人の個人情報を晒すのは私刑以外の何ものでもない、単なる犯罪」だということを、しつこかろうが何だろうが、我々は確認しておかなくてはいけないと思うんですよ。
日本は法治国家であって、罪を犯した人間がいたとしたら、きちんと法に基づいて裁かれなくてはいけません。その為にはちゃんとしたプロセスもあれば時間も要ります。そういうのを全部吹っ飛ばして、「俺たちで叩こうぜ!!」とかやり始める向きを、私は醜悪だとしか感じません。
仮に何か情報提供をしたいことがあるのならば、それは少なくとも警察に対してするべきであって、ネットで不特定多数にさらすことで発生するメリットなんて何一つ、本当に何一つありません。
結局のところ、こういう人たちって、「叩きやすい対象」が出てきたタイミングで、「ほれきた!」と私刑を煽っているようにしか、私には見えないんですよ。
なんなんでしょうね、この、「燃やしやすい藁人形」を発見したとたんに、わーーーっと集まってきて「さあ皆叩け!!」って煽り始める光景。これものすっげえグロテスクだと思うんですが。
「嫁・子どもについて」なんて、もう明々白々に、「一族郎党まで迫害しろ」っていう意思表示以外の何者でもないじゃないですか。本人に対する私刑だって単なる犯罪ですが、例えば罪もない子息の情報を晒そうとすることに、一体どんな正当性があるっていうんでしょうか?それで自宅にじゃんじゃん電話がかかって、家庭の1個も崩壊すればそれで私刑をする人たちは満足なんでしょうか。
この、「たくさんの人の憤り」を利用して広告収入を稼ごうとする手法、なんとか滅びてくれないかなーと思うばかりなんですが。
せめてネット私刑だという指摘だけでもしておきたいと思って、本日記事を書いた次第です。
悪質な計画倒産案件や詐欺案件が減少するのと同じくらいに、ネット私刑が減少することを願って止みません。
今日書きたいことはそれくらいです。